『グランツーリスモ』
Gran Turismo
グランツーリスモのトッププレイヤーが、自室からとびだしサーキットでガチンコ勝負に
公開:2023 年 時間:134分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ニール・ブロムカンプ 脚本: ジェイソン・ホール ザック・ベイリン 原作: PlayStation Studios 「グランツーリスモ」 キャスト ヤン・マーデンボロー: アーチー・マデクウィ ジャック・ソルター:デヴィッド・ハーバー ダニー・ムーア: オーランド・ブルーム マティ・デイビス: ダレン・バーネット アントニオ・クルス: ペペ・バロッソ レスリー・マーデンボロー(母): ジェリ・ハリウェル=ホーナー スティーブ・マーデンボロー(父): ジャイモン・フンスー コビー・マーデンボロー(弟): ダニエル・プイグ 山内一典: 平岳大 ニコラス・キャパ: ヨシャ・ストラドフスキー オードリー: メイヴ・コーティエ=リリー
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
ポイント
- ゲーマーが本物のカーレースの世界に飛びこむ話というから、もっとバーチャルな映像化と思っていたら、レースはリアルさ重視で見応え十分。
- 鬼コーチとのタッグに父親との確執、定番フレームワークにシムレーサーの新機軸を加えたことで、ツボを押さえたエンタメ作品に仕上げるのは、さすがブロムカンプ監督。
あらすじ
ドライビングゲーム「グランツーリスモ」に熱中する青年ヤン・マーデンボロー(アーチー・マデクウィ)は、同ゲームのトッププレイヤーたちを本物のプロレーサーとして育成するため競いあわせて選抜するプログラム「GTアカデミー」の存在を知る。
そこには、プレイヤーの才能と可能性を信じてアカデミーを発足した男ダニー・ムーア(オーランド・ブルーム)と、ゲーマーが活躍できるような甘い世界ではないと考えながらも指導を引き受けた元レーサーのジャック・ソルター(デヴィッド・ハーバー)、そして世界中から集められたトッププレイヤーたちがいた。
想像を絶するトレーニングや数々のアクシデントを乗り越え、ついにデビュー戦を迎える彼らだったが。
レビュー(まずはネタバレなし)
eスポーツ界の『トップガン』
プレステの看板商品「グランツーリスモ」。それにのめりこむゲーム大好きな主人公たちが、実際のカーレースに挑戦することになる。
劇場予告を見る限りでは、何と荒唐無稽なストーリーだと食指を動かされなかったが、いやちょっと待て、実話ベースだって?
しかも、予告では名前も出なかった気がするが、監督は『第9地区』のニール・ブロムカンプ。これは、意外と期待していいかも!
実際に観てみると、思った通りブロムカンプ監督、相変わらず切れ味の良い仕上がりで、映画は想像以上にちゃんとしたモーターカーのレース映画になっている。今年の掘り出し物のひとつといえる。
映画は序盤の展開がテンポよく進み心地よい。企画を売り込みに日産本社に訪れた欧州日産のダニー・ムーア(オーランド・ブルーム)。
モーターカーの世界に夢と情熱を取り戻すために、グランツーリスモのトッププレイヤーを選りすぐって養成し、実際のレースに出場させないかとぶち上げる。
その名もGTアカデミー。いわばカーレース界、或いはeスポーツ界の『トップガン』。
何を馬鹿なことを、と相手にしないかと思いきや、事故は困るぞと言いながら、即日OKを出してしまう日産。当時カルロス・ゴーン政権下でこんな即決が可能だったのか。
優秀なトレーナーを探せ
ともあれ、ダニーの企画にはGOが出るが、そうなると至急、優秀なトレーナーを招聘しなければならない。
だが、候補者リストにはこんな夢物語に付き合う物好きは一人もおらず、ダニーは最後に残ったジャック・ソルター(デヴィッド・ハーバー)も口説き落とせず。
そこに幸運が舞い込む。元トップレーサーのジャックは今ではチーム・キャパのメカニックで冴えない日々を過ごしていたが、オーナーの息子でドライバーのニコラス・キャパ(ヨシャ・ストラドフスキー)とソリが合わず、喧嘩別れ。ダニーの誘いに乗ることとなる。
絵に描いたようなご都合主義だが、この序盤を複雑にせずに快調に飛ばしたのは好判断。
『ロード・オブ・ザ・リング』のイケメン・エルフ族だったオーランド・ブルームも随分渋さが滲み出る俳優になったものだ。
そして鬼トレーナー役にはデヴィッド・ハーバー。近作は『ブラックウィドウ』の肥満体マスクヒーロー、レッド・ガーディアンか。なかなか面白い組み合わせ。
あまり台詞はないが、グランツーリスモの開発者・山内一典役に平岳大というのも、結構雰囲気出ていて好感。
自室からサーキットへ
さて、もう一方の主役であるシムレーサーだが、イギリスでGT最速ラップを叩きだすのがヤン・マーデンボロー。演じているアーチー・マデクウィは、A24の傑作スリラー『ミッドサマー』で終盤に殺されちゃう若者のひとりだ。
このヤンは、元サッカー選手の父スティーブ(ジャイモン・フンスー)の誘いも断り、自室でゲームに興じるのだが、いわゆる引きこもり系の運動不足なゲームオタクとはちょっと違う感じ。
ヤンはガキの頃からカーレース好きで、ゲームカフェでは負け知らずのプレイヤー。世界中から凄腕レーサーを募るGTアカデミーのプラチナチケットを手にする。
サッカー選手として嘱望される弟のコビー(ダニエル・プイグ)と兄のヤンが、父の愛車を無断拝借してカーチェイスする場面。クルマはチラ見せだけなのだが「えっ、フォルクスワーゲン・コラードじゃね?」と、世代的にはちょっと興奮。
そういえば、本作のメインカーは日産GTRで、それは十分美しいし世界に誇れる日本のスポーツカーだとは思うが、それ以外のカメオ出演車も結構多彩かつ通好みのようで楽しめる。
ニール・ブロムカンプ監督は、なにげにカー・ガイなのかも。
◇
GTアカデミーに入ったヤンは、同じようなトッププレイヤーの若い男女と切磋琢磨しながら、勝ち残りを目指していく。
エージェント養成学校の『キングスマン』には蹴落とし合いがあったが、ここの連中はみなクリーンなのが麗しい。そして、勝者は本物のレースに出場できる。はたして、ゲームとリアルに違いはあるのか。
レースシーンはあくまでリアルに
『第9地区』や『チャッピー』といったニール・ブロムカンプ監督作品から想像すると、本作のレースシーンには、もっとゲーム的な要素、つまり映像的な遊びがふんだんに入ってくるのだろうと思っていた。
だが、レースシーンは相当に本格的に撮られており、ゲーム的な表現は順位の表示とライン取りくらいと限定的だ。
もっといえば、レースが始まってしまえば、ゲームで鍛えたという設定はすっかり忘れて、純粋にカーレースの映画として楽しめる。
そのアングルや編集のうまさは、最近のレース映画、例えば『フォードVSフェラーリ』と比べても、まったく見劣りしない。
ソニーのプレステと山内のポリフォニー・デジタル、それに日産のアカデミーが重要な役割を担うのだから、こういう映画は日本で作って欲しかった気もする。
だが、舞台は東京だけでなく、サーキットのある欧州や中東各国を巡り、しかも各チームのパドックも欧米人主体となると、現実的にはスタッフも予算的にも邦画では厳しいか。
本作は東京の猥雑な繁華街や居酒屋の見せ方がさりげなく、コテコテの作り物っぽくないところはいい。レースはリアルなのに、なぜか観終わったあとは無性にグランツーリスモを久々にプレイしたくなってしまうのは不思議だ。
それにしても、本作は実話ベースだというが、どこまで実際の話に近かったのだろう。
洋画とはいえ製作はソニー傘下のコロンビア映画だから、プレステのみならず、新旧ウォークマンまで小道具で大活躍。あれ、でもヤンの勝負曲のケニー・Gとエンヤはソニーの契約アーティストじゃないな。
映画は途中カーアクシデントなども発生するが、その辺はさすがにフィクションなのか。ちなみに、エンドロールには、実際ヤンのモデルになった本人も登場するので、盛り上がり倍増。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
カーレースの映画は結局ある程度結果が読めてしまうし、味方にみえて時にビジネス優先で冷淡さもみせる企画屋ダニーもありがちキャラ、鬼コーチと優秀な教え子という組み合わせもステレオタイプといえばそれまで。
だが、ゲームで鍛えた若者がリアルな世界を勝ち上がっていくという新機軸を採り入れたことで、うまく新鮮味が出せたといえる。
ちょっとした恋愛要素もあれば、GTアカデミーで競い合ったライバルたちが、ル・マン24時間耐久レースではチームメイトとして戦うという、昨日の敵が今日の仲間になる少年ジャンプ的な興奮要素もある。
特に、前半ではヤンと確執のあった父が、後半で傷つき打ちのめされたヤンが復活を遂げようとするときに、初めてパドックに訪れるくだりはベタだが泣けた。
ゲームの腕でリアルなレーサーになってやるという息子の夢を信じてやれなかった、夢の実現を支えるのではなく、守ってやろうとした自分を悔い詫びる父と、そんな父を誇りに思うヤンの抱擁。
自分も同じ年頃の息子を持て余しているせいか、ここは思わず涙腺がゆるむ。父親役は『ブラッド・ダイヤモンド』のジャイモン・フンスー。いい味だしている。
本作のクライマックスは、栄光のル・マンへの挑戦となる。このレースで表彰台に上がってGTアカデミーを存続させるのだという構成は盛り上がるのだが、正直いって、130分の映画の終盤でル・マン参戦は詰め込み過ぎに思えた。
いや、コンパクトにはまとまっているのだが、さすがに24時間の闘いの厳しさが伝わってこないし、せっかく仲間に加わった二人のチームドライバーの活躍もほとんどみえない。ル・マンまで撮るのなら、あと20分くらいはほしいところだ。
さあ、そろそろ息子のPS5を横取りしてこようかな。