映画『浜の朝日の嘘つきどもと』考察とネタバレ|岩波ホールでさえ54年で閉館だというのに

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『浜の朝日の嘘つきどもと』 

100年続いた福島の映画館が、存続の危機に立っている。茂木莉子と名乗る突如現れた謎の女は、救世主なのか。

公開:2021 年  時間:114分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督・脚本:       タナダユキ
キャスト
浜野あさひ(茂木莉子):  高畑充希
森田保造:        柳家喬太郎
田中茉莉子:       大久保佳代子
岡本貞雄:        甲本雅裕
チャン・グオック・バオ: 佐野弘樹
市川和雄:        神尾佑
浜野巳喜男:       光石研
今村:          六平直政
松山秀子:        吉行和子
川島健二:        竹原ピストル

勝手に評点:2.5
     (悪くはないけど)

(C)2021「浜の朝日と嘘つきどもと」製作委員会

あらすじ

100年近くの間、地元住民の思い出を数多く育んできた福島県の映画館・朝日座。しかし、シネコン全盛の時代の流れには逆らえず、支配人の森田保造(柳家喬太郎)はサイレント映画をスクリーンに流しながら、ついに決意を固める。

森田が一斗缶に放り込んだ35ミリフィルムに火を着けた瞬間、若い女性がその火に水をかけた。茂木莉子(高畑充希)と名乗るその女性は、経営が傾いた朝日座を立て直すため、東京からやってきたという。

しかし、朝日座はすでに閉館が決まっており、打つ手がない森田も閉館の意向を変えるつもりはない。

レビュー(まずはネタバレなし)

100年の歴史をもつ映画館

福島県南相馬市に実在し、1923年の開館以来100年の歴史をもつ映画館<朝日座>を中心に、それを取りまく地元の人々を描いていた作品。福島原発事故から10年という節目に加え、福島中央テレビ開局50周年記念の企画であり、タナダユキを監督に、同局製作のオリジナルドラマと、その前日譚である本作品がセットになっている。

タナダユキ監督によれば、福島中央テレビからは「自分達は震災を乗り越えて頑張っています」みたいな作品にはしたくないという要望があったそうだ。原発事故からの復興の苦難に加え、近年の台風被害やコロナ影響など、厳しい状況は続いているのだろうが、地元の視聴者が楽しく観られるものを作りたいという意向なのだろう。

それを受けてか、本作は全体を通じて、あまり苦労が滲み出るような演出にはなっていない。勿論、相馬の土地を考えれば、これら災害の話は避けて通れないが、極力暗く重くならないようにしている。経営が厳しく映画館を閉館しなければならなくなった支配人の森田保造(柳家喬太郎)も、突然押しかけてきてそれを阻止しようと奮闘する茂木莉子(高畑充希)も、基本は陽キャである。

(C)2021「浜の朝日と嘘つきどもと」製作委員会

とはいえ、登場人物がいくら元気でも、現実社会では老舗の岩波ホールまで閉館を余儀なくされる厳寒のこの時代に、ノスタルジーだけで映画館が存続できるほど世間は甘くない。

古い映画館をなんとか守ろうという話は、映画ファンとして私も好きな部類である。

みんなが泣いた『ニュー・シネマ・パラダイス』から大林宣彦監督の遺作となった『海辺の映画館―キネマの玉手箱』、映画は内容が異なるが原田マハによる原作『キネマの神様』、ドラマなら市川森一の書いた『港町純情シネマ』なんてのもあった。どれも、映画館に愛を捧げた佳作揃いだ。

だが、本作はポイントちょっとはずしているように思えた。少なくとも、私の胸には訴えてこなかった。その理由はもう少しあとで書かせていただく。

高畑充希『浜の朝日の嘘つきどもと』予告編

映画館の存続に奔走する女

冒頭、相馬の町に降り立ち、道に迷いながら<朝日座>にたどり着く茂木莉子は、フィルムを燃やしている支配人をみつけ、あわてて火を消す。

経営難で老舗の映画館の閉館を決めた森田支配人は、跡地を借金の返済に充て、そこには健康ランドが建設される予定だった。莉子には、この映画館を立て直さなければならない理由があった。

ここで、話は莉子の高校時代に遡る。彼女は本名を浜野あさひといい、この町の人間だった。原発事故後の混乱期、彼女の父(光石研)は除染作業員の送迎で復興を助けるが、やがてタクシー会社を興し、莫大な利益を上げた復興成金として反感を買う。

社名を浜野あさひ交通としたことで、同じ名前の彼女もいじめに遭う。自殺も考えた莉子を支え、救い出したのが教師の田中茉莉子(大久保佳代子)だった。先生のおかげであさひはどうにか立ち直り、やがて成人し東京で映画配給会社に勤めるのである。なぜ莉子が<朝日座>の存続に尽力するのか。

(C)2021「浜の朝日と嘘つきどもと」製作委員会

どうにも馴染めなかった点

さて、本作で私がどうにも馴染めなかったのが、莉子の機関銃のようなしゃべりなのだ。とにかくポンポンと元気よくまくし立てる。

そういうキャラ設定だし、だからこそ高畑充希が起用されているのかもしれないが、いくら映画を明るくしたいからって、この作品で、主役にあそこまで語らせるのはどうか

題名どおり嘘つきなことや、支配人への口のきき方がぞんざいなのはよいのだが、すべて一方的に彼女に語ってしまうのは映画としてつまらない。スーパー銭湯に再開発なんてさせないわと意気込むあたりから嫌な予感がした。

本作は目をつぶって莉子の台詞だけを聴けば、映画の内容が正確に把握できるほどだ。もっと映画的な演出がほしかった。高畑充希の演技力は勿論認めるが、『バンクーバーの朝日』(石井裕也監督)といい本作といい、彼女と<朝日>の組み合わせはどうも私には鬼門らしい

取り壊される朝日座を眺めながら莉子と支配人が並んで長々と会話するシーンも、カメラを朝日座側から撮っているので、何ともつまらない構図になっている。本当に映画館をみて喋っているのかも疑わしい(映画館と別撮りなのかと思った)。

(C)2021「浜の朝日と嘘つきどもと」製作委員会

映画愛があった人と、なかった人

支配人役の柳家喬太郎も、人の良さが滲み出ていてキャラクターは魅力的だったのだけれど、大の映画ファンという感じはあまり伝わってこなかったな。そもそも冒頭で、映画館のこけら落としの作品「東への道」(D・W・グリフィス監督)の生フィルム焼くところから興ざめだし。

「永遠と一日」(テオ・アンゲロプロス監督)や、ベルギー映画の「トト・ザ・ヒーロー」、杉作J太郎の「怪奇!!幽霊スナック殴り込み!」(これ、タナダユキ主演です)やら「北京原人 Who are you?」(佐藤純彌監督)など、<朝日座>のラインナップが通好みなのは分かった。だけど、映画愛を感じるツボは、そこだけではないはずだ。愛だろ、愛。

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本作で一番光っていたのは、田中茉莉子先生役の大久保佳代子だった。けして熱血教師ではなく、むしろ自殺しそうな生徒をギリギリまで眺めているようなタイプだが、だからこそ自然体で話しやすい。女生徒に我が身を守れと避妊具を配って問題になったり、次々と男ができてはフラれたりと、人間味もある女性教師を大久保佳代子が好演する。

『喜劇 愛妻物語』(足立紳監督)とは違い、真面目な演技で笑いも取る。OL時代の経験が生きてたかも。映画好きの田中先生が、「映画の半分は暗闇なのよ」とフィルム映写の仕組みを莉子に説明してくれるのも好感。支配人からは感じられない映画愛が、彼女にはある。

(C)2021「浜の朝日と嘘つきどもと」製作委員会

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

お手軽すぎないか、その解決策

映画館の立て直しのために、どうにかして資金を工面しようと莉子が考えたのがクラウド・ファンディングだ。まあ、今の時代、そういう手に出るのはおかしくない。

だが、映画館の存続がメインテーマの本作において、建物の写真と支配人のビデオ撮影だけで、「気がついたら資金集まってました、いや良かったね」という展開では、さすがに脚本弱すぎないか。もう少し汗かかないと、共感できない。

『キネマの神様』でも題材がかぶった原田マハによる実話小説『デトロイト美術館の奇跡』は、本作と同じクラファンの話なのだが、きっちり感動させてくれるのに。

それに、映画を無理に重く暗くする必要はないが、コロナ影響で映画館が潰れる話を撮るのなら、誰もマスクしていない日常はかえっておかしい。

(C)2021「浜の朝日と嘘つきどもと」製作委員会

健康ランドの建設で町に雇用が生まれれば、離れていった子供たちが戻ってくる。映画館か再開発か。町の人びとの変わり身が激しくて、どうにも信用ならない。

莉子の父親の物語への噛み込み方も、どこか中途半端である。莉子と支配人以外に、町内で信頼できそうなのは不動産屋の甲本雅裕くらいだ。

また、跡地に健康ランドを建てる計画の会社オフィス・アイの市川(神尾佑)普通なら悪役であるはずが、彼も地元の人間で、良かれと思って必死に考えた策だという。この市川も好人物に見えてしまうので、はたして朝日座存続が本当に正解だったのか、確信が持てずモヤモヤする。

やっときゃよかった

莉子が存続に尽力したのは、恩師の田中茉莉子が、乳がんで死んでしまったからだ。「朝日座はいい映画館だけど、二本立ての組み合わせが最悪なのよ」、先生が生前そう語っていた映画館を買い取って、先生の影響で映画マニアになった莉子が、好きにプログラムを組もうというのだ。

そのストーリーはよい。だが、先生の死に際の演出はいただけない

先生の最期は、日本国籍を与えてあげようと思って最近結婚したベトナム人男性バオ(佐野弘樹)と、久々に呼び出された莉子が病室で看取る。

八年間の交際中、一度も茉莉子の身体を求めてこなかったバオを、国籍目当てで結婚したのだろうと思っていた彼女だが、死ぬ間際に両想いだったことを知る。

「やっときゃよかった…」弱々しく語る、それが彼女の最期の言葉だった。大久保佳代子の名演だ。最後に笑いを取るところが泣かせる。

(C)2021「浜の朝日と嘘つきどもと」製作委員会

でも、なぜか莉子はその場面で、亡くなった彼女の横でゲラゲラ笑い出す。最後のことばがおかしかったのだ。それにつられて、医師や看護師も苦笑する。

いくら莉子が明るいキャラでも、ここは涙をこらえて半笑いに止めるべきだろう。タカダユキ監督は、観客に何を見せたかったのだ。大久保佳代子名台詞、台無しじゃん

ドラマと映画がセットで展開される例には、最近なら有村架純の『前科者』(岸善幸監督)がある。同作は映画の方が後日譚で、どちらも面白いが、時間が長い分、映画のほうに深みがあった。

本作はどうか。ラストシーン、存続した朝日座に訪れる深刻な表情の客に竹原ピストル後日譚であるドラマ版の主要キャラのようだ。ろくに台詞なしのワンカットだけなのに、この竹原ピストルの存在感に、映画の印象は全て持っていかれている。ああ、ドラマ観てないけど、きっと映画より面白いんだろうな。