『クライマーズ・ハイ』
横山秀夫の原作を原田眞人監督が映画化。地元群馬の御巣鷹山で起きた日航機墜落事件を追う地方紙の記者たちの暑い夏
公開:2008年 時間:145分
製作国:日本
スタッフ
監督: 原田眞人
原作: 横山秀夫
『クライマーズ・ハイ」
キャスト
悠木和雅(全権デスク): 堤真一
佐山達哉(社会部): 堺雅人
玉置千鶴子(地域報道班):尾野真千子
等々力庸平(社会部長): 遠藤憲一
岸円治(政経部デスク):田口トモロヲ
田沢善吉(社会部デスク): 堀部圭亮
山田厳(地方部デスク): 金子和
吉井弁次郎(整理部): マギー
神沢周作(地域報道班): 滝藤賢一
伊東康男(販売局長): 皆川猿時
亀嶋正雄(整理部長): でんでん
守屋政志(政経部長): 矢島健一
森脇時彦(地域報道班): 矢柴俊博
粕谷隆明(編集局長): 中村育二
追村穣(編集局次長): 螢雪次朗
安西燐太郎: 小澤征悦
安西耿一郎(販売部): 髙嶋政宏
白河頼三(社長): 山﨑努
勝手に評点:
(オススメ!)

コンテンツ
あらすじ
1985年8月12日、乗客乗員524名を乗せた日本航空123便が、群馬県多野郡上野村の御巣鷹山に墜落。
群馬の有力地方新聞・北関東新聞社の記者・悠木(堤真一)は、事件の担当デスクに任命され、混乱する状況や次第に露わになっていく社内の人間関係の軋轢に押しつぶされそうになりながらも、未曾有の大惨事の真実を伝えるために奔走する。
今更レビュー(ネタバレあり)
墜ちたのは、御巣鷹山
横山秀夫といえば警察ものが有名だが、日本航空123便墜落事故を題材にした『クライマーズ・ハイ』が個人的には一番好きだ。
この事故を扱ったものとしては山崎豊子の『沈まぬ太陽』があり、いずれも大作として映画化されているが、日航という企業の負の部分にフォーカスした同作では事故の扱いがすべてではない。
一方、本作は地方紙である北関東新聞社(キタカン)の遊軍記者・悠木(堤真一)が日航全権デスクとして苦悩しながら事故と対峙する話であり、原作としてはこちらの方が映画向きと思う。
上毛新聞で記者経験のある横山秀夫が書いているだけに、キタカンの紙面づくりの描写は臨場感に溢れる。「新聞記者とボクシングの映画にはずれなし」とよく言われるが(気のせいか?)、本作も新聞記者たちの熱い情熱が伝わってくる場面に打ちのめされる。

キタカンの記者たち
- 全権を任された悠木(堤真一)と彼に信頼を寄せる県警キャップの佐山(堺雅人)
- これまで群馬の大事件「大久保・連赤」の経験で幅を利かせてきた守旧派の等々力社会部長(遠藤憲一)、粕谷編集局長(中村育二)、追村編集局次長(螢雪次朗)といったタヌキ連中
- 悠木のよき理解者である同期の岸(田口トモロヲ)や大先輩の亀嶋整理部長(でんでん)、記事を構成する吉井(マギー)
- 佐山とともに御巣鷹山の現場を初日に踏み、精神を病む地域報道班記者の神沢(滝藤賢一)
- 工学部出身で事故原因の特ダネを拾う女性記者、玉置(尾野真千子)
- 敵か味方か分かりにくい社会部デスク田沢(堀部圭亮)に政経部長守屋(矢島健一)
- 安西(髙嶋政宏)を極秘任務で植物人間に追い込んだ伊東販売局長(皆川猿時)
- そして、会社を私物化し社主として君臨する車椅子のエロオヤジ、白河社長(山﨑努)

読者のために良い新聞紙面を作り、貴重な収入源である広告を集め、毎朝無事に読者家庭に新聞を配達する。
みんな置かれた立場で主義主張は違うが、遠慮なくぶつかり合って毎日の新聞を完成させて届けていく様子がイキイキと描かれている。
新聞社の大フロアで大勢の社員たちが寸暇を惜しんで働き、喧々諤々と議論をしている姿をダイナミックにとらえる原田眞人監督お得意のスタイルが、作品にスケール感を与えてくれる。
新聞記者の映画に駄作なし
それにしても、働き方が改革された令和の世の中では、新聞社といえども、こんなにも毎日深夜まで多くの社員たちが熱く働いているものなのだろうか。
リモートワークが浸透し、記事もデジタルで組むだろうしネット配信もできてしまう時代。長い物差しでペンペンと自分の肩を叩く口うるさいベテランや、「ダブルチェック」を唱える手堅い上司は健在なのか。
熱いジャーナリスト魂は、このキタカンの現場のように生きながらえていることを願う。

そしてドラマの節々に時折インサートされる、事件から何年も経った現在に、安西の息子燐太郎(小澤征悦)と悠木が断崖絶壁の難所、谷川岳衝立岩を登攀する場面。
この構成は原作通りとはいえ、冒頭の地下深いホームで知られるJR土合駅からの長い階段や、登山シーンの空撮など、映像で見せられると迫力がある。
小澤征悦がザイルを握って崖下の堤真一に声かけする場面は、勝野洋の「ファイト、一発!」のCMに見えて仕方なかったが。
微笑まない堺雅人
映画よりだいぶ前にNHKドラマで観た記憶がある。主演は佐藤浩市だったか。比較できるほど覚えていないが、堤真一の悠木は負けていない。
印象的なのは佐山役の堺雅人だ。命がけで書いた現場雑感が紙面に載らず、山から下りて鬼の形相で悠木に噛みつく場面は本作の白眉といえる。堺雅人が笑みをこぼさずに睨むだけの演技をすることもあるのかと、当時驚いたものだ。

御巣鷹山に登るバディが滝藤賢一だったのは忘れていた。『半沢直樹』の前からの付き合いだったか。
それから、社長の山崎努とともに、本作では数少ない圧倒的な憎まれ役の販売局長役が皆川猿時だったのは今回初めて認識した。コミカルな役ばかりかと思ったが、こういうのもハマるのだ。
◇
映画化にあたり原作からこぼれた材料はそう多くない。うまい脚本だと思う。悠木の母親が洋パンだという話の扱い方や、元社長秘書(野波麻帆)の設定などに若干差異はあっても気にならない。
ネタバレになるが、終盤に悠木は「チェック、ダブルチェック」の慎重さから、大きな抜きネタを取り逃がす。
「少し出来すぎか?」という躊躇いの台詞は映画オリジナルだが、やや原作と意味合いが変わった気がするものの、大筋は原作通り。新聞記者ものとしての達成感は満たされない内容だが、それゆえに現在での登攀シーンが生きてくる。

でも、自分の息子の顔を最後まで出さないのだったら、ラストはわざわざ海外まで息子に会いに行くよりも、燐太郎との登山で原作通り終わらせる方が良かったのではないか。
とはいえ、ここまで原作を尊重し緊張感溢れる映画にしている手腕は、さすが原田眞人監督と思う。
