『孤狼の血 LEVEL2』考察とネタバレ|ここでは闘うヤツしか生きられない

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『孤狼の血 LEVEL2』 

待望の続編に登場するのは、鈴木亮平演じる死神に憑かれた男。すっかり風貌も変わった松坂桃李の日岡刑事、絶体絶命の危機をどう乗り越える。

公開:2021 年  時間:139分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:      白石和彌
脚本:      池上純哉
原作:      柚月裕子

キャスト
日岡秀一:    松坂桃李
上林成浩:    鈴木亮平
近田幸太:    村上虹郎
近田真緒:    西野七瀬
高坂隆文:    中村獅童
瀬島孝之:    中村梅雀
瀬島百合子:   宮崎美子
嵯峨大輔:    滝藤賢一
中神悟:     三宅弘城
友竹啓二:    矢島健一
<広島仁正会>
綿船陽三:   吉田鋼太郎
溝口明:     宇梶剛士
吉田滋:     音尾琢真
<五十子会>
角谷洋二:     寺島進
五十子環:   かたせ梨乃
佐伯昌利:    毎熊克哉
<尾谷組>
天木幸男:    渋川清彦
橘優馬:      斎藤工

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

あらすじ

三年前に暴力組織の抗争に巻き込まれ殺害されたマル暴の刑事・大上の後を継ぎ、広島の裏社会を治める刑事・日岡(松坂桃李)

しかし、刑務所から出所した悪魔のような男・上林(鈴木亮平)の登場によって、その危うい秩序が崩れていく。

やくざの抗争、警察組織の闇、マスコミによるリーク、身内に迫る魔の手、日岡は絶体絶命の窮地に追い込まれる!

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レビュー(まずはネタバレなし)

ガミさん亡き後の広島をおさえる男

前作で非業の死を遂げた伝説の刑事・ガミさんこと大上章吾(役所広司)の後釜として警察と暴力団組織との間を際どく渡り歩き、ヤクザ同士の抗争を何年も抑え込んでいる日岡刑事。

広島大出身の学士さんと冷やかされた前作からは、風貌も仕事ぶりも大きく様変わりし、大上スタイルに近づいた。主役交代してのLEVEL2、さてお手並み拝見。

前作で大上殺しを仕組んだ五十子会長(石橋蓮司)も最後には宿敵、尾谷組の若頭・一ノ瀬(江口洋介)に惨殺される。その場を手配したのは日岡だったが、土壇場で、その一ノ瀬を殺人容疑で逮捕するという予想外の行動に出る。ここまでが前作。

本作は、五十子会長の腹心であり、刑期を終えて出所し、オヤジを殺した場をお膳立てしたという刑事に復讐を誓う男・上林(鈴木亮平)と、それに対峙する日岡の対立が物語の柱となっている。

「わしゃ必ずそのデカ見つけ出して、地獄見せちゃるけえ」

五十子会長と大上刑事という、今は亡き二人の男が、それぞれの後釜による代理戦争を始めようとしている。

映画『孤狼の血 LEVEL2』本予告②/8月20日(金)公開

ヒットした前作を引き摺らない展開

前作のヒットにもっと乗っかるのかと思ったが、役所広司石橋蓮司、服役中の江口洋介など、前回の功労者が回想を含め画面に登場することは殆どないのは潔い

その抜けた穴を、鈴木亮平演じるダークヒーローの上林や、日岡の情報屋(エス)として上林組に潜り込む、チンタことチンピラの幸太(村上虹郎)が見事に塞いでいる。

上林の狂気とチンタの繊細さが、お決まりのヤクザキャラ一辺倒だった前作よりも、物語の厚みを生んでいる。

日岡のほかに前作からの連投としては、警察側で管理官の嵯峨(滝藤賢一)に係長の友竹(矢島健一)、今回は出番が多くて良かったねと言いたい新聞記者の高坂(中村獅童)

前回は真珠摘出で痛い目にあった元仁正会の吉田(音尾琢真)が、その名もパールエンタープライズという一般企業の社長に収まっているのは笑った。

前作は柚月裕子による同名原作をいい塩梅にアレンジして、東映映画っぽく仕上げている。その後、原作としては『凶犬の眼』『暴虎の牙』と続いていて、どれも映画化してほしい内容なのだが、本作はそのいずれとも違うオリジナルだ。

日岡を主役に据えるとなる一発目としては、原作がフィットしなかったのだろう。結果、柚月裕子の監修のもと、池上純哉が脚本を書きあげたようだ。シリーズ化が続けば、うまく『凶犬の眼』に繋がっていくようにも思えて、今後の楽しみもある。

(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

どっちに肩入れしてしまう?

本作は日岡の負け戦を描いたものだ、というのは白石一彌監督の弁だそうだ

なるほど行動こそ破天荒だったが市民生活の平安を願って行動し、弱い者たちに愛されて死んだ大上と違い、日岡は大上から得た裏情報やヤクザとの人脈などを操り、労せずして今の地位にあぐらをかいている印象がある。乗っているメルセデスの車種も破格のグレードだし。

情報戦で出し抜こうとするから、日岡の言動や行動はウソで塗り固められ、チンタやその姉の真緒(西野七瀬)は、彼の犠牲者になっているともいえる。

そんな日岡の生き様と対照的に、愚直なまでに任侠を貫いているのが上林である。

出所した彼を待つ子分たち(兄貴分の毎熊克哉が最高!)が、派手な服の女たちにアイスキャンディーをしゃぶらせて待っている軽薄そうな登場シーンから一転して、上林の生き方には仁義があり、ブレがない

日岡に骨抜きにされ、五十子会長の仇敵である尾高組と手打ちをしている母体の幹部連中に、次々と制裁を加えていく。

勿論、目ん玉くり抜いたり、やってることはえげつないのだが、生き方だけみれば、日岡とどちらが主役だか分からないほどの危ない魅力がある。

(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

大きく若返ったメインキャスト

さすが、役作りに余念のない鈴木亮平だけあって、この狂気と暴力と執念の塊の上林には、得も言われぬ不気味な迫力が満ちている白石一彌監督の『ひとよ』では、彼の持ち味が十分発揮できていない不遇な役にみえたが、その憂さを晴らすかのように、ここでは善人イメージを振り払う。

日岡刑事役松坂桃李も、同じように普段とは違う悪人イメージを打ち出しているが、まだ未熟さを残している。それは松坂桃李の演技力云々ではなく、日岡がそういうキャラなのだ。

だからこそ、彼を慕ってエスになって敵に潜入しているチンタとの切なく危うい関係も映える。この二人が広島弁で会話をしていると、テレビドラマ『この世界の片隅に』を思い出さずにはいられんのう。ほうじゃった、ほうじゃった。

前作ではベテラン大上に新人の日岡が組まされた、異色バディムービーとなっていた。本作では広島県警に、殺人事件捜査で嵯峨監査官に招集された日岡が、定年間際の瀬島刑事(中村梅雀)とコンビを組む

憧れの殺人事件捜査参加の念願叶って、捜査本部の戒名と記念写真を撮るような頼りない老刑事は、はなから無視して日岡が暴走するのだと思っていたが、意外にもこの老いた相棒がいい味を出す

(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

ちょっと品が良くなってしまったのは残念

ヤクザ映画路線のオマージュとしては、前作の伊吹吾郎に続き、本作では『極道の妻たち』かたせ梨乃を登場させる。

一方で、アクションにはより現代風な過激さとスピード感で、先行する韓国アクションのレベルを目指しているように思えた。ノワールの雰囲気もあり、たまらない仕上がりだ。

ただ、お下劣さやえげつなさの点では、冒頭の豚の糞から始まり、真珠摘出の荒業も登場し、エロスも満載だった前作に比べると、品が良くなってしまった気がして、少し寂しい。

西野七瀬放送禁止用語を言わせるのはハードルが高そうだが、毎熊の口から「びっくり、どっきり、栗饅頭じゃ」が飛び出したのは、嬉しくもあり、物足りなくもある。

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どの役を演じた俳優もみな、前作を観て絶対に次作には出たいと思ったと異口同音に語っている。これはリップサービスではないと思う。

だって、出演者の多くは容赦なくボコられたり、犬死したりする役ばかりなのに、誰も彼もが実に嬉しそうに芝居をしているように思えるから。

宇梶剛士寺島進あたりも楽しそうだし、斎藤工なんか嬉しくて尻尾振ってヤクザを演じているのが伝わってくる。こんな現場の映画が、つまらない筈がない。

(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

レビュー(ここから若干ネタバレ)

ここから若干ネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

少し気になってしまった点

本作は上林に光が当たり過ぎた分、他のヤクザたちがみな腰抜けにみえてしまった弊害もある。

日岡に騙されて一ノ瀬が刑務所送りになった尾高組も、日岡に従う義理があるとは思えない。若頭(斎藤工)や組長代行(渋川清彦)には、もう少し見せ場が欲しかった気はする。

絶対的に不足していたのは、前作の真木よう子に相当する役だろう。西野七瀬演じる真緒は、日岡との関係も微妙だし、スタンドのママにしてはちょっと若すぎて貫禄足らない気がする。豪華男優陣に比べると、女優陣はやや手薄。

なお、原作では小料理やの女将(映画にはいない)が何度も日岡に作ってくれる名物たこ飯が、今回、瀬島の妻(宮崎美子)の手料理でようやく登場したのは朗報。

ヤクザ映画にネタバレするほどのからくりがあるかと思っていたが、意外なことに書きたくなるようなサプライズはあった。これはぜひ、鑑賞してのお楽しみに。

(C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

オオカミと死に神

ヤクザは面子で生きている。警察も同じかもしれない。

前作で大上を殺された日岡は、一ノ瀬を使い五十子を仕留めた。未成年の頃に非道な両親を殺害し、五十子に可愛がられた上林は、黒幕は日岡と知り、仇を取ろうとする。網走刑務所に送られれば、服役中の一ノ瀬さえも殺してやる覚悟だった。

報復の連鎖は、どちらかが止めない限り、けして終わらない。

「狼は強すぎたから、絶滅させられてしもたんじゃ」

広島仁正会の綿船会長(吉田鋼太郎)が日岡の持つライターを見て口にする。オオカミ(大上)の意を継ぐ日岡と、死に神に憑かれた上林の、長い夜が始まる。

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菅原文太の東映映画『県警対組織暴力』では、ラストで主人公が田舎の駐在所に飛ばされるそうだ。本作も(というか柚月裕子の原作も)それに影響を受けているかのような展開になる。

定年間際の老刑事とのコンビで、事件が終わったら責任をとって駐在所勤務って、てっきり『踊る大捜査線』の青島刑事(織田裕二)と和久さん(いかりや長介)かと思ったけど、そんなわけないか。

ヤクザ映画は死に絶えたかと思ったが、まだまだ時代に合わせて形を変えて生き残っていく可能性を秘めている。そう思えることが嬉しい。国産ノワール、頑張れ。