『青春18×2 君へと続く道』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『青春18×2 君へと続く道』考察とネタバレ|アオハルかよ、キヨハラかや

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『青春18×2 君へと続く道』

あの時、想いを伝えていたら、未来は変わっていただろうか。藤井道人監督が清原果耶とシュー・グァンハンの共演で贈る甘酸っぱい物語。

公開:2024 年  時間:123分  
製作国:日本・台湾

スタッフ 
監督:           藤井道人
原作:         ジミー・ライ
    『青春18×2 日本慢車流浪記』
キャスト
ジミー:シュー・グァンハン(許光漢)
アミ:           清原果耶
アーロン:フィガロ・ツェン(曾少宗)
島田店長:         北村豊晴
リュウ: ジョセフ・チャン(張孝全)
幸次:           道枝駿佑
由紀子:           黒木華
中里:            松重豊
裕子:            黒木瞳

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2024「青春18×2」film partners

あらすじ

18年前の台湾。高校3年生のジミー(シュー・グァンハン)はバイト先のカラオケ店で4歳上の日本人バックパッカー、アミ(清原果耶)と出会う。

ジミーは天真爛漫な彼女に恋心を抱くようになる。アミもまた、ある秘密を抱えながらもジミーにひかれていく。しかし突然アミの帰国が決まり、意気消沈するジミーにアミはある約束を提案する。

現在。人生につまずいて久々に帰郷した36歳のジミーは、かつてアミから届いたハガキを再び手に取り、あの日の約束を果たすべく日本へ向けて旅立つ。

東京から鎌倉・長野・新潟、そしてアミの故郷・福島へと向かう道中で、彼女と過ごした日々の記憶がジミーの心によみがえる。

レビュー(まずはネタバレなし)

『ヤクザと家族』とか『最後まで行く』とか、バイオレンス系の時の藤井道人監督は断然好きなのだが、恋愛系はちょっとなあ。と、期待半分で観に行った本作。

だが、これは予想を裏切る掘り出し物。おっさんの琴線にも心地よい刺激を与えてくれる。 「青春18」って、JRのお得な切符のことだよね、実は若者限定ではなく年齢制限なしという。

原作は日本の「青春18きっぷ」を利用して旅した台湾人ジミー・ライのブログ、『青春18×2 日本慢車流浪記』というから、間違いではない。

でも、「青春18×2」はチケット二人分ではなく、主人公ジミー(シュー・グァンハン)が18歳でアミ(清原果耶)と出会い、それから18年の歳月が流れたという意味なのだ。

(C)2024「青春18×2」film partners

映画は冒頭、会議室で着席している者たちが次々に挙手する場面。ピントがぼけ音声もないが、社長を解任する取締役会っぽいぞと想像できる。

やがて状況がわかってくる。解任されたジミーは友人と立ち上げた台湾のゲーム会社CEO。会社は成長を遂げるが、彼は何らかの理由で追放されたようだ。

激務から解放され、久々に実家に帰り、自室にあった古い絵葉書をみつける。それは、アミという女性からの手紙だった。

ジミーは会社を去る前に、創設時の仲間アーロン(フィガロ・ツェン)の東京出張に付き合う。

台湾人と日本人が都内の接待で談話する場面は、『ヤンヤン 夏の想い出』(エドワード・ヤン監督)のイッセー尾形の出演シーンを思わせる。日中合作だから、かすかに台湾映画の匂いがする。

ともあれ、この接待で義理を果たしたジミーは、翌日からあてのない電車旅を始める。

「旅は何が起こるか分からないから、面白いんだよ」

かつてアミから聞いた言葉が、今の彼を動かしている。

JRの列車を駆使した青春18きっぷの旅は、品川から鎌倉、長野、新潟、福島と続いていく。それぞれの旅の内容や出会った人の詳細はここでは書かないが、旅の途中、折に触れて彼は18年前の青春デイズを思い出す。

高校時代のジミーは、カラオケ店でバイトをしていた。そこにバックパッカーのアミ(清原果耶)が現れ、「財布を無くして困っているので、しばらく働かせてほしい」と店長に懇願し、採用される。

殺伐とした雰囲気のカラオケ店は、アミが来てから、和気あいあいとした職場に様変わりする。いい加減そうなオーナー店長(北村豊晴)が、実は日本人だったのも面白い。

(C)2024「青春18×2」film partners

このバイト先で、ジミーとアミは次第に親しくなっていく。4歳年上のアミにジミーはすぐに惚れるが、彼女の気持ちが分からない。

この微妙な距離感がたまらないのだ。すぐにくっついたり離れたりと落ち着きがない昨今の青春ラブコメ映画は、このドキドキ感をぜひ見習ってくれ。

「自分探しの旅というより、自分の生き方が間違っていないことを確かめる旅かな」

台南まで一人旅する22歳の女には、18歳高校生男子はガキに見えるのか。

ジミーが分かるように初歩的な日本語で話しかけるせいだろうか。二人の会話は単純でのんびりしているが、とても甘く優しい。日本人と台湾人という設定が効いているのだと思う。母国語が同じだと、こういう雰囲気はまず生まれない。

有線イヤホンの左右を分け合って聴くミスチル(曲は無音だけど)、スクーターのタンデム(飲酒してたけど)、そして彼女の手をつなぐまでの勇気(強引だがそれもよし)。

ああ、ノスタルジックに自分の思い出に浸る場面がいくつあっただろう。青春18×2どころか青春18×3の世代だってロックオンされる演出が冴えわたる。

18年前のアミとの甘い過去を少しずつ思い出しながら、ジミーは日本の各地を旅していく。スラダンから岩井俊二『Love Letter』 まで、18年前の中国・台湾を夢中にさせたアイテムも、旅のお供にうまく取り入れられている。

ジミーの列車旅は、行く先々で様々な人との一期一会を繰り返す。これこそが、ロードムービーの醍醐味だ

みんな彼に優しくしてくれるけど、もう二度と出会うことはない人たちなのだ。その刹那的な関係がいい。

JR東日本の全面協力で飯山線只見線が出てくるが、必要以上に目立つ感じにはなっておらず、脇役の分をわきまえている是枝裕和監督の 『奇跡』のような、鉄道の使い方へのこじつけ感はない。

主人公ジミー役のシュー・グァンハンは18歳と36歳を巧みに演じ分け。実年齢は33歳だが、むしろ高校生の方が自然だった気も。NHKドラマ『路〜台湾エクスプレス〜』にも出演。

アミ役の清原果耶は、何を演じても文句なしの天才肌女優。藤井道人監督とは『デイアンドナイト』『宇宙でいちばんあかるい屋根』に続き三度目タッグ。

『宇宙でいちばんあかるい屋根』は映画的にはイマイチだったけど、監督が清原果耶に全幅の信頼を置くのも納得

ただ、18年後のアミはなかなか登場しない。我々を焦らしたまま、ジミーはアミの実家のある福島県の只見へ、少しずつ近づいていく。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください

ジミーがまずスラダンの聖地、鎌倉高校前に行ったのはご愛嬌だが、そこからなぜか松本に行き、夜のなわて通り商店街で居酒屋に入り、そこで同じ台南育ちのリュウ(ジョセフ・チャン)と出会う。

「より長い旅のためには、一休みすることも必要」

店を閉めて、夜の松本城を案内してくれるのだから親切な男だ。一つ目の一期一会。

(C)2024「青春18×2」film partners

次には、電車の中で幸次(道枝駿佑)という人懐こい若者に会う。「国境の長いトンネルを抜けたら雪国だった」となる瞬間を、ジミーに見せるが、彼にとって、それは『Love Letter』の世界。

うるさいだけの若者かと思ったが、旅路において数少ない陽気な場面を提供してくれる、なかなか憎めない<なにわ男子>だった。本作において、この天然の陽キャの存在は重要。

(C)2024「青春18×2」film partners

そして長岡のネカフェで出会う店員の由紀子(黒木華)台南にもあったランタン祭りの会場がある津南まで夜道をクルマを飛ばしてジミーを連れて行ってくれる。みんな親切だなあ。

黒木華がこういうかしこまらないフリーター女を演じるのは珍しい。意外と似合う。

ランタンに願い事を書いて夜空に浮かばせる場面は何とも言えぬ美しさだ。

(C)2024「青春18×2」film partners

18年前にジミーは「夢を見つけて実現する」、そしてアミは「いつまでも旅が続きますように」と願いを書いた。

「ジミー、二人とも願いが叶ったら、必ずまた会おう」

それは、急遽日本に帰国することになったアミが、別れる前にジミーと交わした約束だった。

ついにアミの実家のある只見まで来たジミーは、道を聞いた男性(松重豊)の軽トラで、彼女の母親(黒木瞳)の元まで送り届けられる。

「あなた、ジミーさん?」
「はい。遅くなってすみません」

なぜ、彼がそう答えたのか不思議に思った。だが、松重豊の台詞や、黒木瞳の振る舞いから、不吉な印象は強まる。そこには、アミの遺影と仏壇がある。だが、ジミーはそれを見ても、あまり反応しない。

夢が叶ったら必ずまた会おう。ジミーは大ヒットのゲームを作り、会社を成長させた。だが、アミはどうだ。「いつまでも旅が続く」のが夢では、ゴールがない。

だが、彼女は心臓に大きな病気を抱えていた。いつまでも旅が続くことは、長生きすることでもあった。その夢を彼女は叶えられなかった。

ジミーは以前に彼女に電話をした際に、アミの死を知らされていたのだ。彼女の部屋には、いつか訪ねてくるかもしれない年下の彼氏のために、台南の旅を絵で綴ったアルバムが残されていた。

再会に行ったら彼女が死んでいるのでは、随分と肩すかしなラブストーリーではないかと思ったが、考えてみたら、映画的にはこういう結末が相応しい。18年も会ってくれないアミには、それだけの理由が必要だから。

18年前のカラオケ店はつぶれ、仲間たちも離散。今回の旅で出会った人々も、きっと二度と顔を合わせることはない。だから、アミとの出会いも一度きり。再会できないからこそ、甘酸っぱく、忘れられない存在になっていくのだ。

(C)2024「青春18×2」film partners

言ってしまえば難病ものだが、ベタな芝居をクドクドとやり、泣かせようとする作品ではない。その軽やかさと潔さが、凛とした清原果耶に合っている

エンディングには、ドラムの入り方だけでそれと分かるミスチルの新曲「記憶の旅人」

日本にも台南にも聖地巡礼したくなる映画だ。青春18きっぷは台南にもあるか?