『病院坂の首縊りの家』
市川崑監督・石坂浩二主演の金田一耕助シリーズ最後の事件。
公開:1979年 時間:139分
製作国:日本
スタッフ
監督: 市川崑
原作: 横溝正史
キャスト
金田一耕助: 石坂浩二
日夏黙太郎: 草刈正雄
法眼弥生: 佐久間良子
法眼由香利/ 山内小雪: 桜田淳子
法眼琢也: 菊地勇一
五十嵐千鶴: 入江たか子
五十嵐猛蔵: 久富惟晴
五十嵐滋: 河原裕昌
田辺光枝: 三条美紀
宮坂すみ: 白石加代子
等々力警部: 加藤武
阪東刑事: 岡本信人
山内冬子: 萩尾みどり
山内敏男: あおい輝彦
吉沢平次: 池畑慎之介
佐川哲: 林ゆたか
原田雅美: 山本伸吾
秋山武彦: 早田文次
本條徳兵衛: 小沢栄太郎
本條直吉: 清水綋治
勝手に評点:
(悪くはないけど)

コンテンツ
あらすじ
男の生首が風鈴のように天井からぶら下がっていた!病院坂の首縊りの家で起きた怪奇な殺人事件は、いま予想外の展開を見せようとしていた。
殺された男・敏男(あおい輝彦)とその異母妹・小雪(桜田淳子)は、法眼病院が“首縊りの家”と呼ばれるいわれとなった自殺者・山内冬子(萩尾みどり)の遺児だったのだ。
法眼家に絡む複雑怪奇な人間関係を探り始めた金田一耕助(石坂浩二)をあざ笑うかのように、第二、第三の殺人が続けて起こる。金田一耕助の最後の事件は、底知れぬ謎を秘めたまま、戦慄のラストへ向かってゆく。
今更レビュー(ネタバレあり)
金田一耕助最後の事件
2006年の『犬神家の一族』セルフリメイクという例外を除けば、市川崑監督・石坂浩二主演の金田一耕助シリーズは本作をもって完結する。
横溝正史が金田一耕助の最後の事件として書いたものであり、実際、原作でも映画でも、この事件のあとで金田一は渡米してしまう。
『犬神家の一族』から始まった石坂浩二の金田一耕助映画は『悪魔の手毬唄』、『獄門島』、『女王蜂』と続き、市川崑監督はそこで一旦手仕舞いしたはずだった。
だが、主演の石坂浩二自身の監督ではと不安に思った角川の要請で、結局、市川崑監督が本作もメガホンを取ることに。わずか3年間でこれだけのシリーズ作品を世に出していたのかと、そのハイペースには驚かされる。
5作目ともなると、これで見納めという名残惜しさはある。役が固定しているのは、石坂浩二の金田一耕助のほか、加藤武の等々力警部くらいだが、この警部は毎回どうみても同一人物なのに、金田一とは初対面という設定なのが面白い。
田舎町で猟奇殺人事件が起きるのは毎度のことだが、大滝秀治・三木のりへい・三谷昇・草笛光子・小林昭二・白石加代子ほか、毎度いろいろな役で常連メンバーが顔を出すのもすっかりお馴染みとなった。
役が固定している『男はつらいよ』とはだいぶ趣きが違うものの、シリーズものの安心感みたいなところは共通する。
だが、身の毛もよだつ殺人事件の探偵ミステリーとしての作品の出来としては、残念ながら難点が多く、有終の美が飾れたとは思えない。
やっぱ家系が複雑すぎじゃない?
冒頭とエンディングに横溝正史が登場し、カメオ出演ではない、れっきとした役を演じているのは読者ファン層には嬉しいだろうが、作品としては緊張感が損なわれる。
とはいえ、原作にも金田一の友人として著者本人が出てくるのだから、この演出はまだ原作に忠実といえる。
だが、それ以外は、結構大胆に原作を改変している。ここまで横溝原作を大きく変えてしまう例は、市川監督作品としては珍しいのではないか。
改変の是非は一概には言えない。私は原作を読んでいたので、登場人物や事件の展開に先入観があり、だからこそ、それをあちこち変えている映画には相当混乱させられた。原作未読で映画を観た方には、もっとスムーズに内容が頭に入るのかもしれない。
例えば、病院を経営してきた法眼家と、親族にあたる五十嵐家の家系図。これは相当難解で、原作には家系図が添付されているほどだ。
あまりに複雑すぎるためか、映画では世代が一つ省略されている。具体的には、映画では弥生(佐久間良子)の娘は由香利(桜田淳子)だが、原作では由香利は孫にあたる。同様に、五十嵐滋(河原裕昌)も原作では光枝(三条美紀)の息子ではなく孫だ。

これまで映画化された横溝原作でも大家族は多かったが、家系図がここまで入り組んでいる例は少ない。だから映画で簡素化を図ったのは良案だったが、それでもまだ難解だ。劇中にも家系図が登場するが、ずっと画面の片隅に映しておいてほしいくらい。
◇
横溝ミステリー映画の醍醐味は、どれだけ凄惨な猟奇殺人が起きるか、そしてその奇抜な殺され方にどれだけ納得的な理由があるのかを楽しむところにあると思っている。
本作の場合、殺人はいくつか発生するものの、インパクトがあるのは、最初に発生する山内敏男(あおい輝彦)の生首風鈴だ。
これが、病院坂の首縊りの家の暗い部屋の中にぶら下がっているのは確かに怖いが、見せ方も盛り上げ方もちょっと物足りない。何より、序盤のこの殺人が映像的に一番のインパクトでは、そこから先は尻すぼみだ。
金田一の探偵仕事に冴えがない
法眼由香利と山内小雪の二役を演じた桜田淳子は、高3トリオは卒業したとはいえ、人気絶頂のアイドル歌手であり、憎まれ役の由香利まで演じたのは意外だったが、二役を好演。
本作で新鮮味があったのは、写真館の助手をしていた日夏黙太郎(草刈正雄)というキャラクター。探偵仕事に惹かれ、いろいろと情報収集し、金田一のサポート役をこなす。
草刈正雄ってこんな演技もするんだっけと驚くほどの、口数の多い陽キャで場を和ます。無精ひげでも清潔感が漂うのはさすがだわ。
◇
でも、黙太郎が優秀な分、金田一耕助の仕事ぶりは精彩を欠く。
なにせ、金田一がパスポート写真を頼んだ成り行きで調査依頼されただけとはいえ、依頼人である本條写真館の主人、徳兵衛(小沢栄太郎)が中盤で殺されてしまうのだ。これは手落ちだろう。
更に、連続殺人事件をけして未然に食い止められないのが金田一の仕事のお約束ではあるが、今回はご丁寧に犯人の弥生が命がけで隠そうとした、父親・猛蔵(久富惟晴)の強姦写真の乾板を叩き割って証拠隠滅までしてしまうのだ。
こんな体たらくでは、探偵を廃業して渡米したくなるのも、無理はない。
なお、ついサラリと犯人の名前を挙げてしまったが、市川崑監督の横溝シリーズでは、美熟女が犯人なのも最後に自害するのも、三木のりへいが無愛想な妻のちょっかいで偶然金田一に証拠を提供するのと同じくらい、確実なことなのだ。
ああ、結局今回はろくに物語の内容にふれずに終わってしまった。屋根裏で長年ひそかに病床に伏しているのが、弥生の母、千鶴(怪猫女優で知られた入江たか子)だったのには驚いた。
天井裏の物音を聞いて阪東刑事(岡本信人)が「ネズミですかね」と言うのは、「実は<怪猫>でした」という楽屋オチと睨んだのだが…。