『ロマンスドール』 考察とネタバレ:空気人形の時代から、業界は技術革新していた

スポンサーリンク

『ロマンスドール』 

スパイの妻ならぬ、ラブドール職人の妻。高橋一生が魂を吹き込んだ人形は、蒼井優に似るのだろうか。タナダユキ監督自身が書いた原作小説を満を持して映画化。空気人形の時代から、技術革新のめざましさよ。

公開:2020 年  時間:123分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・原作: タナダユキ

キャスト
北村哲雄: 高橋一生
北村園子: 蒼井優
相川金次: きたろう
田代まりあ:渡辺えり
久保田薫: ピエール瀧
両角:     浜野謙太
ひろ子:   三浦透子

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2019「ロマンスドール」製作委員会

あらすじ

美大卒業後、ひょんなことからラブドール製作工場で働き始めた北村哲雄(高橋一生)。美人で気立ての良い園子(蒼井優)に一目ぼれして結婚するが、自分がラブドール職人であることを彼女に隠し続けている。

仕事にのめり込むうちに家庭を顧みなくなった哲雄は、恋焦がれて夫婦になったはずの園子と次第にセックスレスになっていく。いよいよ夫婦の危機が訪れそうになった時、園子は胸の中に抱えていた秘密を打ち明ける

レビュー(まずはネタバレなし)

ロマンスカーからロマンスドールへ

タイトルからは、ラブドール職人の恋愛ドラマだとはとても思いつかなかった。タナダユキ監督自身が書いた同名小説は、映画のノベライズ版ではなく、2009年に上梓されたもの。

ラブドールの存在が世間に受容されるようになり、また理想的な配役との出会いもあって、満を持して映画化に踏み切ったということらしい。

出版当時、蒼井優とタナダ監督は既に『百万円と苦虫女』でも組んでいたが、この役をオファーするには彼女はまだ若すぎたとか。

なお、タナダ監督には大島優子がロマンスカーの売り子を演じた、そのものずばりの『ロマンス』という名の作品もあるが、本作のほうが誕生は早い。いずれにしても、ロマンス好きなのだろう

職人というものに尊敬や憧憬があったタナダユキ監督がみつけた題材は、ラブドール職人。現代の名工とかにはきっと無縁な職業なのだろうが、より本物に近いもの、美しいものを追究する姿勢に違いはない。

(C)2019「ロマンスドール」製作委員会

時代は空気人形からラブドールへ

ラブドールを扱った映画では、是枝裕和監督の『空気人形』(ペ・ドゥナ主演)が思い浮かぶ。主役は本作でもブスな人形として登場した、ビニール製の空気人形だ。

そして同作でゼペット爺さんをやったのはオダギリジョーだった。

今回それを演じるのは、哲雄役の高橋一生、そしてその妻となり、また人形のモデルとなるのは園子役の蒼井優だ。

19年前の岩井俊二作品『リリイ・シュシュのすべて』では共演とはいうが、さして接点はなかったのではないか。むしろ本作と公開時期が重なる黒沢清作品『スパイの妻』の対比の方が興味深い。

いずれも夫婦役だが、時代も違うので、まったく別人の印象を与える。本作の夫婦の方が、感情をむき出しにぶつけ合っている。

きたろうの出ているシーンがどれもいい

本作は冒頭のラブドール工場に先輩の紹介で現れた哲雄が、熟練工の相川金次(きたろう)の仕事への情熱にほだされ、この仕事にのめり込む。

そして、医療用人工乳房のモデルとだまされて訪れた園子と出会い、忘れ物の安物のピアスを持って駅まで追いかけて一目惚れし、そして結婚するまでの流れがいい。

実に軽やかで、ときに美しく、ときに面白い。そして、哲雄も園子も、実に爽やかでお似合いの二人なのである。

この二人のキューピッド役ともいえる相川金次(キンキンの愛称が笑える)、きたろうのとぼけた演技の笑いと味わいのバランスが絶妙だ。

自分が触れるわけでもないのに、哲雄のために、園子に乳房再現のために触らせてもらえないかと直談判する。

本作での彼の存在はとても大きいと思う。生き別れた娘が久々に会った自分を苗字でしか呼んでくれない話は泣けた。

(C)2019「ロマンスドール」製作委員会

レビュー(ここからネタバレ)

以下ネタバレになりますので、未見の方はご留意願います。

腹上死が冒頭に必要だったか

さて、冒頭で哲雄と園子のベッドシーンのあと、いきなり「妻がその命を終えた」との語りが入る。なので、ネタバレというほどの情報ではない気もするが、このあとすぐに10年前の二人の出会いに話は遡る。

そして結婚したあとにちょっとした夫婦すれ違いの時期を経て、彼女は自分が胃ガンで手術をするのだと打ち明ける。

小説でも冒頭に腹上死の場面が描かれているようだ。これは女だって腹上死が最高の死に方なのだという、タナダユキ監督なりの反発心らしいのだが、私は映画の冒頭で妻の死を伝える意図が分からない

だって、ベタな展開とはいえ、急に離婚を切り出す園子が重い病気なのかもしれないことは、一応サプライズなネタではないのか。

病気、しかも死んでしまうことを、あえて冒頭に伝えるのなら、いい意味で観客の予想を裏切る何かが欲しかった

同じ死なせるにしても、相川キンキンの葬式は早かった。まあ、彼がいなくなることで哲雄が独り立ちするので必然ではあるのだろうが、きたろうの演技が素晴らしかっただけに、喪失感ともったいないという思いが強い。

いちばん共感できなかったのは、哲雄の心情。亡くなる妻にそっくりのドールを丹精込めて造り上げ、そこに魂を宿らせるんだと打ち込むところは分かるし、心を動かされた。

園子にそっくりなドールが仕上がっていくまでの工程、一本一本植え付けていく毛髪、目の下のほくろ。なるほど、これが魂の入ったドールかと、あまりの出来栄えに驚く。

高橋一生の演技力でも理解できなかった点

だが、この手の話は、愛する人を再生させるための行為だからこそ成り立つわけだ。それを史上最高価格120万円で限定販売しネットで即完売だって?

そりゃ社長(ピエール瀧)は嬉しいだろうが、<そのこ1号>と名前まで付けられて、哲雄はどういう気持ちでいられるのか。

この点は、高橋一生の演技力をもってしても、私を説き伏せることができていない。原作を読めば、分かるのだろうか。

思えば、『お父さんと伊藤さん』の藤竜也のお父さんが万引きを繰り返す心情も、『ロマンス』の大島優子が大倉孝二とラブホに行っちゃう心情も、よく分からなかった。

最近のタナダユキ監督作品を、私は理解できていないのか。

スポンサーリンク

スパイの被害者の妻

ただ、ドールの完成度を高めるために弛まぬ努力を重ね、競合他社のスパイだった新入りの両角(浜野謙太)に新素材のデータを盗まれても、くじけずに良いものを作る。

高橋一生職人の所作は美しく、またモノづくりの姿勢もうまく描かれていたと思う。

ピエール瀧は、『全裸監督』のAVビデオ屋の役とかぶる。ボックス(英語でも俗語があったか)とドールをセットで販売すると、警察にしょっ引かれるのは本当なのか。

彼が逮捕されるシーンがあるのは、時節柄刺激的だったかもしれない。本作は、彼の逮捕で実際に劇場公開が延期になっている。

刑事役の大倉孝二は、ダブル『ロマンス』出演となった。

「こんなもの作ったら、逮捕されるに決まっている。バカなのか?」 
テレビドラマ『アンナチュラル』で彼が演じていた刑事の台詞みたいだった。

一方の蒼井優もさすがの女優である。この1~2年くらいで私が観た作品だけでも、『斬、』・『長いお別れ』『宮本から君へ』『スパイの妻』と、まるで異なる役柄を次々にクリアしていく。

音楽と原作について

音楽についても語っておきたい。4人組バンド<never young beach>の主題歌がとても映画に馴染んでいて、好感が持てた。ボーカル&ギターの安部勇磨高橋一生の弟ということらしい。

ちなみに、高橋一生が浮気相手のひろ子(三浦透子)とカラオケでデュエットする曲は、薬師丸ひろ子の懐かしい「ステキな恋の忘れ方」だった。

これはどうやら、役名のひろ子と関係があるようだが(監督談)、私はてっきり哲雄が<野蛮人のように>豹変するのだと思っていた。

三浦透子は、最新作『ドライブ・マイ・カー』で、寡黙でクールな女運転手を演じ、本作とのギャップに萌える。

タナダユキ原作も読んでみた。これはなかなかの力作だ。監督の書いたものだが、映画から離れた小説としても読者を惹きこむ力がある。夫婦間の細やかな心情変化やセックス描写は、小説の方が表現しやすいのかもしれない。

愛妻に酷似させたドールを見知らぬ男たちに売り捌いて、なぜ夫は平気でいられるのか。その答えは、小説から少し読み取れた。

哲雄も複雑な心境ではあったが、「お願い、私を作って」という妻の心からの願いと、人間以上に魅力的なドールなら、きっと愛好家たちも大切に扱ってくれるだろう、そういう思いが彼を動かした。

そして何より、園子という存在をこの世に残しておきたかったのではないか。