『SRサイタマノラッパー/2 女子ラッパー傷だらけのライム/ロードサイドの逃亡者』一気レビュー

『SR サイタマノラッパー』
『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』
『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』

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『SR サイタマノラッパー』

公開:2009 年  時間:80分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督・脚本:   入江悠

キャスト
MC IKKU:     駒木根隆介
小暮千夏:     みひろ
MC TOM:     水澤紳吾
MC MIGHTY:   奥野瑛太
李:        杉山彦々
MC KEN:     益成竜也
MC TEC:     配島徹也
DJ T.K.D:    上鈴木伯周

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

あらすじ

レコード屋もないサイタマ県の田舎街に暮らすヒップホップグループ“SHO-GUNG”のメンバーたちは、自分たちの曲でライブをすることを夢見ていた。

メンバーで、仕事もないニートのラッパー、IKKU(駒木根隆介)は夢のために行動に出るが、東京でAV女優として活躍していた同級生・千夏(みひろ)が戻ってきたことから、メンバー間にすれ違いが起きてしまう。

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一気通貫レビュー(ネタバレあり)

ライム読んで埼玉

今更という表現に恥じない今更感があるが、入江悠監督の出世作にして代表作といえる『SR サイタマノラッパー』をようやく観賞した。

国内外の多くの映画祭で高い評価を得た作品で、これだけのレベルの高さながら、まだ当時まだ長編二作目だった入江悠監督が自費で製作した自主映画である。

埼玉県の田舎町フクヤ市を舞台に、ラッパーを目指す冴えない若者たちの奮闘。けしてラップが巧いようには見えないのだが、主人公のMC IKKU(駒木根隆介)をはじめ、主要メンバーたちのラップに向き合う姿勢は実にまじめで、思わず応援したくなる。

ラッパーがステージの上で脚光を浴びているのはほんの一瞬で、そのために日々、時事問題を新聞記事からネタ集めしながら、クールな文句をライムに乗せようと奮闘しているのだ。

高圧電線の鉄塔の下、田舎道をリズムに乗って肩を揺らして歌いながら歩くIKKUが微笑ましい。

「SHO-GUNG」×「 SRサイタマノラッパー」 PVフルver.

「あんた、でぶラッパー? 埼玉でヒップホップとかって、イタすぎるからやめてよ、まじで」

高校以来、久々に再会した小暮千夏(みひろ)にも、散々バカにされるIKKU。

埼玉がイジられることは珍しくないが、本作は『翔んで埼玉』のあっけらかんとしたバカにされ方とはちょっと違う。何せ、「ここフクヤから世界にメッセージを送るぜ」って頑張って曲を作るくらいだから。

フクヤの町で頑張る若者

彼らヒップホップグループ“SHO-GUNG”のなかでも、メンバーのヒエラルキーがあり、KEN(益成竜也)TEC(配島徹也)は上位組だ。

そしてIKKUや同級生のTOM(水澤紳吾)、そして農家のせがれMIGHTY(奥野瑛太)などは下位グループで発言力がない。それでも、念願叶って初ライブの話が決まり、張り切って曲作りするIKKU。

「MIGHTY、ライブに向けて音楽の方向性、決めとこうぜ」
「IKKUさん、何すか方向性って」
「西海岸か、東海岸か」
「埼玉、海ないっすよ」

実家の農作業を手伝うMIGHTYの天然ボケは結構好きだ。

「やっぱBroがいいんですよ」
「Broってブラザーか、Yo?」
「ブロッコリーっす。フクヤの特産品」

こういう笑いも差し込むが、フクヤの教育委員会だかの前で「この町で頑張る若者」として講演させられ、ノリの悪いオッサンたちから的外れな質問を受けながらも、ちゃんと一曲ラップを披露するところなど、聴いていて泣けてくる。

ゆるふわちゃんだ!

IKKUとTOMの同級生だった千夏は、学校やめて上京してAV女優になって、埼玉に戻ってきた経緯がある。IKKUは千夏が昔好きだったのだろう。だから、つらくて彼女のAVが観れない。

そのAVのワンシーンを見せるカットがあるのだが、結構しっかりと、それも長めに映していて驚いた。こんなの、みひろだからできる役だわ。ゆるふわちゃんが懐かしい。本作はあて書きなのだろうか。

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その千夏がらみのイザコザで“SHO-GUNG”が仲間割れして空中分解しても、IKKUは愚直にラッパー道を精進する。

思えば、一般的にラッパーはそのヤバそうな見た目もあって、「悪そうなヤツは、大体トモダチ」だと思ってしまいがちだが、このIKKUとTOM、MIGHTYの三人はワルではない。

新曲を頼んでいた先輩のDJ T.K.D(上鈴木伯周)が急逝した際、黒のトレーナーやドカジャンを着て葬列に参加している様子からも窺い知れる。

ワンカット撮りのラップは凄い

ラップに関しては、途中でカット割りを入れないのが入江悠監督のスタイルらしい。PVであればもっと刻んでくるのだろうが、ここではワンカット。これは本業が俳優のラッパーたちには厳しい試練だ。

数年前に小芝風花主演の『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』を観た時にも、こりゃラッパー役の俳優大変そうだと同情したけど、本作は真剣なラッパー志望者の役だから、難易度は更に高そう。

本作は80分と短い作品ゆえ、最後のシーンは尻切れトンボ感がなくはない。でも、それは、俄然続編が観たくなる終わり方だ。事実、本作を皮切りに、結果的にシリーズは三本の映画となり、またドラマまで生まれる。

そして本作の最終シーンは、80分の中でどれだけの比重を占めるのだというくらいに長いワンカットで終わる。

それは、ニートのIKKUが初めて働く焼肉屋。初めての客に慣れない注文取り。ところが、その労働者たちのテーブルには、交通整理の仕事帰りのTOM。

「ラッパーの夢、俺は捨ててねえ」突如店内でラップを始めるIKKU、そしてTOMが現実を見ろと返歌を唱える。唖然とする周囲。

はたして“SHO-GUNG”はどうなるのか? 上京してしまったMIGHTYは?(隣接県だけどね) そして去っていった千夏は? 

映画祭で得た支援金で二作目を実現させるとは、筋金入りの自転車操業だ。入江悠監督、まじレスペクト。