『月に囚われた男』
Moon
低予算SFにしかできない、技ありの一本。サム・ロックウェルの好演が光る。
公開:2009 年 時間:97分
製作国:イギリス
スタッフ 監督: ダンカン・ジョーンズ キャスト サム・ベル : サム・ロックウェル ガーティの声: ケヴィン・スペイシー テス・ベル: ドミニク・マケリゴット
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
ポイント
- 3年契約で月の裏側にひとり単調な労働。話し相手はAIのみ。未見な人が羨ましいネタバレ不可の佳作。サム・ロックウェルの一人芝居だが、まったく飽きさせない。低予算なれどチープさを感じさせないのは立派。
あらすじ
近未来。地球の主要エネルギー資源を採掘するルナ産業との3年契約をもうすぐ満了する宇宙飛行士サム・ベル(サム・ロックウェル)は、月の裏側でひとり、燃料を地球に送る単調な毎日を過ごしている。
愛する家族との再会を待ちわびながら、孤独な生活に耐えるサムだったが、ある日不注意から事故を起こしてしまう。診療室で目を覚ましたサムは、そこで自分と瓜二つの男に会う。
レビュー(ネタバレあり)
地球に落ちてきた男に続け
もう10年も前の作品になるが、SF映画にはたまに本作のような低予算ながらキラリと光る優れた佳作が現れる。
『ジョジョ・ラビット』や『リチャード・ジュエル』を観たら、サム・ロックウェルの昔の作品が恋しくなって本作を思い出した。
◇
原題の『Moon』よりは邦題のほうがイメージが浮かぶ。本作が初監督のダンカン・ジョーンズはデビッド・ボウイの息子として知られ、ならば父親の主演したSF映画『地球に落ちてきた男』にちなんだ邦題で行くか、という戦略だったのかもしれない。
映画の雰囲気としては、文字通り静かな作品であった『サイレントランニング』あたりが近いか。
古き善き月探検時代を思わせる月面の描き方や、HAL9000のようなコンピュータのガーティ(ケヴィン・スペイシーの声)のキャラクターが印象的。
やや時代遅れの無骨なデザインにスマイル顔のアニメーションという安上がりな出来のガーティ、なにげに愛嬌があってよい。普通この手のAIは敵に回るが、彼はよくサムに尽くしてくれる。
◇
この映画をネタバレなしで語るのは苦しい。アイデア勝負の映画であり、白紙状態で観るべき作品だ。なので、未見の方はとりあえずこの先には進まずに映画をご覧いただければ、と思う。
以下、ネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
レプリカントの悲しみ
冒頭のキャスティングにもあえて書かなかったが、サム・ベルにはサム・ロックウェルのほかに、サムのクローンとしてロビン・チョークという、実によく似た俳優が配役されている。
クローンだから、実質俳優も一人ですむ低予算ならではのアイデアと思っていたが、どうやら二人俳優をたてていたとは、気づかなかった。
帰還時期直前で事故に合ったサム1と、(誰かに助けられ)基地で目覚めたと我々が思っているサム2は、別人なのである。
そうと知らない我々は、サムが、月面で事故車両に乗る瀕死のサムをみつけたことで衝撃を受ける。二人ともクローンだったのだ。
ルナ産業は3年毎に労働者に地球と月を往復させるコストをかけるよりも、クローンに働かせて3年の寿命で使い捨てる方が安上がりだと判断したわけだ。
ルナ産業のモニター画面の向こうであれこれ指示してくる地球のオフィスの男は、『ドクター・ストレンジ』のベネディクト・ウォンだった。画面が鮮明でないので、気づきにくい。
さて、このクローン。彼らに、地球に住むオリジナルの人物の妻と娘の記憶が移植されているのが悲しい。
『ブレードランナー』で他人の記憶が埋め込まれたレプリカントのレイチェルを思い出す。人間に似せて造られたものは、短い寿命なのだ。
今回、ラストでサムはルナ産業に一矢を報いることに成功するが、それが株価を下げる程度の話になっているのがショボい。本来なら、『ブレードランナー』のルトガー・ハウアーよろしく、彼らの創造主の息の根を止めに行くくらいしてほしい所(そんな予算ないか)。
それはさておき、これだけのスケールの作品をチープに見せずに低予算で仕上げる手腕はすばらしい。