『本陣殺人事件』金田一耕助の事件簿②|横溝ブーム直前のピタゴラスイッチ

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『本陣殺人事件』

横溝正史が探偵・金田一耕助を初めて登場させた原作の映画化。主演は中尾彬、その後定着した金田一イメージとはひと味違う。

公開:1975 年  時間:106分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督:     高林陽一
原作:     横溝正史
        『本陣殺人事件』
キャスト
金田一耕助:  中尾彬
一柳賢蔵:   田村高廣
一柳三郎:   新田章
一柳鈴子:   高沢順子
一柳糸子:   東竜子
一柳良介:   伴勇太郎
一柳秋子:   山本織江
一柳伊兵衛:  海老江寛
久保克子:   水原ゆう紀
久保銀造:   加賀邦男
田谷照三:   石山雄大
三本指の男:  常田富士男
磯川警部:   東野英心
白木静子:   村松英子

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

あらすじ

山間の集落、広い敷地のある一柳家は江戸時代から続く旧家である。事件は長男の賢蔵(田村高廣)と久保克子(水原ゆう紀)の婚礼の日、恙なく終わった式後の未明に起きた。

離れに休んだ若夫婦の部屋から、克子の悲鳴があがったのだ。駈け付けた家族が見たものは、日本刀で斬りつけられた克子と側に倒れる血まみれの賢蔵の姿であった。

やがて、この「本陣殺人事件」を担当した磯川警部(東野英心)により依頼を受けた私立探偵・金田一耕助(中尾彬)がやって来る。複雑怪奇な人間模様に絡められたこの事件を、果たして金田一は解決することができるのか。

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今更レビュー(まずはネタバレなし)

金田一耕助の初登場作品

一時代を築いた横溝正史による探偵・金田一耕助シリーズの第一作。初映画化は片岡千恵蔵主演の『三本指の男』(1947、松田定次監督)、今回のレビューは中尾彬金田一耕助を演じた1975年の作品。その他、テレビドラマでは古谷一行片岡鶴太郎金田一耕助役を務めている。

本陣というのは、身分が高い者しか泊まれない大旅籠屋。田舎の村落に古くからある旧家の本陣で発生する猟奇殺人事件。いかにも横溝正史らしい舞台設定だが、原作は日本の小説としては密室殺人ものの先駆けとして知られる。

監督は高林陽一ATG製作の作品ということもあってアート系の作品を志向している演出には違和感を覚えるものの、全体を振り返ると、意外と原作に忠実な内容である。

本作公開の翌年である1976年に、石坂浩二主演で市川崑監督の『犬神家の一族』が登場する。角川映画の第一弾として、莫大な広告宣伝費とメディアミックスの戦略が奏功し、社会的なヒットとなるが、そもそも同作は映画としての完成度が高かった。

ここから横溝正史作品のブームが始まるわけだが、本作品はその動きが始まる直前の作品であり、同じような世界観を想像すると、ちょっと肩すかしをくらう。作品の重厚さもミステリーとしての面白さも、物足りないのだ。

重厚さに関しては、予算の関係もあり、仕方がない部分もあろう。ミステリーとしての課題は、映画というより原作に起因する問題。

横溝正史の原作は日本の探偵小説の歴史の中では重要な存在であることは理解するが、現代基準で観てしまうと、どうにも薄っぺらい。失礼ながら、密室犯罪のトリックに傾倒するあまり、そもそもの犯罪動機や、登場人物の内面描写が表面的である印象が否めないのだ。

横溝正史小説「本陣殺人事件」トリック再現動画

一方で、本作が後の金田一耕助ブームに貢献している点もある。予算の都合で原作通りに時代設定をあまり古くできなかったようであるが、そこが面白い効果を生み出している。

惨劇の舞台となる山深い集落は、そこだけみるととても古い時代の設定のようだが、金田一が登場することで、現代劇(といっても古いが)であることが分かるのだ。

この不思議な時間感覚のゆらぎが、翌年からの金田一耕助のシリーズ全体に通底する魅力になっている。

原作を読んでから本作を観た場合、嬉しいのは密室犯罪のトリックが、映像的にとても分かりやすく見せてくれることだ。

勿論、原作でも横溝正史は屋敷の間取り図を見せてくれたり、詳細なトリック描写をしてくれているが、種明かしされた後でも、自分の理解が正しいのか、あまり自信が持てなかった。

だが映像でそれを再現してくれると、答え合わせができ、大変ありがたい思いだった。その意味では、本作を観た甲斐があった(節をくりぬいた竹の使用法が今ひとつ明白ではないが)。

キャスティングについて

金田一耕助中尾彬という配役も、ちょっと意外ではあったが、思ったほど違和感はない。

本作の中尾彬はまだ主演作品も二本目で若々しく、デニムや白Tシャツ、ネックレスにサングラスなど、およそ金田一耕助のイメージとは違う装いなのだが(中尾彬お馴染みのねじねじのスカーフはない)、こういう金田一もあっていい。

現に、金田一が若気の至りで渡米した際に久保銀造(加賀邦男)と知り合った縁で、この事件を探ることになるのだが、原作では彼が米国で麻薬常習者だったとあり、その後に確立されたイメージとは大分違うのである。

横溝正史は、本作の執筆時点では、金田一をシリーズで登場させる発想はなく、そのため、本作の金田一耕助は後の作品とは異質なのかもしれない。

(C)1975 TOHO CO.,LTD

金田一以外の登場人物をみてみよう。県警の磯川警部役はクレジットが東野孝彦となっており気づかなかったが、東野英心のことだった。

『あばれはっちゃく』『ウルトラマンタロウ』といった子供番組で、私の世代にも愛着がある俳優であり、懐かしい。

事件の被害者である、本陣の離家で新婚初夜に殺された夫婦。夫の一柳賢蔵(田村高廣)は一族の後を継ぐ長男で几帳面な堅物。いつもお人柄のよい役の田村高廣には新鮮な配役に見えた。

その妻・克子役の水原ゆう紀高林監督の秘蔵っ子として複数作品に出演。その後清純派イメージを脱却し、日活ロマンポルノ『天使のはらわた 赤い教室』に出演。

少々知的障害のある賢蔵の妹・鈴子を演じた高沢順子は、TOTO「お魚になったワ・タ・シ」(1973)のCMで有名だった女優。分からなければググってください。

(C)1975 TOHO CO.,LTD

ワンシーンだけの登場だが、ストーリー的には一応重要な役である、新妻・克子が処女を捧げた元カレの田谷照三

別れた後に偶然再会しベタベタとすり寄ってくる軟派男なのだが、顔に見覚えがあると思ったら、『あぶ刑事』の鑑識の安田さんで(個人的には)お馴染みの石山雄大だった。

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今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見・未読の方はご留意ください。

本作は犯人と思わせる存在として、三本指で顔に傷を持つ男が登場する。この男が村の近くの駄菓子屋(原作では飯屋)で一柳の屋敷の場所を訪ねることで、容疑者扱いされる。

ただ、演じているのが常田富士男なので、途中からお人柄の良さが滲み出てしまう(声が『まんが日本昔ばなし』でもあるし)。

この人物は、犯行の回想シーンでも何度か登場させるなど、観客を誤誘導させる気満々なのであれば、もう少し犯人になりそうな配役にすべきだったと思う(常田富士男は好演しているが)。

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そして、文字通りのネタバレになるが、この事件は結局、一族の反対を押し切って元使用人の家の娘を娶った潔癖症の長男・賢蔵(田村高廣)が、妻が処女ではなかったことに耐えられず、新婦を殺して自殺を図るというものだ。

自殺では負け犬に思われるので、トリックを使い他殺を装うことを考えるが、犯行直前に雪が降り積もり犯人の足跡がないため、密室殺人が出来上がってしまったといった内容になる。仕掛けは面白いが、動機としてはちょっと無理筋と思われる。

このトリックには琴の音がからんでくる。屋敷から怪しいことの音が聴こえると、事件が起きるという流れになる。

映画では実際に琴の音が聴ける点は興味をそそったのだが、これは思ったほど作品の怪奇的なイメージを膨らませてはおらず、勿体なかった。

なお、本作の音楽は、高林監督とも親交の深かった大林宣彦。常識破りの迷作『金田一耕助の冒険』を撮るのは、もう少し先の話になる。

本作の白眉は、賢蔵が妻を殺し自害したあとに、彼の考案したからくりで、他殺と思わせる仕掛けが動きだすシーンだろう。

まるでピタゴラスイッチのようなコミカルな動きで、凶器が現場から離れていく。哀れな潔癖症の男の末路と、そこから動き出す自動装置の組み合わせの悲哀。このシーンは観るべき価値がある。