『渇き』
박쥐
パク・チャヌク監督がソン・ガンホをヴァンパイアに仕立てたコミカル・スリラー
公開:2009年 時間:133分
製作国:韓国
スタッフ
監督: パク・チャヌク
キャスト
サンヒョン: ソン・ガンホ
テジュ: キム・オクピン
ガンウ: シン・ハギュン
ガンウの母: キム・ヘスク
老神父: パク・イナン
スンデ警備課長: ソン・ヨンチャン
ヨンドゥ環境課長: オ・ダルス
イブリン: メルセデス・カブロル
勝手に評点:
(悪くはないけど)

コンテンツ
あらすじ
アフリカで行われたワクチン開発の実験台となり、その際に輸血された血液のせいでヴァンパイアとなってしまった神父サンヒョン(ソン・ガンホ)。
幼なじみガンウ(シン・ハギュン)の妻であるテジュ(キム・オクピン)と禁断の恋に落ちたサンヒョンは、その特殊な力で夫を殺害するよう誘惑される。
今更レビュー(ネタバレあり)
ソン・ガンホが吸血鬼?
『渇き』と聞くと、役所広司と小松菜奈の日本映画を思い浮かべてしまうが、こちらはそれよりも公開が古い韓国映画。
原題はコウモリの意味だそうで、エミール・ゾラの「テレーズ・ラカン」から着想を得たヴァンパイア映画である。
そうはいってもパク・チャヌク監督がありきたりな吸血鬼ものを撮るはずもなく、正体不明の輸血を受けて吸血鬼になってしまう主人公の敬虔な神父サンヒョンを演じるのは、なんとソン・ガンホ。もう出オチみたいなキャスティングに、つい失笑してしまう。
謎の殺人ウイルスの対策を研究する機関に志願して実験体となったサンヒョンは、菌に侵され死んだかに見えたが、輸血によってヴァンパイアと化し、500人に唯一人の生還者となる。
菌による腫物だらけの顔を包帯で隠した聖者サンヒョンに、我が子のガンを治してほしいとすがってきた母親(キム・ヘスク)。
その家に訪れると、患者のガンウ(シン・ハギュン)もその妻のテジュ(キム・オクピン)も、サンヒョンの幼なじみだった。こんな流れで主要キャストが揃ってくる。

ゴシックホラーの様式美はない
ガンウは病人ではあるが我儘なマザコン息子で、母もそんな我が子を溺愛。黙って不条理な命令に従っているテジュだけが家の中で虐げられている。
ヴァンパイアになってもなお敬虔な神父であろうとするサンヒョンだったが、やがてテジュとの間に禁断の感情が芽生え、彼女のためにガンウを殺そうと考えだす。
◇
ドラキュラ伯爵に代表される吸血鬼の映画というのは、美しいゴシックホラーの形で描かれるものがほとんどだが、韓国映画だからなのかパク・チャヌク監督の感性なのか、本作の描き方は美しさよりおぞましさが強い。

序盤のサンヒョンが病に侵される様子も、日光を浴びてただれる肌だとか縦笛を吹きながらの吐血だとか、なんとまあ見苦しいこと。
◇
不死身の身体を手に入れたサンヒョンは、その代償として生き血が欲しくてたまらなくなるが、神父が人を殺めるわけにはいかず、自殺した者の血や輸血で飢えをしのぐ。
寝たきりの病人からチューブで血を飲むソン・ガンホの間抜けな姿が笑いを誘う。血は飲みたいが、人は殺せない。葛藤するサンヒョンの姿が、『東京喰種トーキョーグール』のカネキ君を思い出させる。
キム・オクピンが大活躍
ソン・ガンホのポッチャリ系ヴァンパイアだけでは、ゴシックホラーどころかコメディになってしまうところを、どうにかカバーしているのが、テジュ役のキム・オクピン。
ビジュ良しなのは勿論だが、前半の不遇な妻という立場から、後半にサンヒョンの血をもらいヴァンパイアになってからのキャラ変も見応えがある。
◇
そういえばキム・オクピンと、夫のガンウを演じたシン・ハギュンって、アクション映画の快作『悪女/AKUJO』でも共演してたなあ。
パク・チャヌク監督作品の常連シン・ハギュンはクセのある役を任されることが多いが、今回も殺されたあとに亡霊となって、妻とサンヒョンが裸で抱き合う間に割り込んでいるのには笑。
◇
ヴァンパイアのサンヒョンには、生き血をすする、日光を浴びると死ぬ、治癒力が高い、怪力であるといったお馴染みの特性はあるが、ニンニクや十字架、銀の弾丸などが苦手だという設定もなく、一方で空を飛べる能力が備わっている。
神父という仕事はどちらかといえば十字架をかざしてヴァンパイアを退治する側にいそうな職業だが、その聖職者がヴァンパイアになってしまうという苦悩を、パク・チャヌク監督は描きたかったのかもしれない。
どういう映画にしたかったのか
テジュにしてみれば、バカ夫とうるさい姑との息が詰まりそうな生活の中、裸足で夢遊病を装い夜中に出歩くくらいしか楽しみがなかった。
そこに突然、奇跡を起こす幼なじみが現れて、不思議な力で夫を殺してくれようとするのだから、これは惚れてまうやろ。
だが、サンヒョンの正体を知り、恐ろしくなって塩対応をしたところ、殺されかけてしまいには吸った生き血を返されて、めでたく彼女も吸血鬼に仲間入り。
◇
そこからのテジュは、「あんた自殺者のとか輸血ばっかりだから弱っちいのよ」と、次々と獲物を捕まえ生き血をすする。「やっぱり養殖より天然ものが美味い」とでもいわんばかりの行動力。
そんな彼女を制して道を正そうとする聖職者のサンヒョン。最後には、日陰の場所がない断崖絶壁にテジュを連れ出して、夜明けを待つ。
これはサンヒョンがテジュを陽光で殺そうというのではなく、ともに心中しようという行為なのだ。最後には相思相愛のようにみえる二人が、夜明けとともに消滅していく。

二人の悲恋をメロウに、そして時にはコミカルに描くヴァンパイア映画ということなら、それなりに楽しめる。
けれど、ガンウが殺されたてふざけた怨霊となって出てきたり、息子の死のショックで脳梗塞となった母親がまばたきの意思表示以外動けない体になってしまったりと、微妙にキワドいネタもぶち込んでくる。
麻雀仲間のソン・ヨンチャンと常連のオ・ダルス、さらにその外国人妻のメルセデス・カブロルの存在もまた、混乱材料。みんな殺されるためだけの生き血要員だったのかね。
