『鳩の撃退法』 考察とネタバレ:劇場の帰りに見た、電車内に貼られた津田伸一の小説の架空広告が笑えた!

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『鳩の撃退法』 

映画化不可能と言われた、佐藤正午の代表作といえる複雑な長篇を見事にアレンジ。頭を抱えて叫ばない、こんな藤原竜也を待っていた!

公開:2021 年  時間:119分  
製作国:日本

スタッフ 
監督: タカハタ秀太
脚本: タカハタ秀太・藤井清美
原作: 佐藤正午『鳩の撃退法』 

キャスト
津田伸一:  藤原竜也
鳥飼なほみ: 土屋太鳳
沼本:    西野七瀬
幸地秀吉:  風間俊介
幸地奈々美: 佐津川愛美
川島社長:  岩松了
加賀まりこ: 桜井ユキ
倉田健次郎: 豊川悦司
多々良:   駿河太郎
大河内:   浜野謙太
晴山次郎:  柿澤勇人
加奈子:   坂井真紀
まえだ:   リリー・フランキー
房州老人:  ミッキー・カーチス
慎改美弥子:  石橋けい
山下:        村上淳
吟子:        森カンナ

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2021「鳩の撃退法」製作委員会 (C)佐藤正午/小学館

あらすじ(公式サイトより引用)

かつては直木賞も受賞した天才作家・津田伸一(藤原竜也)は、とあるバーで担当編集者の鳥飼なほみ(土屋太鳳)に書き途中の新作を読ませていた。

一年前、閏年の二月二十九日。雪の降る夜。かつては直木賞も受賞したが今は富山の小さな街でドライバーとして働いている津田伸一は行きつけのコーヒーショップで偶然、幸地秀吉(風間俊介)と出会い、「今度会ったらピーターパンの本を貸そう」と約束をして別れる。

しかし、その夜を境に幸地秀吉は愛する家族と共に突然、姿を消してしまう。それから一か月後、津田の元に三千万円を超える大金が転がりこむ。ところが喜びも束の間、思いもよらない事実が判明した。

「あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ」
ニセ札の動向には、家族三人が失踪した事件をはじめ、この街で起きる騒ぎに必ず関わっている裏社会のドン・倉田健次郎(豊川悦司)も目を光らせているという。倉田はすでにニセ札の行方と共に、津田の居場所を捜し始めていた……。

神隠しにあったとされる幸地秀吉一家、津田の元に舞い込んだ大量のニセ札、囲いを出た鳩の行方、津田の命を狙う裏社会のドン、そして多くの人の運命を狂わせたあの雪の一夜の邂逅……。

富山の小さな街で経験した出来事を元に書かれた津田の新作に心を躍らせる鳥飼だったが、読めば読むほど、どうにも小説の中だけの話とは思えない。過去の暗い記憶がよぎる鳥飼。小説と現実、そして過去と現在が交差しながら進む物語。彼の話は嘘? 本当?

鳥飼は津田の話を頼りに、コーヒーショップ店員・沼本(西野七瀬)の協力も得て、小説が本当にフィクションなのか【検証】を始めるが、そこには【驚愕の真実】が待ち受けていた―。

(C)2021「鳩の撃退法」製作委員会 (C)佐藤正午/小学館

レビュー(まずはネタバレなし)

この原作を映画化してしまうとは

佐藤正午の原作映画を観るのは、『永遠の1/2』『リボルバー』以来何年ぶりか、少なくとも今世紀では初だ。直木賞受賞の『月の満ち欠け』も好きな作品だが、その原型ともいえる時系列崩しの手法を取り入れた長編大作が、この『鳩の撃退法』

主人公は元直木賞受賞で、今は落ちぶれた天才作家。その後、佐藤正午自身が、同賞受賞作家になってしまうとは、小説よりも奇なりか。

上下巻にわたるボリュームのみならず、その入り組んだ構成と繰り返されるエピソードの多さで、この小説の映画化は難しいだろうと踏んでいた。

なので、予告編を観たときには素直に驚いたのだが、今観終わった感想をいえば、タカハタ秀太監督すげえな、と、その監督・脚本家としての仕事ぶりに敬意を表したい。

(C)2021「鳩の撃退法」製作委員会 (C)佐藤正午/小学館

複雑なストーリー展開

このレビューにも引用させてもらっているが、公式サイトにこれだけ長々とあらすじを掲載している例も珍しい。それだけ、ストーリーは複雑ということだ。このくらい、情報提供したところで、支障はないのだろう。

神隠しのように忽然と消えた夫婦と幼女。女(佐津川愛実)は二人目の子の妊娠を告げるが、男(風間俊介)は浮かない顔だ。

そして男がコーヒーショップで偶然会った元作家で今はデリヘルの運転手である語り部(藤原竜也)、こいつが、常連の古書店主(ミッキー・カーチス)の遺品として、三千万円の札束を手に入れたことで、事件が広がっていく。

主人公・津田伸一の書く小説と、現実世界が絡み合い、また時系列も巧みにくずされて混沌とする原作は、一読では把握が難しい面が否めなかったが、本作はその内容をうまく整理・再構築し、二時間枠に収めている

原作未読の方にはどう映ったか分からないが、原作よりも、だいぶ理解しやすくなっている。読んだときのあの混沌を好む人には、ドンキの店内が急に広々スッキリしたような物足りなさを覚えるかもしれないが、私には有難かった。

(C)2021「鳩の撃退法」製作委員会 (C)佐藤正午/小学館

キャスティングの妙

作家の津田伸一に藤原竜也は合っている。何より、頭を抱えて絶叫したり、命がけの派手なアクションをしたりせず、普通に落ち着いた芝居をしてくれるだけで嬉しい。こんなに常人の藤原竜也は久々だ。

編集担当として津田につく鳥飼なほみ(土屋太鳳)。二人の共演は、本作同様に藤井清美が共同脚本の『るろうに剣心 京都大火編 / 伝説の最期編』以来だろうか。あの時の藤原はミイラ男のようで顔も見えんかったけど。

津田が運転手で勤めるデリヘルの経営者に岩松了。店の娘の源氏名はみな昭和の女優名。原作では大勢の名前がでたけれど、権利関係のせいか、映画ではspecial thanks toの加賀まりこと、亡くなった大原麗子の名前のみ。

デリヘル設定はドラマ『フルーツ宅配便』を思い出したが、その主人公の濱田岳が本作でもワンシーンで登場し、勝手に盛り上がった。

(C)2021「鳩の撃退法」製作委員会 (C)佐藤正午/小学館

コーヒーショップの店員沼本(ぬもとです)の西野七瀬は、話の展開上は大きく絡まないのだが、津田の小説世界の中では重要な相方。彼女は『孤狼の血 LEVEL2』の雇われママ役よりは、こっちの方が自然体で和める。

BARのマダムには、本作で坂井真紀が演じたような、「私、女優よ~」(from『監獄のお姫さま』)的な年季と雰囲気が必要なのかも。

そのコーヒーショップで偶然出会い、ピーターパンの本を津田から借りる幸地秀吉(風間俊介)は、物語の鍵を握る重要人物の一人だが、得意の感情を押し殺した演技が、作品に深みを与える。

風間俊介が夜の街の雑踏のロングショットで、ふと視線だけカメラに向けるワンカットがラストにあるが、これなど、坂元裕二の名作ドラマ『それでも、生きていく』で彼が演じたサイコパスを思い出させた。

(C)2021「鳩の撃退法」製作委員会 (C)佐藤正午/小学館

時には小説の登場人物と作家の自分の二重露光までしながら終始しゃべりとおす<動>の津田に対して、秀吉と、そして都市伝説のようにこの町の闇に関わっている倉田健次郎(豊川悦司)は、徹底して<静>だ。

トヨエツ演じるこの<本通り裏>の男は、秀吉の養護施設時代の仲間で裏の顔もありそうだが、実は善人の匂いもして、ただの悪人ではなさそう。

本作は舞台を富山、津田が逃げ込むBARを東京の高円寺という設定にしている。原作では架空の地方都市と中野ふれあいロードの設定だったと思ったが、富山を前面に出したことで、物語に現実味が強まった。雪のふる情景や物寂しい夜景もいい。

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レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

謎解きエンター<転>メント

天才作家が仕掛ける、謎解きエンター<転>メント」というコピーが使われているとおり、どこまでが小説か、どこまでが事実か、というのがひとつの鍵になっている。

ミステリーのようで、本作はネタバレ大歓迎というスタンスで広宣を打っており、公式サイトには<本通り裏>なるネタバレを語りあう板まで用意されている。ここまで準備されると、ひねくれ者としては、ちょっとしらける。

観客が好き勝手に解釈や感想を述べるのは、(個人攻撃や配慮のないネタバレは除き)言われるまでもなく自由にやらせてもらっている。

何でもオープンにして、いろんな意見歓迎という姿勢を制作者側があえてとるということは、正解がありませんということと同義ではないのか。そうなると、ちょっと深掘りする気が失せる。

小説か、事実か

私は、鳥飼が富山を訪ねていったら小説通りの床屋や店員沼本が実在したこと、或いは東京のバーにピーターパンの本が戻ってきたことで、すっかり小説=現実だと思い込んでしまった(それはそれで精神衛生上ハッピーだ)。

都市伝説の倉田健次郎が再び殺人に手を染めたのか、ラストで秀吉と倉田が一緒だったのは、郵便局員を殺害したあとだったのか、或いは妻子まで始末してしまったのか、いや、もっと前段階から津田の書いた想像の産物だったのか。いろいろな解釈が可能な気がするので、深入りはしない。

(C)2021「鳩の撃退法」製作委員会 (C)佐藤正午/小学館

そもそも、映画が宣伝で散々盛り上げている<小説か、事実か>という論点は、本当に佐藤正午意図したポイントなのだろうか。これは、よく分からない。

私は、あまり意識せずに楽しみながら読んでいたし、本作でも、最後はすっと腑に落ちてしまったので。

小説となれば夢落ちと同じで、小説部分が多いほど、観客(や読者)はがっかりしてしまう。全て現実でも成り立つ話のあとで、どの部分が小説なのか振り返ったところで、モチベーションはあがらないではないか。

なので、小説かどうかは別に置いておこう。鳩とは偽札のメタファーだが、三羽の鳩が囲いを出てしまってから、どう飛び回って、最後はどこに落ち着いたのか、それを追いかけるのは楽しい作業だ。

映画でそれを振り返ってくれるのは、便利でよい。コーヒーショップだったか、札の動きに合わせて背景で鳩たちが大きく飛び回るカットも面白かった。

「タイトル決めた!」そう津田が言って、映画は終わる。なぜ鳩を撃退するのか。鳩の持ち主だった倉田を撃退するという意味にとってしまったが。「小説家が書いちゃいけないことって、何だ?」