イップマン『序章・葉問・継承・マスターZ・完結』全作一気レビュー

1. 『イップ・マン 序章』(2008)
2. 『イップ・マン 葉問』(2010)
3. 『イップ・マン 継承』(2017)
4. 『イップ・マン外伝 マスターZ』(2019)
5. 『イップ・マン 完結』(2020)

『イップ・マン外伝 マスターZ』 葉問外傳 張天志

公開:2019 年  時間:108分  
製作国:香港

スタッフ 
監督:    ユエン・ウーピン

キャスト
チョン・ティンチ:
       マックス・チャン
オーウェン: デイヴ・バウティスタ
ジュリア:  リウ・イエン
ナナ:    クリッシー・チャウ
フー:    シン・ユー
クワン:   ミシェル・ヨー
キット:   ケビン・チェン
サン:    パトリック・タム
暗殺者:   トニー・ジャー

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2018 Mandarin Motion Pictures Limited All Rights Reserved

あらすじ

イップ・マンとの詠春拳の正統争いに敗れ、武術の世界から身を引いたティンチは、小さな食料店を営みながら息子のフォンと穏やかな生活をスタートさせていた。

そんな中、ティンチは町を仕切る長楽グループの反逆児キットたちから追われていたジュリアとナナの窮地を救ったことからキットの恨みを買い、店に放火されてしまう。

そして、キットたちの策略により、命を落としてしまうナナたち。ティンチは封印していた武術を使い、キットたちのアジトへ単身乗り込んでいく。

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一気通貫レビュー(ネタバレあり)

のびやかにスピンオフ!

当初、一気通貫レビューでは外伝までは観なくてもいいかなと考えていたのだが、前作『イップ・マン 承継』で主役のドニー・イェンさえ食いかねないカッコよさをみせたチョン・ティンチ(マックス・チャン)

これはと思って観てみたら、大正解。スピンオフ企画の気軽さもあってか、実に楽しめるカンフーアクションになっている。

監督は、香港アクション界の至宝ユエン・ウーピン

監督としては『スネーキーモンキー 蛇拳』『ドランクモンキー 酔拳』ジャッキー・チェンをスターダムに押しあげ、ハリウッドでは『マトリックス』『キル・ビル』等のアクション指導もこなす、この世界の第一人者だ。

そんなユエン・ウーピンが本作でメガホンを取り、彼がアクションに関わった『グリーン・デスティニー』でスタントを務めたマックス・チャンを、ついに主演で迎えた映画を撮る。何とも運命を感じる作品だ。

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詠春拳をあきらめた男の再起

前作で辛くもイップ・マンに敗れたティンチは、潔く詠春拳をあきらめ、今は小さな食料品店を営みながら息子と暮している。練習用の木人椿も、洋服掛けに使われて久しいようで、何とも寂しい。

静かな暮らしをしようとしている男の生活に踏み込んでくる荒くれ者と、最終的には勝負になるという大まかな展開や、町を牛耳っているのは英国人たちで、香港警察の上層部にも守銭奴の白人たちがいて悪さをしているという構図は、シリーズに通底する。

今回の敵はまず、町を仕切っている長楽グループ。統率している姉のクワン(ミシェル・ヨー)は組織をクリーンな企業に変えようとするが、反抗する弟のキット(ケビン・チェン)は、独断で阿片の密売に手を染める。

ティンチは妻を亡くしているので、映画の中では、彼が窮地を救ったジュリア(リウ・イエン)ナナ(クリッシー・チャウ)がヒロインとして華を添える。

キットの阿片でナナが中毒死してしまい、復讐と麻薬撲滅のため、ティンチは長楽の姉弟と戦うことになる。

キットはどの作品にも登場するような非力な卑怯キャラで、本作でもすぐに銃を持ち出してあっさり倒される。その代わりに姉のクワンが自慢のカンフーアクションを見せる。ミシェル・ヨーは、今でもあんなに動けるとはさすが。

前作では敵と戦うイップ・マンを助けたティンチだったが、本作ではその彼に、ジュリアの兄でありクラブの経営者フー(シン・ユー)が協力する。

はじめは、身の程も知らずにティンチに対戦をけしかける、軽薄そうな人物に見えたが、ティンチとともに麻薬撲滅に奔走したり、敵とも互角以上に戦ったりと、なかなか頼りになる相棒だった。

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ステーキが冷めないうちに

そして本作のラスボスは、ティンチが息子の誕生日に連れて行ってあげる人気ステーキハウスのオーナーシェフ
オーウェン(デイヴ・バウティスタ)。地元の名士としての顔を持ちながら、実は香港の阿片売買を取り仕切っている男だったのだ。

見せしめのために警察に不当逮捕されたフーが、このオーウェンになぶり殺しに遭う。手錠をかけられても応戦するフーは健闘したが、この怪力の大男には勝てなかった。

そして、殺される直前にフーが引きちぎったオーウェンのブレスレットを、警察の遺体安置所でみつけたティンチは、ようやく真犯人に気づくのだ。

このオーウェン、岩石のような体躯に人間離れした破壊力。カッコいいけど、この身のこなしには見覚えがあるぞと思ったら、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の青い怪力男・ドラックスではないか。『ブレードランナー2049』の時も思ったが、彼は変に特殊メイクなどせずに素のままで出演させた方が、絵になる

「もう、長時間メイクしてこれ以上ドラックス演じるのは御免だぜ」と言いたくなるのも分かる。

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柔よく剛を制す、か

さて、本作のクライマックスはこのオーウェンVSティンチ。力比べでは、とてもオーウェンには敵わない。その中で、どんな戦い方なら、この岩石男を倒せるか。という工夫が良く伝わってきた。

前作のマイク・タイソンがボクサーなら、本作のデイヴ・バウティスタはプロレスラー。小柄な詠春拳の使い手が、力自慢の巨漢にどう挑むかという点では、前作のドニー・イェンVSマイク・タイソンに似ている。

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だが、あまり荒唐無稽にはできないイップ・マンとは違い、ティンチなら好きなだけ派手なアクションができる。

その気軽さと思い切りの良さで、本作のアクションはとても見応えがあった。勿論、マックス・チャンの動きのキレの良さと美しさがあっての賜物だが。

そうそう、忘れてはならないのが、『マッハ!』でお馴染み、タイから来た謎の殺し屋(トニー・ジャー)の存在だ。こいつもまたメチャクチャ強い.

だが、話の流れとしては、なぜ現れたのかよく分からないし、最後に必殺仕事人のようになってしまうのも、また謎である。スピンオフからスピンオフが生まれることがあるのなら、次はこいつが主演かもしれない。

いや、それにしてもイップ・マンの一気通貫レビューで、外伝が一番面白かったというのは、ちょっと複雑な心境だ。最新作に期待しよう。