『岬の兄妹』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー(岬の兄弟) | シネフィリー

『岬の兄妹』今更レビュー|チェンジの効かないフルーツ宅配便

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『岬の兄妹』 

既成概念は捨てて、この兄妹の生き様に向き合おう。そこに感動を呼ぶものはないかもしれないが、魂の叫びがある。

公開:2019 年  時間:89分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督・脚本:   片山慎三
キャスト
道原良夫:   松浦祐也
道原真理子:  和田光沙
溝口肇:    北山雅康
溝口弥生:   時任亜弓
中村:     中村祐太郎
産婦人科医:  風祭ゆき

勝手に評点:3.0
    (一見の価値はあり)

(C)SHINZO KATAYAMA

あらすじ

ある港町で自閉症の妹・真理子(和田光沙)とふたり暮らしをしている良夫(松浦祐也)

また、真理子が居なくなった…。
妹のたびたびの失踪を心配し、探し回る兄の良夫だったが、今回は夜になっても帰ってはこない。やっと帰ってきた妹だが、町の男に体を許し金銭を受け取っていたことを知り、妹をしかりつける。

しかし、罪の意識を持ちつつも互いの生活のため妹へ売春の斡旋をし始める兄。このような生活を続ける中、今まで理解のしようもなかった妹の本当の喜びや悲しみに触れ、戸惑う日々を送る。

そんな時、妹の心と身体にも変化が起き始めていた…。ふたりぼっちになった障がいを持つ兄妹が、犯罪に手を染めたことから人生が動きだす。

今更レビュー(ネタバレあり)

三崎の兄妹だったのね

長篇第二作になる『さがす』の公開が直前の片山慎三監督のデビュー作が本作である。ついこれまで見そびれていたのだが、まずはこの衝撃作から観ておかなければと思い、ようやく観賞。たしかに、インパクトのある映画だった。

<あに・いもうと>などと書かれると、室生犀星の原作、というより秋吉久美子と草刈正雄の映画を思い出してしまうが、そんなタイトルやキービジュアルに想像される甘ったるい兄妹ではない

いや待て、改めてポスターを凝視すると、妹は兄の腕に思いっきり噛みついているではないか。全然、甘い雰囲気じゃなかったわ。

映画は冒頭、足を引き摺って歩く兄の良夫(松浦祐也)が、いなくなった妹を探し回っている。見覚えのある漁港の風景。ああ、三浦半島だ、三崎じゃないか。え、だから『岬の兄妹』? 駄洒落かい! 

友人と思しき警察官の溝口(北山雅康)の助けを借りても見つからなかった妹の真理子(和田光沙)が、夜になって知らない男のクルマで送り届けられる。

(C)SHINZO KATAYAMA

親切な若者かと思ったが、どうも挙動不審。それもそのはず、真理子の入浴中に衣服を探るとポケットに万札、そして下着にはねっとりと…。

「真理子、どうやって、このカネもらった!」
激昂して妹を叩く兄は、この時点では、まともな感覚の持ち主だった。

感動ポルノにはしない覚悟

真理子は重度の自閉症を患っており、身体は立派な大人だが、知能は幼児レベルで、会話もあまり成立しない。

そんな彼女が勝手に外出しないよう、家は外から施錠し、足にはチェーンまでかけられている。人権侵害の問題はありそうだが、二人暮らしの兄妹。生活のために兄が働きにでる以上、やむをえない手段なのか。

足を引き摺る兄と知的障がいの妹という二人。親は他界してしまっているようだ。底辺の生活で、何とか生き永らえている。だが、片山慎三監督は、これを安易に<感動ポルノ>に持っていかない。

(C)SHINZO KATAYAMA

勤め先から突如解雇され、一旦は地道に内職を始めるも、ポケットティッシュのチラシ入れの歩合給では、とても生活できない。

溝口に借金しても金は足りず、電気も止まり、ゴミを漁っては飢えをしのぎ、ついには香料付きのティッシュが甘いからと貪るようになる(あのゴミ漁りの浮浪者、芹澤興人だとはさすがに分からん)。

貧すれば鈍す。妹に売春させれば、手っ取り早くカネになるし、本人も嫌がっていない。もはや、兄はすっかりポン引きとなり、トラック野郎の兄ちゃんや、繁華街の往来を歩く男をみつけては、積極的に交渉をする。

途中、ヤクザのお兄さん達にみつかって、ボコられて売上を巻き上げられるのかと思っていたら、この連中はちゃんと金払って真理子を買うのだ。そして、行為の一部始終を良夫に凝視させる。このあたりから、兄も壊れかけてしまったのかもしれない。

(C)SHINZO KATAYAMA

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そこからは、手製のデリヘルチラシをポスト投函し、なにげに商売が繁盛していく。どんどん堕落していくのに、描かれ方がコミカルで救われる

兄妹にとって、唯一の良心ともいえる溝口が、チラシの携帯番号から、二人の違法行為に気づき、やめさせようとするが、「足悪いんだから、しょうがねえじゃん」と逆ギレされて終わる。

この兄妹は、ここまで底辺にいかないと、生きていけなかったのか。現実的には、生活保護や障がい者手当という救済策があるのだと思う。

片山慎三監督はあえてそこには触れなかったというが、その制度を知らない、或いは、申請しても許可が下りない、といった切り口を加えると、一層説得力が出たのではないか。

(C)SHINZO KATAYAMA

それにしても、ともすれば相当に重苦しい題材だが、いつもならば更に陰湿な内容になっていくと想像された高校生のいじめの場面に、想像を超えた展開が待っていたのには驚いた。

てっきり、真理子が性奴隷として高校生たちの嘲笑や攻撃の対象になってしまうのではと身構えていたが、良夫が窮鼠猫を噛むというか、イタチの最後っ屁のような反撃に出る。これは、デリヘル前の飢餓状態から、まともに飯が食える生活になったからこその攻撃なのだ。

本作は、撮影地は神奈川県の三崎市のようだが、映画の中では無名の港町として扱われている。まあ、内容的に三崎市としても地名は伏せたいのかも。『亀は意外と速く泳ぐ』(三木聡監督)とか、ドラマ『泣くな、はらちゃん』とかと違って、イメージダウン懸念あるし。でも、そのおかげで、全国各地の港町にもあてはまりそうな汎用性が得られたか。

(C)SHINZO KATAYAMA

僕なら結婚してくれると思った?

さて、高校生連中はやりこめたが、いつまでもこんなデリヘル生活で生計が立てられるはずもない。ほどなくして、真理子の妊娠が発覚する。中絶するしかないが、7~8万円の費用がかかる。困り果てる良夫。

妊娠中絶ドラマといえば、近年では『17歳の瞳に映る世界』(エリザ・ヒットマン監督)もそうであったように、普通はティーンの少女が一番つらい思いをする。だが、本作は当の本人には自覚がなく、兄が悩む

真理子はいつしかいい雰囲気になっていた、小人症の中村(中村祐太郎)という常連客がいた。良夫は中村のアパートを訪ね、「良ければ、結婚してやってくれないか」と切り出す、それもアパートの外通路から、窓越しに。

確かに、中村が父親だろうとは思ったが、この切り出し方はさすがに唐突すぎる。良夫の口ぶりから、妹の幸福を思っての行動に思えたが、中村の反応は冷静だった。

「僕だったら結婚してくれると思ったの?」

差別を受け続けてきた良夫もまた、小人症の彼を無意識に色眼鏡で見ていたのだ。真理子を愛してはいない、そう告げる中村。

ラストシーンに希望がみえるか

結局、真理子は一生懸命自分の身体で稼いだ金を費やして、中絶手術を受けることになる。そもそも、二人がここまで貧困に喘ぐようになったのは、勤め先に解雇されたのが発端だが、その社長が良夫に、再雇用を申し入れてくる

勝手なふるまいに怒る良夫だが、これで再びまともな生活ができるようになる。

障がいのある人が、健常者になっている幻想シーンは映画の中でよく目にするが、これはとても切ない。思い出すのは『オアシス』(イ・チャンドン監督)で重度障がいのヒロインが恋人の前で五体を流暢に動かして戯れるシーン。本作でも、良夫が夢の中ではしゃいで走り回るシーンがあった。

終盤で、良夫は古巣に再就職したといっても、今まで同様に足を引き摺っている。真理子だって、前のようにフラッといなくなってしまうし、知的障がいが治った訳ではない。

では、元の生活に戻ったところで本作は終わるのか。ラストシーンは、携帯が鳴り、その電話にでる良夫を嬉しそうに見る真理子のアップで終わる。何も台詞はない。

それを再びデリヘルの客からの注文と考える人もいるだろう。だが、それを、真理子のことを気にかけていた中村からのコールと想像する、ロマンティストがいたっていいと思う。いずれにしても、彼女の笑顔で終わったことは、救いだけれど。