『37セカンズ』考察とネタバレ|こんな私にも、好きなひとに抱かれる日がいつかくるでしょうか

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『37セカンズ』 

脳性麻痺で手足が不自由な主人公女性が、悩みながらも大人の女性として成長していく姿を描くHIKARIの初監督作品。

公開:2020 年  時間:115分  
製作国:日本

スタッフ  
監督・脚本:   HIKARI 

キャスト 
貴田夢馬:   佳山明 
貴田恭子:   神野三鈴 
俊哉:     大東駿介
舞:      渡辺真起子 
クマ:     熊篠慶彦 
SAYAKA:    萩原みのり 
由香:     芋生悠 
藤本:     板谷由夏 
ヒデ:     奥野瑛太 
客引き:    渋川清彦 
池谷:     宇野祥平 
理学療法士:  石橋静河 
古谷:     尾美としのり

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)37Seconds filmpartners

あらすじ

脳性麻痺の貴田ユマ(佳山明)は、過保護な母親(神野三鈴)のもとで車椅子生活を送りながら、人気漫画家SAYAKA(萩原みのり)のゴーストライターとして空想の世界を描き続けていた。

自立するためアダルト漫画の執筆を望むユマだったが、雑誌編集長(板谷由夏)にリアルな性体験がないと良い漫画は描けないと言われてしまう。

ユマの新しい友人で障がい者専門の娼婦である舞(渡辺真起子)は、ユマに外の世界を見せる。しかし、それを知ったユマの母親が激怒する。

レビュー(まずはネタバレなし)

障がいモノというジャンルでは括れない

脳性麻痺で手足が不自由な若い主人公ユマが、ハンディキャップに悩みながらも大人の女性として成長していく過程を描いた作品。

監督のHIKARIは南カリフォルニア大学で映画を学び、『Tsuyako』『A Better Tomorrow』といった短編を米国で発表。初の長編監督作となる本作で、ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で観客賞と国際アートシネマ連盟賞のW受賞を果たしている。

タイトルは、ユマの出生時に37秒間呼吸が止まっていたことに由来する。たった37秒の出来事が、彼女の人生に取り返しのつかない影響を与えた。魂の重さがタイトルになったイニャリトゥ監督の『21グラム』を思い出す。

ユマを演じているのは、オーディションで選出された、実際に先天性脳性麻痺を持つ佳山明。演技は初挑戦で不慣れな部分はあろうが、屈託のない笑顔に癒される。

この手の障がい者を扱ったドラマは重苦しくなりがちだが、本作は泣きを誘う作品ではなく、彼女の持ち前の明るい華やかさが、意外なほど活気を生み出している

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HIKARI監督は当初、本作にも出演する脳性麻痺の活動家(風俗店評論家でもある)熊篠慶彦の米国取材に同行し、幼少期の交通事故で脊髄損傷した女性のラブストーリーを書いた。『CANTERING』と題しサンダンス・インスティテュート/NHK賞の推薦作品に選出された脚本だ。

しかし、オーディションで出会った佳山明の魅力に影響を受け、生い立ちの設定や内容を大きく変更した。そのせいか、まるで彼女にあて書きしたかのようなフィット感が得られている。

好きな男に抱かれたことある?

映画は冒頭、母親・恭子(神野三鈴)と二人暮らしのユマの生活の様子が描かれる。独りで車椅子で外出はできるが、シャワーから食事から、多くを母の世話になるユマ。母親は大変そうだが、嫌な顔も見せず、娘と仲睦まじい

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ユマには漫画家としての才能があるらしい。だが、彼女は同級生の人気少女漫画家SAYAKA(萩原みのり)のアシスタントの座に収まっている。

出版社の担当・池谷(宇野祥平)は、SAYAKAが障がい者を助手にしていることをまるで美談のように言うが、実はすべてユマの作画なのだ。

アイドル面で手柄を横取りしユマを表舞台に出さない性悪女SAYAKA。演じる萩原みのり『街の上で』(今泉力哉監督)の性格のキツい学生映画監督役が印象的だった。近作ではホラー『N号棟』(後藤庸介監督)に主演。

不満が募るユマは出版社に原稿を持ち込み、エロコミック誌藤本編集長(板谷由夏)に見てもらえる。

「なかなかいいけど、あなた、好きな男に抱かれたことある? SEX経験したら、もっといい絵描けるよ。そしたら、また持ってきてよ」

ファッション誌じゃないんだから、エロ雑誌にこんな女性編集長あり得ないだろうけど、ズケズケと物を言う板谷由夏が小気味よい。こうしてユマは、今まで空想でしかなかった性の世界を、現実のものととらえ始める

映画『37セカンズ』予告編

渡辺真起子が女神にみえる

当たり前だが、障がい者にも性生活はある。だが、それを映画で描こうとすると、『オアシス』(2002、イ・チャンドン監督)や『岬の兄弟』(2019、片山慎三監督)のように、暴力的で哀しい物語になりがちだ。

「障がい者でも、SEXができるでしょうか。私もいつか、好きな人と経験できるのでしょうか」

そんなことを思い悩むユマが愛おしく切ない。急いで、処女を捨ててマンガに経験を生かしたいユマは、歓楽街で客引き(渋川清彦)に頼んで、カネで男を買う。(ロケ地、歌舞伎町から新橋に瞬間移動してないか?)

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ラブホに現れた男はヒデ『SRサイタマノラッパー』奥野瑛太!)。仕事とはいえ、ユマに優しく接してくれるヒデが手ほどきしてくれるのかと思ったが、ちょっとしたハプニングでうまくいかず、悲しい幕切れとなる。

この場面、少なからずユマは傷ついた筈で、観ている方もつらかったのだが、ヒデが最後まで紳士的な対応だったのが救いだった。割引もしてくれたし。

きっと、この二人が付き合いだすのだと思ったけれど、それは大はずれ。ひとりでラブホを出たユマが偶然出会ったのが、障がい者クマ(熊篠慶彦)の相手をする風俗嬢の(渡辺真起子)、そして介護士の俊哉(大東駿介)だった。

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この舞という女性が、なぜかユマに親切にしてくれる。彼女は、性に思い悩むユマにとっては伝道師のような存在になる。

あれこれ思い悩む主人公をよそに、超然とした言動を繰り広げる渡辺真起子が、園子温監督の名作『愛のむきだし』(2009)を彷彿とさせる。アダルトショップでユマとバイブの品定めするシーンなんて、その雰囲気ありありだった。

こうして、一歩大人の階段を昇った気になっていたユマだったが、頭をよぎるのは家で娘の帰りを待つ厳格な母であった。

映画『37セカンズ』予告編

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分があるので、未見の方はご留意願います。

心配で束縛せずにいられない母

冒頭では優しそうに見えたユマの母親だが、一人では何もできないと思い込んでいる娘が、もし夜道で暴漢に襲われたらどうしようといつも心配を重ね、過保護でがんじがらめにしている。

だから、母親の目を盗んでユマが一人でどこかに出かけてしまったり、誰かと飲み歩いたり、どこで買ったのか派手な下着やワンピース、エロ漫画まで娘の部屋で見つけて愕然とする。挙句の果てにはバイブも発見し、もはや卒倒寸前だ

障がいを持つ娘を成人するまで働きながら育てあげ、愚痴もいわずに面倒を見てきた母親には頭が下がる思いだが、ユマも年頃の娘である。恋愛もしたいし、性にも興味はある。母親の目を逃れてやりたいことだってあるだろう。

「私がいなかったら、あなたは何もできないじゃないの!」

つい母は口を滑らせ、娘も意固地になる。母親を演じる神野三鈴は舞台中心に活躍している女優だが、私には『光』(2017、河瀨直美監督)の劇中映画の藤竜也の恋人役が印象深い。

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「障がい者とのSEXなんて、普通のとそんなに変わんないよ」

平然とそう語る舞の自由な生き方に感化されていたユマは、自力で母親の束縛から羽ばたき、家を飛び出す。

そして介護士の俊哉(大東駿介)の助けを借りて、会ったことのない生き別れた父親を訪ねる。大東駿介は、『草の響き』(2021、斎藤久志監督)の東出昌大の親友役を思わせるいい奴キャラ。

ユマと俊哉が父親探しで訪ねた千葉かどこかの海辺の家では、尾美としのりが二人を迎え入れる。この辺りまでは、本作の出来はとても良かった。

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残念だった点もある

ネタバレになるが、ここからの話の展開には、やや首をかしげる点がある。

尾美としのりはユマの父親ではなく、叔父だった。娘に会いたいと願いながら、数年前に父親は病死していたのだ。父親を死なせるのはよいが、ならばもう少しドラマを作ってほしいし、娘を捨てて離婚した経緯もあまりに言葉足らずだ。

さらには、ユマの双子の姉が、なんとタイで小学校の先生をしているという。その足で二人はタイに姉の由香(芋生悠)に会いに行く! これは唐突すぎる展開だ。家出娘のユマがパスポートを携帯しているとも思えず、タイでなくどこか国内の孤島の分校くらいの方が良かったのではないか。

『ひらいて』(2021、首藤凜監督)でも好演の芋生悠だったが、タイの片田舎で初対面する双子にしては、ドラマが淡泊すぎる。

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ユマが二人きりの寝室で俊哉に語りかける。

「37秒だったんです。私が生まれた時に呼吸しなかった時間。もし1秒でも早かったら、もし由香さんと順番が逆だったら、私も自由に生きられたかもしれません。でも、……私で良かった」

彼女の心根の優しさが伝わってくるシーンだ。

結局、タイから戻ったユマは母親と仲直りする。由香もまた母に会いたがっていると聞き、ユマの描いた由香の絵にボロボロと涙を流す母。ワンカットでここまで泣いてみせる神野三鈴の女優魂。

ユマが一番大事だから、母は父も由香も手離したということになる。やはり、この夫婦がなぜ別れたのかは、ドラマの骨格部分であり、もう少し語られるべきだ。父親は写真すら見せないのが残念。

Hがすべてじゃないけどさ

そして、ラストにユマは再び藤本編集長(板谷由夏)を訪ねる。

「Hはまだしていないけど、藤本さんの言葉がきっかけで、いろんな経験ができました」

礼をいうユマ。エロ路線ではないマンガの原稿を見せ、それがユマのデビューに繋がっていきそうな気配をみせる。最後までサバサバしている板谷由夏も、渡辺真起子に負けないくらいカッコいい。

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ただ、マンガの才能が認められそうなのは結構なことだが、できればユマには、好きな人に抱かれてほしかったと思う。当然、俊哉といい仲になると思っていたのだが、処女のまま元の生活に戻るのは、ちょっとかわいそう。

もっとも、佳山明が時折見せる満面の笑顔の魅力は、それを補って余りあるけれど。