『エブリシング エブリウェア オールアットワンス』考察とネタバレ|エブエブ

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『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
Everything Everywhere All at Once

ミシェル・ヨー演じるくたびれたオバサンが、なぜかマルチバースで全人類を救うミッションを託される

公開:2023 年  時間:140分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督・脚本:     ダニエル・クワン
        ダニエル・シャイナート
製作:
          アンソニー・ルッソ
            ジョー・ルッソ

キャスト
エヴリン・ワン:    ミシェル・ヨー
ウェイモンド:   キー・ホイ・クァン
ジョイ:      ステファニー・スー
ゴン・ゴン(父):  ジェームズ・ホン
ディアドラ・ボーベアドラ(監察官):
     ジェイミー・リー・カーティス
ベッキー(GF):    タリー・メデル
デビー(女性客): ジェニー・スレイト
リック(男性客):    ビフ・ウィフ
チャド(料理人): ハリー・シャム・Jr

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

(C)2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

ポイント

  • マルチバースとカンフーの組み合わせは、マーベルだけに任せておけない。ミシェル・ヨーの新境地ともいえる、おバカさとアクションの融合。ああ混沌が心地よい。

あらすじ

経営するコインランドリーを経営するエヴリン(ミシェル・ヨー)は破産寸前。

ボケているのに頑固な父親ゴン・ゴン(ジェームズ・ホン)と、反抗期が終わらない娘ジョイ(ステファニー・スー)、優しいだけで頼りにならない夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)

頭の痛い問題だらけのエヴリンの前に、突如として「別のユニバースから来た」という夫のウェイモンドが現れる。混乱するエヴリンに、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と驚きの使命を背負わせるウェイモンド。

そんな“別の宇宙の夫”に言われるがまま、ワケも分からずマルチバースに飛び込んだ彼女は、カンフーマスターばりの身体能力を手に入れ、まさかの救世主として覚醒。全人類の命運をかけた壮大な戦いに身を投じる。

  

レビュー(まずはネタバレなし)

エブエブの誘う混沌世界

下馬評どおりに貰えないのがオスカーだが、現時点、「本年度アカデミー賞最有力で大本命」と宣伝したくなるのは分かる。最多10部門ノミネートだし、他の賞レースでの実績にも勢いがある。

中国から移住した米国でコインランドリー経営に窮しているくたびれた中年女性が、なぜかマルチバースの中で全人類のために戦うことに。

奇想天外なストーリーの『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。タイトルが長くて困惑していると、ギョロ目がでてきて「エブエブ!」と略称を教えてくれる親切設計の劇場予告。一体、どんな映画だ、これ。

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ひとことでいえば、混沌の宇宙を描いた壮大な作品。ていうか、ひとこと以上には、とても噛み砕いて語れないカオス。

製作に『アベンジャーズ』シリーズのルッソ兄弟が噛んでいるというのに、MCUで描くマルチバースの複雑さとはまったく異質の荒唐無稽さ(こっちの方が分かりやすかったりして)。

カンフーアクションを採り入れて、マルチバースをジャンプしまくり強大な敵と戦う。

ストーリーはSFアクションに見えるが、他の世界に飛ぶには、何か想像を超える変なことをしないといけないという、飲み会の罰ゲームのような縛りがある。何だ、このバカバカしさは。

主人公のエヴリンに使命を託す別の世界の夫ウェイモンドは、敵に囲まれる中でリップクリームをかじり始め、別世界にジャンプする。やがてルールを体得したエヴリンも、あの手この手でジャンプを繰り返す。

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驚きのミシェル・ヨー起用

タイトルと似た名前の主人公エヴリン・ワンミシェル・ヨーとは驚いた。この年齢層で、カンフーができて主役が張れる女優といえば彼女しかいないのかも。

とはいえ、思い出すのはブロスナンよりクールだった史上最強のボンドガール『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997)、華麗なカンフーは『イップ・マン外伝 マスターZ』(2018)でも健在。MCUの異端児『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)は映画自体が黒歴史かと。

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アクション以外でも『クレイジー・リッチ!』(2018)や『ラスト・クリスマス』(2019)など存在感を示すミシェル・ヨーだが、本作のように、ここまでコメディエンヌの一面を見せるとは珍しい。もっとも、その意外感が本作のユニークな魅力に繋がっている。

そして、優しいが頼りにならない彼女の夫ウェイモンドキー・ホイ・クァン

別の世界の彼はスパイ・エージェントのようだったり、実業家のようだったり、或いはウェストバッグをヌンチャクのように振り回して美技アクションを披露したりと多種多様。

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このメガネの男性、どこか見覚えある気はしたが、まさか『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)の、あの元気で生意気な少年だったとは気づかなかった。本作で俳優として本格カムバック。

『インディ・ジョーンズ』シリーズも久々に新作が公開予定というし、ちょっと再観賞したくなる。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

鬼より怖いマルサの女

エヴリンは忙しい。中国からやってくる頑固な父ゴン・ゴン(ジェームズ・ホン)のためのパーティの準備、反抗期が終わらない娘ジョイ(ステファニー・スー)はパートナーの女性ベッキー(タリー・メデル)を連れてきて保守的な一家に一波乱。夫ウェイモンドは頼りにならず。

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だがその日はIRS(日本で言う国税庁)に税務申告に行かなければ。監察官(ジェイミー・リー・カーティス)の納得が得られなければ、コインランドリーの店舗が差し押さえられてしまう。そうなったら破産だ。

IRSのオフィスブースで監察官から質問攻めにあうエヴリン。

「カラオケ装置は経費で落ちませんよ」

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だがエヴリンは気もそぞろ。それもそのはず。ついさっき、ウェイモンドが別人の顔で彼女に使命を託したのだ。

「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と。

オフィスブースに現れる敵から間一髪で逃げきり、現実と妄想世界との境い目に戸惑う展開は『マトリックス』(1999)のようだ。

女性監察官を演じたジェイミー・リー・カーティス、かつては『ハロウィン』などで絶叫クイーンとして知られた彼女が、今では脱税者を震え上がらせている。

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あとはマルチバースに浸れ

そしてエヴリンは、倒すべき敵のジョイ・トゥパキが、反抗的な自分の娘ジョイ(ステファニー・スー)の中にいることを知る。

あとはぜひ混沌世界に浸ってほしいミシェル・ヨーの100面相女優になるわ、路上でピザの売り子になるわ、両手の指がソーセージになるわ、額に目玉貼り付けて『三つ目がとおる』(by 手塚治虫)になるわ、アニメや子供のクレヨン画、はたまた人形になったりと、数え切れないマルチバース。

EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE Trailer (2022)

『レミーのおいしいレストラン』よろしく、頭の上にアライグマを載せている鉄板焼きシェフ(ハリー・シャム・Jr)が笑えた。まるで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のロケットじゃないか。

そういえば、『ガーディアンズ』とか『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』とか、ジェームズ・ガン監督のSFアクション+シニカルなおバカ映画のセンスって、本作のそれに近いかも。

ダニエルズ meets A24

本作の監督はダニエル・クワンダニエル・シャイナートのコンビで通称ダニエルズ。兄弟でも夫婦でもない、こういうユニットって面白いね。

彼らの監督作『スイス・アーミー・マン』(2016)の北米配給を手掛けた縁でA24との本作の製作につながり、それがA24史上最大のヒットとなった。

(C)2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

そういえば、ギョロ目のついた岩が二つ並び崖の上で会話するシーンなんて、『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(2017、デヴィッド・ロウリー監督)っぽいもん。いかにもA24の好きそうな作品。

『A GHOST STORY』『MEN 同じ顔の男たち』といったこれまでのA24作品は途中から不条理さや難解さが顕在化するパターンだったが、本作ははじめから意味不明な混沌を売りにしており、その点は潔い。おかげで、必死に意味を考える苦行からは解放される。

そんなわけで今回、ろくにストーリーさえお伝えできていない気もするが、おバカな映画は乗らなきゃ損損。でも、最後にはエヴリンと娘、或いは夫との間に、家族ドラマのエッセンスも隠されている。

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「忙しいと言う字は、心を亡くすと書きます」などとよく言われるが、これまでのエヴリンはまさにそれで、自分にとって大切なものを見失っていた。

かつて父に諦められ傷ついて渡米したはずの自分が、娘のジョイに同じ仕打ちをし、彼女のパートナーさえ認めてあげられなかった。

そして頼りないと思っていた夫ウェイモンドの持っていた優しさと強さに気づき、絶望のベーグルの中に吸い込まれていこうとするジョイを、家族の力で取り戻す。

奇想天外ながらも、最後は普遍的なテーマに帰着するところに、安心感がある。ラブ&ピースのギョロ目マークは、銃弾よりも強いのだ。

こういう作品が表舞台で多数ノミネートされるような時代になっているとは、世の中面白い。