『黒牢城』
黒沢清監督初となる時代劇は、米澤穂信の直木賞原作の映画化。本木雅弘と菅田将暉の渾身勝負。
公開:2026年 時間:147分
製作国:日本
スタッフ
監督: 黒沢清
原作: 米澤穂信
『黒牢城』
キャスト
荒木村重: 本木雅弘
黒田官兵衛: 菅田将暉
千代保: 吉高由里子
荒木久左衛門: 青木崇高
郡十右衛門: オダギリジョー
乾助三郎: 宮舘涼太
雑賀下針: 柄本佑
秋岡四郎介:ユースケ・サンタマリア
瓦林能登入道: 吉原光夫
北河原与作: 坂東龍汰
中西新八郎: 近藤芳正
池田和泉: 矢柴俊博
野村丹後: 木原勝利
伊丹一郎左衛門: 河内大和
森可兵衛: 吉岡睦雄
雑賀孫六: 渋川清彦
高山大慮: 渡辺いっけい
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
荒木村重(本木雅弘)は織田信長の暴虐なやり方に反発して謀反を起こし、有岡城に立てこもる。
織田軍に包囲され孤立無援となった城内で、村重は血気盛んな家臣たちを抑えつつ、妻・千代保(吉高由里子)を心の支えに、城と人々を守ろうと苦心していた。
そんな中、城内で少年が殺害される事件が起こり、その後も怪事件が続発する。容疑者は密室と化した城内にいる家臣や身内の誰かで、城外には敵軍、城内には裏切り者という状況に、誰もが疑心暗鬼に陥っていく。
追い詰められた村重は、信長の使者として説得に訪れ牢に囚われた天才軍師・黒田官兵衛(菅田将暉)に協力を仰ぎ、事件の解決に挑む。
レビュー(ほぼネタバレなし)
黒沢清監督が時代劇
直木賞はもとより「このミス」をはじめ4大ミステリランキングを制覇した米澤穂信の同名時代小説が映画化されるだろうことは容易に想像できたが、メガホンを取ったのがまさかの黒沢清監督。これには驚いた。監督初となる時代劇である。
勿論、黒沢監督がホラーじゃない作品を撮ることに何ら支障はないし、実際これまでにも何本かはその手の作品を手掛けている。
今回の映画化だって、手練れの黒沢監督だけあって、原作の面白さを損なわないように手堅く仕上げているとは思った。でも、何かが物足りない。
やはり、黒沢清に期待するものはこういうお行儀のよい時代劇ミステリーではなく、不穏な空気が漂って不気味にカーテンがはためくモダンホラーなのだよ。そう思ってしまうのは私だけだろうか。
例えばデヴィッド・リンチ監督の『ストレイト・ストーリー』は老いた兄弟を描いた心温まる人情ものの佳作だが、自身の作風とはかけ離れた異色作だった。
世間はリンチ監督にハートウォーミングな話など求めていなかったから、戸惑ったはずだ。この映画にも同じことがいえる。
時代劇は御大の木村大作監督にでも任せて、黒沢清監督には彼にしか撮れないものに専念してほしいのに。というのが、極めて個人的な思いである。
荒木村重と黒田官兵衛
荒木村重(本木雅弘)が織田信長に謀反を起こし、有岡城に立てこもる。謀叛を止めるよう説得に訪れた軍使、黒田官兵衛(菅田将暉)を、村重は地下の土牢に監禁する。
「自分を生きて帰還させないのならば、さっさと首を刎ねよ」と訴える官兵衛。このまま監禁されては、寝返ったと疑われ、幼い息子の長寿丸が信長に殺されてしまうではないか。
このあたりは大河ドラマ『軍師官兵衛』でも見覚えのある場面だ。裏切者のイメージが強い荒木村重だが、本木雅弘の起用で、相当頼もしい武将に見える。
一方、黒田官兵衛役の菅田将暉も適材なのだが、現在の大河『豊臣兄弟!』で竹中半兵衛という、同じ軍師役を演じているので少々紛らわしい。

籠城した有岡城では春夏秋冬、次々と怪事件がおこり、家臣たちの動揺を招きかねないと悩んだ村重が地下牢に出向いては、官兵衛の知恵を借りる。このような流れで、物語は進んでいく。
映画の舞台はほとんどが有岡城内だが、天守閣をはじめ城の撮り方もうまいし、松竹のスタジオに巨大セットを組んだという地下牢も見事な出来だ。ただ、そこに不気味さは乏しい。
地下牢で両手両足を繋がれ廃人同然となった官兵衛に、よい知恵はないかと村重が直々に教えを乞いに行くのだから、関係性は『羊たちの沈黙』のレクター教授とクラリスに近い。
ならば、徹底的に不気味な雰囲気にできたと思うのだが、今回はそっちには行かないらしい。

本木雅弘と菅田将暉
村重が官兵衛に相談に行き、何かヒントが与えられると、村重はさも自分の手柄のように家臣たちに謎を解明してみせる。回を追うごとに、地下牢での官兵衛の待遇が改善していくのには笑。
- 寝返った武将の息子を何者かがどうやって弓矢で殺したか。
- 敵大将の首を取ったのはどの家臣か。
- 使いの僧侶を殺して高価な茶壷を盗んだのは誰か。

ひとつひとつの謎は官兵衛によって明かされるものの、それぞれが繋がることで、一連の怪事件もつ意味が導き出される。この構造は原作由来ではあるが、映画でも十分生かされている。
ただ、純粋に時代劇目線でみると、ちょっと難があるかな。本木雅弘演じる村重は良かった。髭を触る仕草に三船敏郎を彷彿とさせる瞬間もあり、所作も美しいのは流石。
一方、菅田将暉演じる官兵衛は囚われの身ゆえ、安楽椅子探偵にならざるを得ない。小説ならよいが、映画としては決定的に躍動感に欠ける。菅田将暉は好演するも、こればかりは如何ともしがたい。

キャスティングについて
個人的に気になったのは、村重の家臣たちのキャスティングだ。この作品は敵将がほとんど登場しないので、メインキャストの村重とその妻・千代保(吉高由里子)、官兵衛以外はほぼ村重の家臣といっても過言ではない。
その中でも、腹心の荒木久左衛門(青木崇高)や、頼もしい郡十右衛門役(オダギリジョー)あたりまではよかったが、他の家臣たちがひとり残らず名前の売れた役者ばかりで、ちょっとうるさく感じた。
全員が雁首並べて座っているところに、近藤芳正、矢柴俊博、ユースケ・サンタマリア、『8番出口』の河内大和、吉岡睦雄、劇団四季の吉原光夫、若手では坂東龍汰にSnow Manの宮舘涼太。
家臣の中でもちょっと派閥が分かれるのが、雑賀衆の柄本佑、渋川清彦、そして対立する高槻衆の渡辺いっけい。

いや、みんな個性的でいい俳優揃いなのだけれど、なかにはすぐに死んじゃう者やカメオ出演程度の役もいて、ここまで売れっ子で固めなくても良かったんじゃないか。
大河ドラマや北野監督の『首』じゃないんだから、全員人気者俳優では、落ち着いて物語に集中しにくい。
◇
戦国時代の映画にしては、合戦のシーンが殆ど登場しない点や、殺陣はあっても割と控えめな点は、原作の内容からすれば仕方ないところなのかもしれないが、エンタメ時代劇として観れば、やや物足りない気がする。
とはいえ、齢70歳にして新境地を切り開いた黒沢清監督の情熱には、頭が下がる。今度は本木雅弘主演でホラー撮りましょうよ。
