『パニック・ルーム』
Panic Room
デヴィッド・フィンチャー監督がジョディ・フォスター主演で贈る家庭内籠城作戦。
公開:2002年 時間:112分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: デヴィッド・フィンチャー
キャスト
メグ・アルトマン: ジョディ・フォスター
サラ: クリステン・スチュワート
ジュニア: ジャレッド・レト
バーナム: フォレスト・ウィテカー
ラウール: ドワイト・ヨアカム
スティーブン・アルトマン:
パトリック・ボーショー
勝手に評点:
(悪くはないけど)

コンテンツ
あらすじ
夫と離婚し、マンハッタンの豪華なタウンハウスに引っ越してきたメグ(ジョディ・フォスター)と娘のサラ(クリステン・スチュワート)。
そこには、換気装置や独立電話回線、家中を監視するモニターが備わった非常時用の隠し部屋“パニックルーム”があった。
引っ越した直後のある夜、屋敷の元の持ち主が隠した財産を狙い、強盗一味が忍び入ってくる。異変に気付いたメグはサラを連れ、パニックルームに身を隠す。
だが、一味の狙う財産はまさにそのパニックルームに隠されていた。
今更レビュー(ネタバレあり)
フィンチャーの蹉跌
監督本人が不本意な作品としている『エイリアン3』を除けば、『セブン』、『ゲーム』、『ファイト・クラブ』と快調に作品を撮ってきたデヴィッド・フィンチャーだったが、この作品はちょっと期待外れだったように思う。
サスペンスとバイオレンスを独自の感性で両立させてきた、これまでのフィンチャーの様式美が、この作品からは感じ取れないのだ。
◇
全編のほとんどがマンハッタンのアパートの中、それも主人公の母娘は狭い部屋におり、登場人物も6名程度という小ぢんまりとした設定は、確かにフィンチャーっぽくはない。
だが、問題はそこではなく、この作品が本気で観客を震え上がらせようとしていない点がひっかかるのだ。
◇
導入部分はとてもいい。マンハッタンのビルを背景に、タイトルや俳優のクレジットが宙に浮かびあがる演出とクラシカルな雰囲気の音楽。ヒッチコック監督作品を思わせる。
不動産屋に連れられて物件の内見をするのは離婚したばかりのメグ(ジョディ・フォスター)と娘のサラ(クリステン・スチュワート)。亡くなった資産家の住んでいた豪華なタウンハウスを手に入れる。
いかにも何かが起きそうな、大きな屋敷に娘と二人暮らし。ホラー映画の雰囲気十分。まるで、前年公開のニコール・キッドマンのサスペンスホラー『アザース』のようだ。
当初主演予定のニコールが怪我で降板しジョディ・フォスターに落ち着いたわけだが、交代がなければ二番煎じ扱いされていたかもしれない。
犯人はズッコケ三人組
さて、何かが起こりそうなところまでは怖かったのだが、いざ起きてしまうと途端に怖くなくなる。
この屋敷には元オーナーの遺産が隠されており、その相続人の一人である甥が、仲間を連れて遺産を盗みに来たのだ。
空き家のはずが母娘の暮らしていることに驚くものの、後には引けず計画は強行される。この屋敷には緊急避難用の密室「パニックルーム」があり、母娘はそこに逃げ込む。
◇
だが、犯人たちの探す遺産の金庫も、その部屋の中。こうして、母娘と犯人の攻防戦が始まる。犯人は三人組。
- リーダー格は大富豪の甥で計画を立案したジュニア(ジャレッド・レト)
- 警備会社勤務でパニックルームの構造にも詳しいバーナム(フォレスト・ウィテカー)
- 直前にジュニアが連れてきたスキーマスクの凶悪男ラウール(ドワイト・ヨアカム)
今や『モービウス』で狂暴ヒーローのジャレッド・レトだが、本作のジュニアはプライドだけ高い間抜け男。
フォレスト・ウィテカーも言わずもがなの善人キャラであり、我が子の学費のために共犯となるが厭戦派。不気味なのはラウールだけというズッコケ三人組なのだ。
◇
この顔ぶれだけで、メグとサラに危害が及んだり、まして殺されることなどありえないことがはじめから明白だ。なのでさっぱり怖くない。
そもそも三人もいて、ゆったりと上下移動する自家用エレベーターで逃げる母娘を取り逃がす時点で相当ゆるい。
舞台装置が活かされていない
何とかパニックルームに逃げ込み、籠城する母娘を、犯人たちがあの手この手で攻めてくる。そうはいっても頑丈な作りで外部からは絶対に入れない設定だから、あまりハラハラ感はない。
母娘に反撃ができればいいが、やれることといえば、外部にSOSを発信することくらいで、当然それもなかなか伝わらないのだが、ここも映画としては盛り上げにくい。
メグは閉所恐怖症、娘サラは糖尿病でインシュリン注射が必要と、それぞれパニックルームに閉じこもってはいられない設定にしているのに、あまり有効に活用されていない印象。

本作は全編ほぼ屋敷内からカメラが出ない舞台劇のようになっているが、いっそパニックルームからカメラを出さないくらいの極端な演出でも良かったのでは。
全部屋に監視カメラがついているので、犯人の様子も伝えられるし。低予算映画なら、そういう奇策に出られただろう。
部屋から出られる、或いは外部に電話が通じるといった場面で得られるはずの解放感・安堵感が本作にはない。パニックルームという舞台装置が活きていないからだろう。
◇
後半、メグは携帯電話や娘に必要な注射を取りに行ったりで、犯人の隙をついて何度かパニックルームから外に出る。そういう展開がないと物語に変化が生まれないのだ。

メグが部屋を出ている間に犯人たちが娘とともにパニックルームに入ってしまうのは予想外だが、ここでもフォレスト・ウィテカー演じるバーナムが善人ぶりを発揮。
善人キャラは不要だった
知性派が売りのジョディ・フォスターにしては、今回は随分とバストを強調した露出度の高い服だと不思議に思ったが、当時彼女は妊娠していたので、胸が目立ったらしい。
さすがにお腹が膨らんでいることは分からなかったが、そうならないように、撮影は急ピッチで進めたとか。
娘サラを演じたのが、その後『トワイライト』シリーズでブレイクするクリステン・スチュワートだったとは、今回初めて知った。
◇
映画は終盤、犯人たちも仲間割れでまずジュニアが射殺され、母娘から連絡を受けて助けに来た元夫のスティーブン(パトリック・ボーショー)が拉致され、土壇場では深夜に警察まで巡回にきてくれる。
ここで応対したメグに優秀な警官が、「危険な状態なら、犯人に分からないように合図してください」と言ってくれるのに、彼女は騙しとおす。そこは意地を張るところか?

結局最後には、殺されそうになった母娘と元夫はどうにか助かり、一旦は逃げたバーナムが彼女らを助けるために家に戻り、ラウールを射殺する。警察に包囲され、バーナムは逮捕される。めでたし、めでたし。
ソニーピクチャーズはバーナムが救われるハッピーエンドを求めたそうだが、カネ目当ての押し込み強盗犯にそれは違和感がある。むしろ、バーナムを善人キャラにしているのが不自然。
凶悪犯が最後にほんの少しだけ良心のかけらをみせるくらいでよかった。