『ジョジョ・ラビット』 考察とネタバレ:ジョジョ立ちするのはアドルフばかり

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『ジョジョ・ラビット』
Jojo Rabbit

風刺が効いた不謹慎な笑いの前半から、敗戦濃厚になる後半で様相を変える。笑って泣ける反戦映画。空想の友人アドルフに励まされ立派なドイツ兵を目指す少年ジョジョだが、自宅にはユダヤ人の娘が隠れている。

公開:2020 年  時間:108分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督: タイカ・ワイティティ
原作: クリスティン・ルーネンズ
         『Caging Skies』

キャスト
ジョジョ・ベッツラー: 
   ローマン・グリフィン・デイヴィス
エルサ・コール:      
       トーマシン・マッケンジー
ロージー・ベッツラー: 
       スカーレット・ヨハンソン
クレンツェンドルフ大尉:
          サム・ロックウェル
アドルフ・ヒトラー:  
         タイカ・ワイティティ

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)2019 Twentieth Century Fox

あらすじ

第2次世界大戦下のドイツ。10歳のジョジョは、空想上の友だちであるアドルフの助けを借りながら、青少年集団「ヒトラーユーゲント」で、立派な兵士になるために奮闘していた。

しかし、訓練でウサギを殺すことができなかったジョジョは、教官から「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名をつけられ、仲間たちからもバカにされる。

母親とふたりで暮らすジョジョは、ある日家の片隅に隠された小さな部屋に誰かがいることに気づいてしまう。それは母親がこっそりと匿っていたユダヤ人の少女だった。

レビュー(まずはネタバレなし)

ラフ&ピースで行こう

ナチス思想にかぶれ、ヒトラーを空想上の話し相手としてそばに置き、10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)は、立派な兵士を目指し、毎日を過ごす。

ヒトラーを気さくな友人として登場させながらも、本作は強く反戦のメッセージを発信する風刺の効いたコメディだ。ヒトラーやナチスをコケにして笑いの対象にすることで、平和の尊さを観る者に訴えかける。

同様のアプローチをとった作品には、『チャップリンの独裁者』という偉大なる先駆者がいる。ヒトラーの独裁政治を批判する先見性とその大胆な風刺は、現代人には対抗しようがない。

チャップリンから随分と年月を経て、『イングロリアス・バスターズ』『アイアン・スカイ』『帰ってきたヒトラー』など、アドルフをイジる作品はいくつか出てきている。

だが、本作は独創性があり、これらとは笑いの質やメッセージ性の強さが異なるように思う。

リアルなヒトラーの再現力は名優ブルーノ・ガンツに任せておけばよいのだ(褒めてます)。本作は、ちょっとお茶目なアドルフ(タイカ・ワイティティ)が新鮮でよい。

と書いてみてお気づきの通り、このアドルフは、監督本人が演じているのだ。あまりにうまいので、本職の俳優だと思っていた。

ワイティティといえば超大作『マイティ・ソー バトルロイヤル』の監督だ。

マーベルのMCUの主要キャラが出る作品ではもっともコメディ要素が多く、過去の設定をガラポンとひっくり返してしまった異端児作品だと思っているのだが、その作風は本作にも生きているかも。

(C)2019 Twentieth Century Fox

適材適所のキャスティング

ジョジョのローマン・グリフィン・デイヴィスは、見た目は実に子供らしくて可愛い少年だが、ナチスに毒された生意気な面もよく出ていた。

屋敷の中に隠れていたユダヤ人の娘エルサ(トーマシン・マッケンジー)はジョジョより少しお姉さんだが、気の強そうな表情がよく、この二人の抜擢は大正解。

そして、ジョジョの母親ロージー(スカーレット・ヨハンソン)の美しさと母の強さ。

戦時下でドイツ苦戦中というのに、彼女はいつもきれいに着飾って外出しているように見えたが、あれは、当時のドイツ人は常に死を覚悟し、恥ずかしくない格好をしていたという時代背景ということらしい。

青少年集団「ヒトラーユーゲント」を率いるキャプテンKことクレンツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)

最近の作品では『リチャード・ジュエル』の弁護士同様に、ちょっと狂気が入っていて、善人なのか悪党なのか分からないまま、魅入ってしまう役どころである。

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ハイルヒットリング

ナチスとヒトラーの扱いでまず笑ったのが、「ハイル・ヒトラー」の敬礼だ。よく映画で見かけるように、本作でも顔を合わすたびに唱えるのだが、全員に一人ずつやるので、回数は膨大だし、いい方も雑になっていく。

やらされてる感丸出しの挨拶に加え、ハイル・ヒットリングなどと動詞として会話に使っているのも面白い。

ジョジョが手りゅう弾を投げ損ねて顔に傷を負うところや、エルサに話を聞きながら、ユダヤ人の生態を面白おかしくでっちあげた本「おーい、ユダヤ人」を書きあげるところなど、笑っては不謹慎なネタもあちこちに転がっている。

本作が英語で撮られたアメリカ映画なのは少々残念な思いだ。

映画としてとてもよい出来なのに、終盤で米国兵が押し寄せて星条旗とともに平和をもたらすような場面になると、所詮、戦勝国が作った映画かと若干シラけた気分になるので(監督はニュージーランド出身だが)。 

冒頭に流れるビートルズがドイツ語なのだから、全編母国語のドイツ映画で観てみたかった。

レビュー(ここからネタバレ)

驚きの変化をみせる後半戦

はじめはユダヤ人のエルサを見下していたジョジョ。敵対視していた二人。だが、彼女への手紙を婚約者になりすまして書いたりするうちに、偉大なるアーリア人のジョジョは徐々に、エルサのことが気になり始める。

微笑ましい展開だが、二人が仲良くなっていくだけなら、反戦映画にならない。

本作の前半はアドルフもまあ気のいいヤツだし、ナチスをコケにしたようなコメディタッチで、ストーリーが進む。

青少年集団「ヒトラーユーゲント」の話が多く、戦時中だというのを意識させられるのは、町中に放置された首吊り死体くらいだ。

だが、後半になると、急に実戦モードになり、コメディ路線はだいぶ鳴りを潜める。アドルフもだいぶ、傲慢な本性を現し始める。

正確には、市街で戦闘が始まってさえも笑いを取るシーンはあるにはあるのだが、それでも能天気で愉快な前半からの転調は、戦争の悲惨さを一層浮き彫りにしてくる。

(C)2019 Twentieth Century Fox

ここからネタバレで書かせていただくので、未見の方はご注意願います。

忘れてはいけないもの

戦争の悲惨さを語る二つの大きな出来事。まずは、ジョジョに黙って反政府活動を続け、エルサを匿っていた強く優しく美しい母、ロージー。

娘を失い、夫と離れ離れでも、気丈に行動する彼女だったが、ある日、ジョジョが町で見かけた蝶を追いかけた先に、その視界に飛び込んできた見覚えのある母の靴

画面には、見上げる高さにある、美しい脚線と靴しか映し出されない。しかし、その町中のシーンが意味するものはあまりに悲しい。

そして、キャプテンK。ゲシュタポに見つかったときに、ジョジョの姉だと嘘をついたエルサを見逃してくれた。

彼は味方なのか。やがてジョジョとともに町を占領した米兵に捕まったとき、キャプテンKは銃殺覚悟でジョジョをユダヤ人のガキだと騒ぎ立て、彼に逃亡の機会を与えてくれる。しびれる死に様だった。

(C)2019 Twentieth Century Fox

この悲しみの果てに、ジョジョは、悪事も露呈し本物も自殺したと囁かれている、空想の友だちアドルフに、くたばれヒトラーと蹴りをお見舞いし、落ちた偶像とようやく決別する。

ラストシーン、ジョジョは解放されたエルサと家から外に出る。彼女はやっとユダヤ人の自分が救われたことを知り、ドイツが勝っていると嘘を付いたジョジョの頬を叩く。緊張の一瞬だ。

だが、そのあと、念願のダンスを踊りだすエルサと、それに付き合いだすジョジョ。ラストのほんのりした甘さがほど良い。