1『TAKESHIS’』(2005)
2『監督・ばんざい!』(2007)
『TAKESHIS’』
公開:2005 年 時間:107分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 北野武 キャスト 北野武: ビートたけし たけしの女: 京野ことみ 雀荘の女: 岸本加世子 マネージャー: 大杉漣 たけしの同期芸人: 寺島進 美輪明宏: 本人 彫り物師: 六平直政 監督: 津田寛治 AD: 芦川誠 衣装係: 渡辺哲 若頭: 石橋保 巨漢芸人:松村邦洋、内山信二 女形: 早乙女太一
勝手に評点:
(悪くはないけど)

あらすじ
テレビや映画で活躍するセレブ、ビートたけし。彼にそっくりな北野武はうれない役者で、オーディションを受けても落ちてばかりで、コンビニの店員をしていた。が、そんな北野がビートたけしと出会ったことから、たけしが演じる映画の世界へと迷い込んでいく。
今更レビュー(ネタバレあり)
タケシの複数形
『たけし』が『武』に出会う。そもそもの発想はフラクタル、即ち「自己相似性」という特殊な性質を有する幾何学的構造。
わかりやすくいえば、『マトリックス』のエージェント・スミス、或いは『マルコヴィッチの穴』なんかもそうか。まったく同じ顔を持つ無数の存在が湧いて出てくるイメージ。
タイトルの『TAKESHIS’』も、監督自身は「『たけし、死す』かと思った」ととぼけて見せるが、自身が複数存在することを意味している。
◇
本作から『監督・ばんざい!』、そして『アキレスと亀』と、北野武監督は、芸術家としての自己を投影した三部作を連続して手掛ける。
どれもなかなかの迷作であり、この三本から監督キャリアがスタートしていたとすれば、今の名声はなかったと思う。
だが、創作意欲の赴くままに作品を撮ってきている以上、他の芸術家監督と同じように、北野監督の作品にもあたりはずれがあることは当然だろう。
これらの迷作があるがゆえに、光り輝く作品もあるのだと思えば、本作のような作品との出会いもまた一興ではある。
夢のまた夢
米兵に囲まれる冒頭から、次には見慣れたヤクザの抗争シーン。
派手に銃を撃ちまくり次々に敵味方が死んでいくバイオレンスシーンは、さすがに節操がないとやや鼻白むが、これがギャング映画のワンシーンであると知り、なかなかひねりがあると感心する。
つまりそのシーンは、北野武が自ら監督し主演をしている作品のワンカットという設定なのだ。そして、雀荘で楽しそうに賭け麻雀をしているビートたけしが本作の主人公。
◇
そう思っていると、彼にそっくりな陰気なピエロの北野が登場する。役者を目指してコンビニでバイトしてオーディションに応募しているこの男こそ、本作の主人公なのである。
きちんとした脚本があるのなら、この売れない役者が監督の影武者になって、予想外に大活躍みたいな展開になりそうだが、本作は全く違う。
この北野が、架空の世界で自分が売れっ子の監督ビートたけしになる夢を見始め、やがて世界が混沌としていくのだ。
混然一体の世界
ラーメン屋の頑固おやじの役を獲ろうとオーディションに参加する話や、雀荘で席が空くのを待って参加する話が混然一体になっていく。
マネージャー(大杉漣)や愛人(京野ことみ)、雀荘のおばちゃん(岸本加世子)、たけしの同期芸人(寺島進)、映画監督(津田寛治)、AD(芦川誠)、衣装係(渡辺哲)、若頭(石橋保)。
周囲の登場人物も複数の役割を演じる。そのため、内容は次第に理解不能になっていく。まあ、そもそも夢オチなのだから、支離滅裂なのは当然か。
◇
デブの二人組(松村邦洋、内山信二)が相撲取りのように動くのは『ソナチネ』、砂浜に並んで座るたけしと女は『HANA-BI』、タップダンスは『座頭市』、タクシーの運ちゃんは『菊次郎の夏』、安っぽい銀行襲撃は『みんな〜やってるか!』。
随所で北野武の過去作にセルフオマージュが捧げられているようだが、どのくらい意味があったのか疑問。
もっと突き抜けてよいのに
現実と夢の世界が交錯していく不思議世界は、映画的な発想としては面白いし、フェリーニの『アマルコルド』やゴダールの『気狂いピエロ』をはじめ、かっちりした物語は無視して映像的な面白さに観客を引き込んでいく手法もありだと思う。
無名監督ならいざ知らず、世界のキタノがそういう作品を撮るのであれば、傑作になる可能性だって十分にあったはずだ。だが、悲しいかな、そこまで観客を魅了するだけの映像的な面白さは、本作にはない。
◇
悪ふざけするなら、もっとバカに徹してほしかった。例えば、ラーメン屋に入ると厨房に渡辺哲と石橋保がいる怪談のような展開とか、モデルガンの引き金引いたら寺島進が死んでしまうシーンとかは面白かった。もう一歩踏み込んでほしいくらい。
芋虫のかぶり物でタップダンスとか、ちょっと生ぬるいのがもどかしい。『脳天パラダイス』(2020、山本政志監督)や『ビリーバーズ』(2022、城定秀夫監督)にみられる、あの突き抜けたおバカさ加減が欲しいのに。
ゾマホンを黒い蒸気機関車に見立ててみたり、裸の女性の胸をターンテーブルのようにDJが揉みしだいてスクラッチをかけたりと、ちょっと人種や女性を蔑視するようなギャグがあるのも気になる。
世間の空気が敏感になっているせいかもしれないが、昭和ならともかく、2005年の映画にしてはやや鈍感だ。きわどいネタなのに笑いにつながっていないのもイタい。
ナポリタンやラーメンが、まったく美味しそうにみえないのは、その必要がないからだろうが、これも寂しい。『ショムニ』の京野ことみが本作で脱がされているけど、あまりに芸術的な必然性がない。まあ、それは言わぬが仏か。