『打ち上げ花火 下から見るか 横から見るか/undo』岩井俊二作品レビュー①

『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(1995)
『undo』
(1994)

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打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』

岩井俊二の名を世に知らしめた初期の二作品。ともに劇場用作品ではなかったが、ファンの要望に応え、劇場公開に至る。

公開:1995 年  時間:50分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督・脚本:  岩井俊二

キャスト
及川なずな:  奥菜恵
島田典道:   山崎裕太
安曇祐介:   反田孝幸
和弘:     ランディ・ヘブンス
林純一:    小橋賢児
稔:      桜木研仁
三浦晴子先生: 麻木久仁子
同僚教師:   光石研
典道の父:   山崎一
典道の母:   深浦加奈子
祐介の父:   田口トモロヲ
なずなの母:  石井苗子
安さん:    酒井敏也
露店の客:   蛭子能収

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(c)Rockwell Eyes Inc.

あらすじ

小学校最後の夏休み、プールの掃除当番ため登校していた典道、祐介、なずな。祐介は、典道に水泳の競争で勝った方がなずなに告白するという話をもちかける。

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今更レビュー(ネタバレあり)

TVドラマとして初の日本映画監督協会新人賞を受賞する快挙を成し遂げ、岩井俊二の名を世に知らしめた作品。元はフジテレビの番組『if もしも』のシリーズの一作品であり、のちに『undo』とともに劇場公開された。

同番組はタモリの進行による『世にも奇妙な物語』のようなオムニバスドラマであり、本編もそのフォーマットに則っている。それは、主人公の選択により、Aを取るかB を取るか、二つのパターンの物語が展開される形式だ。

ちなみに、この長いタイトルも、「○○か、○○か」という番組のルールに則ったものらしい。

岩井俊二は一応このルールに従ってはいるが、物語は厳密にいえば、打ち上げ花火を下からみるパターンと、横からみるパターンに分かれている訳ではない

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奥菜恵が演じるヒロインのなずなが、両親の離婚で転校する羽目になることに腹をたて、プールで競争するクラスメイトの典道(山崎裕太)祐介(反田孝幸)のうち、勝った方と駆け落ちしようという話だ。即ち、駆け落ちに誘うなら典道か、祐介か、という構造になる。

(c)Rockwell Eyes Inc.

だがまあ、そんな細かいことはこの際、どうでもいい。本作はひたすら、少年の頃のあの異性を前にしたドキドキ感と照れくささを思い出して、奇跡のようなまぶしさの奥菜恵に見惚れていればいいのだ。

千葉県の飯岡町を中心とした撮影地の、夏休みの田舎町にもってこいのロケーション、F(フィルム)効果と呼ばれる色調の美しさ、そして、(小学生という設定だから当たり前だが)ただの悪ガキどもの少年たちと、あまりに大人びているなずなの対比。

ああ、小学校時代の男女の成長差って、こうだったかも(とはいえ、撮影時には奥菜恵は中学生だったと思うけど)。

映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?-New Color Grading-』予告

それにつけても、岩井美学のすばらしさよ。プールサイドの水しぶきと少女の笑顔。今を逃がしたら、あっという間に大人の女になってしまいそうなヒロインの一瞬を映像に切り取る手腕。

ろくに台詞もない、ただひたすらに美しいこんな作品が、地上波のドラマ枠にオンエアされていていたのか、90年代の日本は。

ヴェルディ対マリノス戦やJリーグの応援歌、『スラムダンク』の最新刊、或いは観月ありさの名や『セーラームーン』など、テレビならではの、時代のキーワードが多数散りばめられる。

また、大人の出演者たちも、先生の麻木久仁子や、なずなの母の石井苗子など、当時を思わせる配役で面白い。光石研田口トモロヲ<バイプレイヤーズ>たちもまだ若い。

(c)Rockwell Eyes Inc.

岩井俊二の同名原作は、その後2017年にアニメ化されることになるが、これはまだ観ていない。

『花とアリス殺人事件』も同様だが、やはり岩井美学は実写のヒロインで観たいという思いが強く、アニメ作品は食わず嫌いになってしまうのだ。こればかりはどうしようもない。

なお、本作の助監督には行定勲がおり、また音楽は岩井俊二との作品を多く手掛けるREMEDIOS麗美、懐かしい)が手掛けている。

奥菜恵のみずみずしい魅力が凝縮された50分。花火が丸いか平べったいかは、もはやどうでもいい。ああ、結局二人の少年については、何も語ってあげられなかった。すまん。