『海辺へ行く道』
横浜聡子監督が三好銀の傑作コミックを映画化、心地よくゆったりと流れる夏の時間
公開:2025年 時間:140分
製作国:日本
スタッフ
監督: 横浜聡子
原作: 三好銀
キャスト
南奏介: 原田琥之佑
南寿美子: 麻生久美子
高岡: 高良健吾
ヨーコ: 唐田えりか
谷川理沙子: 剛力彩芽
大林メグ: 菅原小春
梨本テルオ: 蒼井旬
梨本加奈: 新津ちせ
立花良一: 中須翔真
立花の母親: 河井青葉
平井ほのか: 山﨑七海
大岩先生: 宇野祥平
A氏: 諏訪敦彦
岡野ケン: 村上淳
五郎: 宮藤官九郎
静香: 坂井真紀
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
瀬戸内海の海辺の町でのんきに暮らす14歳の美術部員・奏介(原田琥之佑)。この町はアーティスト移住支援を掲げ、あやしげなアーティストたちが往来している。
奏介とその仲間たちは、演劇部に依頼された絵を描いたり、新聞部の取材を手伝ったりと、忙しい夏休みを送っていた。そんな中、奏介たちにちょっと不思議な依頼が飛び込んでくる。
レビュー(ネタバレあり)
アーティストの集う海辺の町
三好銀による原作コミックは未読なのだが、そのテイストが生かされているのか、映画全体から滲み出るゆるさがとても心地よい。ロケ地は小豆島ということだが、海辺の町に緩やかな時間が流れるひと夏を、うまく掬い取っている。
横浜聡子って、こういう映画を撮る監督だったっけ。『いとみち』の時とは、だいぶ違う<みち>を選んでいる気がする。
アーティストの移住支援や誘致に力を入れている海辺の町に暮らす、中学生の美術部員・奏介(原田琥之佑)が主人公。一緒に暮らすのは、母ではなく親戚らしい寿美子(麻生久美子)。いじめや非行とも受験勉強とも縁遠い、楽しく部活を満喫する中学生たちの毎日。
不動産屋の理沙子(剛力彩芽)が紹介した物件に滞在すると決めた包丁売りの高岡(高良健吾)と、その恋人のヨーコ(唐田えりか)。イケメン高岡の巧みな口上で、町の奥さん勢はみな包丁を買い込むが、これがとんだ劣悪品。

一方、長いツバのキャップを被ったマスク姿のヨーコは、夏祭りで開催される、音をたてたり笑ったら退場の<静か踊り>に参加する。
ゆるいネタが満載の世界観は、つげ義春の作品から陰気さを取り除いたようでもあり、三木聡監督作品にも相通ずる感じがした。
キャスティングについて
オーディションで選ばれた主演の原田琥之佑は、『ルート29』(森井勇佑監督)で高良健吾と森で隠遁生活していた少年か。純真無垢な中学生ぶりがいい。
念力が使える美術部後輩の良一(中須翔真)、正義感溢れる女子新聞部員のほのか(山﨑七海)、美術部先輩でデスマスク造りに夢中になるテルオ(蒼井旬)、その生意気な妹・加奈(新津ちせ)など、みんなスレてなくて可愛らしい。

大人たちのキャスティングは意外なものも多く、こちらも楽しめる。移住してきた余所者枠では、前述の高良健吾・唐田えりかのほか、流れてきたアーティストの岡野に村上淳。
◇
一方、長年この町に暮らす大人たちには、奏介の母に横浜監督作品常連の麻生久美子、良一の母に河井青葉、美術商のA氏役には諏訪敦彦。
不動産屋の理沙子(剛力彩芽)の旧友で奏介の叔母にあたる取り立て屋のメグ(菅原小春)という、ちょっと東京者の匂いのする悪人キャラも、その中に混じり込む。

また、本編とは特に関係がないが、全体の雰囲気づくりには欠かせないエピソードである、海辺でランチ販売する女(坂井真紀)と、いつも海の中からウェットスーツ姿で現れる常連客(宮藤官九郎)も、存在感は抜群。
緩いのがいいんだよ
原作の中から様々なエピソードを集めて、ある程度ストーリーが流れるように再構築したのか、オリジナルのネタで膨らましたのかは分からない。
- 孤独な老婆を喜ばせようと、亡くなった夫のデスマスクを作って夢枕に立ってみたり、
- 浮世絵からイメージした人魚の像をこしらえたら美術商も驚く出来ばえになったり、
- 認知症を改善させるというカリスマ・ケアマネージャーが、大人の策略で突如解雇に追いやられたり。
どのエピソードも密接に繋がってはいないのだけれど、これといった起承転結のゴールがない緩やかさに、何だかガキの頃の夏休みの原風景や解放感を思い出させてくれる。

横浜聡子の作品は青森県のイメージが強かったのだが、温暖な瀬戸内の映画だって、行けちゃうんだな。
