『クヒオ大佐』今更レビュー|ロマンス詐欺の神様は米軍パイロット

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『クヒオ大佐』

良家の出身で米軍パイロット。実在した結婚詐欺師を主人公に、吉田大八監督と堺雅人のタッグで贈るブラックコメディ

公開:2009 年  時間:112分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督・脚本:   吉田大八
脚本:      香川まさひと
原作:      吉田和正
       『結婚詐欺師 クヒオ大佐』
キャスト
ジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐:
         堺雅人
永野しのぶ:   松雪泰子
浅岡春:     満島ひかり
須藤未知子:   中村優子
永野達也:    新井浩文
高橋幸一:    児嶋一哉
木下理香:    安藤サクラ
藤原:      内野聖陽

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2009「クヒオ大佐」製作委員会

ポイント

  • ゆるいロマンス詐欺師のコメディと言われてしまえばそれまでだが、マジメにバカをやって笑いに昇華させる堺雅人の熱意を感じる。
  • どうみても怪しいのに誰も見破れないクヒオ大佐の悪事を、「王様は裸だ!」と吊るし上げる新井浩文がメチャクチャ面白くてツボ。

あらすじ

由緒ある家系で、今は米軍特殊部隊でパイロットをしているというクヒオ大佐(堺雅人)だが、実は結婚詐欺師。

現在は町の弁当業者の独身社長で結婚を夢見るしのぶ(松雪泰子)をターゲットにして何かと金品をせびる一方、クヒオは博物館の若い学芸員・春(満島ひかり)や銀座のホステス未知子(中村優子)にもモーションを掛ける。

しのぶの弟・達也(新井浩文)はクヒオを詐欺師と見破り、姉に隠れて100万円の口止め料をクヒオに要求。ところがクヒオはしのぶをさらに騙そうとする。

  

今更レビュー(まずはネタバレなし)

なぜ米軍パイロットを選んだのか

アメリカ軍特殊部隊のパイロットで、エリザベス女王とも血縁関係にあたるなどと吹聴し、次々と女性たちをだましていたロマンス詐欺師ジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐。

実在した日本人だが、それをフィクションで仕立てた吉田和正の原作を、堺雅人を主演に起用し吉田大八監督が映画化したコメディ。

結婚詐欺師の話だという先入観で見始めると、<第一部:血と砂と金>という文字が『仁義なき戦い』風にデカデカと現れ、イラクのサダム・フセインの暴挙から始まる現代史がアーカイブ映像とともに語られるので戸惑う。

流暢な英語で受話器の向こうの米国政府と親しげに話し、日本の政治家には90億ドルの追加支援を強いる仲介役の男(内野聖陽)。結局、日本はイラク戦争に、誰にも感謝されず多額の資金を支払わされる。

このプロローグは詐欺の話と無縁のようで、多くの日本人が無意識に米国に抱いている強い負け犬根性を再認識させる意味があるのだろう。

実際、<第二部:クヒオ大佐>として続く本編では、米軍パイロットを騙る主人公に何らかの畏怖や憧憬を感じてしまうから、複数の女性が彼に心や身体を許してしまう。

怪しさしかない制帽制服の男

さて、そんな小難しい話は抜きにして、このクヒオ大佐(堺雅人)の鮮やかなロマンス詐欺の手口は、傍で見ている分には実に面白い。

山林で子供たち相手に毒キノコの説明をする博物館職員の浅岡春(満島ひかり)。そこに通りがかったパイロットの制服制帽のクヒオ大佐が、若干たどたどしい日本語で「あなた、子供嫌いでしょう?」とだけ言い残して去る。

ミステリアスな男の言葉は、春の心にひっかかる。その直後、クヒオ大佐は旅館で待つ永野しのぶ(松雪泰子)と山林を歩き、自慢げに毒キノコの蘊蓄を語る。

(C)2009「クヒオ大佐」製作委員会

そして旅館ではウェディングドレスの生地をどうするかの話で、しのぶの気を惹く。ここまでの短いシーンで、早くもクヒオ大佐の本性と手口が窺える。

場所をわきまえない仰々しい制服制帽ハワイで生まれ育った日系人の経歴と、英国王室にも近い血筋、そして戦争中というのに、極秘任務と称して頻繁に温泉地に足を運ぶ米軍パイロット

どうみても怪しさしかない人物だが、いつの間にか女性たちは彼の嘘を信じている。

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いや、クヒオ大佐の言葉を借りれば(それすら銀座で働く女の言葉のパクリだったか)、「騙したのではない、相手が望むことをしてやっただけ」なのだが。

詐欺師の物語とはいえ、長澤まさみ『コンフィデンスマンJP』に代表されるような、すっかり鮮やかに騙される系の映画ではなく、むしろ手口ミエミエの詐欺。そこに被害者女性たちが騙されてしまうところにおかしさと切なさがある。

クヒオ大佐 予告編

キャスティングについて

クヒオ大佐役に堺雅人を起用したのは、吉田大八監督大正解。彼は今や大河ドラマの主役も張った大物俳優だが、喜劇においても、マジメな顔でバカな言動ができるところがいい。

突然に長々と腕立て伏せを始めてみたり、米軍パイロットなのに英語が下手だったり、戦友を飛行機事故で亡くした思い出話が『トップガン』のパクリだったり。

本作のキャラは、後の『鍵泥棒のメソッド』(2012、内田けんじ監督)で嘘がばれそうになり追い詰められる主人公にも通じる。

(C)2009「クヒオ大佐」製作委員会

被害者には親から継いだ零細仕出し弁当屋社長永野しのぶ(松雪泰子)。結婚話に舞い上がり、英語を勉強し、言いつけ通り『沈黙の艦隊』を読み米軍のホームパーティに備え知識を習得。

仕事中にクルマを出して温泉旅館まで何度も付き合わされ、彼女が貢いだ資金総額は数百万。一番の被害者だが、それでも頑なにクヒオ大佐との愛を信じる、けなげな女性経営者松雪泰子が合う。前年公開された福山雅治『容疑者Xの献身』でも弁当屋さんでしたね。

(C)2009「クヒオ大佐」製作委員会

そして博物館の学芸員・浅岡春(満島ひかり)。怪しさだらけのクヒオ大佐には警戒心を持ち、そもそも恋愛感情などなかったが、同じ職場の別れた恋人・高橋(「児嶋だよ」の児嶋一哉)が同僚の木下理香(安藤サクラ)とくっついたことがきっかけで、クヒオ大佐と一線を越えてしまう。

満島ひかりはこの2009年、『プライド』(金子修介監督)、『愛のむきだし』(園子温監督)そして本作と、私の中では大注目の若手女優となっていたひとだった。

(C)2009「クヒオ大佐」製作委員会

三人目の女性は、銀座のクラブで一番人気の須藤未知子(中村優子)。骨董品店でクヒオ大佐が声をかけ高額な買い物をさせ、もらった彼女の名刺の店の前に、強引に乗り込んだ通りがかりのベンツで登場する荒業が最高。

中村優子は役作りのため、撮影前に女優であることを伏せて実際に銀座のクラブで働き、客から指名をとるまでになっていたとか。さすが銀座の女だけあって、この未知子だけはクヒオ大佐より一枚上手なのだった。

(C)2009「クヒオ大佐」製作委員会

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

そこはyouじゃなくてmeだろ

さて、当然ながら本編のどこかでクヒオ大佐の詐欺が露見する場面を迎えるわけだが、私が本作で大好きなパートは、しのぶの弟・永野達也(新井浩文)すぐに彼の詐欺を見抜き、追い詰めるところ。

多額の借金を姉に返済してもらった愚弟なのだが、久々に弁当工場に現れては、帳簿をみて姉の使い込みを見破り、姉の交際相手を疑う。

そうとは知らず周囲の音まで偽装して今フライト中だと電話してくるクヒオ大佐に、意外にも流暢な英語で返答し、彼の経歴詐称をすぐに見抜く達也。ファミレスに呼びだし、まずは100万円を返せと迫る。

“If you don’t pay, I will kill you”
“Oh! Don’t kill you!”
「そこはyouじゃなくてmeだろ」

新井浩文の無表情な返しがいい。彼にしては、まだ三白眼はマイルドな方だが、当時はこれで十分怖かった。その返済資金までしのぶから引き出そうとするクヒオ大佐。

懲りずに彼が再びかけた電話を弟がとってしまうところも、弟に返す100万円(結局しのぶからまた騙し取ったものだが)が、わざわざ米ドル紙幣になっていて「余計なことすんなよ」と怒られるところも、みんな笑える。

(C)2009「クヒオ大佐」製作委員会

死ねば本当になるから

この弟はカネが戻るまで事を荒立てないが、春はある日偶然に、米軍払い下げの古着屋をみつけ、クヒオ大佐の嘘に気づく。

「何で私だったのか、答えなさいよ!」

追い詰められたクヒオ大佐。そして温泉旅館で彼と対峙するしのぶ。だが彼女は問い詰めない。

「私と一緒に死のう。死ねば、本当になるから」

ああ、彼女の愛は深い。そしてクヒオ大佐は心中用に拳銃を出し、最後の晩餐に、しのぶの工場自慢の弁当を二人で堪能する。勿論、銃は偽物だ。しのぶには分かっていた。だから彼女は、弁当に毒キノコを仕込んだ。

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結局、それは毒キノコではなく、食用の方だった。それさえも、しのぶの目には見抜けなかった。クヒオ大佐は逃げる。ここから先は、どこまでが彼の幻想かは分からない。

冒頭に出てきた藤原(内野聖陽)が彼を追い詰め、そこに米兵たちが現れクヒオ大佐を救い出し、かれを乗せた米軍機が基地に戻り「ミッションは無事終了だ」と英語で会話し湧き上がる。

だが全ては夢だ。彼は警察車両で連行される現実に戻り、自分の過去を振り返る。

終盤、しのぶに語る彼の過去。裕福な北海度の家に生まれ育ち、やがて米軍に入るまで。だが、それすらも虚飾だ。母とともにDVの父親に脅える貧しい家での生活が真実であり、そこからクヒオ大佐が生まれた。

どこまでが本当かは分からない。だが、生きるために、何の罪悪感もなく嘘が付ける体質が、彼にはある。虚言癖には、その自覚があるものなのだろうか。

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』に始まり本作、そしてパーマネント野ばら』と、吉田大八監督のコメディは、笑いと常に背中合わせの悲しみがある。