『さよならくちびる』 考察とネタバレ:女性ユニット<ハルレオ>の歌詞がじんわりと沁みてくる

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さよならくちびる』 

小松菜奈と門脇麦の女性デュオ「ハルレオ」の解散ツアーを追うロードムービー。成田凌を挟んだ不思議な三角関係。あいみょんと秦基博の楽曲がハマる。

公開:2019 年  時間:116分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本: 塩田明彦
音楽:    きだしゅんすけ
主題歌「さよならくちびる」
   歌:ハルレオ 作詞作曲:秦基博
挿入歌「誰にだって訳がある」「たちまち嵐」
   歌:ハルレオ作詞作曲:あいみょん

キャスト
ハル:    門脇麦
レオ:    小松菜奈
シマ:    成田凌
対バン相手: 篠山輝信
番組MC:   松本まりか
ファンの娘: 新谷ゆづみ
       日髙麻鈴

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2019「さよならくちびる」製作委員会

あらすじ

インディーズ音楽シーンでにわかに話題を集めただけの二人組女性ユニット「ハルレオ」のハル(門脇麦)とレオ(小松菜奈)は、それぞれの道へ進むため解散を決める。

二人はサポート役であるローディー兼マネージャーのシマ(成田凌)とともに日本縦断の解散ツアーに出る。複雑な思いを胸に秘めながら、各地でステージを重ねていくハルレオだったが……。

レビュー(まずはネタバレなし)

ハルレオ、解散するってよ!

路上で並んでギターを弾き歌い始めてから、ライブハウスを埋めるまでの人気を集め、インディーズで注目されだした女性デュオ「ハルレオ」

だが、そのハル(門脇麦)とレオ(小松菜奈)に、ローディーのシマ(成田凌)が冒頭で確認する。
「二人とも本当に解散の決心は変わらないんだな? 最後のツアーだけはやりきれよ

まさに全国7都市を回る解散ツアーに出発するところから、物語は始まる。険悪なムードのハルとレオ、車内に充満する居心地の悪さ、解散に至った理由は何なのか。

ろくに会話もしない二人だが、立ち寄った給油所でナンパされた男のクルマにさっさと乗り換えるレオ。

初日のライブハウスには遅刻して登場。ステージには二人トレードマークのツナギ姿にアコースティックギター。背後でシマがタンバリン。ここでようやく、最初の曲が演奏される。

実力派の若手女優として活躍する門脇麦小松菜奈が、こんなにきちんとギターを弾いて歌いまくるとは思っていなかった。

ピアノ演奏とは違い、ギターの場合は撮影でごまかしやすい気もするが、それでも見た目では二人の息もギターストロークもバッチリ合っているし、何より歌がうまいし、聴いていて心地よい

(C)2019「さよならくちびる」製作委員会

楽曲提供は秦基博とあいみょん!

秦基博が楽曲を提供した「さよならくちびる」あいみょんによる「誰にだって訳がある」「たちまち嵐」

ハルレオの音楽性や世界観にドンピシャのこの曲が、映画の中では渡り歩くライブハウスで何度も何度も繰り返される。だが、不思議に聞き飽きることはない。

ハコの入り口に置かれる二人のCDをつい買いたくなるが、実際に「ハルレオ」としてミニアルバムのCDが発売されているのは嬉しい。

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女性シンガーとギターかぁ。これで路上にあぐらで座ると『タイヨウのうた』のYUI、女子二人なら『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』の南沙良と蒔田彩珠もいたな。ユニット名は「ハルレオ」じゃなくて「しのかよ」だったけど。
塩田明彦監督は、『害虫』『カナリア』の頃の初期作品の印象が強いせいか、この手の音楽系の映画を手掛けるとは意外だったけれど、本作はとてもいい感じにまとまっている。

解散ツアーのロードムービー、それも定番の男女2:1とは違う、成田凌を挟んでの女子二人のトリオ構成だ。

波乱が起きないはずがないが、単純な男の取り合いにはなっていない脚本の面白さ。そして、随所に挿入した回想シーンにより、それぞれの心理状態を少し複雑に見せている。

心の内面など二元論で語れるものではないが、その単純ではない女ごころを、変に整理せずに感じたままさらけ出しているところが新鮮に感じられる。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

片想いの三すくみ

ハルレオの二人が出会ったのは、バイト先のクリーニング工場。上司に叱られ、むくれていたレオを、ハルがいきなり「ねえ、音楽やらない? あ、やっぱ忘れて」と誘う。そこから二人は親密になる。

ハルに教わり懸命にギターコードを覚えるレオの姿が、微笑ましい。すぐにプロレベルになってしまうのは不自然な気もしたが、レオの歌声はハルが惚れこむほど曲に合っている。

二人ならばうまく続いたかもしれないユニットに、シマが参入したことで微妙に人間関係がこじれていく。

シマは過去にはバンドミュージシャンで女癖も悪い元ホストの男だったが、ローディとなってからは、マジメに仕事に打ち込んでいた。

シマはハルの曲と詩のセンスが好きで、この職に応募したのだ。そして秘かにハルに思いを寄せている

だが、シマはハルの苦しみを知っている。ハルの初恋の相手が女性だったこと、そして自分の家族に同性愛者であることをカミングアウトできていないことを。

(C)2019「さよならくちびる」製作委員会

レオもまた、知っていた。レオにとってハルは憧れだったが、そんなハルが自分に恋愛感情を抱いていることを。だがそこにシマが現れてきて、レオの心を奪ってしまう

こうして三人はありがちな三角関係ではなく、それぞれが片想いの三すくみ状態に陥ってしまったのだ。

この関係のまま、三人は浜松、大阪、新潟と解散ツアーを消化していく。解散を公表せずにライブハウスを回っていくが、この先の予定がはいらないことで、ファンの間には解散のうわさが拡散していく。

少ない出番でも印象に残る共演者

ロードムービーということもあり、クルマで移動する三人を除いては、基本的にワンシーンのみの出演者だ。だが中には、出演時間のわりに印象に残るキャストもいる。

例えば、音楽番組のMCを務める女性(松本まりか)

インディーズで注目のハルレオをゲストに迎え紹介するが、本人はハルの曲と詩の大ファンらしく、終始彼女を持ち上げっぱなし。間に挟まれたレオは無視され続け、不機嫌そうに撮影途中で退席する。

レオ自身、才能豊かなハルに対して自分には何もないという劣等感に苛まれていたが、この無神経なMCに傷をえぐられた格好だ。

ハルレオを追いかけるファンの高校生の女子二人も印象的だった。

演じる新谷ゆづみ日髙麻鈴はともにアイドルグループ「さくら学院」の元メンバーということで、私はあまり明るくはないが、たしかに一般ピープルのようにはとても見えない、オーラがある。

ただ、熱狂ファンとして音楽番組の路上取材で口ずさむ歌が本格的にうますぎて、かえって悪目立ちしてしまった気もする。夜の函館の港のベンチでこの二人がハルレオを聴いているシーンは、美しかったけど。

私たちの歌を手離します

「レオがボロボロになるとこ、見たくないんだ」
ハルに優しい言葉をかけられたレオは、
「あんたにそんなこと言われると、ますます負け犬になるんだよ!

レオにつきまとうDV男と殴り合って、シマが入院してしまう。「レオは、シマと付き合えばいいというハルにレオは、「できるもんならそうしたいよ。でも、あいつが命賭けて戦ったのは誰の為?」

一方で、キスを迫ってきたシマに、ハルは言う。「あんたに同情されると、ますますみじめになる」

三人とも、自分の置かれた境遇を理解し、そして苦しんでいるのだ。

(C)2019「さよならくちびる」製作委員会

そうして、ラストを飾る函館のライブハウスに到着する。すでに三人での最後の食事は済ませていた。あとは、ここで完全燃焼して、みんな他人になるだけだ。

撮影の四宮秀俊、照明の秋山恵二郎には、『きみの鳥はうたえる』で馴染みのある函館ロケだが、今回は同作にはなかった観光地的ショットが入る。今回は地方巡業者の目線だからむしろ自然か。

互いに信頼関係はあっても、もつれた感情から普段は目線を合わすことも避けるハルとレオの二人だが、最後のステージだけは悔いなく終わらせたい。

「私たちは、私たちの歌を、今日手離します」

いつものセトリで、いつものノリで、ギターも歌もピッタリのハルレオの熱唱を、まるでライブビューイングのように聴いてしまう自分がいる。

さよなら、くちびる。夜明けの東北道を東京に向かう三人の目には、何が見えているのだろう。