『ピンカートンに会いにいく』 考察とネタバレ:探偵とも蝶々夫人とも無縁の、解散したアイドルユニット名なのだ

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『ピンカートンに会いにいく』 

アラフォーがアイドルユニットを再結成。前向きでない所に現実味。内田慈の好演で予想以上に笑える。けして『SUNNY』の後追いではなく、独自の面白味を加味。なかなか登場しない松本若菜が気になるけど。

公開:2018 年  時間:86分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:    坂下雄一郎

キャスト
神崎優子:  内田慈
 (アイドル時代:小川あん)
中川葵:   松本若菜
 (アイドル時代:岡本夏美)
藤塚美紀:  山田真歩
 (アイドル時代:柴田杏花)
五十嵐かおり:水野小論
 (アイドル時代:芋生悠)
渡辺葉月:  岩野未知
 (アイドル時代:鈴木まはな)
松本浩一:  田村健太郎

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)松竹ブロードキャスティング

あらすじ

かつて存在した5人組アイドルユニット<ピンカートン>。ブレイク寸前で解散をしてから20年経ち今やおばさんとなった彼女たちだったが、リーダーの優子(内田慈)は今でも売れない女優を続けていた。

所属事務所もクビとなり芸能界の崖っぷちに立たされた彼女のもとにピンカートン再結成の話が転がり込んでくる。再起を懸けて優子は元メンバーに会いに行くが彼女たちはもうすでに引退し家庭を持ち、再結成の話にはつれない反応。

そして一番人気だった葵(松本若菜)の行方が分からず彼女を捜していくうちに、20年前、なぜピンカートンが解散することになったのかが明らかになっていく。

レビュー(ネタバレなし)

サニーというよりサッドティー

喧嘩別れで解散した、かつてのアイドルグループが20年後にひょんなことから再結成に動き出す。

既に結婚し子育てに追われる者や消息不明な者もおり、40歳手前の今のメンバーと、20年前の当時のメンバーのシーンが交代で交錯して差し込まれたり、同時に現れたり。

ネタ的には、完全に『サニー 永遠の仲間たち』の後追いであり、アイドルユニット要素を入れただけかと思っていたのだが、これが意外と面白い。

配役だけをみて、センターの葵を演じる松本若菜が主役だと思い込んでいたのだが、内田慈が堂々の映画初主演。しかも、彼女が演じるリーダーの優子のキャラがメチャメチャ歪んでいて、面白いのだ。

優子が芸能界にしがみついて、何とかつまらない仕事をやってきたが、事務所抜きの闇営業もばれ、ついに解雇の憂き目に。その折に、かつて小学生時代に<ピンカートン>のファンだった、今はレコード会社の青年(田村健太郎)が、再結成の話を持ち出す。

再起をかけて優子は、この再結成に乗り気になる。と書くと、再結成にポジティブな元アイドルユニットの青春ストーリーのようだが、こちらは結構現実目線で、体温も低い。

そもそもグループの調和をかき乱す存在の優子は、本心では再結成を望んでいても、いい歳して今更そんな恥がかけるかというスタンス。まったく売れていないけど、プライドだけは高い元アイドルなのである。

あれ、内田慈のこのキャラには既視感がある。そういえば、かつて彼女は今泉力哉監督の『サッドティー』でも、<若い頃にアイドルをやっていて、今は過去の栄光にすがるだけの一般人>の役をやっていた。

これは本作とメチャクチャかぶる。キャラのエッジの効き具合も共通していて、どちらも楽しめるから、どうでもいいのだけれど。

(C)松竹ブロードキャスティング

ピンカートンのメンバーたち

ピンカートンのユニット名の由来は明らかにされない。メンバーも優子と葵以外は割と描写も雑だが、90分弱の作品ゆえ、それで正解だと思う。

娘が反抗期の葉月(岩野未知)は再結成反対派、子だくさんの美紀(山田真歩)は賛成派、独身のかおり(水野小論)は優柔不断。そして、一番人気だった葵は、中盤まで姿を見せないが、優子同様に、売れない今でも芸能界にしがみついていることが分かってくる。

アイドル時代のメンバーの描写が少ないので、『SUNNY』のようには昔と今の役柄が重なる作りではない。それに、配役的にもあまり似た女優を当てている訳でもない気がする(特に優子)。

だが、そこに難癖をつける作品ではないのだろう。似ていなくたって、気にならないし、面白いのだから。でも、アイドルたちの舞台裏って、やはりこういう蹴落とし合い、罵り合いみたいな世界なのだろうか。

レビュー(ネタバレあり)

ベタだけど笑えるシーン多し

少し内容に踏み込みたいと思う。子供のころから<ピンカートン>のファンで、再結成の成功を信じて奔走する松本青年と、何にも素直になれない優子、この二人のベタな笑いが本作のコメディ部分を支えている。

松本が大ファンでありながら優子本人を分からず、人違いで再結成話を熱く語ったり、或いは優子が演技について撮影現場で激しく意見をいう相手が、学生の自主映画の監督だったり。

ややもすると、滑ってしまいそうな笑いなのだが、内田慈の演技力がそれをカバーし、映画としてきちんと成立させているように思った。

松本のキャラも好感。葵の元マネージャーから、現実の厳しさや彼女の枕営業絡みの話を聞いて、喫茶店でブチ切れる優子を一旦制する冷静な松本が、彼女の怒りに共感し相手を激しく蹴りだすところは、おかしくもあり、心温まるシーンであった。

(C)松竹ブロードキャスティング

仲直りではなく謝罪なのが大人の世界

そしてようやく登場の松本若菜。芸能界にしがみつきながら加湿器の路上販売員として働いている葵をようやくみつけ、再会と交渉の機会を探る優子。

20年前にも互いに自分に似たものを感じながらも、攻撃的な性格から激しくぶつかり合った二人。はたして、再会で話し合いはできるのか。

解散の引き金となった、葵のソロデビュー事件。本人は当初、仲間を想いソロの話を断ったのに、早合点した優子が葵に喧嘩を吹っ掛けた。売り言葉に買い言葉。葵はユニットを飛び出し、その日のコンサートは急遽中止となる。

(C)松竹ブロードキャスティング

20年ぶりに再会しただけで泣けますか、普通?」
ムチャな脚本で撮る学生監督にそう文句を言っていた優子だが、

「大人になったら<仲直り>とは言わない、それは<謝絶>て言うんだよ」
若き日の自分と向き合い、そう自問自答する。

公園でリハーサルする優子が笑えた。本作は、みんな感動に無縁のシラケた世代で、青春ドラマの青臭い台詞がでてくるはずがないし、優子が素直に謝れるわけもない。

そのため、葵と優子が、加湿器の買い替えに例えた会話で互いの思いを伝えあうシーンは、よく練られていたと思う。

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そして幕は開く

ラストの復活コンサートが本作のメインではないことは、メンバーが揃ってからあまりにあっさりとステージが開くことからも想像できる。

いや、<ピンカートン>の唄やダンスは、現在・過去どちらの世代もなかなか良かったのだが、あくまで<再結成>がテーマであり、ステージはおまけなのだろう。

コンサートが終われば打ち上げだ。さて、どんな終わり方になるかと思っていたら、まさか居酒屋で伏線が回収されるとは。

坂下雄一郎監督。目下活躍が目覚ましい、東京藝大大学院映像研究科卒業生のひとりである。他の作品も追いかけてみようかな。