『殺人者の記憶法』 考察とネタバレ:しかめっ面の中年男の痙攣顔より、若者の不敵な笑顔の方が怖い。

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『殺人者の記憶法』 Memoir of a Murderer

すぐに記憶をなくす中年男とイケメンの警察官青年。ともに正体は連続殺人犯。記憶なくして勝てるのか。しかめっ面の中年男の痙攣顔より、若者の不敵な笑みのが怖い。

公開:2017 年  時間:118分  
製作国:韓国

スタッフ 
監督: ウォン・シニョン
原作: キム・ヨンハ 
        『殺人者の記憶法』
 
キャスト
キム・ビョンス: ソル・ギョング
ミン・テジュ:  キム・ナムギル
キム・ウンヒ:  ソリョン
アン・ビョンマン:オ・ダルス

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

(C)2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

あらすじ

アルツハイマーで元連続殺人鬼という獣医のビョンス(ソル・ギョング)は、日々の出来事を録音し、記憶がおぼろげになっていく日々を凌いでいた。

ある日、ビョンスは接触事故を起こし、謎の男テジュ(キム・ナムギル)に出会う。その目つきに彼もまた殺人犯だと確信し、警察に通報するがまともに取りあってもらえない。

やがてテジュはビョンスの愛娘ウンヒ(ソリョン)の彼氏として目の前に現れる。ビョンスはひとりでテジュを捕らえようとするが、アルツハイマーにより記憶は途切れ混乱していく。

レビュー(まずはネタバレなし)

すぐに記憶を失ってしまう連続殺人犯

DV男だった父親を中学時代に殺害し、そこから社会のクズは殺さなければ気が済まなくなった主人公の連続殺人犯ビョンス。だが、17年前の最後の殺人のあとで起こした交通事故が原因で、アルツハイマーになってしまう。

韓国のベストセラーの映画化らしい。自分がついさっき人を殺したのではと、不安になってしまう連続殺人犯の着想は面白いし、接触事故で出会った若者ミン・テジュが警察官でありながら連続殺人鬼というのも、なかなか盛り上がる展開だ。

ただ、すぐに記憶をなくしてしまう設定は、あまりに都合よく使われていて、また、アルツハイマーの症状も過度にデフォルメされているように思うけれど。

監督・キャスティングについて

監督はウォン・シニョン。代表作『サスペクト 哀しき容疑者』は韓国版『ボーン・アイデンティティ』と評価が高いそうだが、あいにく私は未見である。

主演の記憶をなくす連続殺人犯ビョンスにソル・ギョング。どんな役でも演じるカメレオン俳優で、今回も異彩を放つ。『シルミド』あたりが代表作か。

ソル・ギョングは『オアシス』『ペパーミント・キャンディ』の印象が強い。次々と町のクズを始末していく姿が似合いすぎる。そういえば、本作は『ペパーミント・キャンディ』と同様に、トンネルを抜けた山間の風景シーンから始まる。

相対するミン・テジュ巡査を演じたキム・ナムギル、ダーク・ヒーロー的な人物設定は魅力的。警察官の顔を持ち、実は連続殺人犯、しかも小生意気な優男風の顔立ちで、主人公を追い込んでいく。

あの不敵な笑みと、アイドル然としたルックスとのギャップがいい。『私が殺人犯だ』のような、いかにも韓国映画に似合うキャラだ。

(C)2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

そしてビョンスの一人娘のウンヒを演じたソリョン。アイドルグループAOAのメンバー。

今回の役はちょっと可愛くて気も優しくての出来過ぎキャラで、こんなに父親を慕う娘が現実にいるかとも思うが、父子家庭で育った経緯を思えば、あり得るものなのかもしれない。

そして、ビョンスとは古い付き合いのアン・ビョンマン署長を演じたオ・ダルス。彼が登場すると場が和む。『オールドボーイ』をはじめパク・チャヌク監督作品でお馴染みの俳優だ。

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記憶喪失ものという激戦区

記憶喪失系の話は、ミステリーから恋愛ものまで多岐に渡り過熱気味だった時代が過ぎて久しく、むしろ懐かしささえ感じる。

だが、短期記憶喪失ものとしてはやはり開拓者たるノーランの『メメント』を超えていない。記憶をなくし何度も投薬して死なせてしまったり、忘れないように録音する発想などは、大きく影響を受けている。『メメント』がポラロイドとタトゥーなら、こちらはひたすら録音という違いはあるが。

シリアスなサスペンスに徹すればよいのに、大事なところで主人公が頻繁に「ここはどこだ、私は何をしているんだ」状態になってしまうのはコントのようで残念。

また、記憶だと思っていたものが主人公の妄想や空想だったりと上書きされてしまうので、どれも怪しく思える一方、作り手は何でも好き勝手にストーリーをもてあそぶことができてしまう。

主人公ビョンスとミン・テジュとの殺人鬼対決、その愛娘ウンヒ、そしてビョンスの友人であるアン・ビョンマン署長、この四人でドラマは転がっていくし、十分面白い展開が作れるような気がするのだが、残念なことに記憶喪失を頻発させることで緊張感を殺いでいる。

そうなるとビョンスの顔けいれんも別に怖くないし、ただでさえ笑えるアン・ビョンマン署長が登場すると、もはやサスペンス要素は相当薄らいでしまう。

(C)2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

レビュー(ここからネタバレ)

以下、ネタバレになるので未見の方はご留意願います。

記憶が曖昧な設定を濫用している

記憶が曖昧なことを幸いに、都合よくシーンを作りすぎなのではないか。

一例は、修道女になっている姉を慕っているが、実は彼女は子供時代に既に自殺していたというもの。これにより、姉にまつわる現代のエピソードはすべてビョンスの妄想となる。

娘ウンヒを人目を忍んで避難させた修道院施設も、乗せたタクシーも全て夢の世界となってしまう。

それがありだとすれば、出来過ぎた娘のウンヒも実在するのか疑わしいし、彼女の母に当たるビョンスの妻が登場しないのも不思議だしと、何でも額面通りに信じられなくなる。

本作は、怪しい男がいると警察に通報してきたビョンスに、ミン・テジュが職権を濫用して近づいていくところから、娘ウンヒと付き合いだす、或いはビョンスの日記を盗み見て自分の殺人の証拠を隠滅するあたりまで、とてもよく出来たサスペンスだった。

このまま、不必要に記憶喪失を絡めることなく、二人の対決に持ち込めばよかったのにと思う。

余談だが、アン・ビョンマン署長は、彼女の仇を取る為に犯人逮捕まで自制していたタバコを再開するのが、早すぎだから返り討ちにあうのだと言いたくなる。

姉妹編『殺人者の記憶法 新しい記憶』

ちなみに、本作には『殺人者の記憶法 新しい記憶』という、少しシーンを追加してラストも変えている別バージョンが存在する。これも意味不明だ。

DVDの特典で未採用の別エンディングが付いているのとはわけが違う。ちゃんと両バージョンが別作品として存在するのだ。「どっちの解釈もありですよ」と二作品をラインナップするくらいなら、責任をもって不出来な方を引っ込めてほしい

ラスト以外は殆ど同じシーンの使いまわしなのだが、本作で美しく描かれた父と娘の関係など別バージョンでは無残に蹴散らされてしまうので、私は本作だけ観れば十分だと思う。

本作のラストのちょっと釈然としない感じを、『新しい記憶』は多少解明してくれるかもしれないが、さらに難解な謎と不条理を上かぶせしてくるので、収支はマイナスである。本作の方が、後味はよい。

以上、お読みいただきありがとうございました。韓国でヒットした原作は、どちらの結末なのか、気になる方はぜひ。