『WE ARE LITTLE ZOMBIES』 考察とネタバレ:こいつらはゾンビより怖い世代かも

スポンサーリンク

『ウィーアーリトルゾンビーズ』 
 WE ARE LITTLE ZOMBIES

両親を失った中学生がバンド結成。ゾンビのように感情起伏のない少年少女の会話のキレと情報量に圧倒。はじめは拒絶反応を示すが、脳内変化が30分後位から始まり、映画が終わる頃には禁断症状(個人差あります)。

公開:2019年  時間:120分
製作国:日本

スタッフ
監督:    長久允

キャスト 
ヒカリ:  二宮慶
イシ:    水野哲志
タケムラ: 奥村門土
イクコ:   中島セナ
望月悟:   池松壮亮

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS

あらすじ

火葬場で出会った、両親を亡くしても泣けない4人の少年少女。ゾンビのように感情を失った彼らは自分たちの心を取り戻すため、もう誰もいなくなってしまったそれぞれの家を巡りはじめる。

やがて彼らは、冒険の途中でたどり着いたゴミ捨て場で<LITTLE ZOMBIES>というバンドを結成。

そこで撮影した映像が話題を呼び社会現象まで巻き起こす大ヒットとなるが、思いがけない運命に翻弄されていく。

レビュー(まずはネタバレなし)

はじめは、誰もがこのノリに戸惑うはずだ

ゾンビというのは感情をなくしている少年たちの比喩であって、いわゆるゾンビ映画ではないので念のため。

親を亡くした少年たちが出会って、バンドを結成し一世を風靡するさまが描かれる。

こう書くと、熱いロック魂がほとばしりそうな映画に思えるが、メンバー全員がゲーム世代のシニカルな連中につき、基本は終始冷ややか。夢とも感動とも無縁だ。

とにかく会話の速度と情報量がものすごく、それに脳内変化を起こしそうな音楽の洪水を、2時間ぶっ通しで感情の起伏なく進めていくのが、これが長編デビュー作だという長久允監督、何とも恐るべし。

ベルリン国際映画祭ジェネレーション(14plus)部門でスペシャル・メンション賞(準グランプリ)、サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマティック・コンペティション部門で審査員特別賞オリジナリティ賞を受賞。

いやはや、輝かしい実績だが、正直、独特のノリに前半30分くらいは順応できていない。
「今どきの中学生はしょうがねえなあ」的な目線で、少し距離を置いて観ていた。

でも、だんだん体が毒されてきて、結局全部観終わるころには、彼らのテンポよく打ち込まれる会話や耳に残るバンドの曲に、すっかり適応。

それどころか、つい続けて二回目も観てしまうと、これはもう中毒性があるようでコワイ。

(C)2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS

こんなに悲しいバンドメンバー経歴を他に知らない

キャスティングは、「スタンド・バイ・ミー」よろしく4人の少年少女。

  • ボーカル:ヒカリ(二宮慶多)…両親を旅行中の長距離バス事故で亡くす
  • ドラムス:イシ (水野哲志) …両親を中華の料理中にガス爆発で亡くす
  • ベース:タケムラ(奥村門土)…両親を借金を苦にした自殺で亡くす
  • ピアノ:イクコ(中島セナ) …両親をストーカーピアノ教師に殺される

ぶっちゃけ、こんなに悲惨なプロフィール紹介、見たことないが、ヒカリ役の少年は『そして父になる』の、あの男の子だ。もう中学生かあ。

あと紅一点のイクコ役の子は、メチャクチャ存在感ある。男子へのダメ出しにキレがあって。彼女なしでは、映画として成立しなかったかも。

基本的に四人の話なのだが、なぜかワンシーンしか出ないようなチョイ役が、恐ろしく豪華だ。
ざっと挙げるだけでも、佐々木蔵之介、菊地凛子、西田尚美、村上淳、永瀬正敏、利重剛、工藤夕貴、佐野史郎、渋川晴彦、池松壮亮、その他書ききれない(順不同)。


これはどういうカラクリだろう、電通のチカラ? 監督の人徳? 

よくわからないが、まともに役を与えられていたのは、池松壮亮くらいだった。あとの俳優さんは、印象薄い。これは資源の無駄使いじゃないか?

レビュー(ここからネタバレ)

次々と撃ち込まれる名言を聞き逃すな

ストーリーについては、細かく触れないが、長久允監督の思い入れというかこだわりが、それはもう存分に伝わってくる。

少年たちの会話は小ネタ満載だが、例えば三木聡監督とかが好むような本筋から離れるギャグではなく、彼らのキャラクターや心象を語るうえで意味のある小ネタだ。
(誤解がないように言っておくが、三木聡の場合はそこがいいのである)

余計なお世話だろうが、私のお気に入りのネタをいくつか勝手に列挙させてもらうと、

  • ヒカリの母が最期に残した遺書は「チンして食べてね」のメモ
  • 霊柩車のクラクションに驚いてヒカルが遺影を落としてガラスを割る
  • 牛乳は愛! 愛は白い! のパンクな歌の絶唱
  • クラスのみんなが書いた「死ね」の落書きの中に一つだけ「SHINE」が輝く
  • カフカの『城』の話をきいて「永遠にたどり着かないなんて、クソゲーじゃん

などなど、ちょっと思い出してもこのくらいはすぐに。

イクコが言い放つ名言も多い。

  • 現像? 写真撮りたいだけだし。現像して思い出したら、思い出になっちゃうし。
  • (色盲で信号が分からないヒカルに) 信号なんて、感じたほうでいいのよ。
  • 男ってみんな、マザコンだよね。

それから、コンビニ店内のメロディに乗せた
「月の光、届かない~。悲しくても、つらくない~」
も、名言というのか分からないが、ぴったりすぎて耳から離れない。

(C)2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS

映像や音楽センスも小ネタに負けていない

本作はゾンビ映画ではないのだが、ひとつだけ、ゾンビのようなシーンがある。

少年たちではなくて、歩きスマホで暗い駅構内を動き回る大人たちの群れが、まるで彼らを追いかけるゾンビのようなのだ。ここにも監督のセンスを感じた。


監督がゲームの世界にこだわっているのは、ポスターの粗いフォントはじめ随所から読み取れるが、あまり詳しいほうではないので、きっと多くのネタを見過ごしているのだろう。

でも、これだけ多くの出演者がいるのに、似たようなゲームネタ満載の『勇者ヨシヒコ』とほとんど被っていないのは、意識的に避けたのだろうか。

音楽もとてもこだわっている。バンドが演奏する曲は勿論だが、それ以外の挿入曲も、結構大量に流されているように思う。

バンドの演奏する曲も、ボーカルだけ聴いていると中学生の歌なのだが、結構緻密な計算が裏にあるに違いない。

エンドタイトル後に1カットあったのでお見逃しなく。夢落ちってことなのか?

まあ、ここまで魅せられると、どっちでも全然関係ないので、気にならないが。いや、満足、満足! 意外と哲学的な面も多い、侮れない作品だった。