『監督・ばんざい!』
公開:2007 年 時間:104分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 北野武 キャスト キタノ・タケシ: ビートたけし 『ヤクザ映画』 若い衆: 寺島進 久松:菅田俊 若頭:石橋保 『定年』 妻: 松坂慶子 娘: 木村佳乃 マダム:入江若葉 『恋愛映画』 ヒロイン: 内田有紀 『コールタールの力道山』 マサオ: 髙道峻 母: 藤田弓子 『蒼い鴉 忍 PART2』 家老: 谷本一 家臣: 新納敏正 『能楽堂』 能面男: 渡辺哲 家主:田野良樹 『約束の日』 東大泉大善: 江守徹 高円寺久美子:岸本加世子 喜美子: 鈴木杏 女中:吉行和子 天文学者・山本:大杉漣 井出博士:井手らっきょ 空手道場の師範代:六平直政 太鼓係:つまみ枝豆 ラーメン店員:蝶野正洋、天山広吉
勝手に評点:
(私は薦めない)
あらすじ
映画監督キタノ(ビートたけし)は悩んでいた。最も得意なギャング映画を「二度と撮らない」と宣言してしまったからだ。
とはいえ、とにかくヒット作を世に送り出そうと、様々なタイプの映画に挑戦するが、どれもハプニングで中断してしまう。
追いつめられた監督は、「これだ!」とばかりに閃いた1本の映画にとりかかることにしたが、その時、地球には人類史上かつてない大異変が起きようとしていた。
今更レビュー(ネタバレあり)
はじめは良かったのだけれど
躊躇いなく低評価をつける作品は本サイトでは珍しいが、本作は文句なしにダメだった。厳しかった前作『TAKESHIS’』より更に合わなかった。北野武監督自ら、低迷期に撮った作品というだけのことはある。
◇
世間的にイメージが固定してきたバイオレンス映画から脱却を図ろうとするねらいは伝わるし、前作同様に自ら映画監督役で、もうギャング映画は撮らないと宣言して、壁にぶち当たる序盤の流れは楽しめた。
等身大のたけし人形がMRI検査を受けているナンセンスな逆は微妙だが、「今度は本人に来るように言ってください」と医師に呆れられる台詞はちょっと笑えた。
そしてギャング映画を離れて、まずは小津安二郎タッチの『定年』というそれらしい作品を撮り、それが失敗し次のジャンルに挑み、という繰り返しの映画である。
それが分かるまでは伊武雅刀のナレーションも面白く、期待する部分もあったのだが、パターンが読めてしまうと、もう飽きてしまう。『恋愛映画』で内田有紀が出始める頃から食傷気味になってきた。
あとはひたすら、フジテレビ全盛期のバラエティ番組のノリでコントが展開される。くだらないコントはビートたけしの持ち味であり、テレビなら楽しめるが、映画でやられると違和感が強い。
コントのネタも、ベタというのも憚られるレベル。『マトリックス』の銃弾をのけぞってよけるパロディなどは、発想も映像も素人学生の自主映画かとおもったほどだ。
勿論、北野武のことだから、そんなことはすべて分かりきったうえで、観客の読みをはずす作品を撮っているのだろうが、このくだらなさには唖然とした。
たけし軍団や岸本加世子をはじめ、北野作品の常連メンバーが出演する分にはよいが、江守徹にあの演技は痛かったし、初参加の鈴木杏に至っては、気の毒に思えてしまう。
スベリまくりの痛々しさ
この作品、もしも劇場で観ていたら、私は途中で座席を蹴って退室していたかもしれない(座席を蹴るのはマナー違反なので、それは控えるとして)。
たけし人形とビートたけし本人が何度も入れ替わる演出のねらいもよく分からない。ただでさえ滑っているコントに、本人の代わりに人形が出ているのだから、シラケた気分が増幅する。これならば、『TAKESHIS’』の一人二役の方がはるかにマシだった。
さらに後半になっていくと、コラージュのような画像処理で遊び始めて、ひと昔前のバラエティ番組の雰囲気になる(『電波少年』系の)。下ネタも増え始め、しまいにはカオス状態になっていく。
◇
作品によっては、その混沌とした世界がアドレナリンを放出させ、ハイになっていく場合もあることは認めるが、本作では残念ながらそういう効果は得られなかった。『たけしくん、ハイ!』にはならずじまいだったということだ。
本作はフェリーニ監督の『8 1/2』の影響を受けていると北野監督は語っているようだが、影響のされ方は千差万別なのだなと思った。
◇
ナンセンスなコメディ路線としてはビートたけし監督名義の迷作『みんな〜やってるか!』を彷彿とさせる。同作を観た時には、やはり拒絶反応が先立ったが、売れっ子監督の苦悩などという自意識の高さがない分、あっちの方が素直に笑えた気がする。
『アウトレイジ』でバイオレンスに戻るまでには、紆余曲折があったのだなあ。