『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』 ダニエル・クレイグ版ボンド一気通貫レビュー⑤: そう来たか!これで見納め、圧巻の完結編

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『007ノー・タイム・トゥ・ダイ』
 No Time To Die

ダニエル・クレイグが15年演じたボンドの最後を飾る集大成。公開まで待ちに待って1年8カ月。かつて見たことのない007がそこにいる。

公開:2021 年  時間:163分  
製作国:イギリス

スタッフ 
監督: キャリー・ジョージ・フクナガ
原作: イアン・フレミング

キャスト
ジェームズ・ボンド:
         ダニエル・クレイグ
リュートシファー・サフィン: 
           ラミ・マレック
マドレーヌ・スワン: レア・セドゥ
ノーミ:     ラシャーナ・リンチ
パロマ:     アナ・デ・アルマス
フェリックス・ライター: 
         ジェフリー・ライト
アッシュ:   ビリー・マグヌッセン
ブロフェルド: クリストフ・ヴァルツ
オブルチェフ: デヴィッド・デンシック
M:        レイフ・ファインズ
Q:         ベン・ウィショー
イヴ・マネーペニー: ナオミ・ハリス
ビル・タナー:    ロリー・キニア
マティルド:  リサ=ドラ・ソネット

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)2019 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

あらすじ

ボンドは00エージェントを退き、ジャマイカで静かに暮らしていた。しかし、CIAの旧友フィリックスが助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。

誘拐された科学者の救出という任務は、想像を遥かに超えた危険なものとなり、やがて、凶悪な最新技術を備えた謎の黒幕を追うことになる。

レビュー(まずはネタバレなし)

待望の最新作であり最終作

2020年2月に世界公開とされていた大作が、コロナ禍で1年と8カ月待ちに待たされ、ようやく劇場公開を果たした。

ダニエル・クレイグ6代目ジェームズ・ボンドに抜擢されてから15年、当初はイメージが違いすぎると叩かれたものだが、もはや堂々の風格。その彼にとって、本作は最後のボンド作品となる。

それにしても、これだけ焦らされて拍子抜けの出来栄えだったらどうしようかと不安だったが、これは無用な心配だった。

歴代最長163分の長尺を感じさせない内容は、決してひとつのアクションシーンを長めに引き延ばした結果ではない。アクション以外にも、伝えるべきドラマが濃密にあり、これだけの時間が必要なのだ。

本作はダニエル・クレイグ卒業制作だけあって、これまでの総仕上げ的なものになっている。といっても先代のピアース・ブロスナンの最終作『007 ダイ・アナザー・デイ』のような、演出の派手さとか過去作のオマージュとかに、重点を置いている訳ではない。

あくまで、クレイグのボンドが貫いてきたストイックさやシリアスなムードを踏襲しながら、過去作で縁のあった登場人物をふんだんに投入することで、これまでの物語を総括しているのである。

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ボンドは既に引退の身

クレイグのボンドには歴代の軽妙さがなく、ちょっと暗いよね。そんな外野の声をモノともせず、15年間当初のキャラ設定を堅持し、愛すべき上司M(ジュディ・デンチ)の死後も引き続き職務を全うする。

今回は007という殺しのライセンスを返上し、現役引退しているという驚きの設定だったが、それでもやはり、この仕事は彼の天職なのである。

冒頭、凍った湖と雪原に囲まれた山荘に暮らす母と少女のもとに、突如襲い掛かってくる能面の男。その男は自分の家族を皆殺しにしたミスター・ホワイトへの復讐にやってきたのだが、当の本人が不在と知り、その母子に銃口を向ける。

このシーンのもつサスペンス風な雰囲気は、お気楽・極楽な高揚感から始まる通常の007シリーズのアヴァンタイトルとはまるで異なる。能面は日本風なデザインだが、下半分が砕けると途端にマスカレード風になるのが面白い。

ネタバレにならぬよう気を付けながら、過去作品とのつながりキャラに触れたい。公開延期で総復習の時間ができ、登場人物についてはストレスなく理解できた。過去問対策がバッチリ効いた気分だ。もちろん、うろ覚えでも映画を楽しむ分にはさしたる影響はないけれど。

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これまでのキャラクター紹介

まず、冒頭の少女がミスター・ホワイトの娘ということなので、前作『007スペクター』のボンドガール、マドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)だということが分かる。

留守のため命拾いしたミスター・ホワイトは、前作で死んでいるので登場しないが、彼の所属する悪の組織スペクターの統括者プロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)は、本作でも服役中の身として登場する。

なお、『007カジノ・ロワイヤル』でボンドが最初に愛し、殺されてしまった女性ヴェスパーも、墓参りのシーンで登場。初回の作品で亡くなったキャラを絡めてくるなんて、15年前には想像すらしなかった。

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CIAのフェリックス・ライター(ジェフリー・ライト)は、もはや組織を超えた親友として今回も登場。引退したボンドに、「俺も次の仕事で足抜けしようと思うんだが」と相談事を持ち掛ける。時代の流れを感じてしまう。

ちなみに引退したボンドに代わって007を受け継いでいるのはノーミ、演じるのは、『キャプテン・マーベル』の主人公の相棒マリア役で活躍したラシャーナ・リンチ

このジャマイカ系の女性エージェントが「永久欠番かと思った?」と挑発し、彼の番号を受け継いで活躍してしまうとは、これも時代変化か。ボンドが入館証を胸にぶら下げて久々にMI6に入るシーンは、役職定年した古巣の勤務先に顔を出したような寂寥感。

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MI6のメンバーは、M(レイフ・ファインズ)を筆頭に、Q(ベン・ウィショー)、マネーペニー(ナオミ・ハリス)、タナー(ロリー・キニア)と、ここは常連揃いの安定感。

ノーミが「知らなかった?私も2年前から00シリーズの一員よ」という予告編を見て、てっきりマネーペニーがコース転換で昇格したのだと思い込んでいた。ナオミとノーミの混同だ。

そうそう、マネーペニーが<ボンドを撃ったことがある女>とノーミに認識されているのは、『007スカイフォール』で彼女がエージェントだった時代のエピソードによるもの。

今回のヴィランはリュートシファー・サフィン、『ボヘミアン・ラプソディ』のフレディ・マーキュリー役で一気にメジャーになったラミ・マレックが演じている。

さすがに年の功のブロフェルドに比べると大物感では見劣りするが、一家をスペクターに惨殺された悲壮感と執念は強く滲み出ている。完結編の相手としては、世界征服を企む野心家の単細胞より、深みを感じさせる気もする。

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新キャラでもう一人、忘れてはいけないCIAのエージェント・パロマ(アナ・デ・アルマス)。妖艶ながら滅法強いという、アクション担当のボンドガールとして文句なしの活躍。しかも本作で唯一の陽気系なキャラクターだ。彼女のおかげで映画全体の重苦しさがほぐれ、エンタメ度数も上昇。

ダニエル・クレイグと彼女は『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』でも、両者まるで違う雰囲気で共演しているのだが、未見の方は、ぜひ見比べていただきたい。

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レビュー(ここから少しネタバレ)

ここからは若干ネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

新旧揃い踏みのアストンマーチン

ダニエル・クレイグのボンドでは、Qが開発するガジェットも活躍はするものの、グライダーの前衛的な造形を除けば、さほど奇をてらったものはない。その姿勢は本作でも同様で、相変わらずオメガが登場するくらいだ。

ボンド・カーに関しては本作でも新旧世代が登場。歴代ボンド作に頻出するクラシックなアストンマーチンDB5は本作でも健在。見た目よりも装甲は厚く、機関銃と発煙機能をフル稼働でスピンさせるシーンには、古典的な気品を感じる。

旧型では、ティモシー・ダルトン『007リビング・デイライツ』以来久々のV8サルーンが新鮮にみえる。MI6の研究施設にある最新のValhallaはまだ未完成っぽい、そして新型のDBS Superleggeraは登場するのだが、なんとノーミが運転しボンドは助手席に。これじゃボンド・カーじゃなく007カーだ

でも、ボンドがDB5やトヨタのランクルに乗ってのカーアクションは、最近のアクションものにしては地味な部類なのだが、ちゃんとリアルに感じられて、迫力は十分。本作のトーンに合っていて満足。追っ手にマセラティまで出てくるなんて感激。

ちょっと物足りなかったのはブロフェルドの扱いが少なかったことか。サフィンが細菌兵器により瞬時にしてスペクターのメンバーだけを殺害してしまったのには恐れ入ったが、独房でただひとり残ったプロフェルドは、怪しさたっぷりだっただけに、あの終わり方はあっけない。

『ハンニバル』レクター教授『X-MEN』マグニート並みに厳重な監禁状態にいるのに、それでも脱獄するプロフェルドが見たかった。

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イーサンとのライバル争い

ジェームズ・ボンドは長年、『ミッション:インポッシブル』イーサンと互いをライバル視し続けてきた。妻への一途な愛を貫くイーサンとは対照的に、次々に女に手を出す独身プレイボーイのボンドは、今世紀に入ってからこっち、すっかり時代錯誤な存在と化してしまっていた。

そこに、『007カジノ・ロワイヤル』『007慰めの報酬』と、作品をまたがって一人の女性(ヴェスパー)の話を扱い始めてダニエル・クレイグのボンドはスタイルを修正した。今回だって、パロマとは寝ていない(単に相手にその気がなかっただけっぽいが)。

前作に続き登場するマドレーヌは、ボンドがきちんと愛そうとしている女性であり、そして、なんと、彼女にはボンドに誤解され別れたあと、誰にも言わずシングルマザーとして育てている娘・マティルド(リサ=ドラ・ソネット)がいるのである。

れたはずの女に長年経過して再会したら、自分に言わずに娘を生んでいた。まあ、よくある人情ドラマであり、最近なら『ヤクザと家族 The Family』の綾野剛がそうだった。

ちなみに、ボンドの最愛の女性を演じたレア・セドゥは、過去にはイーサンの敵『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』で世界一の超高層ビルから突き落とされている。この繋がりも面白い。

でも、まさかボンドが、国家ではなく妻と娘を守るために、身体を張って敵に向かっていくなんて、これは想像を上回る展開。イーサンにだって、子供まではいないぞ。形勢逆転したかも、ジェームズ。

このあたりからラストまでを含め、本作を新時代のボンドとして受け容れられるか、伝統の物差しに合っていないと拒絶するか、これは観る者によって見解が分かれるところだと思う。

私は拒否反応する人の気持ちも分かるが、こういうボンドがいてもよいと思えた。だって、これはクレイグのボンドだから、彼らしく終わらせてあげたいじゃないか。

本作の終わり方は、歴代シリーズの一仕事終えて情事に耽るパターンからみたら相当重苦しいものだが、全五作の完結編にしてはふさわしい。ここまでブレずにストイックなボンドを演じきったのは、大したものだ。

後任を誰が演じるかはまだ分からないが、どのような続き方になるのか、そこに家庭があるのかは、次の世代が好きなように決めてほしい。終わり方を含め本作には、確実に作り手のボンド愛があったと思う

さあ、そしてバトンは渡された。