『湖の女たち』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『湖の女たち』考察とネタバレ|琵琶湖より哀を詰めて

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『湖の女たち』

吉田修一の原作を大森立嗣監督が映画化。『さよなら渓谷』以来のタッグは、更に湖の深みにはまり混迷を極めるが、福士蒼汰と松本まりかの演技は出色。

公開:2024年  時間:141分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:        大森立嗣
原作:        吉田修一

           『湖の女たち』
キャスト
濱中圭介:      福士蒼汰
豊田佳代:     松本まりか
伊佐美佑:      浅野忠信
松本郁子:      財前直見
小野梓:      大後寿々花
池田由季:      福地桃子
渡部編集長:     信太昌之
竹脇課長:      近藤芳正
両角署長:      吉岡睦雄
河合勇人:       平田満
服部久美子:     根岸季衣
服部三葉:      土屋希乃
濱中華子(圭介の妻): 北香那
豊田浩二(佳代の父):鈴木晋介
市島松江:      三田佳子
(満州時代)    穂志もえか
市島民男:      奥野瑛太

勝手に評点:2.5
  (悪くはないけど)

(C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

あらすじ

湖畔に建つ介護施設で、100歳の老人が何者かに殺害された。

事件の捜査を担当する西湖署の若手刑事・濱中圭介(福士蒼汰)とベテラン刑事・伊佐美佑(浅野忠信)は、施設関係者の中から容疑者を挙げて執拗に取り調べを行なっていく。

事件が混迷を極めるなか、圭介は捜査で出会った介護士・豊田佳代(松本まりか)に対して歪んだ支配欲を抱くように。

一方、事件を追う週刊誌記者・池田由季(福地桃子)は、署が隠蔽してきた薬害事件が今回の殺人事件に関係していることを突き止める。

レビュー(若干ネタバレあり)

欲望も涙も罪も、すべて湖が飲み込んでいく。吉田修一の同名原作を大森立嗣監督が映画化。『さよなら渓谷』以来11年ぶりの再タッグ。その座組みに惹かれたのは、本作主演の福士蒼汰だけではないだろう。

吉田修一原作の映像化作品は多いが、分かり易く映画の出来も良かった『悪人』『横道世之介』といった例を除けば、どこか難解で、ここで終わっちゃうのかよ的なモヤモヤ感が残る作品が多い。

『パレード』『怒り』、それに『楽園』大森立嗣監督の『さよなら渓谷』も、そんな作品のひとつだったと思う。

湖畔の介護施設の100歳老人が呼吸器の停止で死亡した事件を発端に、若手とベテランの刑事コンビ、聞き込みをされる介護士の女、そして一見この事件とは関係のなさそうな過去の薬害事件を追う雑誌記者。

このあたりのメンバーが混然となりながら進んでいくドラマ。そこには、『さよなら渓谷』同様に、ゾワゾワとする薄気味の悪さがある。

簡単に捜査が進まないのはドラマゆえ当然で、真犯人に至るまでのプロセスは一応描かれているものの、それが添え物扱いになっているところが、この作品の特徴的な点。

犯罪ドラマでもミステリーでもない。かといって恋愛ものとも言い難く、カテゴリー分けしにくいのは毎度のことか。

(C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

ベテラン刑事だがルール無視の前世代型の伊佐美(浅野忠信)と若造の濱中刑事(福士蒼汰)のバディ。このヤバい組み合わせは『孤狼の血』役所広司松坂桃李のようではあるが、こちらは更にひどい。

疑わしい犯人を決めたら、ひたすら落ちるまで取調室で長時間の質問責めで強引に自白に追い込もうとするのだ。

濱中の頭をバシバシ叩いては容疑者の介護士・松本郁子(財前直見)に追い込みをかけろとけしかける伊佐美。そのパワハラの捌け口に、とあるきっかけから別の介護士・豊田佳代(松本まりか)支配欲を抱くようになる濱中。

男の度が過ぎる行為をセクハラ(それ以上か)で訴えるでもなく、逆に肉体を燃え上がらせていく佳代アブノーマルな不倫関係に入っていくこの二人を、観る者の理性が受容するか。それが本作の好き嫌いの分水嶺だ。

事件の解決をほったらかしで、犯人なのか被害者なのか、分からない男女が性に溺れる姿、そして周囲から真相を追求していくジャーナリストの女、この構図は『さよなら渓谷』とどこか似ている。

この女性記者・池田由季(福地桃子)が追いかけている古い薬害事件は、政治的な圧力で、起訴寸前で県警が手を出せなかったものだ。

当時、50人の犠牲者を出したこの事件を諦めざるを得ず、悔し泣きした刑事の一人が伊佐美だった。あの出来事が、彼を腑抜けの不良刑事に変えてしまったのだ。

(C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

昨年公開された宮沢りえ主演の『月』(石井裕也監督)と同じように、障害者や老人などは生産性が低いという優生思想が生んだ相模原障害者施設殺傷事件がまずベースにある。

そこに薬害エイズ事件や、満州での生体実験『スパイの妻』にも出てきたか)等、実在の事件をアレンジして、物語にからめてくる。

ただ、これらの事件や、過去の満州での出来事を幕ノ内弁当風に無理やり詰め込んだ感があり、うまく収まっていたようには思えない。刑事の言いなりでエロスに陶酔していく介護士の女とも、噛み合っていない。

本作の難解さは大森監督の演出というよりは、元々の吉田修一の原作に起因する。あのとっつきにくい原作をここまで映像化しているのは、大したものだといってよいのかも。

大森立嗣は原作を読んですぐに映画化に関心を持っていたが、一方の吉田修一も、『さよなら渓谷』以来信頼を置く大森監督に映画を撮ってもらいたいと思っており、相思相愛で企画が成立したそうだ。

互いに、波長が合う部分があるのだろう。二人ともきっと、誰にも分かり易い作品に興味はないのだ。

かつての薬害事件を追って正義感を捨てた伊佐美。その彼に容赦なく執拗なパワハラを受ける濱中。そしてそのストレスの捌け口となり支配されることで安心する佳代。

それぞれの胸の中には絶望が根付いている。行き場のない絶望の行き先は、海でもなく渓谷でもなく、やはり湖ということになるのか。

本作は、吉田修一混沌世界が好きな人以外には、訳が分からず共感も得られないうちに映画が終わる苦痛を味わうかもしれない。

だが、観るに値するものが一つある。それは俳優陣の演技だと感じた。大森監督が演者に自分をさらけ出して自由にやれと言ったせいか、主要メンバーはみな、普段とはまるで異なる表情や芝居をみせる。

まずは濱中刑事役の福士蒼汰『ザ・ファブル』で悪役を演じたことはあっても、基本的には笑顔溢れる好青年役だ。仮面ライダーとまではいわないが、まだ『あまちゃん』種市先輩のイメージを引きずっている。

だが、本作では笑顔もなく、ひたすら関西弁で攻めまくる。撮影当初の数日間はすべてダメ出しされたというが、本作での福士蒼汰は確かに別人だ。善人オーラも消えている。

そしてもう一人の主人公は、介護士豊田佳代役の松本まりか『夜、鳥たちが啼く』(城定秀夫監督)も妖艶だったが、本作ではさらに顔立ちもほっそりし、まるで現実に生きていないかのような透明感。

これまでは明るく勝気なイメージだったが、本作では一変。今後の松本まりかの代表作となるに違いない。

ベテラン刑事の伊佐美には浅野忠信。いつもの浅野忠信なら、もっとミステリアスな雰囲気でいくはずが、本作では昭和感がプンプン匂う、ベタな叩き上げ刑事が、ガンガン関西弁でどつきまくる。

昔なら北野監督が自ら主人公で演じそうな役。どこか顔つきが違うので、特殊メイクも入っているのか。そういえば、刑事課長役の近藤芳正も普段と違うシリアス演技だった。

(C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

熱血女性記者役の福地桃子は父・哀川翔の七光りをあてにしない実力派女優。本作でも、ダメ男たちを相手に正義を貫こうとする姿が凛々しい。

そして極めつけは、最重要容疑者の松本郁子を演じた財前直見。最後まで介護士としてのプライドを捨てない姿勢はご立派。湖の女たちは、男に支配される女ばかりではないのだ。

やつれ方が凄くて、彼女が財前直見だって、最後まで分からなかったほど。

(C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

そして、その昔、財前直見が映画デビューした『極道の妻たち』シリーズで、主役を張った三田佳子が、本作にも、最長老の<湖の女>として登場。これには驚いた。老けメイクなのだろうけど、それでも三田佳子なのは歴然。

もう一人、湖の女といえるのか知らないが、福士蒼汰の妻の妊婦役で北香那が出演。『春画先生』の好演もあったので、本作でも期待したが、出番が少なかったのが惜しい。

以上、本作は俳優陣の演技を楽しむべき映画と思えば、モヤモヤ感は多少軽減。劇場予告にも出てきた、湖に沈む松本まりかが青い水中で揺らぐ姿は、まるでギレルモ・デル・トロ『シェイプ・オブ・ウォーター』だ。

だが、あちらと違って本作は助けに来るのが人間なのに、ロマンチック要素はゼロ。映画的に盛り上げるのは美しい琵琶湖の景色と、世武裕子の音楽。だが、その効用で「いい映画」っぽく見せるのは、ちょっと反則な気もする。