『花とアリス』今更レビュー|ホントは失われていない記憶を求めて

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『花とアリス』 Hana & Alice

岩井俊二監督が蒼井優と鈴木杏を起用して描き切った、中学から高校へと進む二人の少女の青春時代。本作は実写版です。

公開:2004 年  時間:135分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:        岩井俊二

キャスト
荒井花:            鈴木杏
有栖川徹子(アリス):    蒼井優
宮本雅志:           郭智博
黒柳健次(アリスの父):   平泉成
有栖川加代(アリスの母): 相田翔子
堤ユキ(バレエ教室講師): 木村多江
洩津当郎(猛烈亭ア太郎):  坂本真
矢上風子(写真部):     黒澤愛
リョウ・タグチ:      大沢たかお
編集者現場担当:       広末涼子

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2004 Rockwell Eyes・H&A Project

あらすじ

幼なじみの花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)。花は落語研究会に所属する高校生・宮本(郭智博)に一目惚れ。

同じ部活に所属し、なんとか宮本に近づこうとする花。そしてある嘘をついたハナは、宮本と急接近する。

しかし、その嘘がばれそうになり、さらに嘘をつくはめに。しかもその嘘がきっかけで宮本がアリスに恋心を抱いてしまう。

今更レビュー(ネタバレあり)

元気はつらつオロC少女

思春期の少女たちの毎日の充実感と女同士の友情、そして恋愛をいっきにまとめあげ、しかもコミカルな部分と美しい部分を巧みに配合した作品に仕上げてしまうのは、さすが岩井俊二監督。

中学生の(鈴木杏)アリス(蒼井優)は、同じバレエ教室(先生は木村多江)に通う親友。二人はいつもどこへ行くのも一緒のようだ。

冒頭、中学時代の花とアリスが、雪道や寂れた駅ではしゃぎまくる登校シーンだけで、すでに岩井映画と見分けがつく、何とも美しい出来栄え。だが、今回は映像美だけでなく、コメディとしての面白味が加わる。

大人しくて気弱な花に対し、アリスは天真爛漫で活発な性格。

いつも駅にいる、アリスが見初めたハーフっぽい高校生(デイヴ・リー)とその弟と思しき高校生・宮本(郭智博)。隠し撮りまでして、「花には弟のほうをあげるよ」と冗談を言っていたアリスだが、すぐにその男たちのことを忘れてしまう。

一方、花は宮本のことが好きになり、同じ高校に入り、彼の所属する落研に入部する。こう書くと、ストレートな青春恋愛もののようだが、実情はちょっと異なる。

花は、下校途中で頭をぶつけて卒倒した宮本に駆け寄り、嘘をつくのだ。

「先輩、私に告白したことを忘れたんですか?記憶喪失ですよ、きっと」

(C)2004 Rockwell Eyes・H&A Project

記憶喪失映画は多々あれど

この無茶な嘘に乗っかって映画が突き進むこと自体、強引ではあるが、まあそれでも主演の二人のフレッシュな魅力で十分映画は牽引できている。

花に告白したことを思い出せない(当然だが)宮本は、彼女に言われるがままに、付き合いだすような形になる。

本作は文字通り、花とアリスという二人の少女の物語であり、また演出上は天真爛漫なアリスの明るく健康的な魅力を強調するような撮り方が多いように思う。

だが、映画の中盤までは、物語の中心にいるのは紛れもなく花である。それも花と宮本の疑似恋愛だ。

アリスは親友として何度も登場するが、彼女自身のストーリーとしては、原宿でスカウトされて(ふせえり、怪しいです)、事務所に入ってオーディションを受け始めることと、離婚した父親・黒柳健次(平泉成)と久々に再会し、鎌倉で半日デートするくらいしかなく、この時点では本筋と無縁に見える。

話は逸れるが、アリスは、離婚前は黒柳徹子という名前だったのだなあ。『花とトットちゃん』になるところだった。

やがて宮本は、花の自宅PCに昔の自分の写真が大量保存されているのをみつけ、彼女の嘘に気づき始める。仕方なく、花は嘘を重ねる。

「写真は先輩の元カノだった有栖川徹子さんが送り付けてきたんです。先輩は、彼女に強引に言い寄られて無理やり付き合っていた時に、私に出会って告白してきたわけです」

こうして、宮本の記憶喪失を巡って、今カノと自認する花と、元カノとでっち上げられたアリスとが、ついに三つ巴で絡んでくることになる。

映画『花とアリス』予告

物語の枠外で気になること

本作は、物語の枠外で気を取られる部分が多くある。

まずはロケ地。登校に使っている両毛線(群馬)、桜満開のもみじ橋(東京)、今や鳥のいないマリンタワー(横浜)、鶴岡八幡宮(鎌倉)、ボートに乗る洗足池(東京)、キャットストリート(原宿)等など。

いいロケ地があれば、脈絡は問わず使うスタンスと思われるので、このロケ地ではシーンが繋がらないとか、考えても仕方ない話と割り切る。

また、ワンシーンのみのゲストも目立つ。まだ爽やかさ前面出しの阿部寛。アリスの母親の相田翔子と、花の母親のキムラ緑子も、ほぼドラマには絡まない(インパクトはあるが)。それに、終盤の大沢たかお広末涼子

更に、オーディション関係では伊藤歩、大森南朋、虻川美穂子(北陽)、森下能幸、ルー大柴、アジャ・コング、梶原善、叶美香等など。声で分かってしまう吉岡秀隆が、ホントに声だけだったのは笑った

その他、漫画へのオマージュもあちこちに感じられる。水木、藤子といった駅名をはじめ、手塚高校には手塚キャラ大集合。鉄腕アトムの巨大バルーンは、『翔んだカップル』(相米慎二監督)のくじらアドバルーンを思い出させる。

更には『花の子ルンルン』『花のピュンピュン丸』『もーれつア太郎』『ばくはつ五郎』など、中高年には納得の品揃えだ。古典落語の練習風景は、『のようなもの』(森田芳光監督)よりそれっぽいぞ、つって。

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花とアリスは、分身そのもの

さて、そのような本質と関係ない部分を除いて観れば、本作は<手紙>と並んで岩井俊二監督の大好きなテーマである<分身>の映画そのものと思える。

終盤の大沢たかお演じるフォトグラファーとともに出てくる双子のデルモのことではない。花とアリスの二人が、まさに双子のような分身なのだろう

中学のセーラー服、高校のブレザーの制服姿が同じなのは、同じ学校だし必然なのかもしれないが、平日に花が宮本と喫茶店で会っているときに偶然鉢合わせしたときでさえ、二人はパーカーとタイトミニという同じ私服姿なのだから。

だが、双子でありながら、陰と陽の関係にある花とアリス。宮本に嘘をつきながら付き合っているものの、いつ嘘が露呈するか心配しているせいか、スクリーンの中の花はどこか暗さを引き摺っている。

かたや、元々あっけらかんとしているアリスには、陽光の明るさが画面上でも感じ取れ、まだ成長途上の彼女の、魅力といえるのか微妙な危なっかしさがうまく引き出されている。

(C)2004 Rockwell Eyes・H&A Project

恋愛か、友情か

宮本はアリスと会うことで、「自分が好きになるのなら彼女のようなタイプだろう。有栖川さんと別れて花と付き合うとは思えない」、そう疑問を抱く。

風邪で倒れた宮本は、看病する花に力なく呟く。

「半分だけ記憶が戻ることもあるのかな。有栖川さんとの記憶だけが」

宮本はアリスが好きなのだ。そう認めたくない花。激しい雨の中、宮本のクスリを買いに外に出ると、黒子のような格好でダンスのレッスンをしている不審者をみつける。なんと、それはアリスだ。

その不可解な行動は、自分もまた宮本を好きになりかけているアリスが、花子との友情のためにも邪心を振り払おうと、もがいているように見えた。

三人は海にでかける、宮本の記憶を取り戻すという口実で。砂浜に散らばったトランプからハートのAのカードをみつける王様ゲームで、勝ったアリスは「花と別れて私と付き合って」という。

慌てる花に、「じょ・う・だ・ん・です・よ」とアリスがピエロのようにおどけるシーンがある。本作には、終盤のアリスのバレエシーンをはじめ、フォトジェニックなシーンが多数あるが、私は冗談めかして本心を語る、滑稽ながら切ないこのシーンが好きだ

本ページの情報は2021年12月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。

父の思い出から記憶捏造へ

さて、もともと演技など不得手でキットカットもおいしそうに齧れずオーディションを落ちまくっていたアリス(本作にはキットカットとタイアップのショートフィルムがあった)。

宮本の元カノのふりもはじめは下手な芝居だったが、次第に自然になっていく。それは、子どもの頃の父親との思い出を、宮本との記憶にすり替え始めたからだ。

だが、宮本が体質で食べられない筈のところてんを、花が思い出の品にでっち上げたしたことで、嘘がばれてしまう。

父との記憶でなくしたはずのトランプのカードや、「愛しています」の中国語など、前半の父との鎌倉エピソードがここで効いてくる。

アリスと宮本は相思相愛のはずだが、友情のために彼女は身を引く。「私のことは、このハートのAと一緒に引き出しの奥にしまってほしい」、と言って。

『花とアリス』予告編 | hana and alice - Trailer

そしてラストへと怒涛の展開

ここからは畳み掛ける名場面。学園祭で寄席の初舞台をふむ花。その直前、舞台の袖で宮本に、全てを語り謝罪する。

「先輩がアリスを好きになったのなら、それは本当の恋です。先輩が私を好きになった事実はありません」

涙ながらに訴える花に、「勝手に決めるなよ」と寄席に出る背中を押す宮本。これは、一途な思いの花に、宮本も恋心が芽生えてしまったのか。

花とアリスがそれぞれに身を引き合う麗しい友情につい注目するが、アリスのトランプカードを持ち歩き未練タラタラの先輩が、花に甘い言葉を語る、フラれたから次行きます的な挙動は、少々気になる。

だが、そんなモヤモヤを吹き飛ばすのは、最後にオーディションでフォトグラファー(大沢たかお)にリクエストされたアリスが、制服姿と紙コップのトゥシューズでバレエを披露するシーンだ。

自然光を浴び白い木目のスタジオで美しく舞う蒼井優。これが岩井俊二の真骨頂だ。

バレエだけを取り上げれば、例えば『ミッドナイトスワン』(内田英治監督)の服部樹咲の方が格上なのだろう(素人目でもそう思う)。でも、紙コップとガムテでここまで魅せるところが、本作の素晴らしさであり、ゆえに何年も記憶に残る映画になっているのだ。

というわけで、宮本先輩との関係はその後を知らないが、花とアリスの二人は、よい関係に戻っていて、何より何より。雑誌の表紙にはアリスの顔のアップ。鼻の頭が蚊に刺されてるのなんか、印刷前にチェックしないか普通