『ブレードランナー 2049』 考察とネタバレ:あの頃の未来(2019)に立っている僕らは、30年後の夢を見る

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『ブレードランナー 2049』 
 Blade Runner 2049

神格化した前作から30年後の世界、レプリカントを見つけては抹殺するブレードランナーKは、人間もどきの彼らに起きた奇跡の糸口をつかみ、その事実を調べ始める。そこには、失踪したはずの敏腕捜査官デッカードがいた。

公開:2017 年  時間:163分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本: ハンプトン・ファンチャー
    マイケル・グリーン
原作: フィリップ・K・ディック
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

キャスト
K / ジョー: ライアン・ゴズリング
デッカード: ハリソン・フォード
ジョイ:   アナ・デ・アルマス
ラヴ:    シルヴィア・フークス
ジョシ警部補:ロビン・ライト
マリエット: マッケンジー・デイヴィス
フレイザ:  ヒアム・アッバス
アナ・ステリン博士: カーラ・ジュリ
サッパー・モートン:デイヴ・バウティスタ
ウォレス:  ジャレッド・レト
ガフ:エドワード・ジェームズ・オルモス
レイチェル: ショーン・ヤング


勝手に評点:4.0
(オススメ!)

© 2017 Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

あらすじ(公式サイトより引用)

2049年、LA市警のブレードランナー“K”(ライアン・ゴズリング)はある事件の捜査中に、人間と人造人間《レプリカント》の社会を、そして自らのアイデンティティを崩壊させかねないある事実を知る。

Kがたどり着いた、その謎を暴く鍵となる男とは、かつて優秀なブレードランナーとして活躍し、30年間行方不明になっていたデッカード(ハリソン・フォード)だった。

デッカードが命を懸けて守り続けてきた秘密—世界の秩序を崩壊させ、人類存亡にかかわる<真実>がいま明かされようとしている。

レビュー(まずはネタバレなし)

前作の設定は2019年のロサンゼルス

リドリー・スコット監督による傑作カルトSF『ブレードランナー』。作品の設定であった2019年にはIMAXで再上映され、懐かしく鑑賞した。確か、作品イメージに近い、夜の川崎の工場地帯でのイベントも開催されていたはずだ。

そんな不朽の名作に続編が作られようとは誰が想像しただろう。しかも、フィリップ・K・ディックの原作の世界観はそのままに、主演と監督を一新して。

私の溺愛するオリジナル作品の美しい思い出を、下手な監督にボロクソにいじられたら、目も当てられない。製作情報を知った当時は心配もあったが、引き受けたのはドゥニ・ヴィルヌーヴ監督と分かり、一安心。というより俄然期待が高まったのを記憶している。

ヴィルヌーヴ監督のSFといえば『メッセージ』だが、ライアン・ゴズリングが主人公なら、雰囲気の似るジェイク・ギレンホールが主演の傑作『プリズナーズ』に近い作品イメージになるかも。あれも孤高の刑事役の映画だったし。

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人間もどき捜査官がレプリカントを追う

公開当時、あれこれ想像を巡らせたが、期待を裏切らない作品だった。

前作から30年後の2049年の世界では、レプリカント(人造人間)を生んだタイレル社は倒産し、台頭したウォレス社が事業を買収

ロス市警(LAPD)のブレードランナーである人間もどきの主人公K(ライアン・ゴズリング)が、職務として同類を見つけては解任(抹殺)する。

前作を忘れ、しばし新たなドラマに没頭する。カリフォルニアの農場で一人慎ましく暮らす農家サッパー・モートン(デイヴ・バウティスタ)をみつけ、任務を遂行するK。

どんより曇った空の下、殺伐とした古い民家。墨絵のような静かな背景の中で戦い合うレプリカント同士。ただ派手なアクションSFではない。農場と自然は前作にはないモチーフだが、テーマの継承を感じる。

デイヴ・バウティスタ『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の青い巨人と異なりシリアス路線。すぐ死んでしまうのが惜しい。

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そしてシリーズの代名詞といえるLAの摩天楼の夜景に飛来するスピナー(エアカー)、巨大広告に日本語はじめ多様な言語のネオン。立ち食いのうどん屋こそ出ないが、雑多な雰囲気とディストピア感は本作でも健在だ。

AIの恋人ジョイ(アナ・デ・アルマス)と生活し、マダムと呼ばれるLAPDの上司ジョシ警部補(ロビン・ライト)の指示で捜査に明け暮れるK。

前作同様に舞台はLAでも、『ラ・ラ・ランド』で魅せた陽気に踊るライアン・ゴズリングはそこにはいない。前作のような酸性雨はないが、本作でも太陽は顔を見せないのだ。

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神格化した前作に挑む

『ブレードランナー』という作品はもはや神格化してしまっている

ハリソン・フォードリドリー・スコット監督のみならず、ヴァンゲリスの音楽、シド・ミードのデザイン、ダグラス・トランブルのSFX、多くの才能と叡知が結集して偶然生まれたような奇跡の産物かもしれない。

本作のハンス・ジマーベンジャミン・ウォルフィッシュによる全編に流れる劇伴音楽にしても、Kの乗る斬新なデザインのプジョー社製のスキナーにしても、先達の世界観を踏襲せざるを得ず、結果、模倣感は拭えない。

前作では予算の制約で夜の設定や雨の効果でごまかした部分が、かえって独特の空気を醸出した。強力わかもとの広告のキッチュ感もいい。本作は画像の美しさや鮮明さがかえって阻害要因にもなる。広告もSONYATARIでは、ちょっと意外感がないな。

ただ、何を作っても前作を超えられないことが自明の状況で、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はこの仕事をよくぞ引き受けたと思うし、前作に恥じない仕上がりになっているのは大したものだ。

さて、抹殺したサッパーが枯れた大木の根の下に埋めていた、出産した痕跡のある女の骨。それは、レプリカントの遺体だった。君は奇跡を見たことがあるか。レプリカントが子供を生んだというのか

社会の混乱を恐れたジョシは、子供を探し、この奇跡の証拠隠滅をKに指示する。捜査を進めるうちに、この遺体と、元ブレードランナーのデッカードとの関係が浮かんでくる。

この辺の展開は、ファンには堪らない。当時を知る関係者のガフ(エドワード・ジェームズ・オルモス)が登場し、ご丁寧に折り紙までやってくれるのだから。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

AIの彼女と人工記憶作成技士

捜査を進めていくうちにKは、植え付けられたはずの自分の幼少期の記憶が、生まれて孤児院へと移されていった少年と重なる部分が多いことに気づき、悩み始める。

レプリカントの記憶製造の第一人者であるアナ・ステリン博士(カーラ・ジュリ)に診てもらうと、Kの記憶は本物がベースだといい、彼女は涙する。

博士は免疫不全で一生室内から出られないが、VR技術で野外生活も味わえる。本作唯一の晴天のシーンが仮想空間なのは、皮肉なものだ。

本作で目新しいキャラは、AIのヒロイン・ジョイ(アナ・デ・アルマス)

ホログラフィの身体なので、愛するKのために、街娼のマリエット(マッケンジー・デイヴィス)を使い彼と結ばれようとするエピソードは、スパイク・ジョーンズ監督によるAI恋愛映画『her/世界でひとつの彼女』と同じ流れ。

ポータブルデバイスに移してKと共に捜査活動に同行するが、敵にデバイスを踏み壊され、哀れ消失となってしまう。

もともと、ラブドール的な市販AIソフトであり、彼女の消失後の広告で肌も露わに巨大な姿で投影され、Kを誘惑する姿が切ないのだ。まるでエヴァの巨大化した綾波レイみたい

本ページの情報は2021年9月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。

そしてデッカードとレイチェル

さて、映画は中盤を過ぎ、ようやくデッカード(ハリソン・フォード)が登場する。誰も住まない廃墟と化したラスベガスに、愛犬とともに暮らしているのだ。

プレスリーにモンロー、シナトラ。酒にカジノ。過去の米国的な文化は、すべて退廃した世界。そこに、レイチェル(ショーン・ヤング)の写真とともに孤独に生きる元・敏腕捜査官。

かつて、自分を人間だと信じていた女・レイチェルと恋に落ち、二人で失踪したデッカード。彼もまたレプリカントではなかったのかという議論も巻き起こったが、前作に明快な答えはない。

ただ、愛し合った二人から奇跡的に子供が生まれ、少年は孤児院に移された。

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タイレル社に代わり君臨するウォレス社の社長ウォレス(ジャレッド・レト)は、この生殖技術を欲していた。捕まれば子供は解剖される。

デッカードは接触を断ち、フレイザ(ヒアム・アッバス)が率いるレプリカントの人権支援団体に子供を任せた。自分こそ、そのレプリカントの希望の子なのではないか。Kには期待があった。

勝手に行動するKをジョシ警部補は叱責するが、子供はみつけて処理したと嘘をつく。奇跡の子を抹殺しようというジョシ警部補も、ウォレスの右腕であるラヴ(シルヴィア・フークス)も、Kやデッカードにとっては、もはや敵でしかない。

激しい攻撃のすえ、ラヴにデッカードを誘拐されてしまうK。情報漏えいを恐れ、デッカードを殺せと命じるフレイザ。四面楚歌の状況下、Kはデッカードを連れ去ったラヴのスピナーを追撃する。

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主人公は悲運なレプリカントであるべし

思えば、前作でもデッカードはアクション映画のヒーローではなかった。

あの作品は、敵のリーダー・ロイ(ルトガー・ハウアー)悲運なキャラの魅力で輝いていた。ロイが死んだのは、戦いで敗れたのではなく、レプリカントの寿命によるものだった。

ハリソン・フォード演じる主人公には、ハン・ソロやインディアナ・ジョーンズのような好戦的なキャラだけではなく、デッカードや刑事ジョン・ブックのように、戦わずして生き残るキャラもいる。

そして、総じて後者のパターンの作品には、深みがあるように思う。

本作でのデッカードも、終盤では手錠をはめられて沈みゆく飛行機のなかでもがいているだけだ。だが、それでいい。

ウォレスが連れてきた、昔のままのレイチェル(これはこれで映画技術の進歩に感動)と向き合い、瞳の色が違うと渋く指摘した時点で十分カッコいい。それ以上活躍しなくていいのだ。

今回の主人公はKだ。前作のルトガー・ハウアー同様、作品の主人公は悲運のレプリカントなのだから。

銀紙のユニコーンから古い木でできた馬の人形。アイテムは若干異なるが、デッカードとレイチェルの恋の逃避行は、こうしてラストに実を結んだ。

Kの記憶は自分のものではなく、アナ・ステリン博士のものだった。彼女こそ、奇跡の子だったのだ。父と娘の再会は、期待を持たせたところで幕切れとなる。いい余韻だ。

雪の舞い散る中、デッカードと別れて深傷のために横たわるKはゆっくりと死を待つ。この哀愁さえ、ルトガー・ハウアーから継承されたように思えた。