『ビリーバーズ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ビリーバーズ』考察とネタバレ|信じるものは足元をすくわれる

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『ビリーバーズ』

新興宗教にすがり孤島に暮らす男女の物語。さんざん焦らしてのエロ集中投下は、山本直樹原作×城定秀夫監督の独壇場。これでR15って成年年齢引下げの恩恵か。

公開:2022 年  時間:118分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:    城定秀夫
原作:       山本直樹
『ビリーバーズ』
キャスト
オペレーター:   磯村勇斗
副議長:      北村優衣
議長:       宇野祥平
第三本部長:    毎熊克哉
先生:       山本直樹
先生の付き人:   山本宗介
長官:       守屋文雄
オペレーターの母:  佐倉萌

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

あらすじ

とある無人島で暮らす二人の男と一人の女。宗教的な団体・ニコニコ人生センターに所属する彼らは、互いをオペレーター(磯村勇斗)、副議長(北村優衣)、議長(宇野祥平)と呼び合い共同生活を送っている。

瞑想、見た夢の報告、テレパシーの実験など、メールで送られてくる様々な指令を実行しながら、時折届くわずかな食料でギリギリの生活を保つ日々。

それは俗世の汚れを浄化し、安住の地を目指すための修行とされていた。そんな彼らの日常はほんの些細な問題から綻びを見せはじめ、互いの本能と欲望が暴き出されていく。

レビュー(まずはネタバレなし)

孤島で暮らす三人の男女

城定秀夫監督が自身のエロス表現の根源とまで言っている山本直樹の原作コミック。Vシネ作品としてはR18で既に三本、城定秀夫監督×山本直樹原作で映像化しているが、今回は初の映画化ということになる。

ちなみに私は原作未読。いきなり個人所有の島で生活する、揃いの(^_^) 顔文字Tシャツの三人の男女の無人島生活に戸惑う。

オペレーター(磯村勇斗)、副議長(北村優衣)、そしてその先輩格の議長(宇野祥平)という不思議な組み合わせ。

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

本部とはメールのやり取りができるようだが、あとは限られた食糧で食いつなぎ、毎日、昨夜みた夢を報告しあうという不毛な作業を繰り返している。

どうやら彼らは新興宗教団体<ニコニコ人生センター>の信者であり、この島で「孤島のプログラム」を実践中のようだ。

なるほど、そうと分かれば、三人の生活は理解しやすい。 プログラムの責任者である議長の厳しい指導に、盲目的に従う敬虔な信者の二人。だからこそ、このタイトルか。

俗世間で厳しいいじめやDVに遭い、この団体に逃げてきた者たち。定期的に夜間に教団が船便で運んでくる食糧だけで、ストイックに島で暮らし、夢の内容を報告しては、魂が汚れていないか確認しあう日々

分かりやすいが、率直にいえば、陳腐にも思える。原作連載当時は、オウム真理教による一大テロ騒動が風化しておらず、斬新な内容だったかもしれないが、この手の新興宗教ものはその後量産された。

『カナリア』(2004、塩田明彦監督)、『愛のむきだし』(2009、園子温監督)、『星の子』(2020、大森立嗣監督)等々。

今の若い世代には新鮮なのかもしれないが、当時の騒ぎを知る者には新鮮味がないなあ、などと思い始めた頃にようやく城定秀夫監督らしい演出の冴えが顔を見せ始める。

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

ここまで焦らしてのエロティシズム

ここまで焦らしたのは確信犯的だが、まんまと術中にはまった感がある。 それは何かというと、ずばりエロなのだ

前半はおとなしい信者たちの修行生活ばかりで、三人とも敬語さん付けの会話で礼儀正しく、海で魚を獲るシーンの副議長の濡れたTシャツ姿にどっきりするほどなのだが、徐々に乱れてくる。

きっかけは、クルーザーで島に迷い込んできた酔っ払いの若者たち。突然の闖入者である彼らは、弱そうな議長たち三人組に私有地だから出て行くように言われ、「何だこいつら、ニコニコの連中か。フリーセックスかよ」と襲い掛かる。

背後から胸を鷲づかみにされた副議長は、不覚にも、感じてしまう。結局この暴漢たちは退治されるが、その日を境に、オペレーターさんと副議長は、禁断の性に目覚め、後戻りできなくなっていく。

「私、そんなに臭いでしょうか」と聞かれて、くんくんと北村優衣の匂いを嗅ぐ磯村勇斗が、『シン・ウルトラマン』長澤まさみ斎藤工を思わせる。

「私、脱いじゃいました」と全裸で海に飛び込む副議長。敬語と裸のギャップ萌え。砂浜に裸で横たわり抱き合う二人。砂で痛そうだけど、どこか懐かしい。『八月の濡れた砂』かよ。

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

このR15、いや下手すればR18かという急転直下のエロ化だけでもさすがの城定演出なのだが、更に凄いのは二人の情事に気づく議長(宇野祥平)

嫉妬にかられて何をするかと思えば、彼女に向かって、「自分はあなたの淫夢をみた不浄の身だから、私のをしゃぶって噛みちぎって殺してくれ」と言い出す。

なんという無茶な理論。そしてそれに従う副議長。AVっぽく見せない絶妙なカメラアングルは職人芸の域

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

孤島の三人のキャスティング

本作の出演者はほぼこの三人だけなのだが、二人の男が女をとりあうという、ありがちな関係とも違い、なかなか面白いバランスだ。

まずはオペレーター役の磯村勇斗『今日から俺は!!』では数少ないボケのないマジのワル、『ヤクザと家族 The Family』の繊細な若者、そして『きのう何食べた?』ジルベールと何でもござれの活躍ぶり。

だが、意外なことに本作が映画初主演。ひげ面と(^_^)のTシャツと敬語という難しさをものともせず、濡れ場も堂々とこなし爽やかな青年を演じきった。

その後も映画にドラマに快進撃は続くが、ついに本作に続く磯村勇斗主演映画『若き見知らぬ者たち』が2024年10月公開決定!

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

副議長役には北村優衣。本作は途中から大胆なヌードも見せるが、全編通して彼女の明るく清らかな笑顔の魅力が伝わってきて、今回の掘り出し物。

本作にエロい割りにはピンク映画にはない健康的な空気が漂うのは、間違いなく彼女の賜物。デビッド伊東と25歳違いの恋人を演じた映画初主演の『かくも長き道のり』(2021)も観てみたくなった。

そして議長役には出演作品多数のカメレオン俳優・宇野祥平。そういや、このひと『星の子』でも新興宗教の集会に参加してたじゃないか。

本作において、議長のポジションはいちばん配役が難しいように思う。この役をオーバーアクションでやられると、ただのコメディになってしまう。

その点、宇野祥平の演技は、ホントにクソ真面目に信仰に従う男にみえるし、そこがほんのり面白くもみえる微妙なラインを保っている。

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

先生と大勢のビリーバーズ登場

さて、「私のをしゃぶって噛みちぎってくれるまで、毎日続けましょう」と、副議長さん相手にすっかり変態度が増していく議長。

一体この奇妙な三角関係はどうなるのかと思っていると、淫行の罪で首から下を地中に埋められたオペレーターは、次第に弱って死んだも同然になる。『戦メリ』デヴィッド・ボウイだ。

だが、ようやく副議長が行動を起こす。議長の不適切行為を本部に報告し、彼を失脚させたうえで、ついにイチモツを噛みちぎるのだ。

こうして、孤島で二人きりになったオペレーターと副議長はやっと結ばれる。めでたしめでたし。

そう思っていると、本部から教祖様(原作者の山本直樹!)はじめ大勢の信者が突如島に上陸してくる。三人の静かな生活に見慣れた観客の目には、この集団の到来は穏やかではない。

更に、副議長を教団に勧誘し、深い仲になっていた第三本部長(毎熊克哉)までが、人目を避けて彼女の前に現れる。

第三本部長は組織を追われる身となっていたが、この<ニコニコ人生センター>も公安に目を付けられ、信者は激減し、教祖はこの島で集団自殺を企んでいるという。

信者は社会復帰できるか

第三本部長は、彼女を救い出し一緒に脱出しようとするが、そこをオペレーターにみつかってしまう。

これまで単調な日々の繰り返しと愛欲への目覚めを描いていた物語が、ここにきて突如サスペンスアクションの雰囲気を帯びてくる。

それにしても、ここで毎熊克哉とは。しかもメガネでまじめそうな風貌なのが憎いじゃないか。城定監督とは『猫は逃げた』『愛なのに』で絡んだばかり。

(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

カルト教団を描いている以上、最後にはその首謀者は制裁を受ける展開であってほしい。原作者でありながら、山本直樹演じる先生は、大勢の信者を救うためにオペレーターが放った銃弾に倒れる。

その後、殺人罪で収監されたオペレーターだが、噛みちぎられても死ななかった議長さんが国外でテロを起こし、彼を釈放させる。

そして、オペレーターは、副議長と二人仲良く再会し、ボートを漕いでいる。つらい人生から教団に逃げ込んだビリーバーたちは、その安住の地を失ったあと、どうやって更生していくのだろう

大きな川の対岸にみえるビル街にむけて、副議長を乗せたボートを漕ぐオペレーター。それは現実社会のメタファーか。

「どこまで行くの?」
「向こう岸までさ」

二人は、安住の地にたどり着けるだろうか。