『ハウス オブ グッチ』考察とネタバレ|本当は怖い、ルージュの伝言

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『ハウス・オブ・グッチ』 
House of Gucci

グッチ創業者一族をめぐる内紛と悲劇。実際におきたスキャンダラスな事件をリドリー・スコット監督が映画化。

公開:2021 年  時間:157分  
製作国:アメリカ

スタッフ  
監督:        リドリー・スコット 
脚本:      ベッキー・ジョンストン
      ロベルト・ベンティヴェーニャ 
原作:      サラ・ゲイ・フォーデン 
      『ザ・ハウス・オブ・グッチ』
 
キャスト 
パトリツィア・レッジャーニ:
             レディー・ガガ 
マウリツィオ・グッチ:アダム・ドライバー 
ロドルフォ・グッチ:
         ジェレミー・アイアンズ 
アルド・グッチ:     アル・パチーノ 
パオロ・グッチ:    ジャレッド・レト 
ピーナ・アウリエンマ: サルマ・ハエック 
ドメニコ・デソーレ:
         ジャック・ヒューストン 
トム・フォード:    リーヴ・カーニー 
パオラ・フランキ:  カミーユ・コッタン

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

(C)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

あらすじ

世界的ファッションブランド「グッチ」の創業者一族出身のマウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)にとって経営参加は魅力的には映らず、経営権は父ロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)と伯父アルド(アル・パチーノ)が握っている状態だった。

そんな中、グッチの経営権を握ろうと野心を抱くパトリツィア・レッジアーニ(レディー・ガガ)はマウリツィオと結婚し、グッチ家の内紛を利用して経営権を握っていく。

しかし、一族間の対立激化と共に夫マウリツィオとの関係が悪化し、夫婦間の対立はやがて事件へと発展していく。

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レビュー(まずはネタバレなし)

事実は小説よりも奇なり

サラ・ゲイ・フォーデンのノンフィクション小説「ハウス・オブ・グッチ」を原作に、リドリー・スコット監督がGUCCI(グッチ)の創業者一族の崩壊を描き出す。

1995年に実際に起きた殺人事件、およびその後の判決結果など、基本的な部分は事実にインスパイアされた内容らしい(基づくとは言っていないのでポスターは言い過ぎ)。

1921年に創業したグッチは、本作公開の2021年に100年目を迎えた老舗ブランドだが、その創業一族にこんなスキャンダラスな出来事が起きていたなんて、まったく知らなかった。当時の私は仕事に忙殺されていて、遠くイタリアの事件の行方などに、関心を払う余裕がなかったのだろう。

本作は一族に起きた内紛や悲劇を、リドリー・スコット監督がドラマに仕立てた作品。けして創業者が苦労を重ねて質の高い革製品を作り続けて、デザインとクオリティ、そしてマーケティングのうまさで世界に冠たるブランドを作り上げたという、偉人伝ではない。

(C)2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

そのため、ブランドに対する敬意や愛情みたいなものは、さっぱり感じられない。もしもグッチを愛する方が、歴史や過去のファッションなどをみて理解とブランド愛を深めたいなどと思っているのであれば、本作は賢明な選択とは言い難い。

だが、創業者一族のドロドロとした内紛と悲劇を、エンタメとして鑑賞したいというのなら話は別だ。

題材が題材だけに、実名で登場する関係者からの本作の評判はあまりよろしくない。それが、古傷をえぐられるような攻撃的な内容だからなのか、事実無根の部分が多すぎるからかは、我々には知る由もない。

ただ、グッチという名は付いていても、あくまでフィクションのドラマだと思って観る分には、そんなことはお構いなしだし、そう割り切れば単純に面白い

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本当は怖い、ルージュの伝言

1978年、ミラノ。グッチは兄アルド(アル・パチーノ)と弟ロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)が共同経営して成功を収めている。

ロドルフォの長男マウリツィオ(アダム・ドライバー)は司法試験を目指し勉強中の学生。堅物で内向的な彼は、家業にも資産にも興味は薄い。

ある晩、マウリツィオは知人のパーティでパトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)と出会う。といっても決して華やかな場面ではなく、バーテンダーと間違えて彼女がマウリツィオ飲み物を注文し、人のよい彼は、自ら作ってあげるのだ。

ここまでは、ありがちながらも微笑ましいボーイ・ミーツ・ガール展開なのだが、名前を聞かれてマウリツィオ・グッチとためらいがちに彼が答えた瞬間から、パトリツィアの中で、やる気スイッチが入る

普段は実家の運送会社で経理仕事を手伝っている彼女だが、上流階級への憧憬が強いのだ。パーティで強引にマウリツィオをダンスまで持ち込んだものの、早々に帰ってしまった彼を翌日尾行し、運命的な再会を装うパトリツィア。

「私をデートに誘わないの?」

そして彼のバイクのフロントガラスに、電話番号をルージュの伝言。さすが情熱の国イタリアの積極的アプローチ。草食系男子など簡単にロックオンだ。

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父よあなたは慧眼だった

交際が始まると、マウリツィオはパトリツィアを厳格な父ロドルフォに紹介する。表向きは和やかなディナーが終わるが、ロドルフォはすぐに「あの女は財産目当てだ。やめておけ」と息子に言い放つ。

普段から父親と反目していたマウリツィオは、家業も資産もあっさり投げ出し、パトリツィアの実家の運送会社で働きながら勉強を続ける。そして、グッチ家と断絶したまま、二人は結婚するのだ。

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過去のしがらみに縛られてばかりのグッチ家に嫌気がさして、愛する彼女のためにすべてを捨てて世間の荒波にもまれようとしている御曹司。「仕事が必要なんで」と彼女の実家に直談判しちゃうマウリツィオの愚直さも好感。

このまま若い二人の行く末を見守ってあげたい気分になってしまうところだが、ちょっといい話はここまでだ。父ロドルフォの兄アルドがようやく登場し、ここからパラダイムシフトが始まる。

アル・パチーノ演じるアルドがいきなりロドルフォに日本語で話しかけてくる。どうやら、御殿場に建設中のモールに出店を考えているようだ。日本人は謙虚で勤勉でリッチ(そう見られていた時代だ)。アウトレット開業は2000年だったけど、随分古くから計画があったのか。

頑固に伝統を守るロドルフォと、商売熱心なアルドは肌が合わない。また、アルドの息子パオロ(ジャレッド・レト)はデザイナーだが、才能はなく父も見放している。

ブランドの維持と繁栄を考えて、アルドはロドルフォが切り捨てたマウリツィオと、その妻パトリツィアに救いの手を差し伸べる。こうして、着々とパトリツィアは、グッチ家の中核の座に近づいていく。

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キャスティングについて

マウリツィオを演じたアダム・ドライバーの変幻自在な演技のうまさは、今更語るまでもない。今回は気弱でまじめそうな青年のまま通すのかと思ったが、後半、夫婦仲が悪くなってからは人格を変えてくる。

リドリー・スコット監督とは、前作『最後の決闘裁判』に続いてのタッグとなり、監督が信頼を寄せるのも分かる演技力だ。ひびの入った夫婦の演技は『マリッジ・ストーリー』(ノア・バームバック監督)に重なる。

だが、今回演技力で驚かされたのは、パトリツィア役のレディー・ガガだろう。多才な人物だが演技力は未知数と思っていたら、『アリー/ スター誕生』(ブラッドリー・クーパー監督)に初主演でいきなり高い評価を得て、そして本作である。

中盤以降に本性を現していく様子は、ファム・ファタールなどというレベルではなく、グッチを着た悪魔のようだ。パトリツィア役には以前マーゴット・ロビーも名前が挙がっていたが、『ジョーカー』の続編ではそのマーゴットの当たり役のハーレイ・クインをレディー・ガガが演じる話もあるそうで。

HOUSE OF GUCCI Trailer (2021)

アルドロドルフォの兄弟役を演じたアル・パチーノジェレミー・アイアンズについては、まあ、絶大な安心感としかいいようがない。

アルドの息子のパオロがビジネスに不向きの人の好いヤツというキャラなので、ついアル・パチーノつながりで、『ゴッド・ファーザーPartⅡ』で彼に殺される気弱な兄のフレド・コルレオーネを思い出してしまった。

パオロを演じたのがジャレッド・レトなのは、本人の要望通りだそうだが、確かに特殊メイクのせいで誰だか分からなかった。グッチといえばモデルもこなすジャレッド・レトを出すということなのだろうが、ここまで作りこんで彼で行く理由があったのかは疑問。

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レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

そして事件は起きる

ネタバレというか史実なのだけれど、父ロドルフォが病死したあと、パトリツィアがあれこれ画策してもう一人の実権者アルドも脱税の罪で失脚となり、そしてパオロもまんまと彼女らにだまされて、虎の子のグッチの株式を手離してしまう

こうして、いつの間にか、マウリツィオはグッチの代表者になっているのだが、面白いのは、パトリツィアがそれを山内一豊の妻のように内助の功で支えるわけもなく、我が物顔で出しゃばってくるところだ。

「グッチは僕の家の名前であって、キミのじゃない。出しゃばるな」
「あら、私だってグッチよ」

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無能な夫に代わって実権を握り女帝になるチャンスを目前にしたパトリツィアは、離婚話を持ち出してきた夫の殺害を企てる。長年懇意にしてきた占い師のピーナ(サルマ・ハエック)を介して、ヒットマンを調達するのだ。

まるでコーエン兄弟『ファーゴ』のようなお粗末な犯罪だが、こうして、あっさりとマウリツィオは凶弾に倒れる。恐ろしき女帝の物語だ。父さんの言った通り、金目当ての女だったじゃないか、マウリツィオ。

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グッチ夫人とお呼びなさい

殺しを依頼するパトリツィアは、これまでの彼女とはまるで別人の性悪女になりきっている。これは見事だ。

ちなみに、パトリツィアが頼る占い師ピーナ役のサルマ・ハエックは、現在創業者一族が身を引いたグッチブランドを支配下に置くコングロマリットのケリング社の社長夫人でもある。

これは風刺が効いているのか、管理が行き届いているのか、気になるところだ。そもそも、この映画がヒットしても、グッチの売上が伸びるようには思えないが。

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逮捕されても、私のことはグッチ夫人と呼びなさいと強気な姿勢を崩さないパトリツィア。映画には出てこないが、獄中でも好条件を次々にもぎ取った彼女は、<不屈のブラックウィドウ>という称号を手にしているという。

当のご本人は、レディー・ガガが撮影の挨拶にこないことにもご立腹のようだが、怖くて近寄りたくない気持ちはよく分かる。

経営手腕とブランドマネジメント能力には、自身で語るようにマウリツィオ以上の資質があったのかもしれないパトリツィアだが、どこかで道を踏み外してしまったのだ。

はたして、彼女が一瞬でもグッチではなくマウリツィオを愛していたことは、あったのだろうか。