『シェイプオブウォーター』今更レビュー|ギレルモ・デル・トロが贈る、おとなの寓話、おとなの「E.T.」

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『シェイプ・オブ・ウォーター』 
 The Shape of Water

ギレルモ・デル・トロ監督による半魚人と喋れない女性の心温まるラブ・ファンタジー。

公開:2018 年  時間:123分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督・脚本:   ギレルモ・デル・トロ
脚本:      ヴァネッサ・テイラー

キャスト
イライザ:     サリー・ホーキンス
不思議な生きもの:  ダグ・ジョーンズ
ストリックランド: マイケル・シャノン
ジャイルズ: リチャード・ジェンキンス
ゼルダ:   オクタヴィア・スペンサー
ホフステトラ:マイケル・スタールバーグ
フレミング: デヴィッド・ヒューレット
ホイト元帥:     ニック・サーシー

勝手に評点:4.0
        (オススメ!)

(C)2017 Twentieth Century Fox

あらすじ

1962年、冷戦下のアメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働く女性イライザ(サリー・ホーキンス)は、研究所内に密かに運び込まれた不思議な生き物を目撃する。

イライザはアマゾンで神のように崇拝されていたという<彼>にすっかり心を奪われ、こっそり会いに行くように。

幼少期のトラウマで声が出せないイライザだったが、<彼>とのコミュニケーションに言葉は不要で、二人は少しずつ心を通わせていく。そんな矢先、イライザは<彼>が実験の犠牲になることを知る。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

デル・トロの得意分野

ギレルモ・デル・トロ監督、最新作の『ナイトメア・アリ―』も雰囲気十分のフィルム・ノワールで悪くないのだが、本作を観直すとやはりこちらが彼のホームグラウンドだと思える。

異形の存在を使ってダーク・ファンタジーを描かせたら、デル・トロに比肩できるのはティム・バートンくらいか。本作は、ベネチア国際映画祭の金獅子賞、アカデミー賞では作品賞・監督賞ほか4部門を受賞。

サリー・ホーキンスが演じる、言葉を喋れない女主人公イライザが、研究所に囚われの身となった半魚人と心を通わせるようになる。恐ろしいモンスターと人間の女性とのファンタジー・ラブストーリー。

『美女と野獣』のテンプレートを採用しているように見えるが、豪華なドレスの若く美しいお姫様もいなければ、最後に魔法が解けてハンサムで逞しい王子様が登場することもない。そこに派手さや華やかさはないし、差別意識が根強く残る60年代初頭のボルチモアは、イライザたち弱者にとって心安らげる環境とは言い難い。

それでも、いや、だからこそ、イライザと<彼>との心の交流や、それを取り巻く仲間たちの協力する姿は、観る者の胸に深く沁みる。

(C)2017 Twentieth Century Fox

日常の繰り返しと異形との出会い

映画は冒頭、イライザの住むアパートの部屋は海中に沈んだかのように水が満たされ、家具類が漂っている。これは彼女の夢なのだが、そこにアレクサンドル・デスプラの優しい劇伴音楽と、リチャード・ジェンキンスの語りが入る。スムーズな導入から、イライザの日常が紹介される。

発話障害のある彼女は、映画館の上階のアパートに住み、目覚ましで起床しては卵を沸騰した湯に入れ、バスタブで自慰行為に走ってはサンドイッチを作り、靴を磨いてバスで出勤。仕事は航空宇宙研究センターの清掃員だ。帰宅しては隣人の画家ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)とテレビに興じる。こんな日々の繰り返しだが、明るく楽しく過ごしている。

だが、そんな日々に変化が訪れる。研究センターにホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)が搬入してきた研究対象の半魚人(演じるのはデル・トロ作品常連のダグ・ジョーンズ)。

虐待する軍人ストリックランド(マイケル・シャノン)の指を食いちぎるなど、危険な存在のように見えた半魚人だったが、ひょんなことから、ゆで卵を通じてイライザとの交流が始まる。ここが何とも微笑ましい。

(C)2017 Twentieth Century Fox

言葉を話せないイライザは手話でコンタクトするしかないが、それを障害とは思わない<彼>はやがて少しずつ手話を覚え始め、ありのままの彼女と意思疎通するようになる。

だが、二人の関係を知らず研究の成果を急いでいるストリックランドは、<彼>を殺して解剖しようと計画を進める。それを知ったイライザは、無謀にも救出作戦を企てる。

モンスターの造形をどこまでそれらしくできるかの匙加減が、本作の大きなポイントだ。あまりにグロテスクだと、さすがに恋愛ものに持っていきにくいし、後半の展開を考えると、獣姦を思わせる四つ足動物系も不可。結果的にあの半魚人デザインに落ち着いたのだろう。

ギレルモ・デル・トロは、どこかウルトラマンの顔に似てしまったと言うが、全身イメージはもともとの着想にあった『大アマゾンの半魚人』(1954)だろう。

日本では半魚人ラーゴンと呼ばれていたようだが、原題Creature from the Black Lagoonを誤訳したのかも。半魚人デザインの原型として、多くの作品に影響を与えている。ちなみに『ウルトラQ』の半魚人はラゴンと紛らわしいが、あの造形ではラブロマンスは厳しい。

キャスティングについて

声を失った王女。イライザを演じた主演のサリー・ホーキンスが素晴らしい。手話でしか語っていないはずなのに、あれだけの表現力。そして静かさの中に感じられる強い意志と行動力。

彼女はウディ・アレン『ブル―ジャスミン』で、主人公ジャスミンの妹役が記憶に新しいが、そのジャスミン役のケイト・ブランシェットは、デル・トロ監督の新作『ナイトメア・アリ―』に出演しており、縁が深い。ちなみにジャスミンの結婚相手が、本作でホフステトラー博士を演じたマイケル・スタールバーグという繋がりもある。

イライザの同僚で彼女の良き理解者であるゼルダオクタヴィア・スペンサー。職場でイライザが意思疎通できるのはゼルダだけだ。

60年代、ソ連との宇宙開発競争にしのぎを削る米国の航空宇宙研究センターオクタヴィア・スペンサーとくれば、『ドリーム』(セオドア・メルフィ監督)でロケット打上成功を支えた数学者の黒人女性を思い出してしまう。いずれも人種差別を受ける役だ。

本作のゼルダは「クソを掃除し小便を拭く清掃係」とストリックランドに蔑まれ、『ドリーム』よりも更に扱いが低いが、彼女のイライザへの変わらぬ友情と快活さは、観ている者にも安心材料。

(C)2017 Twentieth Century Fox

同じくイライザの親友である、隣人の画家ジャイルズリチャード・ジェンキンス。会社を解雇され、商業ポスターの画家をやっている。同性愛者であり、近所のキーライムパイの店主の男性にアプローチするが、「俺の店は健全な店だ。出ていってくれ」と冷たくあしらわれる。

孤独な彼はただ一人の友人であるイライザのために、救出作戦に協力する。リチャード・ジェンキンスは心優しいインテリ風な初老の紳士を演じ、『ナイトメア・アリ―』での人々に恐れられる町の有力者役とはガラッと異なる雰囲気。

研究センターのホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)の正体はソ連のスパイのディミトリで、宇宙開発競争のために、この半魚人を奪還し殺すように母国から指示を受けている。

だが、何とかこの貴重な研究材料を生かしておきたいと考えたホフステトラー博士は、イライザたちの救出作戦に協力する。これは意外な、そして頼もしい援軍となる。

(C)2017 Twentieth Century Fox

そして、本作でほぼひとりといってよい憎まれ役の軍人リチャード・ストリックランド。演じるマイケル・シャノンがまたハマっている。

高電圧の流れる棒で半魚人を虐待する光景は、サーカスの猛獣使いのようだ。動物虐待に加え、ゼルダへの人種差別に部下へのパワハラ、さらにはイライザへのセクハラなど、悪事には枚挙にいとまがない。

家に帰れば派手な若妻と激しく行為に及び、男子トイレでは手を使わずに用を足す、はた迷惑なオラオラ男。買ったばかりのティールグリーンのキャデラックが、救出作戦で派手に当て逃げされたのは、ちょっと気の毒だったけど。

『シェイプ・オブ・ウォーター』日本版予告編

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

マイノリティが力を合わせる

例えばティム・バートンの『シザーハンズ』のように、本作の<彼>もモンスターではあるが畏怖される存在ではないアレクサンドル・デスプラの音楽も、常に<彼>のシーンには優しい旋律を流している。

そして、幼少期のトラウマで発話障害となった女、人種差別の根強く残る社会に生きるアフリカ系の女、健全ではないと白眼視されるゲイの初老の男。マイノリティの主人公たちが力を合わせて、このモンスターを救おうとする

塩水のバスタブに浸かれば、元気を取りもどす。雨が降って水位が上がれば、用水路の海門が開き、そのまま海に出られるはず。まるで傷ついたイルカを手当てして海に返してあげる子供たちのような展開だ。ハラハラしながら見守ってしまう。

だが、<彼>はけして弱い存在ではない。傷を治癒させる不思議な力(ジャイルズの頭髪も生える)を持っている。まるで『E.T.』じゃないか。自転車で空飛ぶのか。

<彼>とイライザの二人が見つめ合うシーン。徐々にモノクロに退色し静かにイライザが歌い出す瞬間の何と美しいことか。彼女が声を出すのだから当然夢なのだろうが、モノクロの画面のなかで、イライザが歌い、二人でダンスするシーンは何とも切ない。それはまるで『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(ラース・フォン・トリアー監督)のビョークの妄想のようだ。

<彼>は<神>になった

本作は全編を通じた色調の扱いがまた見事だ。ゴシックからノワールっぽい画面の雰囲気に加え、水を意識したのか青緑を基調とした色合が、イライザの制服や衣装、彼女の部屋など多用されている。

ジャイルズの部屋は色調が琥珀色となり雰囲気も変わる。このアパートの内装の重厚感はとても好ましい。階下に映画館という発想もいい。我が家にも、階下に劇場があったら、楽しいだろうな。

後半、イライザが<彼>に愛情を感じ始めると、青緑主体だった画面の服装などに赤色が入り始めて、これは映像的にも大きなアクセントになっている。

(C)2017 Twentieth Century Fox

ラストは、海に帰る寸前の<彼>を追い詰めたストリックランドが銃を向ける。<彼>だけでなく、イライザまでもが銃弾に倒れる。ああ、悲劇で終わるのか。

だが、<彼>は立ち上がり、愛する者を傷つけた男に牙を剥く。その瞬間、異形の者は<神>となる。制裁を加えたあと、<神>は愛する人を抱えて水中に飛び込む。お姫様抱っこされたイライザは、紛れもなくプリンセスだ

海中を沈みゆく二人。これは悲しい結末なのかと思ったが、<彼>のパワーによって、イライザはえら呼吸ができるようになっている。抱き合って微笑み合う二人。ジャイルズ役のリチャード・ジェンキンスの詩の朗読が、映画の格調を高める。

「あなたの姿が見えなくても、気配を感じる。あなたの愛が見える…」

水はあらゆるものに形を変え、今は二人を包み込んでいる。ギレルモ・デル・トロが贈る、おとなの寓話。おとなの『E.T.』なのだ。