『J エドガー』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー(J.エドガー) | シネフィリー

『J・エドガー』今更レビュー|共産主義者からリビングまで掃除はフーヴァー

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『J・エドガー』
 J. Edgar

クリント・イーストウッド監督がレオナルド・ディカプリオと描くフーヴァーFBI初代長官の裏の顔。

公開:2012 年  時間:137分  
製作国:アメリカ
 

スタッフ
監督:     クリント・イーストウッド
脚本:   ダスティン・ランス・ブラック

キャスト
ジョン・エドガー・フーヴァー: 
        レオナルド・ディカプリオ
クライド・トルソン:  アーミー・ハマー
ヘレン・ギャンディ:   ナオミ・ワッツ
アンナ・マリー・フーヴァー: 
            ジュディ・デンチ
リンドバーグ:    ジョシュ・ルーカス
ハウプトマン:    デイモン・ヘリマン
ロバート・ケネディ:   
         ジェフリー・ドノヴァン
リーラ・ロジャース:  リー・トンプソン
ニクソン:  クリストファー・シャイアー
エマ・ゴールドマン:  ジェシカ・ヘクト
エージェント・スミス:
         エド・ウェストウィック

勝手に評点:2.5
      (悪くはないけど)

(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

あらすじ

1924年、FBIの前身である捜査局BOIの長官に任命され、35年にFBIへと改名した後も、72年に他界するまで長官として在任したJ・エドガー(レオナルド・ディカプリオ)

は、カルビン・クーリッジからリチャード・ニクソンまで八人の大統領に仕え、FBIを犯罪撲滅のための巨大組織へと発展させていった。

しかし、多くの功績を残した一方で、時に強引な手腕が物議をかもし、その私生活は謎に包まれていた……。

今更レビュー(ネタバレあり)

なぜにディカプリオなのか?

米国の平和と秩序を守るFBIを作り上げた英雄でありながら、つねに黒い疑惑や、スキャンダラスな噂がつきまとう。

国を守る大義名分のもと、大統領をはじめとする要人たちの秘密を調べ上げ、その極秘ファイルをもとに40年以上にわたり歴代大統領を手玉にとって権力を持ち続けた偏執的な男ジョン・エドガー・フーヴァー

<フーヴァー長官>と呼ばないと、我々日本人にはピンとこないが、タイトルの『J・エドガー』とは、まさにこの人物のことだ。

オリバー・ストーン監督が撮ったジョージ・W・ブッシュ元大統領(息子の方です)の映画も、原題は『W.』だった。政治家の伝記映画はタイトルにひねりを加えるのが、ハリウッド流なのかもしれない。

クリント・イーストウッド監督がレオナルド・ディカプリオ初タッグを組むというだけでも、十分話題性があった。

悪を許さない強い眼差しのレオ様が大写しのポスタービジュアルに、世間はデ・パルマ監督の『アンタッチャブル』エリオット・ネスのような活躍を期待したのではないか。私もその一人だったが、ここまで、エドガーの負の部分をメインにしているとは意外。

(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

というか、レオナルド・ディカプリオ老け顔特殊メイクに気合入れすぎだ。近年でもゲイリー・オールドマンが特殊メイクでウィンストン・チャーチルになりきってオスカーを獲った例はあったが、何もディカプリオをあそこまで老いぼれにすることはない

公私ともにエドガーの善きパートナーだったクライド・トルソンを演じたアーミー・ハマーと、若い頃に颯爽としていた二人が揃って老人となった様子は、まるで浦島太郎が玉手箱を開けたコントのようだ

クリント・イーストウッド監督が特殊メイクに力を入れた理由も、そこにディカプリオを起用した理由も、どうにも釈然としない。

(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

スピード出世のやり手なエリート

本作は、老齢のエドガーがスミス広報官(エド・ウェストウィック)を呼び、回顧録を口述筆記させるスタイルで物語が進んでいく。

当時エドガーは、黒人の公民権運動を主導するキング牧師を共産主義者だと非難していたが、次第に旗色が悪くなり、主張の正当性を高める必要があった。

ここから物語はFBI創設当時の活躍が主体となり、時折老齢となった現在に戻るが、老けメイクのおかげで混乱はしない。

若き日のエドガーが司法省捜査局の新入り秘書ヘレン・ギャンディ(ナオミ・ワッツ)を口説くあたりは、ただの手の早いエリート捜査官にしか見えなかった。

だが、上司のパーマー司法長官の自宅が爆破され、過激派との戦いが激化する中、彼はあっという間に出世していく。

国会図書館の蔵書をインデックス化した経験から、全国民の指紋をデータベース化して犯罪捜査に利用する構想を抱いたり、女性思想家エマ・ゴールドマン(ジェシカ・ヘクト)を逮捕し国外追放するよう仕向けたり、なかなかの強か者だ。

過激派の一斉検挙の後、司法省捜査局の局長代行に若くして任命されたエドガーは組織を粛清し、不適な人材を一掃した。そこに採用したのが、この後長年の付き合いとなるクライド・トルソンだった。

(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

次第に権力を持ち始めるエドガー

回想シーンにおけるエドガーの活躍は、恐ろしく切れ者のようだが、正義感が強すぎると言うか、自分の信念のために、違法な盗聴や摘発など手段を選ばずとことん突っ走ってしまう、彼のキャラクターがよく出ている。

米国を過激派の攻撃から守り、秩序を保った点では多大な功績があったと思える一方で、権力者の情報を盗聴等でかき集めては極秘ファイルを作り、大統領でさえも彼を罷免できないような影響力を持つことに腐心した。

そして、庶民や子供たちにとって、映画のヒーローだったギャングがFBI捜査官に置き換わるよう、世間受けするような武勇伝を次々に引き起こした。空を飛んだ英雄リンドバーグ(ジョシュ・ルーカス)子供の誘拐事件捜査の陣頭指揮を執ったのも、その一環といえる。

非合法な手段もいろいろと駆使しながら、FBIのプレゼンスを高め、自らの権力も確固たるものにしていくこの自意識の強い人物エドガーには、私生活において二つの大きな特徴があった。

エドガーの私生活

ひとつは、クローゼット・ホモセクシャルだったという点。副長官として引き上げたクライド・トルソンとそういう関係にあったことは、手を触れあうなど随所で匂わせている。

ただし、公私混同もなければ、激しく求めあうこともない。節度ある関係として描かれているのは好感。一方で、当初秘書のヘレン・ギャンディと出会った際にはプロポーズしてフラれているが、それがカモフラージュだったのかは判然としない。

私生活でもうひとつの大きな特徴は、エドガーが支配的な母親のもとに育った吃音の内気な青年だったことだ。エドガーは母親アンナ・マリー・フーヴァー(ジュディ・デンチ)に溺愛され、大きな期待と厳しい教育のもとに人格形成されてきた。

母を亡くした際には形見の服や装飾品を身に着けるほどのマザコンで、「男らしくあれ」と育てられており、間違っても母親にカミングアウトなどできるような関係ではない。

(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

キャスティングには不満

J・エドガー・フーヴァーの実際に歩んできた人生を調べてみると、本作で描かれている内容は結構事実に則しているように思える。

何より、1924年から1972年の死去まで政府機関の長に君臨し続けるという前代未聞のキャリアの持ち主に(今では最長10年の制限あり)、興味深い私生活があったり、権力者の弱味を握り身を守るという処世術があったりと、映画の題材としては興味深い人物だ。

それをさほどドラマ仕立てに演出することもなく、淡々と語っていくクリント・イーストウッド監督のスタイルは、好き嫌いが分かれるところだろうが、少なくともキャスティングには、私は不満を感じている。

まずは冒頭にも述べたように、レオナルド・ディカプリオ老けさせてまでエドガーに起用することにどのような狙いがあったのか。彼の魅力が生きている役にはみえないが、それは、いつものキラキラした役から離れて演技で勝負したいという本人の希望があったのか。

同様に、秘書としてエドガーを最期まで支え続け、大量の極秘ファイルのシュレッダーまで引き受けたヘレン・ギャンディナオミ・ワッツも、彼女ならではの役だったかというと、勿体ない起用法だった気がしてならない。

クライド・トルソン役のアーミー・ハマーは、公開当時は『ソーシャル・ネットワーク』(デヴィッド・フィンチャー監督)の双子役、最近では『ナイル殺人事件』(ケネス・ブラナー監督)などが印象深いが、本作でも好演。過剰な老けメイクだけが悔やまれる。

(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

一番のハマリ役なのは、厳しい溺愛母が似合いすぎるジュディ・デンチか。女性からダンスに誘われるのが嫌いなエドガーが(誘ってきたのはリー・トンプソン!)、家に戻って母親の前で吃音克服の練習のように「ダンスなんかしたくない」とぶつぶつ唱えるのは、何とも不気味だった。

本作同様、クリント・イーストウッド監督が大恐慌時代を描いた『チェンジリング』(2008)で憎まれ警部役を怪演したジェフリー・ドノヴァンは、今回はJFKの弟ロバート・ケネディ司法長官を演じ、(上司でありながら)エドガーにネチネチといびられる。

終盤に少しだけサプライズ

伝記映画のように事実を拾っていくだけで終わるのかと思ったが、老いたエドガーが死んでしまう直前にようやく、映画的なサプライズがあった。

これまで、エドガーが口述筆記させてきた回顧録は、「嘘ばかりだ!」とクライドに指摘され、引退を勧告される。

「子供を誘拐されたリンドバーグはFBIなど頼りにしていなかったし、ドイツ人の犯人逮捕も部下のお手柄だったはずだよ」

これまで回想シーンで登場した数々のエドガー活躍の逮捕劇の場面が再登場し、すべて妄想で実際には部下の手柄だったと分かるのだ。

伝記映画としてなら分かりやすいし面白い部類に入るのかもしれないが、これはクリント・イーストウッド監督がたまにやってしまう、淡々と進み過ぎて盛り上がりに欠ける映画になっているのではないか。

それにしても、亡くなった後にこんな暴露映画を作られてしまうとは、少々エドガーが気の毒に思えてきた。