『TOKYO!』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『TOKYO!』今更レビュー|世界で活躍する監督それぞれの東京物語

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『TOKYO!』

ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノ。世界で活躍する三人の才能が、それぞれの視点で描く東京。

公開:2008 年  時間:110分  
製作国:フランス・日本・ドイツ・韓国

©︎Haut et Court

勝手に評点:2.5
 (悪くはないけど)

①『インテリア・デザイン』

スタッフ
監督:    ミシェル・ゴンドリー
原作:    ガブリエル・ベル

キャスト
ヒロコ:   藤谷文子
アキラ:   加瀬亮
アケミ:   伊藤歩
ヒロシ:   大森南朋
タケシ:   妻夫木聡
機械工:   でんでん
ビジネスマン:石丸謙二郎

あらすじ

駆け出しの映画監督の恋人アキラ(加瀬亮)とともに上京したヒロコ(藤谷文子)。高校時代の友人アケミ(伊藤歩)の部屋に転がり込んだ二人は、その後、部屋探しに奔走するが。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ミシェル・ゴンドリー監督といえば『ヒューマンネイチュア』(2002)を連想する奇特な御仁には、次の『メルド』が彼の作品かと誤認しそう。だが、代表作『エターナル・サンシャイン』(2004)の流れを汲むファンタジーとなれば、やはりこっち。

当時、外国人目線の東京・銀座とはこんな感じなのか。田舎から上京してきたカップル、ヒロコ(藤谷文子)アキラ(加瀬亮)。映画監督志望のアキラの自主映画の上映のためにやってきて、そのまま東京で暮らす計画。

旧友のアケミ(伊藤歩)の狭いアパートにしばらく厄介になり、安アパート探しに明け暮れる。

芸術家気取りのアキラには、「キミは志が低い」と見下されるヒロコ。何だかんだ言いながらも難解なSFホラー(劇場でスモークをたく演出)がウケたり、包装のバイトで活躍したりと、アキラは東京に順応していく。

だが、自分には何もないと思い詰めるヒロコ

©︎Haut et Court

2022年に解体された黒川紀章中銀カプセルタワービルが登場したり、無個性な乗用車が見渡す限り並べられた東京都の違法駐車車両の保管場(でんでんが職員)がでてきたりと、面白い切り取り方で東京が描かれる。

極めつけはメタモルフォーゼ。自分が何の役にも立っていないと悲嘆に暮れるヒロコは、身体の向こうが透けて見えるほど薄っぺらい存在になっていき、胸はがらんどうに。

そしてついに、脚はただの棒のようになり、まるでピノキオのようだと思って見ていると、そのままヒロコは背もたれのある木製の食堂椅子になってしまうのだ。

途中、生足が椅子の脚になっているところは精巧な合成なのに、あとはただ路上の椅子に代わってしまう乱暴な編集が斬新。まるで『空気人形』(是枝裕和監督)のようなローテク処理が楽しい。

椅子がたまに全裸のヒロコに戻るところも妙に色っぽい。藤谷文子、あのスティーヴン・セガールの娘さん、三井のリハウスガールもやってた正統派美少女でした。

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「東京はずっと雨続きで大洪水に見舞われていた。被害額は…」などと冒頭にアキラが語るフィクションの内容がまるで『天気の子』じゃないかと思っていたら、しまいにはヒロコが椅子になってしまい、今度は『すずめの戸締まり』かよ。新海誠は本作から何かインスパイアされているに違いない。

椅子になったヒロコは、最後には通りすがりのミュージシャン(大森南朋)に拾われ、男の音楽教室でようやく自分が誰かの役に立っている実感を得るのだった。

不思議なファンタジー。オムニバスの短編らしく物語を放り投げて終わる感じも嫌いじゃない。

©︎Haut et Court

②『メルド』

スタッフ
監督:      レオス・カラックス

キャスト
メルド:       ドニ・ラヴァン
弁護士:  
    ジャン=フランソワ・バルメール
担当検事:         石橋蓮司
次席検事:         北見敏之
拘置所長:         嶋田久作

あらすじ

神出鬼没の謎の怪人として世界各地を騒然とさせていたメルド(ドニ・ラヴァン)が、東京にも出現。やがて彼は警察に拘束されるが…。

今更レビュー(ここからネタバレ)

メルドとはフランス語でのことだと、冒頭にタイトルで大胆に教えてくれる。レオス・カラックス監督の『ポーラX』から約10年ぶりの待望の作品がこれかよと、心待ちにしていたファンの落胆の声が聞こえてきそうだ。

いや、序盤の展開は実に面白い。五反田駅近くのマンホールから突如現れた緑衣の怪人メルド。片目が潰れた廃人のような裸足の男は、そのまま銀座の目抜き通りを闊歩し、通行人に手当たり次第に乱暴を働いていく。

流れるのは、お馴染み伊福部昭『ゴジラ』のテーマ曲。演じるのは、カラックスの盟友ドニ・ラヴァン。作品の中での彼の扱いが、回を重ねるごとに過激になっていくようだ。

©︎Haut et Court

いじられる通行人は当然仕込みのエキストラだろうが、延々とメルドが歩く日中の銀座の街、フレームに入る群衆の一体どこまでが俳優なのだろう。

街を散々荒らした後で、メルドはマンホールから地下に戻り、そこに潜伏しては、たまに渋谷の雑踏で手榴弾テロを起こしたり、ムシャムシャと花を食べたりと、意味不明な展開になる。

ニュース番組の女性キャスターがまじめな顔でこの怪人のふざけた騒動を伝える様子は、日本人ならバラエティ番組等で見慣れたもので、目新しさはない。

やがて捕獲されたメルドは謎の言語を話し、それを解する弁護士が海外から招聘され、裁判が始まる。後半の展開は、序盤のインパクトに比べると、消化試合のような凡庸さ

作品としては悪ふざけの域を脱しない。北野武監督が傑作の合間にたまに放つ、スベリまくりのコメディ映画のような空気。

だが、レオス・カラックス監督自身は、本作を案外気に入ったのかもしれない。その後の長編『ホーリー・モーターズ』(2012)では、ドニ・ラヴァンに再びメルドを演じさせ、今度はパリのモンパルナス墓地に出現させる。短編としてのキレは、あっちの方がいい。

TOKYO! | Official Trailer | MUBI

③『シェイキング東京』

スタッフ
監督:    ポン・ジュノ

キャスト
男:      香川照之
ピザ配達人:  蒼井優
店長:     竹中直人
引きこもり:  荒川良々

あらすじ

10年間ずっと家から一歩も出ずに引きこもり生活を続けてきた男性(香川照之)はピザ店で働く少女(蒼井優)とふと視線が合い…。

今更レビュー(ここからネタバレ)

最後にくるのはポン・ジュノ監督の本作。10年間引きこもりの男を香川照之が演じる。親元に暮らすのではなく、独り暮らしの引きこもり。

食生活はすべてデリバリーに依存しているのがユニークだ。不潔感は全くなく、ヘアスタイルもなぜか短髪、部屋の中は不気味なほど整理整頓されている。トイレットペーパーの芯がトイレの個室にきれいに積まれているのが凄い。

配達員と目さえ合わせられないこの男が、いつも来るピザ配達の女のガーターベルトに驚き、ちょっと顔を上げてしまい、10年ぶりに他人と目が合う。だが、その直後地震が起き、女は卒倒する。

©︎Haut et Court

なんとも、冒頭から目が離せない展開。物は多いのに何もかもが美しく整理されている部屋の造作がすばらしい。

さんざん焦らしてやっとカメラが蒼井優の顔をとらえるのも心憎いし、天井まで積まれたピザの空き箱の一つだけが逆さになっていることを彼女が指摘するやりとりもいい。

ピザ屋の女の子に恋心を抱くようになる男だったが、皮肉なことに、彼女は男の完璧な生活に刺激を受け、自分も引きこもり生活に入ってしまう。

引きこもりが引きこもりに会うためには、どちらかが外に出なければならない。一歩玄関から炎天下の外に出ることが、どれだけ力仕事なのかというのが伝わってくる。

©︎Haut et Court

電源ボタンのTATOOがある彼女は、はたして人間なのかどうかも想像が膨らむ。色っぽいアンドロイドか。蒼井優『ロマンスドール』(2020、タナダユキ監督)でラブドール役を演じてたなあ。

そうなると連想するのは『空気人形』(2009、是枝裕和監督)のペ・ドゥナ。彼女がブレイクしたのはポン・ジュノ監督のデビュー作『ほえる犬は噛まない』(2000)。おお、なんとなく繋がった満足感。

三者三様のオムニバスはどれも意味不明なファンタジーだったが、トリに持ってきた本作の出来が一番良い。最初と最後に登場する作り物の東京の夜景は、タモリ『今夜は最高』みたいで懐かしい。