『ブラック・ウィドウ』
Black Widow
満を持してついに公開、MCU作品が再始動。ナターシャはなぜ孤高の暗殺者になり、アベンジャーズになったのか。白いバトルスーツがキマっている。
公開:2021 年 時間:133分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ケイト・ショートランド
キャスト
ナターシャ・ロマノフ:
スカーレット・ヨハンソン
(少女時代) エヴァー・アンダーソン
エレーナ・ベロワ:
フローレンス・ピュー
(少女時代)ヴァイオレット・マッグロウ
アレクセイ・ショスタコフ:
デヴィッド・ハーバー
メリーナ・ヴォストコフ:
レイチェル・ワイズ
リック・メイソン:
O・T・ファグベンル
ドレイコフ:
レイ・ウィンストン
アントニア・ドレイコフ:
オルガ・キュリレンコ
サンダーボルト・ロス:
ウィリアム・ハート
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
ブラック・ウィドウことナターシャ(スカーレット・ヨハンソン)の前に突如現れた、妹のエレーナ(フローレンス・ピュー)。
姉妹は、自分たちを暗殺者に育てたスパイ組織<レッドルーム>の秘密を知ったことで命を狙われる。
唯一の味方は、かつて組織が作り出した偽りの家族だけだった。しかし、その家族の再会によってレッドルームの恐るべき陰謀が動き出す。
レビュー(まずはネタバレなし)
ようやく公開されたことにまず感無量
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』と並び、コロナ禍で世界的に大きく公開が延びていた大作のひとつである本作がようやく公開された。
待ちに待った、マーベルの新作、MCU映画としては『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』以来2年ぶり。
フェーズ4に入って、映画公開の合間を埋めるドラマシリーズが何作か配信されたとはいえ、毎年複数作品が劇場公開されていた従来ペースを思えば、禁断症状も当然か。
劇場予告によれば、MCUの後続作品が次々と出番を待っていることに驚く。今後、順調に公開が進むことを祈りたい。
◇
さて、本作はブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフが、いかにして世界最強最怖の女スパイになったのか、その過去を正面から描く作品。
これまでもシリーズの中で、彼女がぽつりぽつりと古く苦い思い出を語る場面はあったが、その謎が解明されるのだ。
MCUで女性単独主人公の映画作品は『キャプテン・マーベル』に先行されたが、あちらは突如現れた、いいとこ取りの超人だ。
長いシリーズを初期の『アイアンマン2』(2010年)から支え、アベンジャーズの一員としてはホークアイとともに、数少ない<普通の人間>であるナターシャが、堂々と映画の主役を張るのは感慨深い。
スパイ・アクション映画の新機軸
映画は80年代のオハイオ州から始まる。幸福そうに暮らす二人の少女と両親の四人家族。だが、ある晩突然夜逃げのように家を離れ、隠していた飛行機で国外脱出を図ろうとする両親。
追いかけてくるのはS.H.I.E.L.D.の連中だ。一体何が起きたのか。家族は逃亡に成功し、気づけばスパイ組織<レッドルーム>の本拠地に生還する。
ここで姉妹は、ブラック・ウィドウと呼ばれる戦闘兵器として、鍛錬強化されることになる。両親も姉妹も、本物の家族ではなく、<レッドルーム>の偽装家族だったのだ。
◇
ここから先の詳細は控えるが、時代は流れ、ソコヴィア協定を巡ってアベンジャーズが分裂していた頃に舞台は移る。ナターシャは、キャプテン・アメリカらとともに、協定違反者として米国から追われている立場だ。
そんな中で、彼女は音信不通だった妹・エレーナと再び出会い、自分たちを人間兵器に仕立てた<レッドルーム>の壊滅に向けて復讐を始動する。
◇
本作は人間であるナターシャが主役のためか、これまでのMCU作品と比べると、超人的な破壊力のキャラは僅少だ。
だが派手さに欠ける訳ではない。ナターシャとエレーナが姉妹で暴れるバトル・シーンやカー・アクションに見応えはあり、ボンドやイーサンが出てくるスパイ・アクション映画の興奮に近い。もともと女スパイなのだから、当然の帰結ともいえるけれど。
MCUとのからみが少ないのはちと寂しい
今後のMCUシリーズでは、マスクヒーローの作品の合間に、本作のようなスパイ・アクションやカンフー・アクションといった、少し趣向を変えた作品を投入していく方針なのかもしれない。
◇
本作の時系列的な設定としては前述した『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』以降の世界なのだが、MCUメンバーの共演やカメオ出演は極めて少ない。
まともな登場は、かつてのハルクの天敵、アメリカ合衆国国務長官のサンダーボルト・ロス(ウィリアム・ハート)くらいではないか。この点は少々寂しい気はする。
その代わり、新登場キャラには魅力があり、キャスティングも充実している。
妹エレーナはキャラ立ち十分!
筆頭格は妹エレーナだろう。実は、幼少期のシーンでは姉妹どっちがナターシャか分かりにくい演出で悩んだのだが、大人になってようやく妹の方がエレーナと理解する。
自分を捨てて出て行った姉を憎んでおり、戦闘能力も互角。再会直後の姉妹ファイトがクールだ。
始めから麗しい姉妹愛を前面に出さないキャラ設定がいい。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー・リミックス』のガモーラとネビュラの姉妹みたいだ。
◇
演じるフローレンス・ピューは『ミッドサマー』系ホラーから『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のお嬢様まで幅広に大活躍だが、本作では『ファイティング・ファミリー』で鍛えた強靭な肉体が活かされる。
動きもパワフルでキレがある。きっと、今後のシリーズ展開に絡んでくるだろう。
思えば、『アイアンマン2』の頃のスカーレット・ヨハンソンは、セクシー度合いとアクションの派手さが今よりももっと増量されていたように思う。
他のキャスティングも粒ぞろい
姉妹の母親メリーナになんと『ナイロビの蜂』のレイチェル・ワイズ。この手の作品には出ない女優なのかと思っていたけど、ケイト・ショートランド監督とは以前から親交があったとか。
本作では優しい母親として登場するが、その正体は最後まで謎めいている。まあ、序盤で撃たれて死ぬはずないとは思っていたが。
◇
その夫であり、姉妹の偽装父親であるアレクセイ(デヴィッド・ハーバー)は、幼少期のシーンでは普通の良き父親だが、後半からその風貌もキャラクターも大きく様変わりする。はじめは誰だか分からなかったくらいだ。
本作において貴重なコミックリリーフであり、更にキャプテン・アメリカの向こうを張るソビエトきってのスーパー・ソルジャーであるレッド・ガーディアン。
デヴィッド・ハーバーは、ルッソ兄弟製作のNETFLIX映画『タイラー・レイク -命の奪還-』でも、クリス・ヘムズワースの旧友で怪力の傭兵役をやっていた。何となくMCUに近い立ち位置だ。
スパイ組織<レッドルーム>のトップであるドレイコフ(レイ・ウィンストン)の悪そうな面構えと狡猾さが、スパイ映画としての魅力を引き立たせる。
大きな石の指輪をつけた太い指でマシンを操作し、攻撃されても泰然としている姿は、007の秘密結社スペクターの幹部のように見える。
思えば、ドレイコフの娘・アントニアを演じるのは、『007 慰めの報酬』のボンド・ガールだったオルガ・キュリレンコ。更には、『慰めの報酬』でCIA南米局長を演じたのが本作で父親役のデヴィッド・ハーバーなのだから、どうにも世間は狭い。
それにしても、今回のオルガ・キュリレンコは、爆弾を受け顔に損傷が残っている設定なので、美貌が拝めず残念。
レビュー(ここから若干ネタバレ)
ここから若干ネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
MCUっぽい敵はタスク・マスター
さて、本作でマスクヒーロー的な役割を担うのは、アレクセイが太った肉体をスーツに押し込んで変身するレッド・ガーディアンではない。
ドレイコフの配下でレッドルームの最優先任務に現れる暗殺者、黒装束にマスクをつけたタスク・マスターだ。
相手の動きや技術を研究し、完コピする能力があるという。つまり、ナターシャやエレーナにとっては、強敵ということになる。
表情がないのが勿体ないのと、髑髏マスクにフードというビジュアルはちょっとありきたりだ。懐かしヒーロー『ドニー・ダーコ』を思い出す。
ただ、アクションは冴えている。こいつの存在のおかげで、我々は本作がMI6やIMFが舞台のスパイ映画ではなくマーベル映画だということを忘れずにいられる。
ナターシャに宿る二つの家族愛
「あの戦闘前にポニーテール振り上げるポーズ、何なの? わざとやってるでしょ?」
と姉を揶揄するエレーナの台詞がいい。いつもの決めポーズをポスタービジュアルに使いにくいわけだ。
父アレクセイは完全にボケキャラだが、エレーナがたまにアネキをからかう匙加減が丁度良い。
◇
幼少期から特殊な養成所でアサシンに鍛え上げられ、子宮も摘出され、脱落者は始末され、過酷な半生を過ごしてきた姉妹。
だが、なんの感傷もない偽装家族と思っていたこの四人が思わぬ再会を果たし、ドレイコフという共通の敵を見出すと、本当の家族のような感情がみんなに湧き上がってくる。
◇
そう、ナターシャの忌まわしく厳しい過去には、つらい思い出だけではなく、少しは温かみを感じさせる局面もあったのだ。
今のナターシャには、偽装だったけれども少しは本物の匂いがする家族と、アベンジャーズというもう一つの家族がいる。彼女が何を大切に思うかが伝わってくる。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』においてバートンを全力で制し、代わりに自ら身を投げてサノスから人類を救ったナターシャの行動原理は、ここにあったのだ。