『フォードVSフェラーリ』今更レビュー|敵はイタリアでなく自陣にあり

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『フォード VS フェラーリ』
 Ford v Ferrari

王者フェラーリに挑んで一泡吹かせてやる無名の挑戦者の物語の様だが、フォードこそ自動車業界の雄。大企業病のフォード2代目社長が、マフィアのドンのようなエンツォ・フェラーリにコケにされ、見返したくなる。

公開:2019年  時間:153分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ
監督:    ジェームズ・マンゴールド

キャスト
キャロル・シェルビー:マット・デイモン
ケン・マイルズ: クリスチャン・ベール
モリー・マイルズ: カトリーナ・バルフ

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

ポイント

  • クリスチャン・ベール演じる天才ドライバーがカッチョイイっす。レース映像の再現だけでも、好きな人には涎もの。

あらすじ

1966年のル・マン24時間耐久レースで絶対王者のフェラーリに挑んだフォードの戦い。

依頼を受けたカーデザイナーのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)は、資金も時間も限られ現実離れしたこの申入れを、破天荒な天才ドライバーのケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)とともに引き受け、試練を乗り越えていく。

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レビュー(まずはネタバレなし)

フォードVSメカフォード

あらすじをみると、王者フェラーリに挑んで一泡吹かせてやる無名の挑戦者の物語のように思えるが、フォード・モータース自体、ヘンリー・フォードが起業した自動車産業の王者なわけだ。

大企業病にかかっているフォードの2代目社長が、マフィアのドンのようなエンツォ・フェラーリ「ミシガンで醜いクルマでも作ってろ」とコケにされて、見返してやるぞとなる。

では、フォード社内も一枚岩かというと、全然そうではない。

レースに命賭けてるマイルズやシェルビー、そしてメカニックたちのプロ集団と、新車のセールス重視でレース参戦はマーケティングのひとつとしか思っていないアホな経営陣との確執。

むしろ映画としてはこっちの対決がメイン。フェラーリは添え物扱いで、ドライバーなんてろくにセリフもないのだから。ゴジラVSメカゴジラならぬ、フォードVSメカフォードが実態だ。

(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

デイモンVSベール

キャスティングは大物俳優2名のW主演。最初から最後まで出ずっぱりなのはマット・デイモンだが、実際にレースで走りシビれる演技なのは断然、破天荒キャラのクリスチャン・ベール

今回は立ち振る舞いから蟹江敬三のようなヤブ睨み、顔立ちも違うような気がしたが、すっかり、偏屈な天才ドライバーになりきっている。

監督はジェームズ・マンゴールド。本人も語っているが、ホントにジャンルにこだわらず、いろいろな作品を器用に作ってしまう監督だ。

彼の初期のサスペンス映画『アイデンティティ』が大好きなのだが、これが主要監督作品として紹介されることはめったにない。

さて、そんな監督にとって更なる新境地である本作、オススメかというと、のっけからのレースシーンでサーキットの歓声とか官能的なエグゾーストノートとかにやられちゃう系のひとには、当然安心してプッシュできる。

それほどレースに興味のないひとでも、主演の二人を追いかけているだけで、楽しめる作品だと思うが、何せ私はのっけでやられちゃった口なので、冷静に判定できていない。

FORD v FERRARI Trailer (2019)

レビュー(ここからネタバレ)

米国人の誇るマッスルカーGT40

F1は長年観ていてもル・マン24時間はあまり詳しくないのだが、以前に感心した『ラッシュ/プライドと友情』(ロン・ハワード監督)のジェームス・ハントニキ・ラウダの1976年のF1レース同様に、本作でも懐かしいサーキットの雰囲気がよく出ている。

何せ、当時のクルマがみんな実際に高速走行してくれるなんて、夢のようだ。一体どうやって、或いはどこまでCGで表現しているのだろう。相当にリアルだ

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この時代のレースは、絵になる。ドライバーと車が、人馬一体になっているし、現代のレースのようにデータ分析に基づく戦略も、安全に対する高度な設計も配慮もない。

勿論、現実問題としてレースで人が事故死してはいけないが、昨今のレースを映画化しても、おそらくこれほど手に汗握る展開にはさせられないだろう。アイルトン・セナの時代のレースでさえ、今見ると手作り感に満ちている。

(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

それにしても、GT40、速いだけじゃなくて、美しい。この時代のデザインでありながら、現代に復刻しても殆ど違和感がない機能美というか、フォードが今世紀にはいってGTを売り出したのも肯ける。

「フォードが欧州で戦うのはこれが初めてではない」

と、ヘンリー・フォード二世が決め台詞を吐いて、あの流麗なフォルムでフェラーリに一矢報いて、ル・マンで唯一勝利した米国車の称号を得て。

そりゃ、米国人はみんなGT40が好きになるよな。ただのアメリカン・マッスルカーではないのだ。

(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

盛り上げるフォード経営陣

クルマのことはこのくらいにして、他の配役もみてみよう。

まずは、なんといってもケンの奥さん、モリー(カトリーナ・バルフ)が美しくて毅然としている。ラストで遠景でシェルビーにさりげなく手を振るあたり、実にいい。

あと、レース好きの息子もいい。偏屈だけど家族がいるケンと、口八丁でクルマを売りまくれるけど、どこか寂しいシェルビー、いい組み合わせだ。

(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

それから、フォード陣営でいうと、アイアコッカ(ジョン・バーンサル)はまだ、その後フォードやクライスラーの経営者として剛腕をふるう前だが、早くも社長との対立姿勢が窺える。

さらには、何といっても副社長のレオ・ビーブ(ジョシュ・ルーカス)、相当ダメ役員に描かれていて笑えたが、史実やいかに。

レース結果について、ここで触れるのも野暮なので遠慮する。24時間のレースだが、150分のダイジェストでご堪能いただきたい。冷えたコカ・コーラが飲みたくなったら、ぜひペットボトルじゃなく瓶のままで。