『カツベン!』 考察とネタバレ:花の巴里~か倫敦か。春、東映のロ~マンス!

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『カツベン!』 

無声映画の脇で名調子を謳い上げ、映画に息を吹き込んだ活動弁士。日本固有の文化を周防監督が喜劇に。初主演となる成田凌に黒島結菜の共演が、ドタバタ喜劇に味わいをもたらす。永瀬正敏と高良健吾の活弁もいい。

公開:2020 年  時間:126分  
製作国:日本

スタッフ
監督:    周防正行

キャスト
染谷俊太郎: 成田凌
栗原梅子:  黒島結菜
山岡秋声:  永瀬正敏
茂木貴之:  高良健吾
木村忠義:  竹野内豊  
安田虎夫:  音尾琢真
青木富夫:  竹中直人  
青木豊子:  渡辺えり
橘琴江:   井上真央  
橘重蔵:   小日向文世
二川文太郎: 池松壮亮

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)2019「カツベン!」製作委員会

あらすじ

子供のころから活動弁士を夢見ていた染谷俊太郎(成田凌)。大きくなった今ではニセ弁士として泥棒の片棒を担がされる始末だった。

彼が流れ着いた小さな町の映画館・靑木館。競合映画館に人材も引き抜かれ、客足もまばらな靑木館にいるのは、クセの強い人材ばかり。

やがて俊太郎は活動弁士として人気が出始め、幼なじみの初恋相手、栗原梅子(黒島結菜)とも運命の再会。だが、泥棒とニセ活動弁士を追う警察も現れ、俊太郎は騒動に巻き込まれていく

レビュー(まずはネタバレなし)

活動弁士は日本固有の文化

周防正行監督は、もっと量産タイプの監督イメージがあったが、2000年代に入って5作と割と寡作なほうかもしれない。

本作は『舞妓はレディ』以来5年ぶりの新作、しかも活動弁士という面白い題材と目下活躍めざましい成田凌の初主演とあって、期待してしまう。

とはいえ、前作『舞妓はレディ』はちょっと想像とは違うテイストで期待はずれだったので、少し不安もあったのだが、いやいや無駄な心配だった。今回は文句なしに楽しい。コテコテな笑いではあるが、いいではないか。私は好きだ。

サイレント映画の時代にあって、映画を上映する壇上でセリフを付ける活動弁士という職業は、映画俳優なみ、いやそれ以上に花形職業であったらしく、本作同様に熱狂的なカツベンのファンもいたようだ。

面白いのは、この活動弁士という存在が、日本固有の文化だということ。欧米では、このような職業は成立しなかった。

考えてみれば、この活動弁士というヤツは、観客に映像をみせながら、登場人物の会話を一手に引き受けて物語を進行させるのである。

バラエティ番組によくある、ロケ映像やNG映像に勝手におもしろおかしくナレーションを付けているのを想像してみよう。その影響力は大きい。

弁士の語りの巧拙ひとつで、映画のウケはがらりと変わるはずだ。本作さながら、花形弁士の引き抜き合いもあったかもしれないし、弁士の語りに合わせて、映写速度を遅めることもあったのかもしれない。

題材をとことん掘り下げたうえでエンタメに仕上げる学究肌の周防監督が、この活動弁士という日本文化にスポットを当てたのは興味深い。

(C)2019「カツベン!」製作委員会

三者三様の弁士スタイル

<七つの声を持つ男>と呼ばれたかつての花形、今や飲んだくれの山岡秋声(永瀬正敏)、目下売れっ子のムード派二枚目弁士・茂木貴之(高良健吾)、そして、少年時代から山岡に憧れ、念願叶って青木館で弁士になった染谷俊太郎(成田凌)

それぞれのキャラクターのみならず、弁士の語りのスタイルも異なるところは、演出の芸が細かい。澱みなく流暢に語るだけでなく、その声量・抑揚・間合いの取り方など、それぞれ違う弁士の指導を受けた甲斐あって、個性が出ている。

活動弁士という仕事は、歴史の中でどうしても影をひきずる。やがてくるトーキー全盛の時代のなかで、淘汰される職業だからだ。

私の記憶にある初めて弁士がでてきた映画は横溝正史の『悪魔の手毬唄』だったと思うが、やはり時代の波で失業している。

本作ではそこまでの時代を描いていないので、まだ弁士は花形のままである。終盤でスラップスティックな笑いをとる方向に持っていく手前、この時代の選び方は正解だと思う。

もっとも、そんな時代の匂いを鋭敏にかぎ取っているのが、山岡秋声。

いい映画には語りはいらない。弁士には映画は必要だが、映画は弁士などいなくても成り立つのだと、彼は気づいているのである。飲んだくれだが、思慮深い。

主演の二人とそれを支える豪華俳優陣

主演の成田凌は、ここ最近の活躍でも『スマホを落としただけなのに』の怪演から、『愛がなんだ』『さよならくちびる』と、幅広い役を卒なくこなす役者としての器用さを感じる。

ルックスだけではない役者としての成長性を感じるし、本作でもその才能を強く感じ取れる。

相手役の黒島結菜にとっても、成田同様に本作は代表作のひとつになると思う。

それなりのキャリアを重ねているのに、まだ女優になりきれていない心の迷いのような部分を、逆に監督に買われてオーディションを通ったと聞く。確かに、その辺の危なっかしい魅力と、キリリとした眼差しが、本作でのヒロイン役にマッチしていた。

その他、本作の出演者勢は前述した活動弁士たちのほかにも、出番も控えめな名監督二名に山本耕史池松壮亮、警察官に竹野内豊、ライバルの映画館陣営に小日向文世、井上真央、音尾琢真と個性的な演技派を揃える。

加えて青木館を切り盛りするのは、竹中直人渡辺えりという『Shall We ダンス?』の二人。役名も当時のものを流用する徹底ぶりだ。

更には、上映される無声映画にも、上白石萌音草刈民代など、周防組のメンバーを配している。

竹中直人が過剰な演技で笑わせて、周囲はドタバタの喜劇になって、という展開は周防作品らしくもあるが、けして懐古主義ではなく、主演の二人という若い世代も入れながら、温故知新の作品を作り上げているのだ。

以下、ネタバレありますので、未見の方はご留意願います。

レビュー(ここからネタバレ)

俊太郎と梅子

弁士の名ゼリフを諳んじる少年時代の俊太郎と、女優に憧れる梅子の二人が出逢い、互いを意識し合う子供時代のシーンは、ありきたりではあるが、微笑ましく、また二人が撮影現場に闖入したため、無声映画に登場するといった挿話は面白かった。

この子供時代の、蜘蛛とキャラメルという二つのアイテムは終盤でも登場することになる(容易に想像できたのが難点だが)。怪盗ジゴマもそうかもしれない。

ところで、俊太郎という弁士に憧れるこの青年は、子供時代は菓子は万引きするし映画館にも無銭で潜り込む。それはまだしも、成長してからも、弁士で巡業中に仲間が空き巣に入ると言う手で泥棒の片棒を担ぐ。

また悪気はないにせよ、安田の持っていた悪行で稼いだ大金を持ち去り、天井裏にしまい込んでいるわけで、手放しで立派な人物とはいいがたい。事実、木村刑事に追いかけられる羽目になるわけだし。

(C)2019「カツベン!」製作委員会

そんな俊太郎と梅子は、互いを意識しあう関係ではあったものの、実際に自分の思いを語らい合えたのは、カツベンという形を借りたときのみ。なんとも皮肉であり、また奥ゆかしくもある。

実際、俊太郎が濃厚なキスを交わす相手は、別に存在するわけで。とはいえ、この、俊太郎と梅子が二人で活動弁士をやるシーンは本作において特に抒情的なシーンだ。この後の流れを考えれば、尚更胸に迫る。

さて、なくなってしまったと思われた大金の行方だが、あのように発見されて使われてしまうのは、ちょっと問題ではないのかという気もするが、喜劇だからいいのか。

こういう作品をみると、一度くらいは本物の活動弁士の語りで、映画を観てみたい気もする。それが日本固有の文化ならば、尚更に。

以上、お読みいただきありがとうございました。文庫版も出ているので、ぜひ。