『インザスープ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『イン ザ スープ』考察とネタバレ|フラッシュダンスにチャチャチャで対抗

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『イン・ザ・スープ』
 In The Soup

インデペンデントの俊英アレクサンダー・ロックウェル監督のヒット作。映画作りに没頭する青年と謎のパトロンの物語。

公開:1992 年  時間:93分  
製作国:アメリカ
 

スタッフ 
監督・脚本: 
     アレクサンダー・ロックウェル
脚本:        ティム・キッセル
製作総指揮:         鈴木隆一
               船原長生

キャスト
アルドルフォ:  スティーヴ・ブシェミ
アンジェリカ
     :  ジェニファー・ビールス
ジョー:      シーモア・カッセル
スキッピー:     ウィル・パットン
ダング:        パット・モーヤ
ルイス・バファルディ:
       スティーヴン・ランダッゾ
フランク・バファルディ:
      フランチェスコ・メッシーナ
モンティ:    ジム・ジャームッシュ
バーバラ:      キャロル・ケイン
グレゴワール:  スタンリー・トゥッチ
パウリ:      サム・ロックウェル

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

ポイント

  • こういうインディーズ作品を観ると、ジャームッシュの映画にはまってた時代を思い出すなあ、と思っているとその彼が役者で登場。
  • 本作は何といってもジョーを演じたシーモア・カッセルの不思議なおっさんの魅力。アレクサンダー・ロックウェル監督の入門編として『スウィート・シング』とセットで。

あらすじ

映画製作の資金繰りに困ったアルドルフォ(スティーヴ・ブシェミ)は、大切な自作の脚本を売りに出す。

そこへジョー(シーモア・カッセル)という初老の男が現れ、資金援助を申し出る。

しかし、資金調達という理由で彼に怪しげな仕事の片棒を担がされたアルドルフォは、次第にどつぼ(=イン・ザ・スープ)にハマっていく。

今更レビュー(ネタバレあり)

濃厚なスープにはまる

インデペンデント映画にこの人ありと言われたアレクサンダー・ロックウェル監督の1992年のヒット作。日本でも1993 年公開当時、単館ロードショー12 週間連続のロングランになったというが、あいにく当時の記憶がない。

先日アレクサンダー・ロックウェル監督の新作『スウィートシング』を観たことで、本作も観てみたくなった。

昨今ではイン・ザ・スープというと”In the Soop”BTSの番組の方が有名なようだが、こちらは韓国アイドルとは無縁の”In the Soup”。すなわち、<悪い状況にはまっている>系の物語だ。

監督本人がモデルではないだろうが、映画製作を夢みて脚本を書き続けるもなかなか実現のめどが立たず苦労している主人公アルドルフォ(スティーヴ・ブシェミ)

折りしもタランティーノ『レザボア・ドッグス』が公開された頃のこの時代、すでに個性的な脇役として活躍していたスティーヴ・ブシェミだが、主演となると珍しいかも。

しかも本作のアルドルフォは、アパートの隣人アンジェリカ(ジェニファー・ビールス)に恋い焦がれ、彼女の主演で映画を撮りたいと夢見る青年だ。スティーヴ・ブシェミらしからぬキャラだが、悪くない。

裸一貫で映画を作るのだ

甥っ子とアパートの廊下で遊び、かくれんぼの鬼のように目隠しして秒読みして待つアンジェリカ。そこに登場したアルドルフォを甥っ子と勘違いし、何とも気まずい感じ。というか、彼が好感を持たれていないのはすぐ分かる。

家賃も払えぬアルドルフォを、歌う大家バファルディ兄弟(スティーヴン・ランダッゾ、フランチェスコ・メッシーナ)が執拗に取り立てに来る。人を喰ったキャラの登場が笑える。

カネに困っているアルドルフォはテレビのインタビュー番組に出演するが、『裸の真実』というこの番組は、全裸になって自分の将来の夢を語る、何とも屈辱的なものだった。

仕事を割り当てる男を、アレクサンダー・ロックウェル監督と同時代にインデペンデント映画の地位を確立したジム・ジャームッシュが演じていて、面白い(ジャームッシュは風貌が目立ちすぎてすぐ分かる)。

結局、金欠のままのアルドルフォは、「500ページの脚本を売ります!」と告知するのだが、それに返信してきたのが、ジョー(シーモア・カッセル)という正体不明のおっさんなのだった。

怪しいけど憎めないジョー

やたら金回りのいいこのジョーという人物、どこまで信用ができるのか。アルドルフォを芸術家だと持ち上げ、愛人のダング(パット・モーヤ)や弟のスキッピー(ウィル・パットン)を紹介する。

アレクサンダー・ロックウェル監督が資金繰りに苦労していた実体験が窺えるようだ。ちなみに本作は、製作総指揮が鈴木隆一、船原長生。どうにかジャパンマネーの資金援助を引き出し、完成に漕ぎつけている。

アルドルフォにやたらとキスを求めたり抱きついたりのジョーだが、別に男が好きというわけではなさそうだ。陽気で人懐こく、うさんくさいけど憎めないキャラが、映画に笑いと勢いをもたらす。

ジョーを演じたシーモア・カッセルはインデペンデント作品に積極的に出演しサポートする名優。2019年に亡くなったが、本作における彼の存在は大きい。

鈴木隆一氏によれば、オダギリジョーは本作の役名から名前をいただいたのだとか(ちなみに本名は漢字で小田切譲。どっちもカッコいいねえ)。

金回りのいいジョーだが、彼に手伝わされる仕事は、どうやらヤバいものではないかとアルドルフォは不安に思い始める。

そのジョーが、サンタのコスプレで民家からポルシェを強奪するところで、不安は確信に変わる(あいつは悪徳警官だぞ、ポルシェが買えるわけがないとは言うが)。

天使のようなアンジェリカ

一方、隣人のアンジェリカ。フランス人のグレゴワール(スタンリー・トゥッチ)に騙されてグリーンカード目当てで結婚したが、カネは騙し取られ、今は甥っ子たちを養いながら、アパートに暮らす。

ドアが開かずにアルドルフォの部屋にやってきて、窓から出入りするコメディタッチな展開が、ヘプバーン『ティファニーで朝食を』を思わせる。

アンジェリカを演じたジェニファー・ビールス『フラッシュダンス』(1983)の大人気からだいぶ経過し、当時はロックウェル監督と結婚していた頃(その後に離婚)。

なお、強面でアルドルフォを怖がらせる、ジョーの弟のスキッピー(ウィル・パットン)は、監督の新作『スウィートシング』で味のある父親役を演じており、感慨深い。

この二作には隠れた繋がりがあるとロックウェル監督が語っているが、ウィル・パットンは隠れた繋がりとは言わないか。クリスマスと海岸が登場するのは共通しているかな。

意外な出演者としては、アンジェリカと同居している、ちょっと知的障害の青年パウリをまだ若きサム・ロックウェルが演じている(ちょっと分かりにくいけど)。同じ姓だから、監督と血縁関係があるのかも。

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立つ前に燃え尽きたジョー

さて、ジョーの悪事に加担していることは知りながらも、彼の巧みなトークでうるさい大家のバファルディ兄弟を黙らせたり、アンジェリカを食事に誘って親しくなったりと、すっかり依存体質になっているアルドルフォ

「ジョーがいなければ、映画はできないぞ」と自分に言い聞かせ、彼に渋々つきあっている。

本作のユニークな点は、映画を撮るためにさんざんジョーに翻弄されているアルドルフォが、結局最後までこれっぽっちも作品の完成に近づいていないところだ。

ジョーは本気で彼に映画を撮らせるつもりがあったのか、それも最後まで明かされない。ヤバい麻薬取引にアルドルフォをあてがい、そのイザコザで弟スキッピーは相手に殺される。

映画はできず、アンジェリカもいつしかジョーと懇意になっている(ジョーが夫のグレゴワールから大金を取り戻してくれたのだから、無理もない)。

映画作りなんかもういい。そう言って、ジョーの元からアンジェリカを連れ帰ろうとするアルドルフォ。だがジョーと口論するうちに、アンジェリカがジョーの拳銃を奪いとり、もみ合ううちにジョーは撃たれてしまう。

撃たれたふりのあと、「冗談だよ」と笑わせるジョーだったが、結局その後息を引き取る。

「500ページの難解な脚本より、シンプルなラブストーリーを撮れよ」とジョーに散々言われてきたアルドルフォは、自分たちのこの体験を映画にしようと思いつく。

「完成したら、ジョーに捧げるよ」

最後の最後で、映画作りはほんの少しだけ前進したように見えた。ああ、ジョーが生きているうちに、映画を撮ってほしかったなあ。