『ヒミズ』今更レビュー|何だってわかる、自分のこと以外なら

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『ヒミズ』 

園子温監督がこれまでのエログロから路線変更し、古谷実の原作コミックに東日本大震災の要素を取り込んだ意欲作。

公開:2012 年  時間:130分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:   園子温
原作:      古谷実 『ヒミズ』

キャスト
住田祐一:    染谷将太
茶沢景子:    二階堂ふみ
夜野正造:    渡辺哲
まーくん:    諏訪太朗
藤本健吉:    河屋秀俊
田村圭太:    吹越満
田村圭子:    神楽坂恵
住田の父:    光石研
住田の母:    渡辺真起子
金子:      でんでん
谷村:      村上淳
テル彦:     窪塚洋介
茶沢の母:    黒沢あすか
茶沢の父:    堀部圭亮

勝手に評点:3.0
      (一見の価値はあり)

(C)「ヒミズ」フィルムパートナーズ

あらすじ

崩壊家庭の15歳の少年・住田祐一(染谷将太)の夢は、誰にも迷惑をかけない平凡な大人になること。

そんな祐一にクラスメートの茶沢景子(二階堂ふみ)は好意を抱き、祐一の母親が営む貸しボート屋を手伝うなど、積極的に祐一に接近する。それを少々疎ましく思いながらも、祐一は少しずつ世間に心を開いていく。

しかし、借金を作って蒸発していた父親(光石研)が帰ってきたことで祐一の運命は変わる。しかも母親(渡辺真起子)が中年男性と駆け落ちしたことから、祐一はすべてに絶望する。

今更レビュー(ネタバレあり)

東日本大震災の爪痕

園子温監督が古谷実の同名コミックを実写映画化した作品。

古谷実といえば『行け!稲中卓球部』で知られるギャグ漫画の描き手であったが、本原作では笑いを排除したヘビーな作品で新たな一面を見せている。古谷実はやがて『ヒメアノ〜ル』というサイコスリラーを生み出し、それは𠮷田恵輔監督によって実写映画化される。

本作を監督するまでの園子温監督のフィルモグラフィ―をみれば、『自殺サークル』『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』など、エロス・バイオレンス・死の三大要素がテンコ盛りの作品主体であり、『ヒミズ』よりも『ヒメアノ〜ル』の実写映画化の方がよほど似合う監督であった。

だが、彼はこの作品のメガホンをとることとなり、そして撮影準備期間中に東日本大震災が発生する

原作には震災の要素などないが、園子温はこの未曾有の大災害を脚本に取り込もうと思い立つ。被災地の見渡す限り瓦礫の山と化した情景を目の当たりにし、これをフィルムに焼きつけて、人々に何かを訴えなければいけない思いに駆られたのかもしれない。

(C)「ヒミズ」フィルムパートナーズ

実際、本作は多少のバイオレンスはあるものの、これまで園子温監督が撮ってきた作品とは明らかに異なるシリアスさがあり、また、苦しさや痛みの先にある希望を感じさせる。

安易に被災地を背景にした話題作りだけの映画ではない。彼の震災に向き合う強い思いは、本作に留まらず『希望の国』『ひそひそ星』へと続いていくことからも伝わってくる。

クズの両親の間にうまれて

ヒミズとは<日不見>と書き、モグラのことだ。「俺はヒミズになりたい」という、主人公の中学生・住田少年(染谷将太)「復興に向けて頑張ろう、大きな夢を持て」という担任教師に反発する。

母親の営む貸しボート屋を引き継いで、高校にも進学せずにここでモグラのようにひっそり暮らし、立派な大人になろうとしている住田。だがそれはけして親孝行というのではない。

(C)「ヒミズ」フィルムパートナーズ

住田の父(光石研)は、家族を置いて家を出ては、しばしば金をせびりにボート小屋に戻り、反抗的な態度の住田を殴りつけては、「お前が昔、川で溺れた時に死なせばよかった」と同じことを繰り返し言う。

住田の母(渡辺真起子)もネグレクトの末に男を作って出ていってしまう。クズの両親の間に生まれ、捨てられても、自分の未来を信じて生きる住田。

そんな住田クンにストーカーのようにまとわりついて、邪見にされながらも彼を慕い続ける、明るく元気な同級生の茶沢さん(二階堂ふみ)。そしてなぜかいつも陽気に振舞う、住田の貸しボート屋の敷地内に住み着いている被災で家をなくしたホームレスの面々(渡辺哲、諏訪太朗、河屋秀俊、吹越満、神楽坂恵)

この町に暮らす人々は、被災で家族を失うなど、それぞれ心に深い傷を負いながらも、気丈に明るく暮らしている。だが、そんな中で、住田の父親が金子(でんでん)の経営する金融に借りた600万円の借金を巡って、ドラマが動き出す。

『ヒミズ』予告編

キャスティングについて

主演の二人、染谷将太には『パンドラの匣』(冨永昌敬監督)、二階堂ふみには『神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(入江悠監督)とそれぞれこれまでに主演作はあるものの、ベネチア国際映画祭の最優秀新人賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)を本作でともに受賞したことで、一気に俳優としての知名度を上げた。

純粋でナイーヴな中学生を演じながらも、時に狂気や暴力性を感じさせる二人の存在感。真剣にビンタし合っているという迫真の演技(本当に叩いているのだから演技ではないのか)。

二人はそれぞれ本作以降の園子温作品にも起用。二階堂ふみ『地獄でなぜ悪い』でも茶沢さんのハイテンションに通じる演技を披露。一方の染谷将太『映画 みんな!エスパーだよ!』で本作とは打って変わったヘタレでエロ好きな若者を演じている。

(C)「ヒミズ」フィルムパートナーズ

その他、本作の共演者はいずれも園子温の出演者だらけ。

『冷たい熱帯魚』からはでんでん、渡辺哲、吹越満、諏訪太朗、神楽坂恵、黒沢あすか

『紀子の食卓』からは光石研、ワンカットだけの吉高由里子、いつも狂った男役の手塚とおる

『愛のむきだし』からは渡辺真紀子、堀部圭亮、宮台真司、路上ミュージシャンの西島隆弘

園子温作品初お目見えのメンバーも、村上淳『希望の国』窪塚洋介『TOKYO TRIBE』河屋秀俊『恋の罪』など、本作以降に監督作品に出演している。

(C)「ヒミズ」フィルムパートナーズ

街中で抱き着きスリを繰り返す窪塚洋介『愛のむきだし』で路上パンチラ盗撮を繰り返す西島隆弘のようにみえる。住田の両親、虐待する夫・光石研と妻の渡辺真起子の組み合わせは、『“隠れビッチ”やってました。』(三木康一郎監督)だ。

金貸しの金子役のでんでんは、『冷たい熱帯魚』が植え付けた強烈なイメージのおかげで、本作でも得体の知れないキャラとして成功している。

暴力的なこの男に父の代わりに借金を取り立てられる住田を見て、ホームレスの渡辺哲「あいつには未来があるんです!」と返済資金を用立ててやるところがいい。もっとも、その原資は盗んだカネで、しかも結果的に人殺しをしてしまっているのだが。

(C)「ヒミズ」フィルムパートナーズ

何だってわかる 自分のこと以外なら

何度も住田の前に現れては罵声を浴びせ暴力をふるう父親に堪りかね、ついに彼は父親をブロックで殴り倒し湖に沈めてしまう。

牛乳の中にいる蠅 
その白と黒はよくわかる 
どんな人かは 

着ているものでわかる 
天気が良いか悪いかもわかる 
何だってわかる 

自分のこと以外なら

フランソワ・ヴィヨン『軽口のバラード』より抜粋

そう、自分のことは分からない。平凡な生活を望んでいたはずの少年は、衝動的に父を殺害してしまう。そして、自殺するならその前に世間の悪を一人でも殺してからと、毎晩世直しのために悪を求めて出歩いていく。

そんな住田の犯した罪と深い悲しみを知った茶沢さんの、彼を思う気持ちが痛いほど伝わってくる。

(C)「ヒミズ」フィルムパートナーズ

これで世直ししろ」と出刃包丁のかわりに拳銃をくれる金子。銃声とともに住田が消えた湖に向かって、ポケットいっぱいに溜まった呪いの石を投げつける茶沢さん。

だが、住田は死んではいなかった。一緒に警察に行こう。その先にはまだ、モグラのようにひっそりと、平凡な未来を送れるチャンスが残されているかもしれない。

「住田、頑張れ。夢を持て。みんなたった一つの花だ」

泣きながら土手を走る二人と、インサートされる被災した瓦礫の町が見事に調和する。エロくもなく、バイオレンスもない園子温。どこか間が抜けた台詞だというのに、泣ける、刺さる。