『花よりもなほ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『花よりもなほ』今更レビュー|燃えるだけが剣ではないよ

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『花よりもなほ』

是枝裕和監督が岡田准一主演で贈る、仇討ちをテーマにした貧乏長屋の時代劇コメディ。

公開:2006 年  時間:127分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:      是枝裕和

キャスト
青木宗左衛門:     岡田准一
おさえ:        宮沢りえ
貞四郎:        古田新太
平野次郎左衛門:    香川照之
おのぶ:        田畑智子
乙吉:         上島竜兵
孫三郎:        木村祐一
そで吉:         加瀬亮
留吉:         千原靖史
善蔵:          平泉成
お勝:         絵沢萠子
おりょう:       夏川結衣
伊勢勘:         國村隼
重八:        中村嘉葎雄
青木庄三郎:      石橋蓮司
寺坂吉右衛門:      寺島進
鈴田重八郎:      遠藤憲一
横川勘平:       田中哲司
青木宗右衛門:      勝地涼
与力:        トミーズ雅
青木庄二郎:      南方英二
金沢十兵衛:      浅野忠信
小野寺十内:      原田芳雄

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

(C)2005「花よりもなほ」フィルムパートナーズ

あらすじ

徳川五代将軍・綱吉の泰平の御代、赤穂浪士たちが吉良上野介を仇討ちするかどうかに関心が集まっていた元禄15年。

父親の仇討ちのため、郷里を後にした若侍、青木宗左衛門(岡田准一)の江戸暮らしも半年を過ぎ、庶民の町での生活もすっかり板についていた。

いつしか自宅の向かいに住む夫を亡くした女性、おさえ(宮沢りえ)に恋心を抱くようになった彼だが、実は武士とは名ばかり。剣の腕前がからっきし駄目なことが長屋の面々にも知れ渡ってしまう

今更レビュー(ネタバレあり)

是枝裕和監督のフィルモグラフィ―の中では現時点で唯一の時代劇であり、コメディ要素の強い作品というのも珍しい。

彼の名を世間に轟かせた、ヒリヒリするような重苦しさの『誰も知らない』の次に本作がくるというのも、興味深い流れに思えるが、前作の反動なのかもしれない。

時は元禄時代、テーマは仇討ち。まったくの偶然だが、本作を観てレビューを書いている本日12月14日は、まさに赤穂浪士の討ち入りのあった日にあたり、本作にも、赤穂浪士たちが登場する。

ただし、主人公はそれとは縁もゆかりもない、貧乏長屋に住む若侍、青木宗左衛門(岡田准一)

この宗佐が父親の仇打ちのために信州松本から上京して相手を探しているのだが、それらしい見かけとは裏腹に、剣術の腕はからっきし駄目な人物なのである。

今でこそ、日本映画界において岡田准一はアクション俳優の第一人者であり、剣を持たせても『燃えよ剣』土方歳三を演じきるほどの達人であるが、この時代はまだ、時代劇の出演作も少なく、ヘタレな侍が似合う若者だった。

彼の体つきも、今の鍛え抜かれた肉体と比較すると、かなり線が細くみえる。

そんな岡田准一が演じる宗佐が、貧乏長屋の個性豊かな面々と庶民生活を送りながら、半年以上も仇討ちの相手を探している。

宗佐に、仇討ちの相手と思しき奴をみつけたと言っては食い物を驕らせる貞四郎(古田新太)、宗佐が秘かに思いを寄せる未亡人のおさえ(宮沢りえ)

仇討ち話はどこまで真剣なのかと疑わしくなるほど、前半は長屋の人情噺のような展開が続く。いわゆる是枝監督作品っぽいドキュメンタリータッチのリアルさは皆無だが、現代風な時代劇として観れば面白い。

(C)2005「花よりもなほ」フィルムパートナーズ

本作は公開時以来久々に観たのだが、その出演者の顔ぶれの豪華さに改めて驚かされる。いや、というよりも、北野武監督の新作『首』との俳優の重複に驚いた。

長屋住まいの孫三郎(木村祐一)そで吉(加瀬亮)、赤穂浪士の中心的な人物を演じる遠藤憲一寺島進、更には宗佐の仇打ちの相手である金沢十兵衛(浅野忠信)といった面々が、『首』でもそれぞれ準主役級の役を演じているのだ。

そこに岡田准一が主役を演じた大河ドラマ『軍師官兵衛』を加えてみると、話はもっと複雑になる。

岡田准一と仇討ち相手の浅野忠信は、ともに大河ドラマと『首』黒田官兵衛を演じており、本作の赤穂浪士の田中哲司遠藤憲一もまた、ともに大河と『首』荒木村重を演じているのだ。

また、北野監督『首』のほかに、阪本順治監督の新作『せかいのおきく』も、貧乏長屋の糞尿が買われて餅代になったり、がめつい大家が出てきたりと、江戸庶民の描き方に共通点が多かったように思う。同作の黒木華も本作の田畑智子宮沢りえのように、糞にまつわる台詞を言わされていたっけ。

本作は随分と古い作品だが、その後の時代劇に少なからず影響を与えているのかもしれない。

その他のキャスティングでは、『木更津キャッツアイ』ぶっさんオジーを思い出させる、岡田准一と長屋の棟梁のような存在の古田新太との共演や、亡くなった上島竜平が楽しい演技で笑わせてくれるのも嬉しい。

また、是枝作品のメンバーとしては、『歩いても 歩いても』夏川結衣原田芳雄『誰も知らない』平泉成といったところか。

さて、剣術よりも算術を教える方が得意な宗佐だが、ついに仇討ちの相手、金沢十兵衛をみつける。相手は腕のたつ剣客だが、今では刀を捨てて妻子とともに平凡だが幸福そうな暮らしをしている。

はたして、仇討ちは武士の本懐か。

「やめとけ、そんなもん!今時流行らねえよ。第一勝てんのか」

ただのいい加減な男にみえた貞四郎(古田新太)が、急に真顔で言い出す。貞四郎は仇討ち相手の所在を知っていながら、あえて黙っていたのだ。

武士の美徳とされた仇討ち。半年も相手を探している宗佐を、故郷の弟(勝地涼)は軽蔑し、「兄上には父の墓参りをする資格がない」とまでいう。

だが、仇討ちに賛同するのは、武士道に憧れる長屋仲間の平野次郎左衛門(香川照之)くらい。

宗佐が好意を抱くおさえも、「お父上の人生が残したものが、憎しみだけだとしたら寂しすぎる」と遠回しに彼を思い留めるように語る。

「仇討ちだけが親孝行じゃないよ」と、軽薄そうにみえた叔父(石橋蓮司)も宗佐を諭す。

(C)2005「花よりもなほ」フィルムパートナーズ

やがて宗佐は、ひょんなことから、おさえにもまた、亡き夫の仇討ちの相手がいることを知る。だが、彼女は憎しみを捨てる決意をしたのだ。

そして宗佐は、仇討ち相手十兵衛の息子とおさえの息子が友だち同士であることを知り、ついに仇討ちを思いとどまる。

ここでエンドロールなら、命の尊さや憎しみの連鎖を断ち切ることを訴える説教臭いドラマで終わるところだが、本作はコメディだ。

宗佐は思いもよらぬ奇策を考え出す。仇討ちを果たす芝居をするのだ。

うまくお上を騙すことができれば、それで多額の報奨金が得られる(仇討ちでカネが貰えるという制度も珍妙なものだ)。そのカネがあれば、長屋の建て替え計画で立ち退きを余儀なくされる仲間たちを救えると宗佐は考えた。

ここから先、実に簡単に計画が成功して報奨金がもらえたことや、それに触発されて、長屋に潜んでいた赤穂浪士の残党たちがついに忠臣蔵を決行することになる展開はあまりにご都合主義なのであるが、そこはよしとしよう。

本作は、仇討ちをしない侍を描いた作品で、意味のある「死」より、意味はなくても豊かな「生」の方がいいじゃないかというメッセージを、コメディ仕立てで伝えてくる。

是枝裕和監督らしからぬ作風だが、死生観を取り上げた作品という点では、お馴染みのスタイルなのかもしれない。

主人公に岡田准一、仇討ち相手が『座頭市』でもたけしの敵役だった浅野忠信とくれば、当然クライマックスは斬り合いかと思いきや、戦わない映画だったのである。

善悪の二元論にしたくないという是枝監督の意図は、しっかり伝わってくる。

「風さそふ 花よりもなほ 我はまた春の名残を いかにとやせん」

本作のタイトルは、浅野内匠頭の辞世の句に因んでいる。

宗佐の仇打ち未遂と忠臣蔵には直接関係はないが、赤穂浪士の一人である寺坂吉右衛門(寺島進)は宗佐と親しくなったことで、討ち入りを思い止まり、後世に話を伝える役を担うのだから、多少の繋がりはあるということか。