『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』
Tomorrow Never Dies
007シリーズ第18作、ピアース・ブロスナン版ボンドの第2作。ボンドガールにミシェル・ヨーとテリー・ハッチャー。
公開:1998 年 時間:119分
製作国:イギリス
スタッフ 監督: ロジャー・スポティスウッド 原作: イアン・フレミング キャスト ジェームズ・ボンド: ピアース・ブロスナン ウェイ・リン: ミシェル・ヨー エリオット・カーヴァー: ジョナサン・プライス パリス・カーヴァー:テリー・ハッチャー ヘンリー・グプタ: リッキー・ジェイ スタンパー: ゲッツ・オットー カウフマン: ヴィンセント・スキャベリ ウェイド: ジョー・ドン・ベイカー M: ジュディ・デンチ Q: デスモンド・リュウェリン マネーペニー: サマンサ・ボンド
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
中国近海を航行中のイギリス海軍艦が撃沈され、英中間の軍事的緊張が一気に高まる。しかしこの事件は、スクープを狙うメディア王カーヴァーが仕組んだものだった。
諜報部から指令を受けカーヴァーのビルに潜入したボンドは、そこで中国国外安保隊員の女性ウェイ・リンと出会う。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
メディア王との戦い
Tomorrow Never Dies. <明日があるさ>的な意味だろうか、『アニー』や『風と共に去りぬ』の名台詞と同じように。
だが、本作においてTomorrowとは、メディア王のエリオット・カーヴァーが発行する新聞のトゥモロー紙を指す。ということは、仮面ライダーに置き換えれば、<ショッカーは不滅だ>みたいな意味合いになるのかもしれない。
◇
今回の敵はこのカーヴァー(ジョナサン・プライス)。新聞からテレビまで各国のメディアを牛耳るこの男は、あろうことか、自分で大事件を無理やり引き起こしては、誰よりも早くスクープにする。
いわば自作自演、八百屋お七のように火をつけては、火消しを呼ぶ代わりにニュースを撮る。こいつに比べれば、『ナイトクローラー』の報道パパラッチなど、可愛いものだ。
実在の米国メディア王ルパート・マードックがモデルなのだと思っていたが、英国にもロバート・マクスウェルという、メディア王と呼ばれた人物がおり、そちらがモチーフになっているらしい。
前作のゴールデン・アイなる兵器を巡る荒唐無稽な物語よりは、メディア王の悪事は現実的な組み立てといえる気はする。無論、相対的にではあるが。
アヴァンタイトル
冒頭のロシア国境近くでの軍需品の秘密取引市場。取引相手には日本で地下鉄テロを起こした人物まで混ざっていて驚く。
その売買状況を監視していた英国のMI6や軍関係者。英国軍の上層部は拙速にミサイル攻撃を指示し、発射後に現場に核魚雷の存在を知る始末。命中したらチェルノブイリ被害の比ではない。なんというマヌケぶり。
だが、そこに潜入していたボンドは、単身現場を攪乱し、核魚雷を搭載した戦闘機ごと間一髪で脱出する。
◇
アヴァンタイトルの活劇は、まどろっこしい説明も不要で切れ味が良い。しっかりと危険な任務をこなすボンドを見守るM。女上司からの信頼度も前作から向上している模様。
ミシェル・ヨーとのアクロバティック・ライド
本編のアクションとしての大きな見せ場は、手錠で繋がれたウェイ・リン(ミシェル・ヨー)とボンドが二人でサイゴンのカーヴァー・メディア・タワーから逃げ延びるシーンから始まる。
タワーの壁面にかけられた、カーヴァーの顔写真がプリントされた超特大の垂れ幕を引き裂きながら、ビルを落下する二人。
◇
吊るされながらビルの窓を蹴破って逃亡路を作る展開は、『ミッション・インポッシブル』でもお馴染みのものではあるが、製作時期はほぼ同じなので、どちらが本家とも言い難い。
もっとも、前作にもでてきたCIAの気のいい協力者ジャック・ウェイド(ジョー・ドン・ベイカー)の口利きで、ボンドが飛行機からヘイロージャンプするシーンは、後出しとはいえ『ミッション・インポッシブル フォールアウト』に軍配を上げたいけれど。
◇
タワーから脱出し、手錠のままバイクに二人乗りでベトナムの細い市街路を疾走し追っ手を振り切るアクロバティックな逃亡劇は、見応え十分。
アクションができるボンド・ガール
ミシェル・ヨーの万能ぶりが凄い。新華社通信の記者と偽ってみても、信じるやつはいない、中華人民共和国の国外安保隊員ウェイ・リン。
ボンドと組んでの各種アクションは言うに及ばず、MCUの最新作『シャン・チー/テン・リングスの伝説』でもいまだ健在だったカンフーもこなす身のこなし。本作での格闘アクションの盛り上げは、ひょっとするとボンドを上回るかも。
しかも、敵を振り切ったあと、いい雰囲気になって二人で手錠・着衣のままでシャワーを浴びても、自分だけ手錠をほどいて立ち去り、ボンドの口説きに応じないウェイ・リンのカッコよさ。
◇
対照的に、その昔ボンドと親密な関係もあったというカーヴァー夫人のパリス(テリー・ハッチャー)。
「昔の女に近づいて、旦那の情報を取りなさい。いろんなところを突っついて、うまくやるのよ、得意でしょ」
そうボンドに異口同音にいうMとマネーペニー。時代を感じる。
結局パリスは、再会したボンドにメロメロになってしまうが、その手の女性キャラはあっという間に敵に殺されてしまうのが、本シリーズのお約束だ。
今回の敵キャラたち
エリオット・カーヴァーを演じたジョナサン・プライスは、メディア王には見えるものの悪役としての凄みと威圧感はちょっと弱く、品が良すぎる。
むしろ、彼の右腕となっているスタンパー(ゲッツ・オットー)の方が、長身・短髪・細マッチョの風貌に暴力的な性格で、好印象。この悪役のキャラクターを気に入ったのか、その後の『ダイ・アナザー・デイ』でも、似たような悪役ザオが登場する。
本作の舞台はロシア国境付近やロンドン、パーティ会場のハンブルクと、一応いくつかの都市を移動するが、比較的海の上が多い。
ごちゃごちゃした町のイメージを前面にだしていたサイゴンの印象は強いが、撮影当時の20年以上前と今では、だいぶ町の雰囲気が変化してしまったのではないか。
ステルス艦を隠していたベトナムのハロン湾なども、映画の中では天候次第で地元漁師も近づかないなどと、何十年も昔の村の生活が現存するかのような撮り方だった。
当時は正しかったのかもしれないが、数年前に訪れた時には、すっかり近代化された観光地になっていた。
ガジェットについて
今回活躍が目立ったガジェットは、前回いいところのなかったBMWのボンド・カー、初登場のBMW750。
ご老体のQが無傷で返せよといって渡すのは毎度のことだが、AVISレンタカーのスタッフに扮装して、保険の説明とともに引き渡すのは笑った。スマホによる遠隔運転はQには手強い機能だが、ボンドは楽々使いこなす。
◇
クルマはろくに公道を走らないが、立体駐車場で敵を翻弄し、ミサイルからマキビシまで何でも飛び出すフルオプション装備。機械音声のまじめさは、『アイアンマン』のAIに通じる面白さ。
最後は遠隔操作で宙を飛び、そのままAVISの営業所に飛び込んで返車となるとは。このウィットは007っぽい。ボンド・カーとバイクの両方が大活躍で、BMWとしてもニンマリか。
◇
巨大な中国市場を取り込むために、最近の作品は同国の取り扱いに神経を使うが、当時はまだ、いかにも中国風のスパイ道具や漢字だけのキーボード、真っ赤なPCが登場したりと、中国の異文化性を強調しすぎている気はする。
とはいえ、作品全体としては、前作よりはブロスナンのボンドもこなれてきた感じはあり、悪くない。
『ゴールデンアイ』
(1995)
『トゥモロー・ネバー・ダイ』
(1998)
(2000)
『ダイ・アナザー・デイ』
(2003)