『王手』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『王手』今更レビュー|真剣師たちが挑む、将棋盤上の格闘技

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『王手』

阪本順治監督が赤井英和と再び組んだ新世界シリーズの第二弾。

公開:1991 年  時間:102分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:     阪本順治
原作:        豊田利晃


キャスト
飛田歩:       赤井英和
香山龍三:      加藤雅也
照美:       広田レオナ
嶋田加奈子:     仁藤優子
三田村早苗:    若山富三郎
天王寺:       金子信雄
駒田成次:       梅津栄
李貞錫:        汐路章
恵美須:        國村隼
鬼詰:      シーザー武志
大熊三段:      芹沢正和
矢倉名人:      坂東玉基
桂八段:       伊武雅刀
白銀:         麿赤児
オッサン:    笑福亭松之助

勝手に評点:★★★☆☆3 
 (一見の価値はあり)

あらすじ

将棋の真剣師を目指す飛田歩(赤井英和)とプロの名人を目指す香山龍三(加藤雅也)。性格も生き方も対照的な二人は、新世界で育った幼馴染みだった。

飛田は借金取りに追われながら日々さまざまな人々と勝負を繰り返すなかで、老真剣師・三田村(若山富三郎)と出会い、人生を懸けた大勝負に挑むことになる。

今更レビュー(ネタバレあり)

通天閣タワーがそびえる新世界を舞台にした、『どついたるねん』『王手』『ビリケン』からなる阪本順治監督の<新世界三部作>。第二弾にあたる本作は『どついたるねん』に続き、赤井英和が主演。

監督二作目が『鉄拳』だったので、今回採り上げる賭け将棋の世界が、阪本監督としてはボクシング映画以外での初挑戦ということになる。とはいえ、そのスタイルは、さながら盤上の格闘技のようであるが…。

冒頭、照明の消えた真夜中の通天閣タワーが妙にカッコいい。このタワーは本作でも重要な舞台として何度も登場するが、ここまでクールに撮っているのは珍しいのではないか。

大阪・新世界にある将棋センター。「賭け将棋お断り」の貼り紙の下で、今日も大勢の将棋打ちたちが勝負事で盛りあがっている。

賭け将棋の世界に生きる者たちは真剣師と呼ばれ、飛田歩(赤井英和)は最強のアマチュア、現代の坂田三吉として頭角を表していた。

勝負に買って盤上の賭け金をごっそりもらう手口も鮮やかながら、借金を返せと取り立て屋の怖そうな連中に追われ、全力疾走で逃げまくる姿も面白い。

赤井英和の破天荒なキャラと豪快な語り口は本作でもすっかり定着しており、見ていても安心感がある。

プロ棋士を目指す世界は極めて熾烈だと、『3月のライオン』をはじめ多くの将棋映画から学んだが、飛田の幼馴染の香山龍三(加藤雅也)も、まさにそのような環境でプロの名人を目指している。

豪快な飛田と繊細な香山は勝負している将棋の世界も違うが、なぜか腐れ縁で仲が良い。

ロン毛でメガネの繊細男の香山に、加藤雅也とは驚き。当時はこういう線で売っていたのか! 当然二枚目ではあるが、今のようなワイルドさは微塵もなくて新鮮。

同じく二人の幼馴染で近所の薬局の娘・加奈子(仁藤優子)に、香山は想いを寄せているが、打ち明けられずにいる。そんな香山が加奈子はじれったい。

対照的に飛田の方は、乗り込んだタクシーの運転手の出身地だという日本海の温泉地にクルマを飛ばし、ストリッパーの照美(広田レオナ)と出会い、すぐに旅館で四十八手を全て試みるという猪突猛進型。

清楚なお嬢様っぽい加奈子役はアイドル歌手の仁藤優子っぽいが、金髪で元ヤンだったという過去設定があり、すぐに蹴りを入れてくるというギャップが楽しい。

広田レオナは今回も照美テレビという名のストリッパーと、お得意の不思議キャラだが、登場シーンの少ない割に存在感あり。

熟考に熟考を重ね、指した駒からもなかなか手を離せずにいる慎重派の香山の打ち方(あまりに時間が長すぎて、対局相手が待ちきれず二手指しで反則負けしたのは笑)。

対照的に、飛田の指し方は豪快そのもので、どんな局面でも、風圧でめんこを裏返すかのように、小気味よい音とともにバシバシと駒を置く。それじゃ、周囲の駒がずれてしまうのではと心配したくなるほどだ。

草彅剛主演の新作『碁盤斬り』(白石和彌監督)は賭け碁を描いた力作だったが、碁のルールが分かっていない者としては、やはり将棋の映画の方がとっつきやすい。

とはいえ、実際に盤上の対局の様子が分かる場面は、テレビ中継で解説者が説明してくれるワンカットくらいしかないのだが。

数ある対局シーンが退屈にならないように、本作では対戦相手も勝敗のつき方も、バラエティに富んでいる。『鉄拳』では不気味なラスボスだったシーザー武志、テレビ中継で飛田に破れる有段者の伊武雅刀、盲人の真剣師の麿赤児、等々。

反則スレスレからすかしっ屁まで、勝ち方は基本コミカル。持ち時間でトイレに隠れて、マグネット将棋で研究する姿は笑。実際に駒を使わず、棋譜を言い合い対局するのも面白かったが、あれは実際にできるものなのだろうか。

さて、無敵の飛田でも歯が立たない相手が伝説の老真剣師・三田村(若山富三郎)。プロアマ対決で名人戦に挑むことになった飛田は、強くなるために、この三田村を相手に平安の本将棋で再度勝負をする。

この平安本将棋というヤツがどこまで史実に則しているのかしらないが、通常の将棋の3倍ほどある数え切れないほどの種類の駒を置いた巨大な将棋盤(縦横何マスあるのか)で1週間ほどかけて不眠不休で勝負するらしい。

通天閣タワーの展望フロアを借り切って(そんなのありか)、寝ずの勝負をする飛田と三田村。若山富三郎の渋さと存在感が際立つ。

ただし、この駒数だけ多い平安本将棋は、ルールもよく分からないので、映画としてはまるで盛り上がらない。ただ交互に駒を取り合っているだけ。これは勿体ない。

そしてクライマックス。三田村に勝った飛田は、矢倉名人(坂東玉基)とのプロアマ対決に挑む。万が一にも飛田が勝ったら、お前たち全員の借金を帳消しにしてやる。

新世界の真剣師たちの金貸しで儲けている恵美須(國村隼)がそう宣言したことで、町中の将棋指したちが、ブラウン管の向こうの飛田を応援する。

通天閣タワーには、「勝ったら借金帳消し」の巨大垂れ幕。間違えて神戸ポートタワーに行ってしまう広田レオナ

ところで、名人戦などでは、棋士が使っている扇子に座右の銘みたいなものが書かれているのだが、飛田も扇子に自筆で毎回何か書いて勝負に臨んでいる。

はじめのうちはまともな言葉が書かれていたが、最後の名人戦ではついに「欧陽菲菲」と書いてきた。このナンセンスな面白味は世代が違うと説明しにくい。

手に汗握るべきこの対局は、意外と飛田の勝利であっさり終わる。これも勿体ない。ボクシング映画ならあり得ない展開だ。

「今度は真剣でやれや」

喜びもせず、まだ少年の名人に捨て台詞を残し、新世界に戻る飛田。

阪本順治監督作ではお馴染みの梅林茂の無機質な劇伴曲が、爽やかなエンディングに似合う。