『悪魔の手毬唄』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『悪魔の手毬唄』金田一耕助の事件簿④|二匹目のドジョウという勿れ

スポンサーリンク

『悪魔の手毬唄』

市川崑監督と石坂浩二の金田一耕助シリーズ第二弾。二番煎じとは言わせないだけの重厚感あり。

公開:1977 年  時間:143分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:            市川崑
原作:           横溝正史 
           『悪魔の手毬唄』
キャスト
金田一耕助:        石坂浩二
磯川警部:        若山富三郎
多々良放庵(庄屋):    中村伸郎
<青池家(亀の湯)>
青池リカ(女将):      岸惠子
青池歌名雄(息子):    北公次
青池里子(娘):     永島暎子
お幹(女中):      林美智子
<別所家(錠前屋)>
別所春江:       渡辺美佐子
別所辰蔵(兄):    常田富士男
別所千恵(娘):     仁科明子
日下部(マネージャ):  小林昭二
<由良家(枡屋)>
由良敦子:        草笛光子
由良五百子(母):    原ひさ子
由良敏郎(息子):    頭師孝雄
由良泰子(娘):     高橋洋子
<仁礼家(秤屋)>
仁礼嘉平(当主):   辰巳柳太郎
司咲枝(妹):     白石加代子
仁礼文子(咲枝の娘): 永野裕紀子
仁礼直太(長男):    大羽吾朗
仁礼流次(二男):     潮哲也
<その他>
立花警部:         加藤武
野津刑事:         辻萬長
中村駐在巡査:      岡本信人
権堂医師:        大滝秀治
村上五郎(青年団員):  大和田獏
井筒いと:        山岡久乃

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

©1977 TOHO CO.,LTD.

あらすじ

岡山と兵庫の県境にある山村・鬼首村。そこに同村出身の人気美人歌手・別所千恵(仁科明子)が帰省して以来、恐ろしい殺人事件が連続して発生する。

しかも一連の事件は、同村に古くから伝わる手毬唄の歌詞の通りに行なわれていることが判明していく。

村に来た私立探偵・金田一耕助(石坂浩二)は、どうやら事件の原因に仁礼家と由良家という村の旧家同士の確執があることを察知し、20年前にやはりこの村で起きた殺人事件の謎へとさかのぼっていく。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

市川崑監督の『犬神家の一族』の大ヒットを受け、東宝がシリーズ化を企画し、金田一耕助役の石坂浩二市川崑監督の再タッグで撮られたのが本作『悪魔の手毬唄』。過去には高倉健を金田一にして1961年に映画化されている。

当初、市川監督は前作とは異なるイメージを求めたようだが、結果的には撮影スケジュールの制約や前作のヒットにあやかった企画ということもあり、同じ路線の作風になっている。

ただ、それ自体は悪いことではなく、むしろ私は本作の雰囲気は好きである。ガキの頃に母親と二人で初めて映画館で観た大人向けの映画だったので、個人的には『犬神家の一族』よりも思い入れがある。

もっとも、なんでこんな愛憎の泥沼殺人劇を子供と観るかねと親に問いたいところではある。怖かった記憶はあるが、事件の発端となる複雑な血のつながりは、小学生にはイマイチ理解できなかった。

時代は昭和27年、金田一耕助(石坂浩二)と旧知の磯川警部(若山富三郎)が、彼を岡山県総社市鬼首村にある亀の湯に呼び寄せて、過去のとある事件の真相解明を依頼するところから物語は始まる。

20年前、亀の湯の女将・青池リカ(岸惠子)の夫・源治郎が、詐欺師の恩田幾三に殺された。

余所から流れてきて村人に輸出用のモール作りの内職を広め、工作機械を売りつける恩田を詐欺師と見抜き、直談判に行った源治郎が殺されたのだ。

©1977 TOHO CO.,LTD.

失踪した恩田はその後完全に行方不明で捜査は迷宮入り。ただ、被害者は顔を焼かれていたことから、磯川警部は、被害者と加害者は逆だったのではと疑い続けていた。

一方、村ではそんな古い事件とは関係なく、青年団が盛り上がりを見せていた。人気歌手になった別所千恵(仁科明子)が村に里帰りするのだ。だが彼女の凱旋を待っていたかのように、次々と猟奇的な殺人が起こり始める。

スポンサーリンク

『犬神家の一族』は、本家筋ではないヒロインの結婚相手の座をめぐる相続争いで、死んだ当主の孫にあたる青年たちが、家宝である三種の神器に因んだ凶器で次々と殺されていく物語だった。

本作では、男女逆転し、殺されていくのは若い娘たちである。そしてその殺され方は、村に古くから伝わる手毬唄に則っている。

ヴァン・ダインの著作でマザーグース殺人事件に触発された横溝正史が、子守歌より手毬唄の方が面白いのではないかと考え出したものだ。

悪魔の手毬唄 鬼首村手毬唄

原作では初めに全て歌詞を明かしてしまうが、映画では原ひさ子演じるご隠居の老婆が、事件が起きるたびに思い出したといっては、金田一に唄を聴かせてくれる(老女の手毬つきは特撮か)。

思い出してくれれば次の犯罪が防げるのにという、もどかしさがいい。

山奥にある人里離れた村を舞台に勢力争いがあり、金田一耕助が現れた途端に連続殺人事件が幕を開け、けして未然に阻止することはなく、ひととおり殺された後で真犯人を解明する。この辺のお約束は本作でも踏襲。

前作はほぼ犬神家の一族の話だったが、本作では栄枯盛衰の二大一族、仁礼家(秤屋)由良家(枡屋)、そして仁礼家のもとで葡萄酒工場を管理する別所家(錠前屋)が、それぞれ手毬唄では屋号で登場する。

「よーし、分かった!」と手を叩く立花警部(加藤剛)は、『犬神家の一族』橘警察署長と同じ口ぐせだが同一人物なのか。

その他、由良家の未亡人の草笛光子、20年前の事件の監察医を務めた町医者の大滝秀治、千恵のマネージャの小林昭二、カメオ出演でも印象的な三木のり平など、前作から連続出演の俳優も多いが、役柄が違うせいか、混乱はない。

それに、大滝秀治三木のり平常田富士男など、本作のコメディリリーフ的な役者は芸達者揃い。

『犬神家の一族』のあの個性的なオープニングクレジットの意匠は、本作にも多少影響を与えている。ただ、あそこまでの洗練はない。

また、音楽も作品に合うもので不満はないのだが、前作の映画のイメージを決定づけたテーマ曲に比べると、存在感は薄い。もっとも、本作の売りは手毬唄なのだから、それ以外の曲は目立ってはいけないのかもしれないが。

映画ならではの印象的なシーンは、金田一耕助が山道で腰の曲がった老婆とすれ違うところだ。おはんと名乗るこの老婆は、放蕩で身上をつぶした多々良放庵(中村伸郎)の別れた妻だが、何十年かぶりに村に戻ってきたようだ。

だが、金田一がその話を連れ込み旅館の女将(山岡久乃)にすると、さっと顔色を変え、昨年亡くなったという。この場面は怖い。

日本映画ミュージックファイル No.2 ー 「哀しみのバラード」(悪魔の手毬唄)

細かい点では割愛している部分も多々あるが、映画は終盤の展開までは、比較的原作の話の流れに沿って進んでいく。

ただ、それを140分の映画で見せようとするために、複雑に入り組んだ村の人々の人間関係や家族構成を正しく把握するのは結構困難。これはページを行ったり来たりして理解しながら読み進められる原作には及ばない点だ。

まあ、そこまで深く理解していなくても、最後の金田一の推理を聞けばほぼ支障なく楽しめるが。

©1977 TOHO CO.,LTD.

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

一羽の雀の言うことにゃ 女誰がよい 枡屋の娘 枡で量って 漏斗で飲んで

この唄に因んで、まず由良泰子(高橋洋子)が滝の下で漏斗を口にして死んでいる。猟奇的だが、『犬神家一族でお馴染みの水面から足を突きだす佐清スケキヨに比べると弱い。

二番目の雀の言うことにゃ 女誰がよい 秤屋の娘 大判小判を秤にかけて

次に、葡萄酒工場の樽の中で、仁礼文子(永野裕紀子)が死んでいる。青白い死に顔で樽に漬かっているのを気づかず、目の前を辰蔵(常田富士男)が横切るカットが怖い。このシーンは殺人現場のインパクトとしては本作随一。

©1977 TOHO CO.,LTD.

三番目の雀の言うことにゃ 女誰がよい 錠前屋の娘 錠前狂えば 鍵合わぬ

最後に錠前屋の別所千恵(仁科明子)を殺すはずが、身代わりとなった半身あざの娘・青池里子(永島暎子)を殺してしまう。里子は真犯人が母のリカだと知っていたのだ。

老婆おはんを装ったリカが真犯人だった。原作では、磯川警部の夢落ちで犯人がわかるという不思議な構成だったと記憶するが、映画はもう少し常識的な構成に変わっている。

©1977 TOHO CO.,LTD.

主演女優が犯人で、しかも逮捕されたら自害してしまう点は前作を踏襲するが、その犯行動機は大きく違う。

神戸に出向いていた金田一は、20年前に殺されたリカの夫・源治郎のたった1枚の写真を入手して戻ってくる(カツベンの三木のり平と無愛想な妻が最高!)。

その写真を確認する三人の女、別所春江(渡辺美佐子)由良敦子(草笛光子)、そして仁礼嘉平の妹で私生児の文子を産んで鳥取に嫁いだ咲枝(白石加代子)

三人が驚愕の表情を見せる。特に、片桐はいり似の咲枝の見せるぎょっとする表情は、トラウマ級。

©1977 TOHO CO.,LTD.

三人はこれを詐欺師の恩田だという。だがそれは青柳源治郎の写真。つまり、恩田と青柳は同一人物だったのだ。これが、映画オリジナルの、鏡に映った蜜柑を金田一が誤認するメタファの答えだ。

二人が同一人物ということは、殺された泰子(高橋洋子)も文子(永野裕紀子)も、生き延びた千恵(仁科明子)も身代わりになった里子(永島暎子)も、みんなこの色男が種付けした腹違いの姉妹ということだ。

そして、被害者と加害者が同一人物となれば、20年前の発見者のリカ(岸惠子)が夫殺しの真犯人ということになる。自分の娘の里子だけが半身痣で不憫であり、亡き夫があちこちの女に産ませた器量良しの娘たちに手をかけた。重たい愛憎悲劇だ。

改めて思うに、本作で最もつらいのはそのリカの息子、歌名雄(北公次)ではないか。

愛する泰子を殺した真犯人が母親であり、妹の里子も犠牲になる。言い寄られた文子や人気歌手の千恵とともに、婚約者の泰子も腹違いの妹であったことを思えば、彼は結局この中の誰とも結婚できなかったということになる。

本作は勿論金田一耕助の映画だが、磯川警部がひそかにこのリカを愛しているという設定が心憎く、若山富三郎岸惠子という二枚看板の起用もあって、定年間際の警部の片想いという前作にはない甘酸っぱさが隠し味になっている。

金田一との別れは今回も駅の場面だが、走り出す汽車の音で磯川警部には聞こえない「あなたはリカさんを愛していたのですね?」という金田一の問いかけ。

その答えが駅名表示の総社そうじゃというのは、市川崑監督も気づかなかった偶然らしい。