『スリー・ビルボード』 考察とネタバレ:フランシス・マクドーマンドの演じる人物は、どれも同じに見えるのに圧倒される

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『スリー・ビルボード』 
Three Billboards Outside Ebbing, Missouri

署長に向けた怒りのスリービルボードこんなの走行中に見たくないけど。フランシス・マクドーマンドとサム・ロックウェルの圧巻の演技。

公開:2018 年  時間:115分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督・脚本:   マーティン・マクドナー

キャスト
ミルドレッド・ヘイズ: 
       フランシス・マクドーマンド
ディクソン巡査:   サム・ロックウェル
ビル・ウィロビー署長:ウディ・ハレルソン
アン・ウィロビー: アビー・コーニッシュ
レッド・ウェルビー: 
    ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
チャーリー:      ジョン・ホークス
ペネロープ:   サマラ・ウィーヴィング
ジェームズ:  ピーター・ディンクレイジ
パメラ:        ケリー・コンドン
ロビー・ヘイズ:   ルーカス・ヘッジズ
アンジェラ・ヘイズ:
         キャスリン・ニュートン
セドリック巡査部長:ジェリコ・イヴァネク
デニス:      アマンダ・ウォーレン
アバークロンビー: クラーク・ピータース

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)2017 Twentieth Century Fox

あらすじ

米ミズーリ州の片田舎の町で、何者かに娘を殺された主婦のミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が、犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、解決しない事件への抗議のために町はずれに巨大な三枚の広告看板を設置する。

それを快く思わない警察や住民とミルドレッドの間には埋まらない溝が生まれ、いさかいが絶えなくなる。そして事態は思わぬ方向へと転がっていく。

レビュー(まずはネタバレなし)

三枚の広告看板

架空の田舎町であるミズーリ州エビングで、誰も通らないような寂れた街道沿いで何年も吹きさらしだった広告看板をみつけ、ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)三連のメッセージ広告を出す。

それは市民に愛される地元警察のウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)に対し、レイプ殺人犯はまだ捕まらないのかという抗議のメッセージ。彼女こそ、殺されたアンジェラの母親だった。

冒頭からの展開で、つかみは十分。これによって、静かな田舎町は騒然とする。直球のタイトルは分かりやすくて好きだが、邦題もきちんと複数形にしてくれないと、どこか気持ち悪い。

本ページの情報は2021年10月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。

フランシス・マクドーマンドが演じるミルドレッドは男勝りの気丈な女性。本作でアカデミー主演女優賞を受賞する。

直近では『ノマドランド』でも三度目の主演女優賞のオスカーを手にしたが、最初の『ファーゴ』を含め、どれも同じようなキャラクターで受賞しているのは笑ってしまう。

本作も『ノマドランド』のように作品賞を獲るにふさわしい作品ではあったが、残念ながらノミネートに留まっている。

劇作家として広く知られるマーティン・マクドナーが監督・脚本を手掛け、着想は20年以上前に彼自身がアメリカ南部でバスから目撃したメッセージ広告からだという。その、怒りに燃えた強烈な広告から、イメージを膨らませていったのだ。

(C)2017 Twentieth Century Fox

被害者の母は過激なミルドレッド

ミルドレッドは、レイプ殺人の被害者の親という役にしては、あまりに言動が過激な女性である。離婚して息子と二人暮らしだが、車を売って広告費を捻出し、ウィロビー署長を吊るし上げる。

地元の名士である署長が末期がん患者であることを知っている町の人々はミルドレッドに反発するが、彼女は意に介さない。

「米国中の男ども全員のDNAを採取すりゃいいのよ」

署長が癌と知っていて、死ぬ前に広告を急いだというミルドレッドの行動は、徐々に過激さを増していく。

彼女は娘アンジェラ(キャスリン・ニュートン)の生前、事件に遭う直前に激しく口論している。不良娘はクルマを貸してくれない母に、「一人歩きじゃレイプされるかもよ!」と食って掛かり、「されりゃいいのよ」と返す。それが最後の会話だ。

キャスリン・ニュートン『ザ・スイッチ』と違って、ほぼワンカットのこの役では、なかなか魅力が伝わらず、残念。

ミルドレッドが犯人探しや署長への口撃にここまで意固地になっているのは、本来は自分にぶつけるべき怒りの矛先を向けたいだけなのかもしれない。その行動原理は、最近観た吉田恵輔監督『空白』の、娘を失くした父親(古田新太)とどこか似ている。

署長に心酔する暴力警官ディクソン

過激な行動は彼女だけではない。母譲りのレイシストの暴力警官ディクソン巡査(サム・ロックウェル)は、ウィロビー署長に心酔しており、ミルドレッドに執拗に攻撃する宿敵となる。

悪徳警官の典型のようなこの人物も、彼女に負けず劣らず行動がエスカレートしていき、双方が取返しのつかない一線を越えていく。

本作でのフランシス・マクドーマンドのキャラは想定内だが、サム・ロックウェルは善悪の読めない人物設定がとても面白い。「黒人虐めに忙しいのか」とミルドレッドに嫌味を言われて、「有色人種だろ」と正すところが笑えた。

ジョジョ・ラビット』の軍人役でもそうだったが、彼はこの手の型にハマらない役をやらせたら逸品だ。

一方、ウィロビー署長を演じるウディ・ハレルソンは通常なら悪役デフォルトだから、はたして本作では市民の思っているような好人物なのか。この演出も興味深い。

マーティン・マクドナー監督の思惑通り、本作はそれぞれの核となる登場人物の見え方が、作品の途中から移り変わっていく。単純な復讐劇という物差しでは測れないところに、ドラマとしての面白味がある。

(C)2017 Twentieth Century Fox

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

なぜ真犯人が現れなかったのか

いきなり結末に触れてしまうので恐縮だが、私は公開時に本作を観た当初、バーでディクソンがわざと喧嘩をふっかけて、引っ掻いた肌のDNAを採取した男が、なぜ真犯人ではなかったのだろうと不思議に思った。

結局、DNA不一致で真犯人は捕まらず、事件の捜査は振出しに戻るが、宿敵だったミルドレッドとディクソンは皮肉にも警察署放火騒動の加害者と被害者という不思議な関係から心が通じ合う

そして、真犯人ではないが、どこかでレイプ殺人をしていたに違いないバーの男を、二人で意気投合して処刑しにいくのだ。このラストシーンのおかげで、本作はなぜか内容のわりに心軽やかな印象で終わる。

「ギャング仲間が悪さをすると連帯責任になる法律ができたから、信者が罪を犯したら神父にも責任があるってことじゃない?」

前半でミルドレッドは、広告をやめるよう説得しにきた神父を追い返す。その理屈に立てば、バーの男も同罪で連帯責任があると考えているのかもしれない。

もしもDNAが合致してバーの男が真犯人だったら、あまりに偶然に頼った話として、印象に残らない映画だったかもしれない。バーで警官が真犯人の隣の席にいること自体、作為的だし。

(C)2017 Twentieth Century Fox

だが、今回改めて観てみると、マーティン・マクドナー監督は真犯人の手がかりを一応残してくれている。確固たる材料には乏しいが、事件は迷宮入りというのではなく、観る者による解釈が可能だということだ。

容疑者候補① ウィロビー署長

考えられる容疑者の一人は、癌で病死する前に自死を選んだウィロビー署長だ。そう思わせる怪しげなショットは、前半に散見される。

ミルドレッドがどこまで見抜いているかを気にしているようでもあり、病状悪化で彼女の顔に吐血してしまったあとの動揺や、医師が採血した試料を壁に投げつける行為など、自分のDNAについて過度な警戒心を感じさせる。

おまけにあの処刑を思わせる自殺シーンも、追い詰められた男の行動にみえる。

「癌が怖くて自殺するが、広告騒ぎとは関係がない。その証拠に広告費を送るよ」というミルドレッドへの遺書も、額面通り受け取ってよいものか。

(C)2017 Twentieth Century Fox
  • How Come, Chief Willoughby?
  • And Still No Arrests?
  • Raped While Dying

さて、運転中にこれら三枚の広告看板を一瞬で見た時、脳裏に浮かぶメッセージは何だろう。文法を無視すれば、<レイプして殺したウィロビー署長は、なんでまだ逮捕されないワケ?>とならないか。

(C)2017 Twentieth Century Fox

容疑者候補② DV夫のチャーリー

ミルドレッドの別れたDV夫チャーリー(ジョン・ホークス)も、広告に火をつけるなど過激な言動や挑発好きで、どこか怪しい。

娘をレイプして火をつけるとは考えにくいが、一緒に暮らす若い馬鹿女ペネロープ(サマラ・ウィーヴィング)は娘くらいの年齢で、もしかするとこの男はわが娘にも手を出していたかもしれない。

チャーリーは本命とはいえないが、対抗馬にはなっているような演出だ。

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容疑者候補③ バーの男

だが私は、やはり真犯人はバーの男なのではないかと思う。

ウィロビー署長の後任のアバークロンビー署長(クラーク・ピータース)がディクソンに、こいつは犯人ではないというシーンの歯切れが明らかに悪い

こいつは9カ月前まで国外にいたという(アフガンとかの戦場っぽい会話だが機密なので明かされない)。

アンジェラの事件は映画冒頭では7カ月前と言っているが、本編での時間経過を勘案すると、ほぼ同時期とも思え、容疑者からはずす理由として成立するのか微妙。

だが、もっと怪しいのは、アバークロンビーの説明だ。荒くれ者ディクソンを解雇した正義の人だったはずの彼の、あの自信はどこにいった。

DNAが違ったのなら、それだけ言えばいいものを、やれお前はお手柄だ、よくやったと持ち上げたり、入出国記録や機密の話をちらつかせたりと、語るに落ちた感じになっている。

(C)2017 Twentieth Century Fox

だいたい、アイダホからはるばるやってきてミルドレッドを脅迫したり、バーでディクソンを見て不安になったりと、真犯人じゃなければフラッグが立ち過ぎている

このバーの男が警察上層部に顔が効く有力者なのか、或いは戦地から戻ってすぐの兵士から殺人犯は出せない、みたいな圧力がかかったのか。そういう匂いが濃厚だ。

バーの男を真犯人とする説を裏付ける明らかな材料は乏しい。ただ、ミルドレッドとディクソンが猟銃持って遠路はるばる成敗しにいく相手が、そうとは知らずとも結果的に正しい復讐相手だったというほうが、物語として浮かばれるではないか。なので、希望的観測で、そう考えることにする

最後になってしまったが、当初はチャラ男に見えたがなかなか任侠肌だった広告会社のレッド・ウェルビー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と、あの乱暴者一家にあって健やかに育った好青年ロビー・ヘイズ(ルーカス・ヘッジズ)一貫した善人ぶりには、敬意を表したい。