『地獄の警備員』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『地獄の警備員』今更レビュー|誰にも邪魔されず地下室で孤高の行為

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『地獄の警備員』

知りたいか、それを知るには勇気がいるぞ。

公開:1992年  時間:97分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:      黒沢清
脚本:        富岡邦彦

キャスト
成島秋子:     久野真紀子
             (現:クノ真季子)
富士丸:        松重豊
兵藤哲朗:     長谷川初範
久留米浩一:      大杉漣
吉岡実:       諏訪太朗
野々村敬:      緒形幹太
高田花枝:      由良宣子
間宮:        田辺博之
白井:        内藤剛志
電気工事の作業員:  大寶智子
タクシー運転手:   下元史朗

勝手に評点:2.5
       (悪くはないけど)

© 株式会社ディ・モールト ベネ

ポイント

  • 黒沢清監督の初期の異色ホラーは、松重豊の不気味キャラ一択で魅せる。まあ、今ではすっかり愛されキャラになってしまった松重豊なので、ポスタービジュアルほど映画の中身は怖くないのだけれど。低予算ながら演出とロケ地選びでここまで不穏な雰囲気を作り上げた手腕はさすが。

あらすじ

総合商社である曙商事に入社した元学芸員の成島(久野真紀子)は、新しく設けられた絵画を扱う部課に配属。同じころ、同社では元力士の富士丸(松重豊)が警備員として雇われてくる。

富士丸は力士時代、兄弟子とその愛人を惨殺したが精神鑑定の結果、無罪になっていた。彼は秋子に特別の感情を抱いたようで、ストーカーのようになり、彼女を悩ませる。

そしてある晩、富士丸は曙商事が入ったビルで、そこに閉じ込めた社員たちに襲い掛かる。

今更レビュー(ネタバレあり)

バブルの時代の古いオフィスビル

黒沢清監督が1992年に手がけた異色のバイオレンスホラー。今や名バイプレイヤーとしても大人気の松重豊映画初出演作として知られる。

映画製作会社ディレクターズ・カンパニーの末期の作品だが、会社が休眠したため、ネガー式が東京現像所で借金の抵当として塩漬けにされていたとか。

2020年9月末にネガ一式が返却されたことでデジタルリマスター版が公開されている。数奇な運命が本作に似合う。

いかにも黒沢監督らしい、独特の空気のホラーだ。

冒頭は、主人公のOL成島秋子(久野真紀子)がタクシーで会社に向かう場面。品の悪い運転手(下元史朗)との会話から、すでに不穏な雰囲気が漂うが、彼女が向かう先は転職先の総合商社・曙商事

その十二課という新組織に採用され初出勤する成島は、元学芸員のキャリアを生かし、絵画の買い付け業務を担う予定なのである。

© 株式会社ディ・モールト ベネ

時代は1992年。曙商事は景気がよくてタクシーのチップもはずむらしいし、絵画の買い付けに数十億の金が動いているし、成島女史や同僚女性の着ている服装もカネがかかっていそうで、まだバブルの残滓を感じさせる。

会社の屋上からみえる巨大看板は、東京は市ヶ谷に昔からある雪印のネオン看板だろうか。

それにしても、儲かっている総合商社のわりにオフィスビルがしょぼいのが面白い。

まあ、そうしないと、あの怪しい雰囲気の警備員室とか、謎の地下室とか、黒沢映画おなじみのどこでみつけたのかと感心するような撮影場所が活用できなくなってしまうので、このオフィスビルの古さは大正解。

ディレカン作品だから低予算・少人数スタッフなのだろうけれど、その制約を逆手にとって、知恵と工夫で狭い映像空間の中での怖さをにじみ出す。

地獄のグルメ

さて、本作はタイトル通り、地獄から登場したような恐ろしい警備員の物語。この警備員を演じているのが、ろくに台詞も発さず、無表情でひたすら痩躯に高身長が目立つ松重豊

本作ではその体躯・風貌が買われたのであろうが、この不気味キャラ路線は、『孤独のグルメ』井之頭五郎という柔和キャラの当たり役を得た今でも、引き続き各種ドラマ・映画で演じられている。

© 株式会社ディ・モールト ベネ

本作ではこの血に飢えた警備員が、ビルにやってくる獲物を次々に始末していく。この男の正体が元力士の富士丸で、かつて兄弟子とその愛人を惨殺したが精神鑑定の結果、無罪放免されているらしい。

いくら大男でも、松重豊は元力士にはみえない気はするが、本人は中学時代に力士になりたかったという相撲ファンらしいので、案外説得力のある設定なのかもしれない。

新入りの警備員・富士丸に仕事を教える先輩の間宮(田辺博之)は人の良さそうな初老の警備員だが、彼に貸した金を催促する同僚の白井(内藤剛志)がまず餌食になる。

次に成島の所属する十二課の久留米課長(大杉漣)。仕事はできないが小言は多い。成島を個室に呼び出し、「私のインシュリン注射を見ていてほしい」とズボンを下ろすのが最高。大杉漣はこういう変態上司役もうまいのだ。

こうして憎まれ役のキャラが次々と富士丸に撲殺されていく。殺人鬼に動機はなく、ただ衝動的に体が動き、誰彼構わず、彼の餌食になっていくのだ。単純といえば単純、だがそこに理屈のつかない怖さがある。

地下室の一角には透明のビニールカーテン黒沢清っぽい)で覆われた富士丸の部屋があり、モズの早贄みたいに針金で吊るされたアイテムの中に成島女史の顔写真(ID用に提出)。

彼女が落としたイヤリングを片耳につける富士丸、キングコングと美女のような関係なのか。

深夜残業できなくなりそう

終盤、成島がひとりで深夜残業。こういうシーンって映画でよく見るけど、広い部屋に自分のデスクだけ小さい照明であとは真っ暗なのが一般的なのだろうか。

自分の場合は、一人で残業でももう少し明るくしてたなあ。あれじゃ、怖くて仕事にならない。

© 株式会社ディ・モールト ベネ

やがて、夜のオフィスビルに閉じこめられた十二課のメンバーたちと富士丸との対決になっていくのだが、私が気に入っているのは、会社の人事を所管している有力者の兵藤(長谷川初範)

個室もあるし役員クラスなのだろうか、自由気ままに生きる謎の実力者っぽいイケメン部長。

ああ、この時代、こういうチョイ悪でイケてる上司役には長谷川初範がいたか。ハマっているではないか。さすが、元ウルトラマン・ファミリーの安心感。

意外な役だったのが、十二課の先輩職員役の諏訪太朗。仕事ができなさそうにみえて、最後にはみんなのために危険なミッションを買って出る。諏訪太朗らしくないキャラな気もしたが、悪くない。

それにしても、小道具として登場するテレックス、懐かしいっすね。あの暗号電文みたいにパンチングされたテープが、雰囲気を盛り上げる。

地下室にいきなり赤いツナギ姿の配電工事員のいい女(大寶智子)が現れるのも、意味わかんないけど、面白い。

松重目当ての観客には物足りなさ

この作品に物足りなさを感じるのは、富士丸役の松重豊の地獄の警備員ぶりだ。成島には正面からのバストショットがやたら目立つのに対して、富士丸はエイリアンなみになかなか全貌をみせない。

わざとチラ見せにしているのだろうが、彼のアクションも、台詞も、松重目当てで観る者にとっては少々物足りない。獲物をロッカーに閉じこめて、ロッカーごとボコボコに殴って圧死させてしまうのは、なかなか見応えがあったけれど。

ラストは兵藤(長谷川初範)成島(久野真紀子)が共闘し、富士丸(松重豊)との最終決戦。オフィスにあるもので抗戦するとなると、登場する武器は卓上の裁断機。これは妙案。

戦い終わって夜が明けて、何の助けにもならない警察車両がようやくやってきて、兵藤は妻の迎車で帰っていく。妻には洞口依子がカメオ出演。

一方、成島はあれだけ命がけの激しい争いをしたあとだというのに、草木が鬱蒼とした薄暗い公園を抜けて単身帰路につく。

黒沢映画の女主人公は、いつでも頼もしい。