イップマン『序章・葉問・継承・マスターZ・完結』全作一気レビュー

1. 『イップ・マン 序章』(2008)
2. 『イップ・マン 葉問』(2010)
3. 『イップ・マン 継承』(2017)
4. 『イップ・マン外伝 マスターZ』(2019)
5. 『イップ・マン 完結』(2020)

『イップ・マン 葉問』 葉問2

公開:2010 年  時間:109分  
製作国:香港

スタッフ 
監督: ウィルソン・イップ

キャスト
イップ・マン: ドニー・イェン
ホン:    サモ・ハン・キンポー
ツイスター:ダレン・シャラーヴィ
レオン:    ホァン・シャオミン
ウィンシン(妻): リン・ホン
カム・サンチャウ:ルイス・ファン
ロー師匠:         ロー・マン
チェン師匠: フォン・ハックオン
ウォーレス署長:チャールズ・マイヤー


勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)2010 Mandarin Films Limited. All Rights Reserved

あらすじ

1949年、家族を連れて香港に移住したイップ・マンは、詠春拳を広めるため、とある新聞社の一角に道場を開く。

様々な流派の道場主たちとの対決を通してイップ・マンの名は広く知られるようになり、彼のもとに多くの弟子が集まってくるが……。

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一気通貫レビュー(ネタバレあり)

ついに香港で道場を開く

前作のラストで佛山から香港に渡ったイップ・マン(ドニー・イェン)ビルの屋上階を借りて道場を開くも、なかなか弟子は集まらず。

資金繰りに喘ぐなか、やっと現れた一番弟子のレオン(ホァン・シャオミン)。ここから、ようやく門下生が集まり始め、道場も軌道に乗るかに見えたが、彼らを挑発する他の道場のメンバーたちと諍いになる。

さすがは大都会、香港。ライバルは多い。<詠春拳>とは攻守を同時に行う拳であり、お馴染みの木人椿(練習用の木の人形)相手にひたすら鍛錬に励むイップ・マンと門下生たち。

喧嘩を吹っ掛けてくるよその道場の若者たち相手に、敵が振り回してきた出刃包丁を奪い、両手にもって反撃するイップ・マン。だが、殺傷しないよう、刃は自分側に向ける。まるで『るろうに剣心』の逆刃刀だ。

前作では工場を経営し、イップ・マンのよき友であったチョウ・チンチュン(サイモン・ヤム)は、日本兵に頭を撃たれたらしく、泥棒猫のように食物を奪って逃げる廃人のようになっていた。これは哀しい。

一方で、かつてチンチュンの工場を襲撃し悪事を働いたカム・サンチャウ(ルイス・ファン)は、すっかり更生し、イップ・マンのシンパに鞍替えしている。

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敵は香港警察にあり

警察で中国人をいたぶって金儲けに走る悪徳英国人と、彼らの機嫌をとっておこぼれに預かる武術家たちという構図。

その中でイップ・マンは道場を開くために、線香の火が消えるまで師匠たちと戦って敗けずに残らねばならないという、香港武術会の入会の掟に従うことに。

順調に師匠連中を倒していくが、全体を牛耳るボスのホン(サモ・ハン・キンポー)との戦いは引き分けに終わる。

ゆれる中華料理の丸テーブルの上で戦い、落ちたら敗け。相撲のようでもあり、激しい戦いには相当時間をかけたらしいが、ちょっと曲芸っぽくて、むしろ嘘くさい

ここまで作り物にするのなら、前作のほうがアクションはリアルに思える。ただ、この時点ではずる賢いタヌキ爺に見えたサモ・ハン・キンポーが、この後から全く違うキャラになっていく。

(C)2010 Mandarin Films Limited. All Rights Reserved

警察上層部で私腹を肥やす英国人上司が、ボクシングのチャンピオンであるツイスター(ダレン・シャラーヴィ)と中国武術家のファイトの興行を仕掛ける。

何人も束になっても、ツイスターには敵わず、調子に乗ったこの男は激しく挑発する。ついには、謝罪させたいなら、勝って言えと言われて受けて立ったホン師匠が、誇りをかけて戦う。

ただのビッグマウスではなく、このツイスターはなかなか強敵だ。互角に戦っていたホン師匠も健闘したと言ってよいが、さすが高齢にはこたえたか、劣勢になっていく。

危険を感じたイップ・マンはタオルを投げようとするが、名誉のために戦うホンはそれを制し、そしてマットに沈む。最後の一撃は致命傷になり、大家族を残して葬式が執り行われる。

映画『イップ・マン 葉問』予告編

イップマン2 炎の友情

ホン師匠は、もはやイップ・マンとは、共に腕前を認め合った武術家仲間であったが、あっけない最期となった。

悪役ボクサーに仲間が叩きのめされ、死んでしまう展開は、まるで『ロッキー4/炎の友情』のアポロ・クリードのようだが、サモ・ハン・キンポーはリング上で歌ったり挑発したりはせず、ひたすら誇り高き武術家の姿勢を貫く。なかなか痺れる。

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そして「相手は弱すぎて、不運にも負けて亡くなってしまった」と記者会見で友を愚弄するツイスターに、ロッキーさながらにイップ・マンは勝負を挑む。

二人目の子供を身ごもっている妻ウィンシン(リン・ホン)と長男を置いて、練習に打ち込み、そして香港中の多くの中国人が見守るなかで、イップ・マンはリングに立つ。

前作以上にベタな展開であることは否めないが、単純明快なストーリーゆえ、ラストは自明でもつい盛り上がってしまう。

ツイスターは、前作で池内博之が演じた空手家の将校・三浦よりもだいぶ人格的には見劣りする獣のような男だが、強さでは三浦をはるかに上回る。イップ・マンがここまで苦戦し、何度もダウンを食らうことは、これまでなかったことだ。

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異種格闘技戦はどっちに有利

何ラウンドも続く戦いの様子をここに報告することは省略するが、途中にツイスターが劣勢になると、英国人のプロモーターたちはキック禁止のルールに変更するようレフリーに圧力をかけ、イップ・マンが応じなければ棄権とみなすという、無茶ぶりにでる。

劣勢とみればルール変更に持っていくのは、各種スポーツにおける西洋人の常套手段だが、今回のは、さすがにえげつない。

まあ、イップ・マンは応じるのだけれど、試合途中でキックが封じられては、<詠春拳>もリズムが狂ってしまうだろうに。

ただ、この手の異種格闘技戦は、どういう形がフェアなのか、私は全く詳しくないのだが、普段キックを使わないツイスターにしてみれば、敵が足技ありなのは不公平に思えるし、自分だけグローブをはめているのも、素手でやらせろよと思ってしまうものではないのか。

ともあれ、ハラハラさせながらも、最後は定石通りの幕切れとなる。

さすがに人間ができているイップ・マンは勝利後のスピーチでも、「私はたまたま勝ったが、中国武術がボクシングより強いという訳ではない」と至って謙虚なのである。

「優劣を決めるものではない。互いを尊重しよう」

この一言に、国籍を問わず、観客は立ち上がり拍手を送るのだ。そしてラストには、まだ少年時代のブルース・リーが登場。

「大きくなったら、また来なさい」とイップ・マンに言われ、帰っていく。次回作には大きくなって登場するかな。