『メッセージ』 考察とネタバレ:自宅なら<ばかうけ>食べながら観てほしい、大人のSF

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『メッセージ』 Arrival

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の静謐で格調高いSF映画。未知の生命体と意思疎通を試みる言語学者がついに解明するメッセージとは。その表意文字の美しさは、ユーキャンで学びたくなるくらい。

公開:2017 年  時間:116分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:  ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作:  テッド・チャン
    「あなたの人生の物語」

キャスト
ルイーズ: エイミー・アダムス
イアン:  ジェレミー・レナー
ウェバー: フォレスト・ウィテカー
ハルペーン:マイケル・スタールバーグ
マークス: マーク・オブライエン
シャン:  ツィ・マー

勝手に評点:3.5(一見の価値はあり)

© 2016 Xenolinguistics, LLC. All Rights Reserved.

あらすじ

突如地上に降り立った巨大な宇宙船。謎の知的生命体と意思の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は、物理学者イアン(ジェレミー・レナー)とともに、“彼ら”が人類に何を伝えようとしているのかを探っていく。

そして、その言語の謎が解けたとき、彼らが地球にやってきた驚くべき真相と、人類に向けた美しくもせつないラストメッセージが明らかになる。

レビュー(まずはネタバレなし)

品のある味わいの<ばかうけ>

『ブレードランナー 2049』に先立つドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF映画。地上にそそりたつ宇宙船の造形が、あまりに栗山米菓の<ばかうけ>に酷似していたので、なかなか笑えるコラボポスターが作られたのは記憶に新しい。

主演の言語学者にエイミー・アダムス、その同僚の物理学者にジェレミー・レナー。スーパーマンの恋人とアベンジャーズのホークアイの共演にしては、本作にアクションの匂いはしない。

ひたすら静かで格調高いSFだ。かの名作SF『惑星ソラリス』あたりと似ている線かもしれない。

原作はネビュラ賞を受賞したテッド・チャンによる短編『あなたの人生の物語』。映画よりも更にドラマ性を排除し、考えさせる作品となっている。

無口なアボットとコステロ

さて、本作では突如、世界各地に12隻の宇宙船が飛来する。攻撃も交渉もしてこない。

彼らの目的は何か 各国の政府は対応に苦慮するが、何とか意思疎通を図ろうと、米国政府は二人の学者にミッションを委ねる。

全く言語体系が分からない未知の生命体と、どうコミュニケーションをとるか。そして、彼らは何のために地球にきたのか。本作はひたすらそれを追い求める。

そそり立つ宇宙船、ガラス越しに見る、もやのかかった空間に現れる二体の七脚のエイリアン(ヘプタポッド)、愛称はアボットとコステロ。

そこだけを切り取れば、ローランド・エメリッヒ監督の『インデペンデンス・デイ』のような映画に思える。だが、宇宙人は侵略者であるという固定観念は、本作の前では捨て去ろう。

表情も分からないこの友との出会いは、懐かしきスピルバーグの『未知との遭遇』のようではないか(娘の作るヘプタポッド人形と、『未知との遭遇』のマッシュポテトが重なる)。

この表意文字だけでも賞をあげたい

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映画的な表現で私が魅了されたのは、彼らが使用する円環状の表意文字だ。煙のようなものが空中で文字になり、また雲散霧消する様子の美しさ

当然ながら地球上には存在しない文字体系なわけで、ヘプタポッドのデザインともども、ヒントは原作にあったとはいえ、これは美術スタッフの苦労の賜物だと思う。

『プリズナーズ』『ボーダーライン』で好戦的な印象の強かったドゥニ・ヴィルヌーヴ監督だが、この手の映画も撮れるのだ。さすが多才。

これらの作品で楽曲を提供してきたヨハン・ヨハンソンも、今回はガラリと変わって抒情的で格調高い音楽。これも、調和がとれている。

出演者はそう多くないが、その中でもエイミー・アダムスの独壇場である。共演のジェレミー・レナーも、ウェバー大佐のフォレスト・ウィテカーも、重要な役どころだが、意外と見せ場が少ない。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからはネタバレする部分がありますので、未見の方はご留意願います。

時の流れに縛られて

「あなたの人生はこの日始まったのだと思っていた」
映画はこの言葉で始まる。始めは気づかなかったが、これは原作の題名にちなむ台詞であり、<あなた>とは早逝する娘のハンナのことだ。

Hannahという名は回文になっており、ノーラン監督の『TENET』のように、時の流れと関係がある。

なぜ、彼女は、産まれてきたばかりの娘を険しい表情で見つめているのだろう。

「人は時の流れに縛られて生きていると思っているけど、でも時に流れがなかったら」
ルイーズのこの言葉に、多くのヒントが隠されている。

始めに、娘が産まれてから、若くして病死するまでの回想シーンが登場する。我々は、娘を失ったルイーズが、このミッションを引き受けるのだと思いこむ。

解読作業のプロセスで、何度も娘との思い出がフラッシュバックする。てっきり、シャマラン監督の『サイン』、或いは『クイズ$ミリオネア』のような偶然性の話かと思いきや、物語は意外な方向に着地する。

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非ゼロサムゲーム

ヘプタポッドのメッセージは「武器を提供する」。これに色めき立つ各国の政府。特に中国人民解放軍のシャン上将は、先んじて宣戦布告する。

だが、ヘプタポッドの与える情報は12分の1しかない。つまり、各国で情報を持ち合い、協力し合うことを促しているのだ。

しかし、どの国も情報を遮断し、彼らと敵対しようとしている。ならば米国もデータを与えて各国からデータをもらおう。「ノンゼロサムゲームだ」と、イアンが言う。

「ノンゼロサムゲーム!」 
山口百恵「プレイバックPART2」を引き合いに出すと年がばれるが、今の言葉でルイーズは、娘との会話を思い出す。

だが、彼女は独身。つまり、娘の記憶は、未来の出来事なのである。

時間軸が線形ではない

彼女の未来の記憶が次々とよみがえる。

自らが後日出版する言語学の本でヘプタポッドのメッセージを解読する。未来に中国のシャン上将に出会った時に聞いた彼のケータイ番号と妻の死に際の言葉で、武装解除に成功する。

タカ派の国に中国を選んだのはハリウッド的なのかもしれないが、シャン上将は割と魅力的な人物として描かれていたように思う。

ヘプタポッドの文字には時制がない時間軸が非線形なのだ。彼らは、その文字を<武器>として、人類に提供した。彼らが3000年後に人類から助けられるため、前もっての贈り物として。

地球を取るか取られるかのエメリッヒ的ゼロサムゲームとはまた違う、奥深さがそこにある。

ルイーズはヘプタポッドの言語を学ぶにつれて、未来を認識することができるようになっていた。冒頭で語っていたように、時の流れから解放されたのだ。

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あなたの人生の物語

原作では、この時間軸の話の説明に、フェルマーの原理が使われる。

光は水の中で屈折するが、その経路は、2点間を結ぶ最速ルートになる。2点間を直線で繋いだ方が距離は短いが、水の中で減速するので最速ではない。

だが、光は自ら試しもせずに、なぜ最速ルートが分かるのだろう

これが、時間が非線形で全ての出来事を把握するという真実に誘導する問いかけなのである。映画では割愛されたが、私はこの事例はイメージしやすかった。

なお、映画には、宇宙船に宣戦布告する中国など、原作にない要素が豊富に詰め込まれ、大分風合いが異なる仕上がりになっている。

だがこれは仕方ない。原作まんまでは、商業映画としては成立しないだろう。

私はどちらも気に入ったが、原作は一行一行をしっかり読まないと、良さが伝わらない。つい流し読みしてしまいそうな私には、先に映画の方が、両方を楽しめて良かった気がした。

それでも、この道を選ぶ

さて、自分の残りの人生の全てが分かってしまったルイーズだが、人はそれでも、自分が進むべき道を選ばないことはできないと考えている。

彼女は、この出来事のあと、イアンにプロポーズされる。「こどもは作りたいかい。」そう彼は尋ねる。

短い人生しかない娘のハンナ、そして娘のことで離別してしまう夫。そこにはつらく悲しい未来が待っていることをルイーザは知っている。だが、彼女は迷わない。イアンの求愛を受け入れる

力強くも、切なく、静かな終わり方は、本作のラストにふさわしい。子どもの絵というのは、常に映画の中ではパワーアイテムになるものだ。

以上、お読みいただきありがとうございました。奥深い原作もぜひ。短編集です。